医療機関でのマスク装着が「推奨」って、弱くないですか

マスクの着用は今後、個人の判断に委ねることになります。3月13日からだそうで、意外に急な話です。

新学期からは、学校でのマスク着用も求めないとのこと。とは言え、厚労省は次のようにも言っています。

(1)医療機関や高齢者施設を訪問する際や、混雑した電車やバスでは、マスクの着用を推奨する

(2)重症化リスクが高い人が流行期に混雑した場所に行く際は、マスクの着用が有効

このうち(1)は他人への感染を、(2)は自分が感染することを、それぞれ心配する場合のマスク着用です。

ただそのような場合でも、マスクの有効性はわかっているけど、着用は自己判断でOKだというわけです。

これによって、絶対に感染したくない人の居場所がなくなりはしないかと、私は懸念します。

とくに、重症化リスクの高い方が集まる医療機関は、なかなか難しい対応に迫られるかもしれません。

これまで当院では受診者のマスク装着が「必須」でしたが、今後はマスクを強いることは難しいのでしょうか。

当院の入口には、マスク装着を「お願い」する掲示を出す予定です。「推奨」ではなく「お願い」です。

さらに、「マスクを着けない方は、駐車場での診療となります」ぐらい、言ってもいいですかね。

どうしてもマスクを着けたくない方との一悶着が、いつかは起きそうです。

将来的に待合室では、マスクをしている人と着けていない人を、分離しなければならないかもしれません。

マイナ保険証の利用は、ウィズコロナが前提です

新しいモノゴトを覚えるのが苦手になりました。トシのせい+α+β(!)でしょうか。

興味があるコトですら、すぐ忘れる。いわんや、興味の無いコトをや。

キャパオーバーなのです。脳がどんどん萎縮して、記憶容量が減っているのです、きっと。

覚えたつもりの色んな事柄が、脳から溢れて脳のスキマの脳脊髄液を浮遊している情景が目に浮かびます。

そのスキマはどんどん広がってるので、記憶として取り出せない事柄であれば、いくらでも貯蔵できそうです。

ちょうど、書斎内に存在するはずだけれども行方不明の物品類のようです。

この3年間、それ以前の35年間の医者生活ではほぼ馴染みのなかった出来事に、翻弄され続けています。

新型コロナウイルス感染症、PCR検査、発熱外来、緊急事態宣言、mRNAワクチン等々です。

ついていけないスピードで制度が遷移し、届出だの申請だの入力だのと、無数の作業をやらされ続けています。

それに加えて、このややこしい時に、マイナ保険証やオンライン資格確認制度が着々と進められています。

これもまた、政府に脅されて期限ギリギリに申し込みを終え、来月はネットワーク工事の予定です。

春には新システムに移行する予定ですが、そもそもマイナ保険証を提示する人がどれほどいることやら。

発熱外来で「顔認証」なんてできるんだろうかと、ずっと疑問でしたが、今後はやるしかないのでしょう。

受診者が熱があろうとなかろうと、受付までは入ってもらうことになります。私はまだ抵抗がありますけど。

「新規感染者数」に一喜一憂してきたけれど

新型コロナ感染者の届出方法に誤りがあったために、これまで「新規感染者数」が少なく把握されていた件。

いま、医療機関が新型コロナの新規感染を診断した際に届け出るのは、次の2つです。

「発生届」:高齢者など特定の条件を満たす感染者については、詳細な患者情報をHER-SYS入力する

「日次報告」:日々の感染者の数のみを、年代別に報告(HER-SYS入力)する

ところが一部の医療機関で、発生届を出した症例を日次報告から除外していたのが、今回の問題の原因でした。

じつは私も当初は、発生届を出したケースを日次報告するのは二重報告にならないのか、少し不安でした。

国は、発生届とは関係なく日次報告のデータのみを毎日集計して、「新規感染者数」として公表しています。

なので、発生届が出された症例分を除外すると、新規感染者数が過小報告されることになってしまいます。

発生届には高齢者の症例が多いため、高齢者に報告漏れが集中するという、皮肉な結果を招いてしまいました。

とは言え、現状どれほど正確に感染者数が把握できているのかは疑問です。

自己検査で陽性でも届け出ない人もいるし、そもそもコロナの疑いがあっても検査しない方も増えて来ました。

どっちみち5月からは日次報告自体が不要になると思うと、すでに正確な報告のモチベーションも下がります。

感染者数の届出は流行動向を捉えるために有用ですが、それは「定点観測」だって良いわけですから。

ただ、全国民の毎日の一喜一憂のタネでもあった「新規感染者数」が消えるのかと思うと、感慨深いですね。

正確な検査をしても報告を誤ったら台無しです

鳥取の病院で、搬送された患者がPCR陽性と「誤診」されて点滴治療を受ける、という医療過誤が起きました。

検査結果の「入力ミス」が原因とのこと。誤って「陽性」と判定してしまった、いわば「誤陽性」事例です。

私も2年前に、市内の無料PCR検査所での「結果取り違え」事例に遭遇したことがあります。

無料検査で陽性、当院のPCRでは陰性だったため、無料検査所に問い合わせたら「間違いでした」だと。

保健所に調べてもらうと、その検査所ではその日、結果データの処理で複数の取り違えが起きていたそうです。

呆れるようなミスですが、問い合わせるまで何の連絡も無かった(=隠していた)点は大問題でしょう。

2年前と言えば、志村けんさんが亡くなった頃で、コロナに対する恐怖は今とは比べものになりませんでした。

当院のPCR検査結果を伝えられた方々はみな、陽性は地獄、陰性は天国、みたいな反応をされていましたから。

今回のような「誤陽性」があるのなら、「誤陰性」も無数に存在するはずです。

しかし、「陰性」報告を受けた人が次の検査で「陽転」した場合、通常は最初の判定を「偽陰性」と考えます。

なので「誤陰性」事例は表には出にくいと思われますが、感染対策の観点からは「誤陽性」よりも問題です。

当院のコロナ検査はいま、「NEAR法」による核酸増幅検査に一本化しています。PCRも抗原もやってません。

検査装置から、結果を印字した紙が出るので、それを「結果報告書」に貼付して、患者さんにお渡しします。

過誤が起きるとすれば、それは検査時に装置に入力する患者IDの誤りか、検体の取り違えです。

その2点を確実かつ容易に確認できる手順を作り、その手順を例外なく遵守する。そのことに尽きますね。

「5類移行」決定

新型コロナの感染症法上の位置づけが、5月8日から「5類」に移行する政府の方針が決定しました。

「2類相当」として求められてきた「私権制限」に見合った状態とは考えられない、というのがその理由です。

「今では過剰とも言える感染対策はできる限り早期に見直し」を行うべきだという「反省」も表明されました。

今回の決定に当たっての留意点として、厚労省の部会は次の4点を強調しています。

(1)医療費の自己負担分の公費支援については、段階的に移行する

いまは、検査代だけでなく、コロナ陽性と判定されるとそれ以降の療養期間中の医療費が「無料」です。

「コロナ治療薬の処方対象ですが」「高い薬ですか?」「無料です」「ください」という会話がよくあります。

しかしこれらが3割負担等になるのなら、検査も処方希望者も、なんなら受診者数自体が減るでしょうね。

(2)幅広い医療機関でコロナ患者が受診できるよう、段階的に移行する

当院のように発熱外来をやってきた医療機関の受診者が、今後は減るのか減らないのか、予測がつきません。

院内感染対策や検査体制のノウハウを考えると、今から新たにコロナ診療を行うのは、なかなか大変でしょう。

(3)発生届は終了し、定点サーベイランスに移行する

インフルエンザ等と同じで、新規感染者の実数はもうわからなくなりますが、流行の状況は把握できます。

それで十分でしょ。医療機関としては大歓迎です。大事なのは、重症例への対応だけですから。

(4)マスクや換気等の基本的な感染対策については、 個人の判断に委ねる

「状況によってはマスクが有効」としているので、「有効だけど強制はしない」という難しいスタンスです。

マスク装着率が下がった頃にまだマスクをしていると、逆に変な目で見られるようになるのでしょうか。

5月の「5類移行」の前までにコロナがほぼ収束していることが、いちばん混乱の無い理想型なんですけどね。

春からも、たぶん完全予約制です

新型コロナの感染症法上の位置づけが、季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行する方向です。

感染しても待機が不要となるなら、市民生活は一変するでしょう。しかし医療現場はどうでしょうか。

外来診療に限るなら、少なくとも当院の診療スタイルは、しばらくの間はあまり変わらないかもしれません。

「世の中の規制が緩んだので、今後は院内感染も覚悟してください」なんて言うわけにはいきません。

今後も「季節性インフルエンザ」程度には、院内感染を避けるための努力・工夫をしなければなりません。

高齢者や基礎疾患のある方と、発熱者や風邪症状のある方とでは、動線や時間帯を分離する必要があります。

たとえ同じ発熱者どうしでも、1カ所の「発熱者待合室」に集めることはできません。

そのためには結局、完全予約制にして駐車場待機を徹底する、これまでと同じ方法を続けるしかありません。

「診療・検査医療機関(いわゆる発熱外来)」が、制度上どうなるのか、まだわかりません。

すべての医療機関が原則として、コロナの診療・検査をしなければなりませんが、これはインフルと同じです。

季節性インフルエンザ並の診療でよいと言われても、外来診療はこれまでとほぼ同じかもしれません。

自分自身のリスクを考えたら、個人防護具もあまり手抜きしたくはありませんね。

療養解除前の確認検査は不要、ということになっています

発熱外来では、早く結果を知りたいという理由で、PCR検査ではなく抗原定性検査を希望する方がいます。

しかし、PCR検査と抗原定性検査は、単にその感度や所要時間の違いだけではなく、目的が異なります。

「感染の有無を調べるのがPCR検査で、感染力を調べるのが抗原検査」と考えましょう。

PCR検査は、ウイルス遺伝子(核酸)を増幅して調べる検査なので、感染しているかどうかを判断できます。

わずかな量の核酸を特殊な方法で無理くり増幅するので、感染初期でも無症状でも検出することができます。

抗原検査は、ウイルスが産生する特定のタンパクを調べるもので、ウイルスの活動性を知ることができます。

タンパク量が少なければ検出されにくく、感染の初期や症状が軽いうちは偽陰性が出やすくなります。

「療養解除日に自主的に抗原検査したら陽性が出た」という相談を時々受けます。出たのなら仕方ないですね。

感染力の残存を示すのか別の要因か、解釈に迷うばかりなので、解除前の抗原検査を私は推奨していません。

PCR検査も同様。ウイルスの残骸を検出することがわかっているので、感染後の検査はやはり推奨しません。

しかし、感染者の職場復帰前に、それらの「確認検査」を求める事業所等がいまだにあります。

当院ではそのような検査はお断りしてきましたが、それで困るのは患者さんです。どうしたものですかね。

コロナとインフルの「同時感染」も珍しくはないかも

この3連休の発熱外来を総括しますと、やはり、コロナ・インフルの同時流行が始まっているという印象です。

3日間の発熱外来受診者のうち、新型コロナのPCR検査または抗原定性検査を行った方は101人でした。

PCR検査は59件(うちインフル同時検査は39人)、抗原検査は43件(インフル同時検査は27人)でした。

あれ、合計102人じゃん、と思った方、するどい。例外的に、PCRと抗原検査を両方行った方が1人います。

PCR検査の陽性者は37人(陽性率63%)、抗原検査の陽性者は24人(陽性率56%)でした。

予想はしていたとは言え、コロナとインフルの同時感染者が2人いました。これは衝撃的です。

1人は、職場にコロナ、自宅にインフル、39℃の熱、さあどっち?、という方。両方陽性でした。

1人は、自宅にコロナ、でもコロナには昨年罹った、40度の熱、じゃあインフル?、という方。両方出ました。

2人とも、すぐにインフル陽性が判明したのですが、それで納得せず、PCR検査までしたのが正解でした。

いま熱が出たら、周囲にどのような感染症が出ていても、インフルとコロナを両方疑う必要がありそうです。

その2人に電話連絡する時に思ったのは、コロナの発症日って、いったいいつなんだろう、という疑問。

発症の7日後までの自宅療養を指示しようにも、最初の発症日って、どっちの発症日なんでしょうね。

症状はすべてインフルの症状であり、PCR検査時にはまだコロナは発症していなかった可能性すらあります。

あるいはPCR検査後に発症する可能性もありますが、インフル経過中にその発症日はわかりにくいでしょう。

同時感染例での療養時間は、従来のコロナよりも長めにした方が良いかもしれません。

国民は緩んでも、医療機関の緊張感はMAXです

コロナはいつまで続くのかと1年ほど前に人に訊かれ、「2月には収束(終息)するよ」と予言したのは私です。

しかし、ご存じの通り、年が明けたら第6波が襲来し、さらに夏には第7波、いまは第8波の真っただ中。

予想を大幅に上回り、ほぼ3年経っても終息しませんが、世の中の状況はずいぶん変わりました。

市民の行動制限がほぼありません。社会経済活動や教育の停滞を招かないことの方が、いまは重要なのです。

水際対策も撤廃され、旅行も出張もしやすくなりました(ただし今、中国は例外)。

診療報酬はかなり減額され、新たな補助金もほとんど無くなり、医療機関はまた厳しい状況になっています。

第8波で一番気になるのは、死亡者数が多いこと。おそらく、把握できている数より感染者は多いのでしょう。

「ゲームチェンジャー」だと期待されていた内服薬は、全体的に劇的な効果を生んでいるほどではありません。

同様にワクチンも、ようやく「オミクロン株対応」が登場したと思ったら、接種率が低迷しています。

これほど感染が再拡大していても、もはや社会・経済の再活性化の方が国民には喜ばれているようです。

観光地や空港の混雑ぶりを報道で目にします。もう、この流れを止めることはできないのだろうと思います。

しかし、いまも多くの死者が出ています。医療機関としては、来年も強い緊張感を持って臨むしかありません。

「5類化」を前にして補助金を駆け込み申請

「R4年度新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業費補助金」の交付が、なんとか認められそうです。

あらかじめ「事前相談」の書類を提出していたところ、ようやく、本申請の書類提出を求める連絡が来ました。

補助金による導入を考えているのは、「HEPAフィルター付空気清浄機」と「等温遺伝子増幅装置」です。

前者は、「陰圧隔離室」を前提として使用する物で、コロナ禍後にも役立つ重要な院内装備となる予定です。

後者は、「NEAR法」による検査装置で、PCR検査並の感度がありながら13分で結果が出る優れモノです。

新型コロナが「5類」になったとしても、それぞれの装置は今後長期的に有用であろうと考えています。

補助金交付の条件として、当院の隔離診察室の「陰圧化」が求められたため、その工事が必要となりました。

たしかに、窓全開だけでは換気には限界があります。風雨が強い日には窓が開けにくいこともありました。

風向きによっては、窓から入口ドアの方向に空気が流れることもあり、隔離室としては問題を感じていました。

今回の工事と清浄機設置は、これまでの懸案を解決する良い機会だと思っています。

検査装置の方は、ランニングコストが高いのがネック。いま外部委託しているPCR検査代よりも高額なのです。

現行の診療報酬であればなんとかなりますが、今後それが「改悪」されたら、厳しいことになってしまいます。

しかし、すぐに結果が出ることは患者さんへのメリットだけではなく、私の仕事も効率的になるということ。

「5類化」によって感染者数や検査体制がどうなるか未知数ですが、いまやるべきことをやるのみでしょう。