ひとつのワクチンについて、国論を二分するような関心事になるとは、医者になって初めての経験です。
いつから、どこで、誰が、誰に、どのように接種するのか、実施計画はまだ、あらゆる段階で模索中です。
なかでもワクチンの効果や安全性については、日本ワクチン学会・岡田理事長の発言が波紋を広げています。
メディアはこぞって「過度な期待に対する警鐘」だと報じていますが、その報じ方自体が過度な印象です。
万一、日本での接種でアナフィラキシー等が起きたとき、メディアが張るキャンペーンがもう想像できます。
あの、HPVワクチンを巡る混乱と同じものが、また繰り返されるような気がしてなりません。
では、岡田先生の発言が問題なのかというと、私はそうだとは思いません。ここは謙虚に受け止めたい。
「(効果の持続性については)全くわからない」(全く新しい作用機序のワクチンですから)
「(各メーカーごとに)効き方も違うかもしれない」(まったく、その通りでしょう)
「100%有効で安全なワクチンはどこにもない」(ワクチンに限らず、すべての医薬品に言えることです)
ワクチン研究の第一人者が、この大事な時だからこそ、敢えて標準的な見解を念押ししているに過ぎません。
評論家やコメンテーターのようなヤカラが、聞きかじったことで論評するのとは、次元も重みも違います。
岡田先生の発言は、聞きようによっては「反ワクチン」的に受け取れ、それがメディアにはウケるのでしょう。
しかし彼は、反ワクチン発言をしているのではありません。強いて言うなら、反「過度な期待」発言か。
実績の無いワクチンなので、慎重の上にも慎重を期す必要があることは、言うまでもありません。
しかしメディアは、全体を見てバランス良く報じたりせず、面白そうな枝葉をつまみ食いするタチなのです。
コロナ禍の収束が何よりも優先するこの時期に、人々が浮かれないように、岡田先生は釘を刺しました。
ワクチンの導入が異例の早さなので、慎重に進めていきましょうという、至極まっとうなご意見なのです。
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