心臓外科医の「手術デビュー」

TBSの日曜劇場『19番目のカルテ』は今日が第7話。
メインのストーリーではないですが、ある若手心臓血管外科医の「手術デビュー」シーンが描かれていました。
それを見ていて私は、自分のデビュー時のことを思い出しました。まだ、昭和の時代の話です。

卒業後2年目の、福岡こども病院での研修医時代のこと。心房中隔欠損閉鎖術を執刀することになりました。
若手の心臓外科医が最初に執刀するのは、たいていこの手術と決まっていました。

外科医は日頃、手術を見て学ぶわけですが、先輩医師が執刀する手術をただ見ていても何も身に付きません。
執刀医が次に何をするか、手をどう動かすかを予測して、その答え合わせをしながら見ていました。
とはいえ、第2助手をしながらなので、つい自分の仕事がおろそかになると、執刀医に怒鳴られたりもします。

夜は毎晩術後管理で忙しかったので、手術書を読んだり手術ビデオを見たりしたのは休日です。
もちろん昼間は、すべての手術に第2助手として入っていたので、先輩の手術は山ほど見ることになりました。

さて、私の手術デビューの前の晩のこと。先輩医師であり恩師の故・米永先生が、こう切り出しました。
「じゃ、やろうか、手術」
そう言って、先生はテーブルを挟んで私の正面に座りました。いまから、手術のシミュレーションをしようと。

患者さんの皮膚の消毒から始まり、滅菌敷布を掛け、人工心肺の準備をし、と細部にわたってやっていきます。
右手にどの器械を持ち、左手に何をもち、糸は何、どの部位をどう切ってどう縫うか、全部再現していきます。
「え~っと」と流れが止まったり、間違ったりしながらも、丁寧に指導してもらって、ようやく手術は完了。
実際の手術時間よりも長いんじゃなかろうかと思えるほど、長く濃密な時間でした。

いよいよ本番。もちろん手術は上手くいきました。これも先輩の先生方や他のスタッフの皆さんのおかげです。
患者さんの親御さんからの感謝の言葉が、本当に心に染みました。
こちらこそ、執刀させていただきありがとうございましたと、私も心の中で感謝しました。

私はICUに泊まって、翌朝までみっちり術後管理をしました。
患者さんの目が覚めたときは、本当に涙が出るほど嬉しかったことを覚えています。

若手心臓外科医にとって最も重要なそんな夜に、今日のドラマではその医師は居酒屋で酒を飲んでいました。
そんなに軽々しい描き方をされたことが、とても残念でした。

(写真は、今日のドラマの手術開始シーン)

この記事を書いた人

医療法人ひまわり会 つるはらクリニック 院長

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