芥川賞には、高瀬隼子さんの『おいしいごはんが食べられますように』が選ばれました。
今回も私が受賞を逃した理由は、前にも書いた通りです(小説を書いていないから)。
受賞作はすぐ読むのが私の流儀(礼儀?)ですから、いまKindle版で読みました(以下、ネタバレあります)。
タイトルから、WFP(国連世界食糧計画)的な視点で書かれた啓蒙書かと私は一瞬思いましたが、違います。
「人間の中の多面性がよく描かれている」と選考委員の川上弘美氏は言いますが、それほど複雑な話でもない。
小さな職場の中での人間関係の、悪く言えばどうでもいいようなことが、ただ書き綴られているだけです。
なんなら、WFPから苦情が出そうな感じの食糧描写も少し、登場します。
「ごはん」つまり食事の場面が多く描かれていますが、豪華なフレンチとか、そういう料理ではありません。
そう書くと誤解されそうですが、決して食べ物や食材にこだわった内容ではなく、主体は心理描写ですから。
女性が書いた小説なんだなぁと思わせる部分が所々にあって、そこが私には妙に新鮮でした。
誰かのトークをずっと聞いているような、ごくごく自然な文体なので、悪く言えば気合が入らない小説です。
でもちょっとだけ不穏な雰囲気もあって、それがあるから読み進めてしまいます。やっぱり不穏は大事ですね。
前回の芥川賞の『ブラックボックス』(砂川文次著)のようなスピード感はなく、歩く速さで読めます。
目次
コメント