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ドラマがマニアック

『A LIFE』。先週も書いたキムタク主演のTBSのドラマ。(元)心臓外科医目線のレビュー、第2弾です。
そこそこ真面目な雰囲気で始まったドラマが、今後どのように崩れていくのか気になって、第2話を観ました。
描かれた手術は3例。あとで問題になるのが、胸部大動脈瘤に対する「ステントグラフト内挿術 (TEVAR)」。
胸を大きく切る大手術ではなく、鼠径部の動脈から人工血管を挿入して、大動脈内に内張りする手術です。
それと並行して、小児の手術も行われていたのですが、これがまた「PVO解除」という難解な術式でした。
「PVO」というのは、複雑な先天性心臓病等に時々合併する、治療の難しい病変「肺静脈狭窄」のことです。
私が医者になって初めて書いた論文(症例報告)は、この「PVO解除」を行った乳児の心臓病症例でした。
一般に、心臓を停止させて手術を行う場合、人工心肺による体外循環によって、全身の循環を保ちます。
ところがその全身の血液循環自体が、手術操作や視野の邪魔になる場合、完全に循環を止めることがあります。
そのままでは生きられないので、患者の体温を20度以下に下げます。これが「超低体温循環停止」です。
ドラマでは、循環停止によってPVO解除を行っていましたが、それにしては、手術室が閑散としていました。
超低体温循環停止をやるような時は、麻酔科医や臨床工学技士などが大勢取り囲んで、緊迫してるはずなのに。
患者の頭の周囲に何も無いのも変。循環停止では、脳障害を防ぐために、保冷材で頭部を冷やすのが普通です。
そんな中、PVO解除がうまくいかず、「これ以上続けたらDOTもあり得ます」という言葉が飛び出します。 
「DOT」とは “Death on Table”の略で、日本語で「台上死」、つまり手術台の上で亡くなるという意味です。
そのイヤな雰囲気の絶体絶命のとき、キムタクが助け船を出すのですが、その手術風景も異様。
拡大鏡を固定するヒモが、術衣の胸の前に垂れ下がり、まあ不潔きわまりない。これでは術後感染必発ですよ。
おまけに、奇跡的に救命できたその晩に、執刀医の女医は早々と帰宅してごちそうを作ってる! はぁ?
循環停止したこの重症例では、術後経過も厳しいはず。執刀医がそんなに早く帰宅できるとは思えません。
リアリティーが無いなと思って見ていたら、TEVARの術後患者が急変し「右鎖骨下動脈起始異常」が発覚。
どうしてそんな、マニアックなカードを切るかなあ。これじゃあ、来週も観たくなってしまいます。

この記事を書いた人

医療法人ひまわり会 つるはらクリニック 院長

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