『Nの逸脱』

甲乙付けがたく受賞作を決められなかった直木賞候補作の中から、『Nの逸脱』(夏木志朋著)を読みました。

そのタイトルが星新一のショートショートに似ていたので選びました。星新一なら「N氏」でしょうけど。
短編2編と中編1編の3作品収載。どれも読みやすかった。なるべくネタバレしないようにレビューしてみます。

主人公の職業だけ書くと、
『場違いな客』 爬虫類のペットショップのアルバイト店員
『スタンドプレイ』 高校数学教師
『占い師B』 占い師

3編は独立した話ですが、舞台は同じ土地だし、世界観もほぼ同じ。トーンが同じでしたね。
鬱屈した生活と心理を異常なディテールで描き、不隠な気持ちを抱かせる展開に刺さる表現が入り交じります。
暗いのが文学の条件なのかとさえ思えてきます。でもトラウマ級ではないので、安心して読んでいただけます。

多少突飛な状況設定だとしても、誰にも似た様なことは起きそうに思えるから、共感するのでしょう。
「逸脱」とは何だろうと思いながら読み進みました。たぶん「一線を越えること」かな、というのが結論。
安易なドンデン返しではないけれど、想像通りには終わない結末が、読後感を一層複雑にさせてくれますね。

にしても、小説家の想像力あるいは創造力には感心します。

この記事を書いた人

医療法人ひまわり会 つるはらクリニック 院長

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