MENU

肝心か、肝腎か

「心臓外科」「脳外科」「肝臓外科」と並べてみると、テレビドラマで描きやすいのは、心臓外科でしょう。
なにしろ心臓は、「見た目」に動く臓器なので、手術が成功したシーンを表現しやすいですしね。
しかし、術後に心拍動が再開したからと言って、それは術後経過の初期段階の、そのまた入口に過ぎません。
問題はその後、安定して力強く拍動し続けてくれるかですが、まあそのことは、今回はあまり言いません。
考えてみると心臓は、血液を全身に送り出してるだけなのに、人体の最重要臓器のような顔をしています。
それはそれで重要だし、心臓にはほかの働きもあるのですが、ほかと比べれば比較的シンプルな臓器です。
最も複雑で高度な臓器は脳でしょう。ただ映像的に、脳外科の手術シーンは、ドラマで描きにくいのが難点。
心配したり、心が躍ったり、心を痛めたりしますが、心臓は脳のように思考する場所ではありません。
なのに「心」が心臓に宿ると感じるのは、感情の起伏が自律神経を介して、心拍動に影響するからでしょうね。
その結果、心臓がドキッと(動悸が)したりして、心臓の動きと心の動きが、リンクして感じるわけです。
「肝心」という言葉は「肝腎」とも書きます。それから考えると、心臓と腎臓は置き換え可能な立場です。
「肝心」と「肝腎」に共通する肝臓こそが、心臓や腎臓よりも格上と、位置づけられていたのかもしれません。
古来より、肝臓は人間の感情の根源と考えられています。英語の “liver” は生命 “life” と同語源だとか。
それだけ重要だからでしょうか、肝臓は、他の臓器にはない「再生力」を与えられています。
肝臓だけは、いくら切除しても、まるでプラナリアのように、元通りの大きさに戻ります。
ギリシャ神話の「プロメテウス」は、火を盗んだために、鷲に肝臓を食べられるという罰を与えられました。
しかし翌日には肝臓が再生するものだから、毎日毎日、三万年間食べられ続けたという、まあ気の長い話です。
ギリシャ神話が作られた昔から、肝臓の驚異的な再生能力が知られていた、ということにも驚きます。

この記事を書いた人

医療法人ひまわり会 つるはらクリニック 院長

コメント

コメントする

目次