肺炎球菌には90以上の型(血清型)があり、現在の小児用肺炎球菌ワクチンは、そのうち13の型に効きます。
これを「13価ワクチン」といいますが、定期接種が始まった当初導入されていたのは「7価ワクチン」でした。
「7価ワクチン」の接種が広まると、やがてその7つの型以外による、重症肺炎球菌感染症が増えてきました。
ワクチンがカバーしきれない型の菌が、代わりに感染症の主流となる、言うなれば「いたちごっこ」です。
そこで、守備範囲を広げて「13価ワクチン」に一斉に切り替えられたのが、2013年11月のこと。
その際の、「接種控え」を防ぐことのジレンマについては、前にも書きました。
問題は、7価で定期接種を完了した子どもたち。主流となっている型の肺炎球菌に対する免疫がありません。
もちろんその点は厚労省も早くから認識しており、あとで13価ワクチンを追加接種すればよいと考えました。
これを「補助的追加接種」とよび、現在の5歳児の大半が、その接種による恩恵を受けることができます。
そこで、この補助的追加接種を、定期接種に加えるのか任意接種とするのか、厚労省で議論されました。
結局、任意接種でいいんじゃないの、という結論に至った理由は、次のようなものです。
(1)補助的追加接種を受けるのは5歳児であり、肺炎球菌に感染しても重症化する確率は低いだろう
(2)13価ワクチンの普及で乳幼児の肺炎球菌感染が減っており、5歳児に対しても集団免疫効果があるだろう
(3)補助的追加接種の免疫効果には、多少疑問もある
(4)接種費用がかさむし、副反応のリスクも増える
つまり、「費用対効果の点で、社会全体に対する利益が限定的である」というのが厚労省の言い分です。
厚労省はいつもこうです。予防費用と治療費用を天秤にかけ、どっちが得かで決めるわけです。
しかし、目先のコスト計算ではそうでも、長い目で見たときの、国家的な損得はどうなのでしょうか。
補助的追加接種によって、将来の日本を背負う子どもを一人でも救う事の方が、ずっと大事でしょう。
肺炎球菌ワクチンの、当院での任意接種料金は1万円です。原価が高いのでどうにもなりません。
接種を勧めても、料金を聞いたら多くの方がギョッとされます。なので接種率は、あまり高くありません。
ここは国が日本の未来ために、もっと大局的見地から考え直して、補助的追加接種費用を助成すべきです。
65歳以上全員に肺炎球菌ワクチンの接種費用を助成する国が、どうして5歳児には金を出さないのでしょうね。
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