包括払いが良い?

先週の「NHKスペシャル」では、高齢化社会の医療問題、とくに「<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-914.html" target="_blank" title="2025年問題">2025年問題</a>」を取り上げていました。

私はその中で、診療報酬の「出来高払い」と「包括払い」についての討論が気になりました。その論調は、

(1)出来高払い:実施した検査や治療の点数を積み上げて診療報酬とするので、過剰診療になりやすい

(2)包括払い:疾患等によって一定の診療報酬が決められており、ムダな検査や治療を防ぐことができる

このように世間では、「出来高払い=悪」「包括払い=善」の図式が出来上がっています。

マスコミってすぐ、こんな説明をして医療機関を悪者にするのですが、違うんですよね、これが。

わかりやすく説明するために、飲食業界が包括払いの公定価格制度だと仮定して、考えてみましょう。

「オムライス=500円」これが、全国一律の公定価格だとしますね。あなたが店主ならどうしますか。

ご飯や具の量を減らし質を落として、儲けを増やそうなんて、考えませんか。

いやいや、儲けのことなど気にせず、最高の材料でボリューミーなオムライスを提供しますか。

診療報酬が包括払いになると、検査や治療を最小限に絞り込む傾向が、どうしても出てきます。

医療コストを減らさなければ、儲けが確保できないからです。言ってみれば企業努力です。

ムダが無いと言えば聞こえが良いですが、適正医療を通り越して、縮小医療・過少診療となりかねません。

おまけに厚労省は、医療機関がコストを減らせば減らすほど、それに応じて公定価格を下げるハラです。

「300円のコストでオムライスが作れるなら、公定価格は400円でいいでしょう」となるわけです。

出来高払いが悪で、包括払いが善、という図式がまかり通ると、医療がどんどん後退していく気がします。

骨太の少子化対策

「骨太の方針」という言葉が使われるようになったのは、いつからでしょうね。

基本骨格を整えるかわりに、肉や皮膚は多少犠牲にしますよ、というニュアンスを感じます。

昨日示された、骨太の方針原案のなかで、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-149.html" target="_blank" title="少子化">少子化</a>対策として挙げられたのは2つ。

(1)50年後も1億人の人口を保持

(2)第3子以降の出産・育児・教育を重点支援

人口目標はともかくとして、要となるのは出産・育児対策でしょう。で、それが「第3子」支援ですか。

そりゃこども3人以上となると、まず育児が大変だし、あとでジワジワと教育費の問題が起きてきます。

しかし、少子化対策の重点を第3子対策に絞り込むような考え方には、賛同できません。

政府はもう、未婚化対策はあきらめて、既婚者の子だくさんに期待しようというのでしょうか。

たとえそうでも、まず第1子と第2子が生まれなければ、第3子も生まれません。

素直に考えるなら、第1子にこそ、重点的な支援を行うべきでしょう。

2人3人と増やすかどうかは、親の考え方や職場環境・経済状況など、多くの個人的要因が影響します。

しかし少なくとも第1子は、どのような個人環境であっても、産みやすく育てやすくあるべきです。

出産・育児・小児医療・義務教育にかかる個人負担をすべてゼロにする、なんて骨太な方針は出ませんかね。

救急車有料化

「救急車有料化」は、ときどき話題になるテーマです。

救急指定病院のうちの46.2%が有料化に肯定的で、否定的に考えているのは29.2%だったそうです。

また別の調査では、88%の医師が有料化が良いと答えています。

そもそも、救急車を利用することのメリットは何でしょう。

(1)病院到着までの所要時間が短いので、早期に治療が開始できる

(2)救急救命士による初期治療も期待できる

(3)治療が優先的に受けられる

(4)交通費が不要

本来の目的は(1)でしょうから、迅速な治療が必要な病状の場合、救急搬送は必須です。

迅速な治療が必要かどうか、その判断に迷うようなら、ためらわず救急車を呼ぶべきでしょう。

蘇生を要する状態の場合、救急救命士が駆けつけてくれることは大きなメリットです。救命率は上がります。

意識の無い患者を見たら、心臓マッサージと救急要請が最初にすべきことです。

多くの救急病院では、救急車で来院したかどうかによって、初期対応が大きく異なります。

しかしこのことを「悪用」して、外来診察の順番を早めるために救急車を利用するのは、言語道断です。

それと同様に、タクシー代わりに救急車を利用するなら、タクシー代を払えということになるでしょう。

経済的理由があったとしても、それは別の制度によって救済されるべきで、救急車を使うのは間違いです。

軽い病状による救急搬送件数を減らし、救急医療は重症患者に集中させるべきです。

ただ、病状が重症かどうかを正しく判断して救急要請しろ、というのも無茶な話です。

軽症なのに救急車を呼んだら有料、重症なら無料、という規則を作るのは、実際には難しいでしょう。

混合診療の禁止

「混合診療」とは、保険が適用される「保険診療」と、保険適用外の「自由診療」を併用することです。

保険が利く従来の医療を3割負担で受け、それ以外の医療を自分の希望によって選択し、組み合わせる。

素直に考えれば、そんなの併用できた方がいいにきまってるでしょう、ってことになります。

私もそう思います。混合診療の禁止など、まったく理不尽で融通の利かないな規則なのです。

例えば以前にも書いた「<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-836.html" target="_blank" title="ノロウイルス検査">ノロウイルス検査</a>」。

嘔吐や下痢などの胃腸炎症状に苦しむ患者さんが、ノロを検査して欲しいと来院されることは多いです。

その検査結果で治療法が変わることはありませんが、周囲への感染拡大を考慮すれば、知りたい情報です。

しかし、この検査への保険適用は、3歳未満か、65歳以上か、癌の患者さんなどに限られています。

もしも検査するなら、自由診療つまり自費診療となります。当院での価格設定は3,000円です。

「じゃあ3,000円払いますから、検査をお願いします」となるかと言えば、そういうわけにはいきません。

ノロの検査という自由診療を受けるのであれば、その他の診療もすべて、自由診療扱いとなるからです。

たとえば初診料や処方せん料や薬代など、通常は3割負担で受けられるものが、全額自己負担となります。

これが、混合診療を禁止している現行制度の、おかしなところです。

それがイヤなら診察や会計を先に済ませ、院外に出て、再び来院してノロの検査だけ受ける必要があります。

いいえもっと厳格には、保険診療と自由診療は、別の日に受けなければならないという解釈すらあります。

こんなおかしな制度なのに、たとえば医師会などは、混合診療の全面解禁に反対しています。

混合診療自体が悪いのではありません。その解禁後に、なし崩し的に起こりうることを心配しているのです。

さて、本題はむしろここから。怒濤の後編を待て。(つづく?)

健康食品の機能性表示

安倍首相が「<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-569.html" target="_blank" title="健康食品">健康食品</a>の機能性表示を解禁します」と明言しました。

しかしこれは、規制緩和による市場活性化が狙いであって、国民の健康増進のためではありません。

病気を克服した安倍首相なので、医療への理解が深いと期待してましたが、どうも違う感じ。

少なくとも、医療従事者には、思いのほか優しくない。

今晩の「クローズアップ現代」では、健康食品を製造しているニッスイを取材していました。

企業側は、有効性がはっきりしているのに「機能表示」ができないので困っている、という言い分です。

ニッスイの「海の元気EPA」は、1日分4錠当たり、EPA332mg、DHA142mgが含まれているようです。

オンラインショップの価格を調べてみると、1日分が130〜140円。

実はEPAやDHAは、医薬品としても販売されていて、私も高脂血症の方によく処方しています。

持田製薬の「エパデールS」は、1日にEPAが1800mgも摂れて、保険が効くので1日分が約71円です。

武田薬品の「ロトリガ」には、EPA930mgとDHA750mgが含まれていて、3割負担だと1日78円程度です。

いずれも、健康食品よりも有効成分含有量が多く、しかも安い。ジェネリックを選べばもっと安くなります。

このように科学的根拠がはっきりしている薬は、きちんと医薬品の処方を受けるのが得策です。

その反対に、根拠のあいまいな薬にその有効性を誤解させるような表示を認めることには、疑問を感じます。

今まで通り、「個人の感想です」というテロップとともに、イメージCMを流す程度で良いのでは。

パイロット不足

ピーチ・アビエーションの大量欠航で明るみに出てきた、パイロット不足問題。

日経記事によると、ANAは今春から、パイロットの飛行時間を月55時間から60時間に増やしたとのこと。

パイロットが足りなければ、一人一人をもっと働かせようと、そういう発想です。

こういった話を聞くと、いつも<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-634.html" target="_blank" title="パイロットと医者">パイロットと医者</a>(とくに外科医)を比較してしまいます。

どちらも、人の命を直接あずかる仕事であり、その専門性には似た側面があるからです。

しかし、そのパイロットの飛行時間が、月に55時間とか60時間というレベルだとは、まったく驚きました。

なぜなら外科医の手術時間は、月に100時間から多いときは150時間以上なんてのも当たり前だからです。

医師がパイロットと違うのは、自分の体力の続く限り、求められた診療を行うことができるということです。

しかしそのような過酷な条件で長時間労働しているのに、その結果責任だけを責め立てられてしまいます。

不足しているのは医師の総数ではなく、外科や救急や小児科や産婦人科など、忙しい診療科の勤務医です。

ドラマでは華やかに描かれるこれらの勤務医が、現実ではどれだけヘトヘトになって働いていることか。

アホらしいので、外科医はもう月に60時間しか手術しませんよ、なんてことになったらどうしますか。

パイロットの疲弊に理解があるのなら、勤務医の問題も、メディアはもっと真面目にとりあげるべきです。

ハッシュ関数

「ハヤシライス」という食べ物を、私はあまり好きではありません。

味が単調だし、明らかにカレーライスの二番煎じであるところがイヤなのかもしれません。

カレーのCMで南利明が「ハヤシもあるでよ〜」と言っていたように、あくまでも二番手なのです。

「ハヤシ」の語源には、人名説など諸説ありますが、「ハッシュドビーフ」由来との説が有力です。

ならば「ハッシュド」とはなんぞや。「hash」という動詞の意味を、手持ちの英和辞典で調べてみると、

(1)(肉などを)細かに切る、(2)ごた混ぜにする、(3)徹底的に討議(吟味)する

ここからが本題です。最近「ハッシュ関数」という言葉をよく耳にしますね(耳にしませんか)。

あるデータから、一定の演算によって、固定長の数値(ハッシュ値)を生成することです。

元データを細かく切って、ごた混ぜにして、徹底的に吟味して算出した数値ということなのでしょうか。

データの改ざんの有無を見つけ出すのに有効な手法であり、セキュリティーの要です。

厚労省が、レセプト情報と特定健診情報を統合する際に、データの匿名化に使ったのもハッシュ関数でした。

保険者番号や氏名、生年月日等の情報から計算したハッシュ値によって、両者を「名寄せ」する算段でした。

ところが元データに全角と半角が混在していたため、ハッシュ値も異なり、名寄せ不可能となりました。

たしかにレセプト上では、保険者の記号番号には全角の数字が使われています。いまどき全角の数字です。

何億もかけて構築したシステムが、こんな時代遅れのしきたりによって、あっさり役立たず。

いつも思うことですが、レセプトに限らず、お役所は全角数字に固執しすぎです。

健診の基準値

日本人間ドック学会が、健診における血液検査などの「基準範囲」を発表したのは、つい1カ月前のこと。

「基準値が大幅に緩和された」と、マスコミはおおむね好意的に報じました。

その裏では「従来の基準は、医者や製薬会社が儲けるために、わざと厳しくしていたのだ」と言わんばかり。

ところがここに来て、専門学会等が反発し、マスコミもやや慎重な論調に転じています。

ひとことで言うなら「緩い基準値だけが一人歩きすると、治療が遅れる危険がある」というものです。

健診の意義は、健康上の問題点を早めに察知して、生活習慣の改善や早期治療に結びつけることです。

あくまでも、予防医療がその目的なのだから、基準は多少厳しめの方が理にかなっているはずです。

予防医療の総本山ともいうべき人間ドック学会が、なぜこのような発表をしたのか、理解に苦しみます。

さらに私がもっと問題だと思うのは、健康な人から得たデータをそのまま「基準値」と位置づけたことです。

「健康な人を調べたらこのような数値だった」ということに過ぎません。

「このような数値だったら健康です」というわけではないのです。逆は真ならずです。

たとえば、こう考えてみましょう。

健康な喫煙者を集めてみたら、1日の喫煙本数は30本以下だったから、30本までは吸ってもOKでしょうか。

たとえ20本でも10本でも、喫煙を続けるうちにさまざまな健康問題が生じてきます。

健康な男性のLDLコレステロール値が178以下だったから、178まではOK、とは言えないのは明らかです。

基準値は、健康リスクの有無を知るための指標であり、健康習慣改善のきっかけとなるべきものです。

人間ドック学会の発表内容は、臨床現場に混乱を招きかねません。ていうか、すでに混乱しています。

薬の副作用

薬を処方しようとしたとき、「副作用はないですか」と尋ねられることがあると、次のように答えています。

「どんな薬にも副作用はあります。この薬を飲むメリットが、副作用よりも優先するから処方するのです」

一般に、薬の副作用を分類すると、以下の3つでしょうか。

(1)アレルギー反応、(2)薬の効きすぎ、(3)目的外の作用

このうち(1)は、アナフィラキシーなど重大な反応です。薬が「体に合わない」と考えるしかありません。

糖尿病の薬が強すぎて低血糖になったとすれば(2)です。これは適正な薬の用量を見つければ解決します。

文字通りの「副」作用という意味からすれば、とくに(3)について理解してもらう必要があります。

たとえば内服薬の場合、その多くは消化管から吸収されると、まず肝臓に到達します。

そこで何らかの処理(代謝)を受けるか、またはそのまま肝臓を素通りして、肝静脈を経て心臓に届きます。

つまり内服した薬は、最終的に心臓から、全身のすべての細胞に向けて拍出されるのです。

それが鼻水の薬(抗ヒスタミン薬)であっても、鼻だけでなく脳にも届くので、眠くなってしまいます。

だからどうしても鼻水を止めたいときに、多少眠くなることを承知で、抗ヒスタミンを内服するわけです。

要は、目的とする「作用」のメリットが、目的外の「副作用」のデメリットよりも優先するかどうか、です。

医師が薬を処方するのは、薬の必要性がその副作用のリスクを上回っている場合に限られます。

しかしその説明が不十分だから「副作用はないですか」などと聞かれてしまうのでしょうね。反省です。

縫合用の絹糸

「富岡製糸場と絹産業遺産群」が、世界遺産になることが、ほぼ決まったようです。

昔、学校で富岡製糸場のことを習った時、生糸と絹糸ってどう違うんだろう、と思ったことがあります。

久々にそれを思い出したので調べてみたら、生糸を薬剤処理したものが絹糸なんですね。いま知りました。

1960年代ぐらいまでは、生糸生産量では日本が世界一でしたが、いまは中国がダントツです。

絹糸(けんし)といえば、外科手術の際の縫合糸として、ずいぶん使ったことがあります。

合成糸よりも値段が安く、結びやすいのにほどけにくい。一般外科領域では、一番ありきたりの糸でした。

しかし絹糸は蛋白質であり、複数の繊維が撚って(編んで)あり、しかも吸収されない(溶けない)糸です。

どの要素ひとつをとっても、感染には不利で、心臓血管外科領域で用いることはほとんどありませんでした。

日本以外で絹糸を縫合糸として使っている国が、ほとんどないと聞いたのも、ずいぶん前の話です。

外科の現場を離れて何年も経つので、現状はわかりませんが、今でも絹糸を使っているのでしょうか。

まだ使っているとしたら、かつての豊富な生糸生産があだとなった、悪習といえるかもしれません。