うがい薬は自費で

来年度から、うがい薬だけを処方した場合、保険がきかなくなりそうです。つまり、自費診療になるのです。

「市販品と成分や効能が変わらないのに、保険適用のため価格が安い」のが問題だといいます。

前政権の行政刷新会議は「公的医療保険を持続可能にするために患者負担を増やすべき」という方針でした。

現政権の行政改革推進会議でも「市販品と同一成分の薬は保険の対象外とすべき」と、考え方は同じです。

うがい薬単独処方を保険適用から外すことは、先週の<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-813.html" target="_blank" title="診療報酬改定率">診療報酬改定率</a>の大臣折衝の際に決められたようです。

しかし一昨日行われた「中央社会保険医療協議会(中医協)」は、この決定を了承しませんでした。

まず中医協が先に審議して、そのような方針を出したかったからです。これは単に、メンツによる反発です。

医師会などはもちろん反対していますが、来年度から保険がきかなくなることは、ほぼ間違いなさそうです。

そして今後、医療費削減のために、政府は軽めの薬から順次、保険適用外に指定していくようです。

医療現場からはむしろ、逆効果ではないかとの声もあがっています。

うがい薬だけでよい場合でも、保険適用のために、別の薬も加えて処方するようなことになるからです。

こうして、最小限の医療で済ませることができなくなっていきます。まったく、本末転倒な話でしょう。

診療報酬改定

来年度からの診療報酬の改定率が、0.1%の「微増」で決着しました。

まあそれにしても、一連の報道を見ると、実に面白いですね。

今回の改定を「増額」とみるか「減額」とみるか、メディアによって報じ方がまるで異なるのです。

改定率0.1%の中には、消費税増税による医療機関の負担増への「手当」が、1.36%含まれています。

増税分を1.36%増やしたけど、そのあと1.26%減額したので、最終的に0.1%の増額に落ち着いたわけです。

表面的には、診療報酬はごくわずかに増額ですが、実質的には1.26%の減額なのです。

今回の改定は「増税で仕入れ値が上がった分は、医療機関がかぶりなさいよ」と言ってるようなものです。

一部メディアは、消費税増税に加えて診療報酬まで上がると、また国民負担が増えると怒っています。

それは違うでしょう。診療報酬が上がるのではなく、増税によって医療コストが増えるだけの話です。

しかも、最終消費者である国民ではなく、小売業者である医療機関が増税分を負担することにしたのです。

この仕組みって、消費税還元セールを禁止した法律の趣旨に反していませんかねえ。

この理不尽な仕打ちにに少しでも対抗すべく、増税前にまとめ買いをするのは、誰でも考えることでしょう。

そんなわけで今、新型Macなどを、あわてて購入しているのです。

冷却ゲルシート

「熱さまシート」とか「冷えピタ」とかの冷却ゲルシートを、額に貼っているお子さんをよく見かけます。

診察時に触ってみると、当然のことながら、体温と同じ暖かさのシートになっています。

もはや、額からの放熱に役立っていないばかりか、放熱を阻害する「保温シート」の状態です。

このような「冷却ゲルシート」問題は、何年も前から話題に上っていますが、結論は出ていません。

問題は複雑です。論点を整理してみましょう。

(1)本当に冷えるのか

貼ったときのヒンヤリ感は否定しません。体温よりも冷たいモノを接触させれば、当然、熱を奪います。

(2)冷却効果は持続するのか

メーカーは、シートが温かくなっていても冷却効果が続くと説明していますが、私には理解できません。

(3)額を冷やして解熱効果があるのか

太い血管に近い部分、ワキや首やそけい部を冷やさなければ、解熱効果はあまり期待できないと思います。

(4)そもそも解熱すべきなのか

熱が上がると病原体の活動は低下し、逆に免疫細胞の活動は活発になります。つまり熱が高い方が有利です。

病原体の侵入を受けると、体温調節中枢(視床下部)が設定温度を変えて、体温を上げるのはそのためです。

だから本当は、なるべく熱は下げたくない。でも、ぐったりしている子どもを、少しでも楽にしてやりたい。

ならば、解熱効果は少なく、しかし涼感があって心地よいことをすればいい。

逆説的ですが、それが冷却ゲルシートの役割かもしれません。ちょっと皮肉すぎましたか。

薬の取り違え

乳がん治療薬「ノルバデックス」と高血圧治療薬「ノルバスク」は、名前が似ていて紛らわしい薬です。

これらを取り違えて処方しないように、最近、メーカーがあらためて注意喚起を呼びかけています。

手書きの処方箋なら、両者の取り違えはまず起きないでしょう。薬の名前そのものを勘違いしていなければ。

ところが、電子カルテなどのIT化したシステムでは、これが問題となります。

薬剤は頭文字の五十音別に分類されていたり、最初の何文字かを入力して検索するようになっています。

医師は候補薬剤一覧の中から、目的の薬をクリック等で選択し、用法用量などの情報を加えて処方します。

名前が似ていると、うっかり別の薬を選択してしまうことがあり得ます。これが取り違えにつながります。

システムをどのように改良したところで、間違えて別の薬を処方するリスクはつきまといます。

抜本的には、薬の名前を変えてしまうしかありません。実際に昨年、そのような事例がありました。

高血圧治療薬「アルマール」と糖尿病治療薬「アマリール」の問題は、名称変更によって決着しました。

これはたしかに、紛らわしかった。いくら注意しても間違いそうなので、私は処方したくない薬でした。

結局、取り違えが原因で死亡例も出てしまい、市場規模の小さいアルマールの方が、名称を変えました。

ポピュラーな商品だったのに、潔く名前を変えた大日本住友製薬の英断が、評価されました。

しかし、高血圧治療薬のつもりで、間違えてアマリールを処方してしまうリスクは、今も残っています。

こういった場合本来は、間違えて内服するとリスクの大きいアマリールの方を、名称変更すべきでした。

あるいはいっそのこと、薬剤名を両方とも変更してもよかったと思います。ケンカ両成敗じゃないけど。

良い薬は、名前が変わったぐらいで売れ行きが落ちるものではないはずです。

消防検査

福岡の整形外科医院の火災事故を受けて、熊本市消防局による医療機関への立ち入り検査が始まりました。

当院は無床診療所なので、避難誘導経路等も単純なものですが、防火の備えは大事です。

さいわい、院内で火気を使用する場所はなく、屋外にガス給湯器があるのみです。

しかし、電気製品や配線回りからの出火の可能性等は、考慮しておかなければなりません。

今回の立ち入り検査も、コンセント周辺のチェックなどが、主な目的のひとつだったようです。

約束の日時に、制服姿の消防署員(消防士?)が二人やって来ました。一人は女性でした。

そのときハッと思い出したのです。院長室を片付けていなかった、と。

おりしもその日は、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-764.html" target="_blank" title="出勤中に自転車で転び">出勤中に自転車で転び</a>、やっとの思いで職場にたどり着き、服は脱ぎ散らかしてました。

もともとあまり片付いていない院長室ですが、その日に限って、過去最大級の乱れ具合だったのです。

そのことを知ってか知らずか女性消防士は、当院の図面を見ながら「まず院長室から見せて下さい」と。

これがマーフィーの法則なのでしょう。物事というのは、こういう巡り合わせになるのです。

院長室のドアを開けると、そこには目を覆いたくなるような惨状がありました。

さすがに消防士も「タコ足配線には十分ご注意下さい」と言うのがやっとでした。

それに対して私は「今朝自転車で転んだものですから」と意味不明の返答をしたのでした。

カテーテル手術

「心臓手術を受けました」という方に、ときどき出くわします。

しかしよく聞くと、その心臓手術は「カテーテル手術」のことだったりします。

元心臓外科医の私としては、少々がっかりします。それを手術とは、言ってほしくないんですよね。

この場合厳密には「カテーテル治療」とか「冠動脈インターベンション」と言うのが正しいです。

「インターベンション」というのは、元々は「介入」という意味です。

カテーテルを血管の中に挿入し、冠動脈に物理的な治療を施すので、たしかに外科的な手法ではあります。

心臓の「カテーテル検査」は、昔からたいてい内科医(循環器内科医)が行っています。

冠動脈インターベンションも、検査と同様の器具と手法で実施できるので、やはり内科医が行うのです。

この分野の進歩はめざましく、冠動脈の病変に対しては、主流の治療法となりつつあります。

そしてその結果、心臓外科医の仕事(狭い意味での心臓手術)が減っているわけです。

内科医がカテーテルを武器に、外科医の仕事に「介入」してきた状況とも言えます。

でも考えてみると、大腸ポリープの内視鏡的切除は、もっぱら内科医(消化器内科医)が行っています。

腹腔鏡下や胸腔鏡下に行う手術だって、やがてこれを手がける果敢な内科医も出てくることでしょう。

「外科」と「内科」の境界が、だんだんあやふやになりそうです。

口腔内崩壊錠

「口腔内崩壊錠」とは、口に入れると簡単にくだけて溶ける錠剤のこと。飲みやすくて便利です。

口腔内崩壊錠にもいくつか種類があって、おもなものが「OD錠」や「D錠」といわれるものです。

「OD」=Oral Disintegration、すなわち「口腔内で崩壊する」という意味。水なしで飲めます。

「D」だけだと、口では完全には崩壊しませんよ、ということになり、水なしでは口にざらつきが残ります。

私も時々、口腔内崩壊錠の胃薬を飲むことがあります。ほのかなミント味。微妙な甘さ。そこそこ美味しい。

しかし、子どもの薬剤誤飲事故を考えると、口腔内崩壊錠には特有の問題があるようです。

普通の錠剤なら、1錠目を飲んだ時点で美味しくないことに気付き、はき出すか、飲んでも1錠止まり。

ところがこれが口腔内崩壊錠だと、子どもにとってはラムネと同じ。バクバク食べてしまう危険があります。

3歳と2歳の兄妹が、合計25錠の精神薬を飲んで昏睡状態になった事例などが、最近報告されました。

もちろんこのような事故の責任は、第一に、親にあります。しかし、リスク管理は二重三重に行うべきです。

万一、親の薬剤管理がずさんであったとしても、子どもが口にしたがらないような工夫が必要です。

たとえば味。成人用の薬が美味しい必要はないでしょう。むしろ、もっと苦い「大人の味」にすべきです。

別の意味で「良薬口に苦し」です。

電子カルテの欠点

ある医療系サイトで、電子カルテの利点と欠点についてのアンケート結果がまとめられていました。

回答者の約半数が、利点が大きいと答えたのに対し、約2割は欠点の方が大きいと回答。その理由をみると、

利点「カルテの記載が容易である」

欠点「カルテ記載に時間がかかる」

電子カルテも突き詰めれば、単なるパソコンソフトです。パソコン嫌いの人は当然、電子カルテも嫌い。

利点「情報共有が容易である」

欠点「情報流出の懸念がある」

これは相反するものではなく、同じ事実を両面からとらえたもの。ITすべてに共通する大事な問題ですね。

<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-59.html" target="_blank" title="セキュリティー">セキュリティー</a>面は、これまでにも書いてきたように万全を期しています。

利点「患者への説明が容易」

欠点「患者と向き合う時間が減少」

たとえブラインドタッチが得意であっても、ディスプレイだけは見なければ、カルテ入力ができません。

患者さんと「向き合う」時間を減らさないためには、診察後にまとめて入力するのが望ましいでしょう。

しかし時間の節約のためには、問診や診察の途中で随時、病歴や所見や処方などの入力を済ませたい。

私の代わりにカルテ入力をしてくれるスタッフがいれば、私は問診や診察に専念できます。<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-21.html" target="_blank" title="手首">手首</a>にも優しい。

しかしそうなると心配なのが、口述で入力してもらった文章の入力ミス(誤変換)です。

とくに当院独自の「<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-138.html" target="_blank" title="ミニカルテ">ミニカルテ</a>」は文章も長いので、誤変換が多いと、修正に時間がかかるばかりでしょう。

そのほかにも心配事はいろいろありますが、電子カルテの欠点は、ひとつひとつ克服しなければなりません。

AED

AEDを購入し、院内に設置しました。AEDというのはもちろん「自動体外式除細動器」のことです。

<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-599.html" target="_blank" title="心室細動">心室細動</a>という、致死性の(そのまま放置すると死亡する)不整脈を治療(除細動)する装置です。

「まだ買ってなかったの?」とか言わないで下さい。「自動」ではない「除細動器」なら持ってましたので。

自動ではない「手動」の除細動器は、医師が、その時の状況判断によって使用するものです。

これに対して、通常は医師以外の人間が、機械の判断にしたがって使用するのがAEDです。

医師なのに、自分の判断ではなく機械の判断で除細動を行うことに、私は抵抗がありました。

だから6年前の開院当初にはAEDではなく、手動式の除細動器を購入したのです。

もちろんこのほかに、手動式のものは、心室細動以外の不整脈にも使用できる点も考慮していました。

しかしながら、次の3点を考えるに至り、やはりAEDを配備することに決めました。

(1)最近のAEDは、完全自動ではなく、医師が心電波形を確認しながら使用できるものが出てきた。

(2)心室細動以外の不整脈に対する電気治療は、合併症の危険性を考慮すると、病院に搬送して行うべき。

(3)院内で、私自身が倒れたときのために(そん時はよろしく)。

医療事業

キヤノンが、遺伝子診断装置の生産を2015年にも始めると、今朝の日経が報じていました。

「医療分野を複合機やカメラなどに次ぐ主力事業に育てたい」というのがキヤノンの考えだそうです。

遺伝子診断装置には、キヤノンの加工技術やイメージング技術が生かされているとのこと。

キヤノンが医療ってどうなの、とはじめは思っていましたが、とってつけた話ではなさそうです。

東芝の田中社長は昨日「医療機器事業を第3の柱として強化する」と発表しました。これまた日経の記事。

東芝は、AV機器がマニア好みでいいですね。でも半導体は隣国との競争が激しく、原発は先行き不透明。

医療分野で言うと、たしかにX線CT装置は昔から東芝のものが定評あります。

そう言えば、当院の超音波装置とレントゲン装置は、いずれも東芝メディカルシステムズ製でした。

ソニーがオリンパスと合弁会社をつくり、医療分野に本格参入する話は、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-621.html" target="_blank" title="先日も書いた">先日も書いた</a>通り。

平井CEOは「医療事業を柱にする」とまで言ってますが、ソニーにはもっと本業で頑張れと言いたい。

医療が、今後ますます重要な産業分野になることは間違いなさそうです。

キヤノンも東芝もソニーも、医療事業を「3番目ぐらいの柱」にしておきたいようです。