薬物治療への抵抗

高血圧症や高脂血症や糖尿病など、いわゆる生活習慣病の治療の基本は「生活習慣の改善」です。

具体的には、食事療法と運動療法であり、端的に言えば、減量です。

しかし、病状が高度であったり、臓器障害を合併している場合などは、悠長に構えている余裕はありません。

遺伝的素因が強い場合も、生活習慣の改善だけでは、効果不十分です。

このような場合、薬物治療(内服治療)を始めることになりますが、患者さんには抵抗感もあるようです。

「薬を飲み始めたら、一生続けることになるんでしょう?」という質問を、しばしば受けます。

何かまるで、依存性のある薬物を始めるような、禁断の薬に手を付けてしまうような、そんなイメージです。

このとき、私の答えは以下の要領です。

「生活習慣の改善には時間がかかるでしょうから、それまでのつなぎとして、薬を飲んでおきましょう」

一生飲み続けるようなイメージを払拭します。

「薬の力を借りてでも、とりあえず血圧や血糖値を正常化すれば、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを減らせます」

いちばん怖いのは何なのか、再確認です。

「生活習慣の改善によって、やがて薬を弱めたり、中止することができるかもしれません」

現実には、なかなか難しい。

風疹抗体の無料検査

風疹抗体価の無料検査が、今月始まりました。<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-554.html" target="_blank" title="昨年の大流行">昨年の大流行</a>を受けて、国を挙げての風疹対策の一環です。

無料検査の対象は、

(1)妊娠を希望する女性

(2)妊娠を希望する女性のパートナーなどの同居者

(3)風疹抗体価が低い妊婦のパートナーなどの同居者(抗体検査歴、接種歴、既往歴のある者を除く)

の3つとなっていますが、これらの条件は、最大限に広くゆるく解釈してよいと思われます。

ただし、今年度限り。こういうところがケチですね。

しかも風疹の流行はほぼ終息し、ホットな話題が麻疹の流行に移ってしまった今、チグハグ感は否めません。

厚労省は昨年8月に基本方針を打ち出したのですが、予算の兼ね合いで今になったのです。その目標は2つ。

(1)<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-292.html" target="_blank" title="先天性風疹症候群">先天性風疹症候群</a>の発生をなくす

(2)平成32年までに風疹を排除する

平成32年というのはもちろん、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-705.html" target="_blank" title="東京オリンピック">東京オリンピック</a>が開催される2020年のこと。

オリンピックを目標にしたモチベーションというのは、1964年のときと同じです。

今回は、海外の人々を迎える前までに、日本の感染症対策を「近代化」しておこうというわけです。

それならば厚労省の方、現在流行しつつある麻疹についても、風疹と同様の対策を講じませんか。

いま手を打てば、風疹の二の舞は避けられそうですが、それとも、もう少し大流行するまで様子を見ますか。

生活保護医療

生活保護制度にはさまざまな問題がありますが、日祝診療をしている当院では、特有の問題に直面します。

受給者の数は、今年1月時点で216万人あまりと、過去最多を更新中だそうです。

その支給額は年に3兆円を超え、半分弱が「医療扶助」。医療は「現物給付」、つまりタダなのです。

ただし、生活保護受給者が医療を受けるためには、その都度一定の手続きが必要です。

医療機関を受診する前にまず、区役所の福祉事務所に行って、「医療券」を発行してもうら必要があります。

簡単に言えば、風邪をひいて熱が出たら、医者に行く前に区役所に行かなければならない、ということです。

このように面倒臭くしている理由はもちろん、受給者が安易に医療機関を受診しないようにするためです。

しかし、かたや医療費をゼロにしておきながら、かたや受診をしにくくするというのは、いかがなものか。

手続きを面倒にして受診を抑制しようという、その発想がいやらしい。

さらに問題は、休日や夜間の急病です。役所は開いてないので、医療券がもらえません。

それはつい昨日(日曜日)の話です。

初めて当院を受診された方が、生活保護受給者だと申告されました。しかし医療券はありません。

夜間休日の受診用に「緊急時医療依頼証」が渡されているはずなのですが、それも持参されていません。

休日なので、役所に問い合わせて確認することもできません。

このような場合でも、来院者を信じて、窓口負担なしで医療を提供しなければならないのか。

私が悩んでいるうちに、その患者さんは帰宅されました。さいわい、病状は軽そうでしたが。

本日、この件を市役所の担当部署(保護管理援護課)に尋ねてみたところ、珍回答を得ました。

「そのような場合の対応は、医療機関の判断にお任せします」と。

つまり、病人の診療は医者の義務だが、役所としては診療報酬の保証はできませんよ、ということです。

今回のような想定外の事態に対して、役所には臨機応変な対応ができないので、現場に丸投げです。

勤務医の役職

かつて勤めていた熊本市民病院から、今年度のスタッフ(医師)の一覧表が送られてきました。

しげしげと眺めていると、まあ、面白いと言えば面白い。

院長からヒラの医員まで、医師は全部で92名。もちろんこれに、研修医は含まれません。

(1)院長(1名)

(2)副院長(3名)

(3)首席診療部長(4名)

(4)診療部長(5名)

(5)部長(23名)

(6)医長(18名)

(7)医員(38名)

普通の組織では、下位の役職になるほど人数が増えていく、ピラミッド構造になります。

ところが市民病院では、ヒラの医師(医員)よりも、それ以上(医長以上)の方が多い、逆ピラミッド構造。

さらに医長よりも部長の方が多く、その部長よりもさらに格上の医師が13人もいます。まさに役職の宝庫。

副院長なんて、普通は1人じゃないのかと思われるかもしれませんが、3人います。

首席という言葉は、通常1名に対して用いるものだと思うのですが、首席診療部長が4人います。

そのうち首席副院長とかも出てきそうです。(すみません。自分の古巣のことを、少し茶化しすぎました)

70歳からの医療費

70歳から74歳の方の医療費の、窓口負担の特例措置が終了し、4月から本来の2割負担になります。

3月31日の時点ですでに70歳であれば、この制度は適用されず、来年度も1割負担のままです。

4月1日以降に70歳になる人だけが、この制度の対象となり、負担増となります。

不公平だという声もあるでしょうが、新たな制度導入に際しては、得てして不公平を伴うものです。

では、4月1日にちょうど70歳になってしまう不運な人は誰かと言えば、それは、4月2日生まれの人です。

<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-136.html" target="_blank" title="これまで何度も書いてきた">これまで何度も書いてきた</a>ように、民法の規定では、年齢が繰り上がるのは誕生日の前日だからです。

現に、厚労省の広報ポスターには「平成26年4月2日以降に70歳の誕生日を迎える方へ」と書かれています。

このような理屈があるために、各人の医療費が2割負担となる時期も、ややこしくなっています。

厚労省によれば「70歳の誕生日の翌月の診療から2割になります」と規定されています。

しかし「ただし、各月1日が誕生日の方はその月」という但し書きが付いています。

もちろんこれは、1日が誕生日の場合、その前月末に70歳になっているというのが、その理由です。

この年齢解釈は、予防接種の対象かどうかを判断する際にも問題となってきたことを、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-783.html" target="_blank" title="前にも書きました">前にも書きました</a>。

厚労省はついに今月「定期の予防接種における対象者の解釈について」という、通知を出しました。

これによれば、「1歳以上が接種可能」とは、1歳の誕生日の前日から接種できる、と解釈されます。

その一方で、「1歳未満が接種可能」ならば、1歳の誕生日の前日まで接種できる、と解釈するそうです。

前者は日付単位で解釈し、後者は加齢する瞬間(午後24時)を基準に考えたから、こうなったのです。

「以上」と「未満」が同じ日を含むなど、数学的にはまったく矛盾した解釈です。

でもそのおかげでMRワクチンは、1歳の誕生日の前日から、2歳の誕生日の前日まで接種可能となりました。

インフル治療薬

お子さんにタミフルを処方すると、その副作用としての「異常行動」を心配される方は、まだ多いです。

もうインフルエンザはだいぶ下火ですが、今日は治療薬について、おさらいしてみます。

(1)イナビル(吸入薬)

1度の吸入で済むので便利です。ただし喘息発作が出ている人では使いません。

成人では私の第一選択薬です。子どもでも、上手に吸入できそうなら(おおむね6歳以上)処方します。

(2)<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-514.html" target="_blank" title="タミフル">タミフル</a>(内服薬)

1日2回、5日間内服するのが面倒ですが、吸入ができない5歳以下ではほぼ唯一の薬です。

いまだに10〜19歳への投与が、原則禁止されています。ひところ「異常行動」が問題となったからです。

(3)ラピアクタ(点滴薬)

胃腸症状や消耗が強く、点滴が必要な場合に、補液薬とともに点滴する場合があります。

点滴なので即効性がありますが、私の印象では、この薬単独では、あと一歩な感じです。

(4)リレンザ(吸入薬)

イナビル登場前までは、よく使っていましたが、1日2回、5日間、というのがネック。吸入法も面倒です。

(5)麻黄湯(内服薬)

インフルエンザの疑いがあるけど確定していない人などに、よく使う漢方薬です。

空腹時に、熱湯に溶かして飲むのが効果的です。この用法は「湯」の文字が付いた漢方薬の、共通事項です。

タミフルに限らず、リレンザでもイナビルでも、その使用後の異常行動が報告されています。

詳細な調査では、それらの薬を使わなくても、インフルエンザで異常行動が起きることが、わかっています。

私の経験でも、インフルエンザ発症直後に、薬を使う前から幻覚が見えたお子さんが、何人もいました。

つまり幻覚や異常行動は、インフルエンザの症状のひとつであって、薬の副作用ではないのです。

もちろん、副作用ではない、ということを科学的に証明することは、とても難しいことです。

結局、かつていちばん使われたタミフルが、その濡れ衣を着せられ、いまだに着せられっぱなしなのです。

予防接種と増税

毎月1日と20日は「ゆめタウンデー」。今日はクリニックのお隣のサンピアンも賑わっています。

そうでなくても<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-820.html" target="_blank" title="消費税増税">消費税増税</a>を前にして、小売店では「駆け込み需要」に沸いているようです。

<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-813.html" target="_blank" title="診療報酬">診療報酬</a>はプラス0.1%改定なので、消費税がアップするにもかかわらず、医療費はほとんど変わりません。

前にも書きましたが、増税分だけ、診療報酬は実質的にマイナス改定なのです。ココ大事です。

初診料などが少し上がりますが、医療費全体で見て、患者負担はほとんど変わらないでしょう。

しかし医療機関での支払いの中でも、自由診療には消費税がかかるので、増税の影響がもろに現れます。

たとえば予防接種の料金。定期予防接種は無料ですが、任意予防接種にはそれなりの費用がかかります。

何かの理由で定期接種を逃した方に、自費で接種を受けてもらう場合、そのあまりの高額に誰もが驚きます。

たとえばポリオワクチンは、定期接種なら無料ですが、任意接種なら4回で4万円ぐらいかかります。

そんなに高いなら、やめてしまおうかと、そう思う方が出てきても仕方ありません。

子どもたちを伝染病から守るためには、接種漏れの方への接種料金の助成制度が必要だと、いつも思います。

ワクチンの納入価格が4月から上がると、医療機関はその分、接種料金を値上げしなければなりません。

薬品卸に「増税分を値引きしてくれ」などと言うことは、法律違反なのでできません。

なので私は各社に対して、消費税とはまったく関係なく、「春の値引の見積」をお願いしているところです。

郵送料負担

生活保護法の規定により、医療機関は医療扶助受給に必要な証明書等を、無償で交付しなければなりません。

さらに、その書類を役所に送付するときの郵送料は、熊本市では医療機関の負担となっています。

文書作成を無償で行うのは、いっこうにかまいません。

しかし生活保護サービスは、本来自治体の仕事のはず。事務費まで負担することには疑問を感じます。

考えれば考えるほど納得できなくなり、一昨日、区役所の保護課に電話で質問してみました。

私:医療要否意見書や未使用医療券を返送するための郵送料を、医療機関に負担させるのは筋違いでは。

区:郵送料は全部で年間200万円になります。市にはその予算がありません。

私:市に予算がないから医療機関に負担させるという理屈はいかがなものか。

区:医療機関には診療報酬がありますので、ご負担をお願いしています。

私:診療報酬は診療に対する報酬。そのついでに事務費も負担せよ、というのはおかしな論法。

区:それはそうですが、繰り返しますように市には予算がないのです。

私:予算をつけようという動きはないのですか。

区:医師会等でとりまとめて、要望されてはいかがでしょうか。

私:介護保険に関する書類の場合は、福祉課宛の返信用封筒が付いてきますよ。

区:そうなんですか。

悲しくなったので、問答はこれで終了です。

特定接種の登録

「特定接種」の対象となる事業者の登録申請が、本日締め切られました。

特定接種とは、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」第28条の規定に基づいて実施されるものです。

もしも新型インフルエンザのパンデミックが起きたとき、優先的にワクチンの接種を受けるための登録です。

優先的に接種を受けられるかわりに、パンデミックの際にも診療を継続して行う義務が課されます。

この法律や特定接種について、書きたいことはヤマほどありますが、今日はその登録作業についての話です。

本日が期限の、その登録申請方法は、原則として都道府県のホームページから行うことになっていました。

ところがこの、申請方法が、ちょっと問題なのです。

専用の申請サイトはあるのですが、そこに入力フォームがないのです。

かわりに申請用紙のファイルをダウンロードし、それに記入し、再びアップロードする手順になっています。

問題は、そのファイルが「Microsoft Excel」のファイルであるということです。

私はダウンロードしたファイルを、Macの表計算ソフトで開いてみましたが、どうもうまくいきません。

あちこちに文字のズレがあるし、選択肢のポップアップにも不具合があって、うまく選ぶことができません。

院内に数台あるWindows機や、一部のMacにインストールしているWindows環境でもトライしてみました。

しかしダメです。というのも、どのWindowsにもExcelをインストールしていなかったからです。

公的な重要事項の登録申請に、Windows環境とExcelが必須などとは、まったく承伏できかねる大問題です。

さっそく保健所に問い合わせると、「Macの方にはご迷惑をおかけしています」と、問題をご存じの様子。

しかも「FAXで申請書を送っていただければ、こちらで代わりに入力しておきます」と丁寧なフォローあり。

いくぶん憤りもおさまり、無事、特定接種の登録申請を終えたのでした。

それにしても、いい加減に「<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-480.html" target="_blank" title="Excel公文書">Excel公文書</a>」はやめてほしい。

接触性皮膚炎

Fitbit社のリストバンド型活動量計・睡眠計の最新モデル「Fitbit Force」がリコールです。全品回収です。

日本では、ソフトバンクからの発売が予定されていましたが、それも延期です。

原因は「接触性皮膚炎」。Fitbit Forceを装着した手首がかぶれる被害が出たためです。

続々と登場しつつある<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-866.html" target="_blank" title="ウエラブルデバイス">ウエラブルデバイス</a>は、今回のように皮膚炎が問題化することもありそうです。

私も似たようなデバイス「<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-649.html" target="_blank" title="UP by Jawbone">UP by Jawbone</a>」を使っていますが、最初は手首がかぶれないか心配でした。

さいわい皮膚炎にはなりませんでしたが、なんとなく煩わしくなり、睡眠中以外はポケットに入れています。

皮膚炎の治療には、その程度によっては<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-21.html" target="_blank" title="ステロイド">ステロイド</a>の外用薬を使います。

ところが子どもの皮膚炎でステロイドを処方しようとすると、難色を示される保護者の方がおられます。

こういうのを「ステロイドアレルギー」とでも言うのでしょうか。

弱い薬で病状を長引かせるよりも、適度な強さのステロイドを使って短期間で治した方が有益です。

私はそのことを、身をもって体験したことがあります。以前、湿布薬で手首がかぶれたときのこと。

弱めのステロイド軟膏を塗り続けたのですが、いっこうに治らない。むしろ悪化するばかり。

皮膚科の先生に相談すると、ステロイド軟膏にかぶれたのだろう、と。

まさかステロイドアレルギー? もちろん、その薬剤に含まれる別の成分にかぶれたのでしょう。

で、もっと強いステロイド軟膏を塗ったら、あっという間に治りました。ステロイドは使い方次第です。