MENU

点滴から空気を注入

茨城県の介護老人施設で、入所者が点滴のチューブから空気を注入されて殺されるという事件が起きました。
この殺害手口って、昔はTVドラマなどでよく見かけましたね。
でも後に医者になってわかったのは、少しぐらい血管に空気を入れたって、人は死なないってこと。
心臓内に特別な異常でもない限り、静脈から注入した空気で人を死に至らしめるには、多量の空気が必要です。
裏を返すと、もしも今回の事件が報道通りであるのなら、注入した空気はかなり大量だったと推測されます。
点滴のボトルが空になって、チューブ内の液面がだんだん下がってくるのを気にする方が時々います。
このままでは空気が点滴されてしまうのではないかと、気が気で無いのでしょう。その気持ちはわかります。
しかし、液面の高さが静脈内の圧力に一致するところまで下がったら、もうそれ以上薬液は入りません。
自然滴下による点滴は、理論上、血管内に空気が入らない仕組みなのです。
たとえ点滴から気泡が血管内に流れ込んでも、解剖学的に異常な心内病変が無い限り、何も問題は起きません。
ただし、大静脈血が肺を介さず大動脈へ流れるルート(右左シャント)が存在する心臓の場合は、話が別です。
いわゆる「チアノーゼ性心疾患」のお子さんは、点滴へのわずかな空気の混入が脳梗塞につながりかねません。
そうでもなければ、正常な血行動態の人の点滴から空気を注入して殺害するのは、容易なことではないはず。
今回の容疑者は、シリンジを使って何度も何度も空気を押し込んだのでしょう。その所業に慄然とします。

この記事を書いた人

医療法人ひまわり会 つるはらクリニック 院長

コメント

コメントする

目次