新型コロナ治療薬「ラゲブリオ」薬価収載へ

「ラゲブリオ」を、今日は2人の方に処方しました。新型コロナウイルス感染症治療用の内服薬です。

新型コロナ用の内服薬には、他に「パキロビッドパック」がありますが、他の薬との兼ね合いで使いにくい。

一方でラゲブリオは気軽に処方できる薬なのですが、実際にはさまざまな制約があって処方数が伸びません。

この薬は、軽症から中等症1の患者のうち重症化リスクがある方に対し、発症から5日以内に処方できます。

この「発症から5日以内」というのが、なかなかキワドイのです。

例えば、発症の翌日に当院でPCR検査実施、その翌日結果判明、その翌日処方、というケースならOKです。

しかし、発症の2日後に検査、翌日結果判明、その翌日が当院の休診日だと、処方がギリギリになります。

明日の祝日は、かなりの数のPCR検査をすることになりそうですが、結果が判明する明後日は休診日です。

たとえ休診日でも、検査結果の電話連絡やHER-SYS入力やチェックシート送付はもちろん、行います。

しかしさすがに、休診日に処方はできません(処方できるぐらいなら休診しません)。

さらにその後はお盆休みに突入するので、明日検査する患者さんへのラゲブリオ処方は不可能なのです。

どの医療機関で陽性判定をしても、別の医療機関でその判定結果を入手して薬を処方できる仕組みが必要です。

HER-SYSや保健所を介した現在のやり方では、処方に間に合うようなスムーズな運用は難しそうです。

ちなみに今日の中医協総会でラゲブリオの薬価収載が了承されました。保険適用となり一般流通が始まります。

薬価は5日分で94,312円。コロナ医療は公費負担なので患者負担はありませんが、なかなかの高額薬ですね。

少々の病状では入院できない状況です

新型コロナ患者の入院病床とか発熱外来や検査体制などの「ひっ迫」については、ずっと言われ続けています。

本日時点での確保病床使用率は、熊本県で85.1%、熊本市121.1%、うち重症者用は、県28.3%、市52.0%。

全体のキャパがそれほど大きいわけではないので、感染者が入院するための基準には厳しいものがあります。

昨日も、心不全と低酸素のある高齢者が当院の抗原検査で陽性でしたが、手配しても入院はできませんでした。

入院チェックシートに「早期入院」が必要だと明記した上で、保健所に電話も入れたのに、無理でした。

自宅に駆けつけた保健所の方が実測したSpは93〜94%。90%を切ったら救急車を呼んでください、とのこと。

おそらく、この方よりもずっと重症の方のために、残り僅かな重症病床を空けているのでしょう。

しかし日頃から診療している担当医が、これは危ないと思った患者さんぐらいは、入院させていただきたい。

いや、それも叶わぬくらいに、熊本の医療は厳しい状況なのかもしれません。

昨日も予測したように、少なくとも熊本では、第7波はまだピークアウトする様子はなさそうです。

それなのに当院は、12日から数日間のお盆休みに入ります。大事な時に、まことに申し訳ありません。

さて、お盆の人の動きが、その後の感染拡大にどのように影響するのでしょうね。今は不安しかありませんが。

第7波がピークアウトしたとは思えません

誰もが知っているように、月曜日の新規感染者数が少ないことは、何の安心材料にもなりません。

土日の検査結果のほとんどが月曜の夕刻以降にHER-SYS入力されるため、感染者登録は火曜になるからです。

たしかに、1週間前の同じ月曜日の数値よりは減っていますが、そんなの誤差範囲です。

現に私は今夜、その慄然とするような検査結果を前にして、半泣きになりながら、事務処理をしたところです。

昨日の日曜日のPCR検査は、検査数こそ30件と少なめでしたが、陽性は26件。陽性率87%は過去最悪です。

土日のPCRと今日の抗原検査の陽性件数は全部で44件。これらのHER-SYS入力を開始したのが21時前。

入院チェックシートまで作成して、保健所にメール送付したのがたった今、23時51分のこと。

それから大慌てで、帰宅前にこのブログを書いています。締切(23時59分)まで時間が無いので短めです。

いちどに44件の発生届等を提出するのは、2月以来かもしれません。コロナの勢いが止まりません。

これらの発生届などはすべて、明日の感染者数としてカウントされ、メディアにその数値が登場します。

この1,2週間の発熱外来の異常な雰囲気からは、もうじき第7波がピークアウトするとは、私には思えません。

発熱外来の「正常化」のために

「オミクロン株の特徴に合わせた医療機関や保健所の更なる負担軽減への対応」

そのように題して、厚労省の「対策本部」は昨日、次のような4つの方針を打ち出しました。

(1)患者発生時の届出項目の更なる削減

(2)「発熱外来自己検査体制」整備の更なる推進

(3)効果的かつ負担の少ない医療現場における感染対策について

(4)救急医療等のひっ迫回避に向けた対応

HER-SYS入力項目が7つに減ったことは歓迎します。これでほぼ、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-3950.html" target="_blank" title="先日私が希望した通り">先日私が希望した通り</a>になります。

ワクチン接種歴や基礎疾患の内容などは、忙しい時に入力する必要のある情報ではなかったということです。

「自己検査」のための抗原検査キットが足りるのかは疑問。何しろ医療機関でさえ入手には苦労してますから。

自己検査で陽性となった方が、発熱外来を受診せずに自治体のフォローアップを受けられる仕組みも必要です。

症状が軽い場合は、検査や薬のために医療機関を受診することは避けるべきだと、改めて強調されています。

また、療養終了時に発熱外来での検査を求めないことについても、引き続き 幅広く周知を図るとのこと。

発生届の簡素化と自己検査の有効利用は、発熱外来の「正常化」のためには絶対必要です。

コロナ対策の見直しをためらうことなかれ

熊本県の今日の新型コロナ新規感染者は4,414人、全国でも24万9,830人と、いずれも過去最多となりました。

一体収束する気あるんですかね。こうなればもう、収束を待つのは諦めて対応を変えるべき時かもしれません。

コロナによる純粋な医学的問題よりも、コロナ対策に伴う制限の方が、社会に強く影響しているからです。

「第7波を乗り越えた後には見直しが不可避だ」と言う岸田首相は、方針を力強く語るわりに行動が遅い。

岸田首相を「検討使」だと揶揄したのは国民民主党の玉木代表ですが、まことに秀逸な命名です。

いやしかし、次々に繰り出す政策がしばしば国民を惑わせた某首相(故人)よりは、少しマシかもしれません。

ニュースを見ていると岸田氏は、いつも目が真っ赤に充血しています。最近は頭髪の縮れも目立ちます。

「人の話をよく聞くこと」が特技だと言う岸田氏ですが、万人の意見を公平に聞いていては何も進みません。

優秀なブレーンからの情報と、ご自分の見識と良心とで、この難局を乗り越える決断を下していただきたい。

たとえば、感染者の全数把握は即刻、取りやめるべきです。そうすればみんなが楽になります。

事務作業が大幅に減るので、保健所も発熱外来も、本来すべき仕事に集中できます。いますぐすべきです。

感染者数の動向を知りたければ、サンプリング調査でいいじゃないですか、インフルエンザみたいに。

物事をよく吟味するという意味で、「検討使」は褒め言葉かもしれません。検討の後は、行動あるのみです。

野党やメディアの質問には的確に答え(賢答使)、後には「健闘使」と改名されるようだといいですね。

「白紙に戻そう検討使」などということのないように、お願いします。

「濃厚接触者」の扱いを見直す

社会経済活動への影響を考慮して、新型コロナ感染者の「濃厚接触者」の扱いが変わりつつあります。

当ブログで「濃厚接触」という言葉を始めて使ったのは、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1353.html" target="_blank" title="7年前">7年前</a>に「MERS」について書いた時でした。

まだ耳慣れない「のうこう」の響きからは、「農耕」とか「農高」を想像した方もいたでしょう。いないか。

職場や保育園でも問題にはなりますが、濃厚接触者がいちばん発生しやすいのは、家庭です。

少し前までは、家族間の接触度合いを保健所が聞き取り調査して、誰と誰が濃厚接触者だと認定していました。

しかし感染拡大に伴い面倒な認定作業は行わず、同居家族は基本的に濃厚接触者と考える方針になっています。

家庭内濃厚接触者の待機期間は、感染対策をとらずに最後に感染者と接触した日から5日間に短縮されました。

さらに2日目と3日目に抗原検査を行なって陰性なら、3日目に待機が解除されます。

私の経験上、濃厚接触の2,3日後に発症する人が多いので、3日後の解除はけっこうきわどい規定です。

抗原検査キットの入手も難しいでしょう。医療機関ですら、診療用のキット確保で苦労しているのですから。

感染者と毎日接触しているのに、感染者よりも5日早く待機が解除されると思っている濃厚接触者もいます。

残念ながらその状況では、感染者よりも5日長く待機しなければなりません。

無症状の濃厚接触者が待機する必要があるのかどうかは、議論の余地があります。

一方で、抗原検査によって待機期間を短縮できるという規定にも、確かな医学的根拠はあるのか疑問です。

抗原検査による「無症状者の陰性判定」を国が認めるということになりますが、私には納得がいきません。

「感染者の全数把握取りやめ」に賛成

日曜の発熱外来はいつもキャパオーバー。今日も多くの方の受診予約をお断りすることになりました。

「他にはどこもあいてないのです。お願いします」と言われても、物理的に無理なものは無理なのです。

それでもなんとかしてほしいという方には特別に、明日の診療枠の予約を受け付けました。

そしてそんな方々の予約が明日の夕方分まで埋まってしまい、明日の新規予約の受け入れがすでに困難です。

流行拡大に加えて日曜日が5回と祝日が1回あった今月は、月間の発熱外来受診者総数もかなりの数値でした。

今月のPCR検査478件、抗原検査57件は、6月(PCR 216、抗原66)よりも大幅に増えています。

しかし、今日のPCR検査41件、抗原検査15件は、先週の日曜(PCR55、抗原21)より減っています。

もしかすると、ちょうどピークを超えつつあるのかもしれません(希望的観測)。

今日のPCR検査の結果が判明する明日は、結果連絡と届出(HER-SYS入力など)に追われることになります。

このような事後の事務作業に費やす労力は、発熱外来の疲れを倍増させ、従事者をひどく疲弊させます。

作業時間を作るために、当院では発熱外来の時間を短縮していますが、それって本末転倒な話です。

政府が検討を始めている「感染者の全数把握取りやめ」には、今となっては諸手を挙げて賛成します。

「第7波を乗り越えた後には見直しが不可避だ」なんて言ってますが、それは考え方がおかしい。

この第7波を乗り越えるためにも、作業を合理化すべきなのです。やるなら今すぐでしょう。

「2類」だ「5類」だと議論するから結論が出ないのです。とりあえず全数把握だけ、やめてみませんか。

「熊本市医療非常事態宣言」発令

爆発的な感染拡大に伴う病床使用率の急上昇を受け、昨日、「熊本市医療非常事態宣言」が発令されました。

大西市長が会見で述べた、市民と医療機関あての「お願い」をまとめてみると、

市民へ

(1)基本的な感染防止対策の徹底と、感染に備えた食料・日用品や解熱剤・咳止め等の事前準備を

(2)高齢者や重症化リスクの高い方も若い世代も、積極的なワクチン接種を(強制ではなく希望者のみ)

(3)医療機関はできる限り平日の昼間に事前予約して受診し、軽症の場合や検査目的で救急病院を受診しない

医療機関へ

(1)現在コロナ診療を行なっていない医療機関は、発熱外来への登録と陽性患者の診療への協力を

(2)コロナ診療している医療機関は、診療日・時間の拡大と受入対象・体制の拡大に協力を

現時点では一般的な「行動制限」は求めない代わりに、市民に求めるのは「受診抑制とワクチン接種」です。

「発熱外来の拡大」も喫緊の課題ですが、当院はキャパオーバー気味なので、できるのはせいぜい現状維持。

抜本的にコロナ診療体制を拡充するためには、何かインセンティブを付けるなどの効果的な方策が必要です。

一昨日も書いたように、発生届に関連する事務作業を減らしてもらえば、少しは余裕が出るんですけどね。

発熱外来に忙殺されて発熱以外の患者さんの診療が手薄になっている状況は、ホントに不本意です。

新規感染者の全例報告は、医療現場をムダに疲弊させています

新型コロナ感染者への熊本市の対応は、「重症化リスクのある方に集中した対応」に切り替えられています。

以前は、医療機関が「発生届」を出すと保健所が感染者全員に電話連絡を入れていましたが、今は違います。

原則としてSMS送信によって今後の流れが通知され、電話連絡は高齢者等に限定して行われます。

高齢者の他に、重症化リスク因子を複数持っている方や妊婦等の特別に連絡が必要な方に、電話がかかります。

酸素飽和度を測定するための「パルスオキシメーター」の貸し出しも、今は重症化リスクの高い方限定です。

感染者全員を一律にフォローする従来の態勢が破綻しつつあるので、このような方針転換は理解できます。

重症化因子のなさそうな感染者が重症化してしまう可能性はあるとしても、やむを得ない対応です。

しかし、これによって保健所の仕事量は減るかもしれませんが、医療機関の仕事量はあまり変わりません。

保健所がポイントをしぼってフォローするというのに、医療機関には全例報告する義務があるからです。

事ここに至れば、医療機関に対しても、一律に発生届の提出を求めるのをやめてもらえませんかね。

国が感染者の数やプロフィールの把握をしたいのであれば、HER-SYSの入力項目はもっと減らして欲しい。

氏名・性別・生年月日・電話番号・診断日。それだけにしてくれませんか。

そのかわり、重症化リスク因子をもっていると判断したケースについては詳細な報告をしますから。

発熱外来では診療に集中させていただきたい。国の統計解析や疫学調査の手伝いで疲弊するのは御免です。

実質的に発熱専門外来、しかもパンク

濃厚接触者の自宅待機期間が、これまでの7日間から5日間に短縮されます。社会経済活動維持のためです。

さらに岸田首相が医師会会長と面会して、

( 1 ) 休日診療の発熱外来を増やすことや、発熱外来で抗原検査キットを無料で配布することに協力を求め、

( 2 ) 医療機関への財政支援策のうち今月末が期限となっているものを、9月末まで延長する考えを伝えました。

数日前にも書いたように、休日の発熱外来体制が手薄です。やっている医療機関があまりにも少ないのです。

日頃から日祝診療を行っている当院は、行きがかり上、休日にも発熱外来を行っていますが、パンク寸前です。

電話での受診予約をお断りする方が毎日何十人もいるし、そもそも電話が繋がらない方が何人いることやら。

休日の当院はもはや発熱専門外来のようになってしまい、他の疾患の診療を受け入れる余裕がありません。

なので(1)のような要請に対して医師会側が実際にどのような対応をとるのか、とても気になります。

とりあえず(2)は歓迎します。感染爆発の中で発熱外来の診療報酬が減らされることは、避けられました。