免許申請用の診断書

医師や看護師の国家試験に合格した人は、免許の申請手続が必要です。

そして申請に際しては、医師の診断書が必要です。いまの時期、その診断書を求めて来院する方が多いです。

診断書には一定の様式があり、以下の5項目について、医師が診断を下すことになります。

(1)視覚機能:目が見えない □該当しない □該当する

(2)聴覚機能:耳が聞こえない □該当しない □該当する

(3)音声・言語機能:口がきけない □該当しない □該当する

(4)精神機能:精神機能の障害 □該当しない □専門家による判断が必要

(5)麻薬、大麻又はあへんの中毒 □なし □あり

このうち(1)から(4)は「該当しない」に、(5)は「なし」に、チェックを記入するだけです。

ほぼ、儀式のような診断書です。かといって、まったくいい加減に診断しているわけではありません。

目の前の診断書を一緒に見ながら面談することで、それとなく(1)から(3)をチェックしているのです。

「麻薬やってませんか」と質問してみて、笑いが出るようなら、(4)と(5)もクリアしたと考えます。

この質問に対して、すごい剣幕で激高するようなら、(4)か(5)に問題ありと考えざるを得ません。

さいわいにして、いまのところ、そのような方に遭遇したことはありません。

脈を数える

脈を診るのは診察の基本ですが、初診の方を除くと、あまりじっくりと触診していないことに気付きました。

これは反省しなければなりません。脈の診察は、脈拍数やリズムを知るためだけではないからです。

動脈の弾性や脈拍の性状や変動などを診ることで、動脈硬化や心機能や肺の状態などを知る助けになります。

脈拍数にしても、頻脈や徐脈が気になる状況でもなければ、正確に数えることが少なくなりました。

これは胸部聴診時の心音や、血圧測定時の音で、ある程度把握できるからです。

もちろん不整脈が疑われる場合には、話でもしながらある程度長時間、脈を触れ続けます。

脈拍数を数えるときには、15秒間だけカウントして、その数を4倍するのが一般的です。

ただしこの場合には、身近に秒針のある時計が必要です。

私は日ごろ腕時計をしていないので、診察室の掛け時計を見上げるという、やや格好悪いことになります。

研修医時代の話です。当時はちゃんと腕時計をして、その秒針を睨みながら脈を数えていました。

あるとき、脈の触診中に、腕時計をしていないことに気がつきました。どこかに置き忘れてたんでしょうね。

しょうがないので掛け時計を見上げると、これがなんと、秒針がない。

そのとき、ひらめいたのです。患者さんの腕時計があるじゃないか。われながら、よく思いつきました。

横目でその腕時計を見ながら、無事脈拍数をカウントしたのでした。

ま、しかし、診察中に腕時計は必要でしょう、やはり。というわけで、Apple Watchなのです。そう来る。

家に帰るまでが遠足です

「DOCTORS3 最強の名医」が最終回でした。このドラマではいつも、終盤に大きな手術が行われます。

手術中にたいていトラブルが起きますが、それを乗り越えて、手術は成功。術後にいつも聞かれる会話は、

外科医「では、あとはケアをよろしく」

看護師「お任せください」

違うなぁ。少なくとも私が勤務医の頃は、術後管理も他人任せにはせず、外科医主体で行ったものです。

手術がたとえ数時間で終わっても、その後の管理はしばしば「長期戦」でした。

何時間もベッドサイドに張り付き、術後経過がよくても、主治医のうち一人が必ず病院に泊まり込みました。

状態が落ち着かないケースでは、執刀医も助手も全員、泊まり込みです。

手術が成功したと思えるのは、手術終了時ではなく、患者が術後の不安定期を脱したときなのです。

夜中過ぎまでかかるような大手術だった場合、その後の管理は先の見えない「持久戦」です。

病院に2連泊することも珍しくなく、しかも連泊中に別の手術を手がけたり、病棟も外来もこなすわけです。

市民病院時代に3連泊したとき、ひげを剃ることができず、ひげボウボウになってしまったことがあります。

いい感じのひげ面になったものだから、そのまま伸ばすことに決定。以後退職まで顔中がひげモジャでした。

ドラマで描かれるような華やかな部分の裏で、外科医はもっとずっと泥臭いことをしています。

そういう部分をドラマでもしっかりと、それが無理でも少しぐらいは、描いてほしいものです。

自動血圧計の精度

高血圧で治療中の方には、自宅で血圧を測定している方が多いです。健康管理のためにはとても有用です。

テルモとかオムロンとかの自動血圧計なら、精度には問題ありません。

ただしできれば、上腕で測定するタイプのものを買っていただきたい。

手首式の血圧計は、コンパクトで値段も安いのですが、どうも測定値に変動が大きい印象があります。

おそらく手首は、装着具合による影響を受けやすいのでしょう。

4月の発売が待たれる<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1072.html" target="_blank" title="Apple Watch">Apple Watch</a>にも、血圧測定機能が搭載される予定でしたが、見送られるようです。

バンドの締め具合とか、皮膚の毛深さなどによって、測定値に大きな誤差が出たからとのこと。

だから言ってるでしょう。手首式はダメだって。

一日を通して血圧を管理できたら、画期的です。その機能だけでも、Apple Watchは買う価値あり、でした。

ところが、初期出荷モデルに搭載できないばかりか、この機能自体が中止されるとの話もあり、残念です。

手首式血圧計を買ってはいけない、とは言いません。コンパクトで測り易いのは、大きなメリットです。

血圧計は、測ってなんぼ。高価だけど面倒臭い血圧計よりは、簡単に測れる手首式の方がよほどマシです。

その意味で、Apple Watchの血圧計搭載断念は、つくづく惜しい話です。

予防医療の拡充が本筋

本日、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-481.html" target="_blank" title="通常国会">通常国会</a>が召集されました。長い冬休みでしたね、議員さんたちは。

安倍首相は今国会を「改革断行国会」と位置づけて、医療や農業の改革を断行する考えとのこと。

「断行」という言葉の響きは勇ましいですが、本気で断行されたら、たぶん医療機関には打撃です。

小泉内閣時代からそうですが、国民あるいは国の財政を立て直すとき、医療費はいつも削る方向なのです。

高齢化が進んでいるのに、国民1人当たりの医療費は抑えようという、困難な改革が断行されるのでしょうか。

医療費削減をめざすなら、予防医療の充実を図るのが本筋というもの。ぜひその方向で断行してほしいです。

<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-477.html" target="_blank" title="特定健診">特定健診</a>(いわゆるメタボ検診)は、効果ナシとは言いませんが、有料なので受診率は低迷しています。

受診者の多くが、日ごろ通院治療している生活習慣病の経過観察用に、特定健診を流用しているのが実態。

本来の、メタボを発見するという目的で受診する方は、残念ながらごく少数です。

人間ドック学会は昨年、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-943.html" target="_blank" title="健診の基準値">健診の基準値</a>を大幅に甘くしましたが、いったい何考えてるんですかね。

厳し目の基準を設定して、生活習慣病の予備軍を早期発見することにこそ、健診の意義があるというのに。

予防接種はどうでしょう。<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1186.html" target="_blank" title="子宮頸がん予防(HPV)ワクチン">子宮頸がん予防(HPV)ワクチン</a>は、ご存じの通り、事実上の中断中です。

ワクチン反対派は、定期的に子宮がん検診を受ければ、がんを早期発見・早期治療できる、と言います。

でも、発がんするまで待って早期発見して手術するよりも、発がんを予防した方がいいに決まっています。

どうしてその理屈が多数意見にならないのか、不思議でなりません。

出席停止期間が長い

インフルエンザの患者報告数は、宮崎、沖縄、熊本が、現在の全国ワースト3。九州で大流行のようです。

熊本市では先々週から警報レベルとなり、近隣の小中学校では、学級閉鎖や学年閉鎖が相次いでいます。

学級閉鎖は、流行の拡大をくい止めるために有効な措置ですが、さまざまな問題もあります。

不足する授業時間をいつか埋め合わせしなければならないし、子どもが休めば家庭への影響もあるでしょう。

最悪なのは、学級閉鎖が終わった頃になって、インフルエンザに罹ってしまう場合です。

児童がインフルエンザに罹ると、「解熱の2日後」かつ「発症の5日後」までは<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-571.html" target="_blank" title="出席停止">出席停止</a>というキマリです。

下熱しても体内にウイルスが残っているため、ある程度の期間は、他人への感染力があるからです。

しかし、早々と元気になった子どもは、学校にも行けず、何日も自宅で暇をもてあますことになります。

そこで考えたんですが、元気なら登校させたらどうでしょう。ただし、元のクラスに戻るのではありません。

インフルエンザ児童専用のクラスをつくって、そのようなお子さんを集めて、授業をするのです。

さいわい今流行しているインフルエンザは、ほとんどがA香港型。みんなを一緒にしても問題ないでしょう。

学級閉鎖中のクラスが空室なので、その部屋を利用しましょう。

というわけにも、いかないでしょうね。失礼しました。

しかし、登校停止期間を杓子定規に日数で決めるのには、疑問を感じます。やはり病状を考慮すべきです。

高熱が続いたのか、すぐに下熱したのか、あるいは最初から微熱だったのか、経過には個人差があります。

ワクチン接種歴や、インフルエンザ治療薬開始のタイミングによっても、ウイルス排出期間は異なるはず。

そういった事情を考慮して、医師の総合的判断で、出席停止期間を決めても良いのではないでしょうか。

隔日投与の解釈

医療用医薬品の多くは、1日3回毎食後、だとか、1日1回就寝前、などという「用法」で処方します。

内服の回数とタイミングは、その薬の効能や作用持続時間、薬理作用等によって、決められています。

薬によっては、「隔日投与」、つまり1日おきに飲んでもらう場合もあります。

ただし、この「1日おき」の実践法については、個人差があるので、よく注意しなければなりません。

(1)内服日をあらかじめカレンダーに書き込む人

(2)偶数日とか奇数日のように日付で決める人

(3)月・水・金のように曜日で決める人

几帳面さで言えば、(1)>(2)>(3)です。そして(1)のような方はたいてい、血圧が高いです。

骨粗鬆症の薬など、週に1回だけ飲む薬があります。これは、毎週月曜日、のように曜日で決めて内服します。

ときどき、月曜に飲み忘れたので火曜に飲んだが、来週は何曜日に飲むのか、などと尋ねる方がおられます。

この場合、月曜でも火曜でもかまわないのですが、どちらでもいいと答えてはなりません。

どちらでもかまわないようなことを悩んでいる方には、どちらか一方に決めてあげる必要があります。

前述のケースなら、月曜日の方が良いです、とお答えすることになるでしょう。医学的根拠はありません。

最初に月曜と決めたのなら、ずっと月曜にしておいた方が覚えやすい、というだけの理由です。

頓服をください

「頓服をください」と言う患者さんがいます。これは「熱冷ましをください」の意味です。

つまりこの方は「頓服=解熱剤」と思っているのです。

実は私もそうでした。大学で習う前までは「頓服=薬包紙に入った熱冷ましの粉薬」と思っていました。

だいたい「とんぷく」という語感には、少々まぬけな響きを感じます。「満腹」とか「転覆」とかと同じ。

しかもなぜか私の場合、この言葉には、苦い粉薬をお湯に溶かして飲むイメージがつきまとうのです。

「頓服」は「必要時に服用」という意味で用いますが、たしかにわかりにくい言葉です。

処方箋には、間違いのないように、「頓服 発熱時に」とか「頓服 吐き気のある時に」などと記載します。

頓服の意味を正しく知っている人は、5割以下だったという、国立国語研究所の調査もあります。

だいたい「頓」の字がなじめません。「頓挫」とか「頓死」とかに使うので、印象が悪い。

と思っていたら「整頓」がありましたね。調べてみると、「頓知(とんち)」にも使うじゃないですか。

「近年とみに・・・」などと言う際の「とみに」は「頓に」と書くんですね。これは知らなかった。

頓服という言葉を使うことで、かえってわかり難くなるのであれば、使わない方がいいかもしれません。

「頓服 発熱時に」よりも、単に「発熱時に飲む」の方が、むしろ分かり易いと思うのですが。

インフル治療のタイミング

熊本でも年末から、インフルエンザが流行しています。これまでに当院で診断したものは、全部A型です。

いまの流行はAH3亜型(A香港型)だそうです。昨年は、同じA型でもAH1(豚由来)が流行しました。

<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-899.html" target="_blank" title="治療薬">治療薬</a>の主流は、内服薬の<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1170.html" target="_blank" title="タミフル">タミフル</a>、吸入薬のリレンザ、イナビルという「ノイラミニダーゼ阻害薬」です。

ウイルス表面のノイラミニダーゼに作用して、感染した細胞の外にウイルスが出られなくする薬です。

細胞外に出られなければ、ウイルスが次々と他の細胞に感染を拡げることができず、増殖できなくなります。

迅速検査等からインフルエンザと診断した患者さんには、原則として前述の薬のいずれかを処方しています。

ただし、発症から3日以上を経過して、すでに下熱して元気な人には処方しません。無意味だからです。

インフルエンザウイルスに感染すると、ウイルスはどんどん増殖し、発熱の48時間後ごろピークに達します。

その時期以降に、ウイルスの増殖を防ぐノイラミニダーゼ阻害薬を投与しても、もはや役に立ちません。

一般論はそうですが、病状によっては発熱の3日後でも、ノイラミニダーゼ阻害薬を処方する場合があります。

高熱が3日以上続いているとき、その熱が最初からインフルエンザの熱だという確証が無いからです。

普通の風邪の途中からインフルエンザを発症したと思われるケースも、実際にはかなり経験します。

なので、「だらだらと熱が上がってきたので、インフルエンザじゃない」とは言い切れませんのでご注意を。

診療明細書は無意味

「診療明細書」を受け取られているでしょうか。医療機関を受診すると、領収書とともに渡される書類です。

明細書に記載されているのは、あくまで医療費の内訳であって、診療内容の詳細ではありません。

検査の目的、診断した病名、その根拠、今後の見通しなど、疾患や病状に関する記載は、一切ありません。

そこにあるのは、初診料や管理料、処方せん料や検査料などの、「○○料」という項目名と料金のみです。

こんな明細をもらっても、健康管理には何の役にも立ちません。なので不要な方は、受け取らなくても結構。

しかし医療機関は、不必要と意思表示した方以外全員に、診療明細書を渡さなければならないキマリです。

そのかわり医療機関は、そのような明細書を発行することでも、わずかながら報酬が得られます。

「明細書発行体制等加算」がそれで、1人1回につき「1点」つまり「10円」です。3割負担だと3円。

「私は明細書は必要ないので、加算は付けないでほしい」ということはできません。

不要な方には明細書は発行しませんが、それでも加算は取られてしまいます。

この加算は明細書代ではなく、明細書を発行できるような体制をとっていることに対する報酬だからです。

まあ変なシステムです。役にも立たない書類を発行して、それが不必要な患者からも料金を取るのですから。

本来、患者に渡すべき書類は、検査結果・診断内容・治療方針などの「明細」であるべきです。

手前味噌ですが、当院のミニカルテは、そのような趣旨で作っているものです。

診療の形だけを評価して、その中身に踏み込めないのが、今の診療報酬システムの最大の問題だと思います。