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新・専門医制度、延期へ

9年前の開業当初、私はまだ「心臓血管外科専門医」の資格を持っていました。
当時の名簿によれば、心臓血管外科専門医は熊本県内に18名いました。
私以外はみな、大学、国立、日赤、中央、市民、済生会、それに労災病院の、心臓血管外科の先生方でした。
それらの病院の、トップ2名ないし3名に、私を加えた18名が、県内の心臓血管外科専門医だったわけです。
残念ながら開業後は、心臓外科手術執刀経験数が足りず(ていうか、ゼロ)、資格の更新はできませんでした。
いま、県内には19名の心臓血管外科専門医がいます。資格更新のためには相応の手術執刀数が必要です。
日本の専門医制度は、さまざまな学会がそれぞれ独自に規定や基準を設け、認定してきました。
専門医や指導医や認定医の制度が入り組んできて、一般人にはとてもわかりにくくなってしまいました。
そのすべてを統一し、わかりやすい専門医制度を確立しようと、もう何年も前から準備が進められてきました。
ところが、来年度から始まる予定だった、その「新専門医制度」は、直前になって延期が決定しました。
さまざまな問題点が、あらためて浮き彫りになってきたからです。
とても複雑で、ここに書き切れませんが、ひとつだけあげれば「地域医療への悪影響」が懸念されたことです。
「専門医」資格取得のためには、濃密な診療経験が必要です。外科医でいうなら、多数の手術執刀経験です。
より高い専門性を求めて基準を厳しくすればするほど、地方の病院勤務医には取得が困難になってしまいます。
専門医資格取得のために、都市部の大病院で多くの臨床経験を積もうと、若手医師が都市部に集中します。
いまでも「医師の地域偏在」が問題となっていますが、それがさらに悪化しかねないと考えらるわけです。
医師の地域偏在は、医者のわがままではありません。原因は、医療需要の偏在、つまり人口の偏在なのです。
専門医取得の条件が、数多くの症例の経験なら、医師が経験を求めて都市に集まるのは自然な流れです。
ポケモンGOでは、ポケストップの数が都会と田舎であまりにも不公平だと言われますが、あれと似ています。
ポケモンを一定数集めなければ資格が取れない、なんて言われたら、みんな都会に行くでしょう。
若手医師がみな、専門医資格を取るために都会に行くようでは、地方の医療が困ることになります。
この問題をどのように解決するのか、新制度導入を延期していったい何を修正するのか、まったく不透明です。

この記事を書いた人

医療法人ひまわり会 つるはらクリニック 院長

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