受験シーズンになると思い出すことがあります。
それは大学病院に勤務していた頃、センター試験の監督をやらされたときのこと。
当時、手術や術後管理等で毎日深夜まで働いても、時間外勤務手当はいっさい出ませんでしたが、試験監督のときは手当が出ました。
大学職員(文部教官)の本来の仕事は「学生教育」であって「診療」ではない、というお役人の理論に基づくものです。
センター試験では、時系列に沿った綿密な「試験監督マニュアル」が準備されています。
監督は、注意事項等を「一言一句たがわずに」音読し、「始めなさい」とか「鉛筆を置きなさい」とかの命令を「一秒もたがわずに」宣言し、試験を「時間通りに」進行させなければなりません。
全国各地の会場で同時に行われる試験なので、時刻のズレがあってはならないのです。
試験開始直前には同じ試験会場の監督が全員集合し、各自の腕時計の「時刻合わせ」をします。
私は当時、腕時計を紛失した直後だったので、やむを得ず目覚まし時計を持参していました。
毎朝の目覚ましに使っていた時計ですが、その日は大事な働きをするので、電池を新しいものに換えて臨みました。
監督全員が真剣な表情でテーブルを囲み、いっせいに腕時計の秒針を確認・調整するなかで、ひときわ大きな目覚まし時計が注目を浴びました。
厳粛な雰囲気の中だったので、笑う者はいませんでした。心の中では笑っていたと思います。