コロナ第11波は頭打ち、と思いたい

コロナは全国で増えていますが、定点あたり報告数の増加ペースは、熊本では少し鈍ってきた印象があります。

熊本県の報告数は、3.49→4.08→5.11→7.36→12.21→18.24→26.33→27.13、と7週連続で増えています。

しかしその増加率は、1.17→1.25→1.44→1.66→1.49→1.44→1.03と、頭打ちになったようにも見えます。

子どもたちが夏休みに入る直前の週までのデータなので、今後夏休みの影響がどう出るのかはわかりません。

でもたしかに、当院の発熱外来の集計でも日々の肌感覚でも、コロナの勢いは少し鈍ったような気がします。

とは言え、まだ減り始めたわけではなく、そろそろピークに近づいただけであって、コロナは今も増加中です。

検査代の公費負担がなくなり、金銭的理由で検査を受けない人が多いですが、最近とくにその傾向が顕著です。

家族内に発熱者が複数いても、窓口負担の少ない子どもの検査だけを希望するケースも珍しくありません。

誰かが陽性であれば家族全員陽性とみなす「代表者制」は、いまどきリーズナブルな考え方かもしれません。

ただしたまに、咽頭所見がどうしてもコロナっぽくなくて、調べてみたら溶連菌感染ということもあります。

過去の大流行時にも見られたように、コロナと別の感染症の家族内同時発生は、常に考慮しておくべきです。

発熱外来の経験から、咽頭を診るだけである程度は、コロナ陽性かどうかがわかるようになりました。

なので検査しながら予測をするのですが、絶対コロナだと思ったのに外れることも、実はしばしばあります。

ただし、この咽頭所見はコロナじゃないだろうなと思った場合は、ほぼ間違いなく陰性です。

これまでに当院で検査してコロナ陽性と診断したのは3,930例。妙な診療経験を積んだなぁという感じです。

コロナ感染者の増加ペースが加速しています

「コロナが7週連続で増えている」と3週間前に書いた流れのまま、今は「10週連続で増えている」状況です。

定点あたり報告数のグラフは「下に凸」のカーブを描いており、増加が加速していることを示しています。

熊本県の第11波は、すでに第10波や第9波を越え、昨年1月の第8波と同じ規模になろうとしています。

あの時はひどかったですよね。あれと同程度の流行になるんでしょうか。

昨日・今日の2日間の発熱外来受診者は67人。うち、コロナの遺伝子検出検査を行ったのは33人。陽性21人。

陽性率は64%でした。これは、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-4672.html" target="_blank" title="7/13〜15の3連休の発熱外来">7/13〜15の3連休の発熱外来</a>とほぼ似たような状況です。

今日は、「#8000番」で当院を紹介されたという新患の方が、何人もいました。

これは、夜間・土曜午後・日曜・祝日における、小児救急に関する相談受付電話の番号です。

日曜・祝日においては、この電話は県外のコールセンターに転送されて、担当看護師が対応するようです。

そしてその相談員は、なぜか当番医よりも当院を先に紹介しているようなフシがあります。

それが困るとまでは言いませんが、おかげで午前中のうちに夕方までの予約が埋まることになります。

これもまた、昨年の第8波に匹敵する勢いです。そして全然予約が取れないという苦情もまた同様。

何度も言ってきたように、休日の発熱外来(発熱者を受け入れる医療機関)が、熊本には少なすぎるのです。

大雨より猛暑の方がマシ、と大雨の日には思う

西日本の各地で警報級の大雨が降りました。熊本でもひどい雨でしたね。

今朝ちょうど豪雨の中を車で出勤したら、ワイパーの速度がMAXでも前方がぼやけてよく見えませんでした。

で、気が付くと、メガネをかけるのを忘れてたんです。そりゃ見えんわい。あ、これは内緒の話ね。

職場には診察用のメガネがあるので大丈夫。ボンヤリとした視界の中で診療をしたわけではありません。

そんな雨の日の発熱外来は手間がかかる上に、今日は陽性者が異様に多くて驚きました。

周辺の企業・事業所ではあちこちでクラスターが発生し、近隣の学校では学級閉鎖や学年閉鎖まで出ています。

熊本市の定点あたり報告数(6/24〜30)は、第1位が手足口病の12.19ですが、2位はコロナの10.04です。

溶連菌感染やヘルパンギーナや感染性胃腸炎よりも、コロナの方がずっと流行しているという状況なのです。

さらに言えば、手足口病は視診で診断が確定できるので、医療機関を受診すれば確実に把握できます。

ところがコロナは通常は検査が必要で、しかも検査料がバカ高く、検査どころか受診自体も敬遠されがちです。

なので実際のコロナの感染者数は、手足口病の2倍3倍以上かもしれません(個人のテキトーな印象です)。

コロナと診断された方で、とくにご高齢の方や基礎疾患のある方の中には、「特効薬」を希望する方がいます。

当院でそのような方に処方している治療薬は「ラゲブリオ」です。5日間服用する、かなり高額な薬です。

昨年9月までは無料でしたが、10月から公的支援が減らされて9千円になりました(3割負担の場合)。

それでもショックなのに、今年4月からは公的支援が完全になくなり、3割負担では約28,200円と超高額です。

驚くべきことに(予想通り?)、最近の検証でラゲブリオには入院や死亡のリスク軽減効果が無いことが判明。

この結果を受けて、ラゲブリオはコスパが悪いという理屈で、薬価が今月から少し引き下げられました。

これで患者負担は2千円ぐらい安くなりましたが、効果が少ないから安くなった薬って、勧めにくいですよね。

「マイナ保険証」利用促進のための一時金倍増へ

「マイナ保険証」の利用促進に貢献した医療機関への国からの一時金が、倍増されることになりました。

「利用が進んできた施設に対して、更に利用率を押し上げるためのインセンティブが必要」だからだとか。

実際には、医療機関を金で釣ろうという作戦がケチすぎて効力がないため、餌を増量したということでしょう。

一時金の上限が、診療所で10万円から20万円に、病院では20万円から40万円に増えます。

その一時金は、以下の2つの要素によって決定されます。

(1)昨年10月の利用率は何%か

(2)昨年10月の利用件数と比べて、今年5〜7月の利用件数が何件増えたか

これを当院に当てはめると、

(1)昨年10月の利用率は28%

(2)昨年10月の利用件数と比べて、今年5月時点の利用件数は、59件の減少

当院では、(1)はきわめて優秀な数字ですが(2)が現時点でマイナスなので、このままでは一時金はゼロ。

早々と頑張りすぎたことが、裏目に出た格好です。当院のような医療機関は、もはや支援されないのです。

考えてみれば国も、「釣った魚には餌(インセンティブ)はやらん」という、至極まっとうな態度なのですね。

「マイナ保険証優先」ぐらいで騒ぐことなかれ

5月〜7月が<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-4583.html" target="_blank" title="「マイナ保険証利用促進集中取組月間」">「マイナ保険証利用促進集中取組月間」</a>であることは、前にも書いた通りです。

一時金を「エサ」にして、医療機関や薬局のマイナ保険証利用率を一気に上げようという国の政策です。

4月時点で6.56%の利用率が、従来保険証廃止の12月までに100%に到達するとは、とても思えませんけどね。

そのエサ欲しさ、いや国に協力しようと少々頑張りすぎた医療機関や薬局で、トラブルが起きているようです。

たとえば、マイナ保険証のみ受け付ける薬局だとか、マイナ保険証を優先診察する医療機関などです。

このような事態に対する、厚労省の見解が興味深いというか、歯切れが悪いですね。

「マイナ保険証の利用者を優先してくださいとも、区別しないでくれとも示したことはない」

この霞が関言葉は、「マイナ保険証を優先しろとは言ってないが、区別はしても良い」と解釈できます。

さらに行間からは、「マイナ保険証を優先するなとも言ってないよ」という意図も読み取ることができます。

そもそも、厚労省の目的は「マイナ保険証限定」の世に移行することです。それがあと半年後に迫っています。

なのでそろそろ準備段階として、「マイナ保険証優先」を容認してもよかろう、というところなのでしょうか。

はたして12月2日に、マイナ保険証利用率は何%になってるんでしょうね。現場の混乱が目に浮かびます。

「ベースアップ評価料」は現在未算定

診療報酬が今月「プラス改定」されましたが、そのプラス部分の正味の大半は<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-4590.html" target="_blank" title="「ベースアップ評価料」">「ベースアップ評価料」</a>です。

これは、看護師などの医療職員(事務職員を除く)の処遇改善(賃上げ)にのみ使える、追加報酬のことです。

この評価料を算定すれば、すべての患者から受診の都度、職員昇給専用の追加料金をいただくことになります。

熟慮の末、当院では当面、ベースアップ評価料を算定しないことにしました。

職員の給料を上げるために、通常の医療費とは別枠で追加料金をいただくことには抵抗があるからです。

どうやら他の医療機関にも算定を躊躇しているところが多いようなので、しばらくは模様眺めをしてみます。

どのような業種であっても、従業員のベースアップは通常、企業努力で工面するのが本筋。

昇給のために診療報酬を特別に増やした形の今回の改定は、医療機関だけ特別待遇のように見えて心外です。

などと片意地張らず強がらず、さっさと算定すればよさそうなものですが、手続きもそこそこ面倒なのです。

ともかく、国が用意してくれた一種の「補助金」を蹴るわけですから、それ相応の覚悟(頑張り)は必要です。

で、模様眺めとは言いましたが、眺め終わったらどうするかは未定。(つづく)

抗生剤が足りません

この数年、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-4407.html" target="_blank" title="医薬品の不足">医薬品の不足</a>が問題化していますが、最近は抗生剤が足りません。

<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-3371.html" target="_blank" title="ジェネリックメーカーの不正">ジェネリックメーカーの不正</a>が相次いで発覚し、各社に業務停止命令が出されたことが直接的な原因です。

しかしその背景には、ジェネリック医薬品は儲からないのに多品目作らなければならない現状があります。

だからといって手抜きをしてよいことにはなりませんが、メーカーも追い込まれているのでしょう。

そして厚労省は、供給不足が予測されるのに業務停止命令を出さざるを得ない「自縄自縛」に陥っています。

今日は隣の薬局から、もうじき「セフゾン」がなくなるとの連絡を受けました。日頃よく使う抗生剤です。

この薬は、先発品は「LTLファーマ」が、ジェネリックは「沢井製薬」や「東和薬品」などが製造しています。

そのような複数のメーカーが作っている薬なのに、一斉になくなるのには、理由があります。

LTLも沢井も東和も自社ではこの薬を製造しておらず、いずれも「長生堂製薬」が受託製造しているからです。

長生堂製薬の川内工場(徳島市)は、シェア国内トップのセフェム系抗生物質製剤の専用工場だといいます。

ところがその川内工場で不正が相次ぎ、すべての製品の出荷と製造が停止されることになってしまいました。

複数のメーカーが販売している薬が、元をたどれば同じ会社で作られているとは、危機管理上お粗末な話です。

ジェネリック医薬品が儲からないことがその背景だとすれば、抜本的な解決法はあるんでしょうかね。

6歳未満のコロナ検査はやめました

診療報酬の改定によって今月から、6歳未満のお子さんのコロナの検査代が請求できなくなりました。

よって当院では今月から、6歳未満のお子さんには、原則としてコロナの検査は行わないことにしています。

皆様にはご迷惑をおかけしますが、その理由などを書きますので、ご容赦いただきますようお願いします。

6歳未満のお子さんに対しては、多くの小児科が「小児科外来診療料」という包括診療を行っています。

何か検査や処置などをしても、しなくても、診療報酬は「定額」です。検査代等は「包括」されているのです。

その定額料金は今月から少しアップして、初診の場合は604点(6,040円)、再診は410点(4,100円)です。

ところが、新型コロナは検査のコストが高く付くので、定額の範囲内では検査代がまかなえません。

そこで臨時的な取扱いとして、先月までは定額とは別枠でコロナの検査料を請求できるようになっていました。

たとえば遺伝子検出検査(PCR検査等)の場合、検査料700点(7,000円)を、上乗せすることができました。

当院で行っている検査キットの原価が1検体あたり約6,000円なので、まあ許容できる点数だったのです。

ところが今月から臨時的取扱いがなくなり、コロナ検査料は小児科外来診療料に包括されることになりました。

そのため、初診料6,040円か再診料4,100円の中から、6,000円の検査実費を工面する必要に迫られています。

これは無理筋です。ですがそれをわかった上での国の方針転換でしょうから、その意向を汲むしかありません。

つまり、コロナの検査はなるべく控えるようにと、とくに子どもはやる必要なしと、そういうことなのです。

よって当院では、検査の必要性がよほど高いとき以外は、子どものコロナの検査はやらないことにしました。

そして実際に、コロナ検査の必要性が高いと考えられる小児は、ほとんどいないのです。

当院の方針は国の意向(政策)に従ったものです。ご不便をおかけしますが、ご了承ください。

「ベースアップ評価料」

今年度の診療報酬の改定では、「ベースアップ評価料」なるものが新設されました。

簡単に言えば「看護職員等の賃上げをするなら、医療費を割増にして患者から請求できる」という制度です。

この評価料による増収分は、医院の儲けにはできず、全額を従業員の賃上げとして配分しなければなりません。

でも、賃上げの原資は本来は経営者が工面するものであって、患者から直接取る仕組みは筋近いでしょう。

おそらく国は、医療機関全体の収入を増やしたのでは、職員の賃上げに直結しないと考えているわけです。

世論を考慮すると医療従事者の給料は増やしたい、でも医者は締めつけたい、そう考えた官僚の苦肉の策です。

残念ながらこの制度は、あまりにも複雑な仕組みなので私はいまだによく理解できていません。

おそらく当院ではベースアップ評価料を算定せず、単純に職員全員の昇給をするという方向になると思います。

今回の評価料は、事務職員には適用されません。看護職員等にだけ適用されるのがミソです。

経営側としては、看護職と事務職とで昇給幅に差を付けられず、結局は両者同程度の昇給となるでしょう。

看護職だけを「補助」することで、医療従事者全体の昇給を引き出すという、国のずる賢い政策なのです。

5月〜7月は「マイナ保険証利用促進集中取組月間」

マイナ保険証の利用促進に貢献した医療機関には、国からご褒美(一時金)が与えられると報じられています。

一定の基準を満たした報酬として、診療所は10万、病院は20万円もらえるというものです。

メディア側の中途半端な取り上げ方にはいつも悪意を感じますが、しかし今回に限っては国の施策も良くない。

まず、10万とか20万というのは理論上の最大値なので、その上限額が得られるかどうかは状況によります。

この支援策では、マイナ保険証の利用率や利用人数が、昨年と比べてどのぐらい増えたかが評価されます。

その評価対象は「マイナ保険証利用促進集中取組月間」とされる今年の5〜7月で、比較対象は昨年10月です。

つまり、いまからマイナ保険証の利用を増やした医療機関が、とくに支援される仕組みになっているのです。

当院の、昨年10月におけるマイナ保険証利用率は28%でした。さらに11月は31%、12月は32%でした。

全国平均は5%程度なので、かなり高い数値です。これをこの春大幅に増やすのは、なかなか難しいですね。

今回の施策は、これまでに頑張ってきた医療機関よりも、新たに頑張る医療機関を支援するためのもの。

マイナ保険証利用のテコ入れが目的なので、すでに利用率の高い医療機関を評価・支援する理由がないのです。