高齢者医療費が増えるのは、高齢者が多いからです

「医療費削減」が叫ばれていますが、削減できるのか、ていうかそもそも削減すべきことなんですかね。

団塊の世代がみな後期高齢者となったいま、高齢者の医療費が過去最大規模に膨らむのは至極当然のことです。

そのような状況で医療費を削減しようとすれば、高齢者1人あたりの医療費を減らさなければなりません。

そのためには、高齢者が医療を受ける頻度(量)を減らし、医療内容(質)を縮小しなければなりません。

どうやら国は、医療費が膨らんだのは医者がムダな医療をして儲けているせいだと、そう思っているようです。

そこで、手っ取り早く、医療費の単価を安くすることで医療費の総額を減らそうというのが国のやり方です。

つまり、高齢化のツケを、医療機関を薄利にすることで乗り切ろうというわけです。

医者への報酬(診療報酬)とは、一定の診療内容に対して医者に支払う単価であり、国が自由に設定できます。

医療の量や質は同じでも、医者の儲けだけが減るような報酬体系にすれば、医療費が容易に減らせるわけです。

細かくチマチマと点数をいじるのが常套手段でしたが、1点10円の根幹に手を付ける可能性も出てきました。

医者だけ限定して収入減にするため、医者以外の医療従事者のベースアップを確保する仕組みも作られました。

こんな理不尽なことが何年も行われているのに、メディアは医者の味方をしてくれず、世間にも知られません。

しかしそもそも、高齢者の医療費を負担するのは生産年齢人口です。それが減っているから大問題なのです。

何年経っても少子化を食い止められないのは、国の失策です。医者はただ、日々の医療を行っているだけです。

「DX加算」はデラックスじゃない

<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-4695.html" target="_blank" title="「医療DX推進体制整備加算」">「医療DX推進体制整備加算」</a>についてのお知らせメールが、昨夜厚労省から届きました。

現場では「DX加算」とか「デラックス加算」とか言ってるやつです。

このDX加算は、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-4817.html" target="_blank" title="マイナ保険証の利用率">マイナ保険証の利用率</a>を上げるためのインセンティブで、初診料に上乗せできます。

マイナ保険証の利用率が高い医療機関にはご褒美をあげますよ、という一種のニンジンです。

メールでは、当院の昨年10〜12月のマイナ保険証利用率を、計算して見せてくれました。

この3カ月間のうちの最高値が30%以上であれば、前述した加算は最高値(加算1)を算定できるのです。

29%以下だと加算2,10〜19%なら加算3となります。当院は38%だったので、来月も加算1が取れます。

前に松竹梅だと書いたように、加算1・2・3の点数はそれぞれ、11・10・8点。円でいうならその10倍です。

「110円・100円・80円、運命の分かれ道」というほどの大差は無いですね、あらためて考えてみると。

そうでなくても、元々が小さなニンジンです。イチゴで言うならヘビイチゴ。デラックス感ゼロです。

さらに4月からは、点数が1点ぐらい上がるかわりに、利用率などの算定要件が厳しくなります。

この手のインセンティブは、どんどん複雑怪奇になっていきますね。なるべく取らせたくないのでしょう。

あてにならないマイナ保険証

「マイナ保険証」を医療機関の端末で読み取ると、画面に氏名や生年月日や保険者名などが表示されます。

それに加えて画面の最上段付近には、受診者の医療保険の資格が「有効」か「無効」かが明示されます。

「○ この資格は有効です。」と緑の帯で表示されたら、そのマイナ保険証は有効です。

「! この資格は無効です。新しい資格が存在するので確認してください。」と赤く出たら無効です。

これこそが、「オンライン資格確認」の真骨頂。いま有効か無効か、その最新情報キッパリと示してくれます。

なので患者さんは転職や結婚等で保険情報が変わっても、ただマイナカードを提示すれば済むのです。

となるはずなのですが、実際は異なります。

転職したばかりの方は、その事務処理が完了するまで、いつまでたっても有効表示が出ないことがあります。

以前、国家公務員で、異動後1カ月以上経っても無効表示が続いていた方がいました。

組織が大きいと、事務処理をまとめてやるから余計に時間がかかるのでしょうか。

その反対に最近、転職直後なのに有効表示が出たので確認したら、前の職場の情報が残っている方がいました。

前の職場の退職にともなう事務手続きが、まだ完了していなかったということです。

患者さんにしてみれば、事務処理の遅延など知るよしも無く、自信を持ってマイナ保険証を提示するわけです。

そして医療機関は、そのマイナ保険証が「有効」と表示されたら、それ以上何を疑えというのでしょう。

従来の保険証では、「保険証切替中」のために保険証を提示できない、一種の「無保険」期間がありました。

それによって医療機関も、いまは切替中だなと把握することができたのですが、マイナではできないのです。

DX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれていますが、結局は、入力作業がネックなんですよね。

インフルエンザ陽性ならタミフル、という脊髄反射

インフルエンザの報告数が、現在の方法で統計を取り始めた1999年以降、最も多くなっているそうですね。

1医療機関あたり報告数の全国順位TOP5は、大分、鹿児島、佐賀、熊本、宮﨑で、九州が独占しています。

ただしこのNHKの報道は、昨年第52週(12/23〜29)のデータを報じたもので、最新のものではありません。

たとえば熊本の報告数は、昨年は92.56でしたが、今年第1週(12/30〜1/5)では47.87に下がっています。

当院での陽性診断数も、昨年の最終診療週(12/22〜28)は132で、今年第1週(1/4〜9)は77でした。

もしかすると熊本など九州では、インフルエンザの流行は年末年始で峠を越えたのかもしれません。

ですが全国的には、おそらくいまがピークなのでしょう。

そんな中で「抗インフルエンザ薬」の製造が追いつかず、一部の薬が供給停止となっています。

こんな時、お役所はいつも医療機関や薬局に対して、過剰な薬剤発注を控えるようにと言い始めます。

あのね、何が過剰なものですか。こちらはいつも、流行状況を踏まえて計算して発注をしているのです。

むしろそっち(国やメーカー)が、見通しを誤ってるだけじゃないですか。

とは言え、自分で処方しといて言うのもナンですが、日本の抗インフルエンザ薬の使用率の高さは異常です。

インフル即タミフル、という安易な治療選択は、そろそろ見直した方が良いかもしれません。

たしかにタミフルは、肺炎などの重症合併症を減らしたという報告もあるので、高齢者には処方したい薬です。

しかし基礎疾患の無い方に対しては、熱が1日早く下がる程度の効果に過ぎません。

すでに熱のピークを越えた方への処方が、どれほど意味があるのか、もしかすると無意味かもしれません。

なので病状経過等を考慮して、せめて処方日数を減らしたいところですが、なかなか賛同を得られないのです。

保険証の発行は停止されたけど

マイナ保険証の利用率はまだ低いですが、従来型の健康保険証の新規発行は、当初の計画通り停止されました。

いまのところ、保険証はまだ使えるので、医療現場での混乱は(少なくとも当院では)まだありません。

国は医療機関にインセンティブを与えて、マイナ保険証の利用率を上げようと躍起になっています。

「医療DX推進体制整備加算」もその1つで、加算点数は3段階、例えるなら、松・竹・梅、があります。

現在「松」の加算を得るためには、医療機関の「マイナ保険証利用率」が15%以上であることが要件です。

来月からは、30%以上でなければ「松」は取れなくなります。20%以上で「竹」、10%以上なら「梅」です。

当院は30%を超えているので、今月も来月も「松」です。でも全国平均は16%程度と低迷しています。

つまりこのままでは、今月までは「松」だけど来月からは「梅」に落ちる医療機関が多いということです。

で、その加算点数はどのぐらいかと言うと、松11点、竹10点、梅8点です。(1点は10円)

当院を受診される方には、11点(110円)、3割負担の方なら30円程度の窓口負担をいただいています。

このような制度設計では、マイナ保険証利用率が低い病院の方が医療費が安くなるというジレンマを生みます。

まさか「当院はマイナ保険証利用率が低いのでオトクですよ〜」と宣伝するような病院はないでしょうけど。

マイナ保険証のシステム(オンライン資格確認)の導入時に、医療機関は多額の初期投資をしています。

その費用の多くは、国からの補助でまかないました。しかし、通信費などの維持費は、医療機関の手出しです。

専用回線を使うので、そのためだけに通信業者に毎月数千円を払っています。これが永久に続きます。

国は医療機関にちまちまインセンティブを付ける前に、まずシステムの維持費用を負担するのが筋でしょう。

マイナカードは持ち歩いても大丈夫(今さらですが)

現行の健康保険証の新規発行は来月2日で終了し、以後の保険証は原則、マイナ保険証だけになります。

もちろんしばらくは、窓口は従来保険証メインの状況でしょうけど、やがてマイナになっていくんでしょうね。

マイナ保険証への移行を促すために、医療機関には厚労省からいろんな郵便物が届きます。

最近届いたのは、ポスターや説明リーフレットなどです。その内容は、

「患者の皆さま、マイナンバーカードで受付してください」(施設入口用の大きなポスター)

「マイナンバーカードで受付」(カードリーダーのそばに貼るポップ)

「マイナンバーカードを次回からご利用ください」(今回は利用しなかった人向け)

「マイナンバーカードは持ち歩いても大丈夫」

マイナ保険証の利用が進まない理由の1つが、もしかすると最後のポスターに表れているかもしれません。

ほんの数年前までは、マイナンバーカードは他人に見せてはならないと、国民はさんざん脅かされました。

事業所には厳格な管理が求められ、従業員の個人番号が記載された書類は、原則として保管できませんでした。

個人番号の記入が必要な書類は、本人に記入してもらってすぐ封筒に入れるぐらいの配慮が必要でした。

マイナカードは個人情報の塊なので持ち歩くなどもってのほかと、自宅で大切に保管するものだったのです。

それが手のひらを返したように、持ち歩いても大丈夫、持ち歩かないと医者にもかかれませんよ、となった。

最初っから、大事なのはICの情報であって、番号は見られてもへっちゃらですよと言っとけば良かったのに。

その初期の無意味な脅しがトラウマとなり、普及低迷の一因になったんじゃないかと思います。

マイナ保険証利用促進の頑張りへの評価額は5万円

<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-4650.html" target="_blank" title="「マイナ保険証利用促進のための利用勧奨の取組に係る助成金 (一時金) 」">「マイナ保険証利用促進のための利用勧奨の取組に係る助成金 (一時金) 」</a>の交付決定通知書が届きました。

医者が消極的だからマイナ保険証が普及しないのだという屁理屈で、国が医療機関をたきつける助成金です。

厚労省が本気でそう考えているのではなく、国民にそのように見せるための、いわば責任隠しの施策です。

なのでこの助成金に飛びつけば国の策にハマることになるのですが、もらえるモノはもらうしかありません。

小金をやれば医者も頑張るだろうという、ひとを見下したような助成金を、5万円ほどいただきました。

前にも書いたように、マイナ保険証利用数が昨年よりどのぐらい増えたかによって、一時金の額が決まります。

あくまで増加数が重要であって、利用率の絶対値は二の次です。診療所の場合、一時金の額は最大で20万円。

増加数が少なければ、段階的に10万円や7万円などに減らされ、増えていなければ0円です。

昨年10月を基準に今年の増加数を算出するので、昨年10月の利用率が高かった当院は当初から不利でした。

その計算の仕組みがわかっていたなら、昨年はあんなに頑張らず、低い利用率を維持していたでしょうに。

せめて10万円か7万円もらえると思っていましたが、蓋を開ければ最低ラインの5万円。痛恨の戦略ミスです。

まさに「10万円、7万円、5万円、運命の分かれ道」(夢路いとし)。

「医療DX推進体制整備加算」

猫も杓子も「DX」の時代。医療の分野にもDXが求められています。

「デラックス」じゃないですよ。「デジタルトランスフォーメーション」のことですね。

マイナ保険証により取得した情報を活用し、また電子処方箋等を導入し、質の高い医療の提供を目指します。

一定のDX体制を整えた医療機関には、初診料に「医療DX推進体制整備加算」を加えることができます。

その加算点数は1人あたり8点、つまり80円。チリツモです。これを財源に、医療機関はDXを進めるわけです。

ところがこのたび国保連合会かから、子どものDX加算は認めないと、当院のレセプトが差し戻されました。

これを「返戻(へんれい)」といい、たいていの場合は先方の言いなりになるしかありません。

がしかし、今回は引き下がれません。なにしろ該当するケースの全例が返戻対象だったのです。一大事です。

午前の診療が終わって昼休みに国保連合会に電話すると、あちらの昼休みが終わってから折り返すとのこと。

あのね、こっちは昼休みを返上して電話してるのに。そうか、そっちは仕事として返事するわけか。なるほど。

で、午後1時過ぎに電話がありました。どうやら国保のシステム設定にミスがあったとのこと。なにそれ。

それに、こちらが言うまでミスに気付かないってどうなの。国保こそDXが必要なんじゃないのですかね。

綺麗な市民病院

所用で熊本市民病院に行きました。新病院に行くのはこれで2度目です。

新外の方から自衛隊の真ん中の道を南下すると、街路樹の緑がとても鮮やかで、しかもよく茂っています。

おかげで市民病院の建物が見にくく、道をよく知らない人は交差点を曲がり損ねそうです。標識も貧弱だし。

市民病院は新しくて綺麗で機能的です。私が働いていた、老朽化して建て増しだらけだった旧病院とは大違い。

古巣の先生方のお仕事を邪魔しないよう、誰にも電話したり医局に行ったりせず、目的の病棟に向かいました。

ところが、ひょんな人気(ひとけ)の無い通路で相良院長とバッタリ。相良先生は私と同い年です。

「これは相良先生、ご無沙汰してます」

「鶴原先生、スリムになられましたね」

「そうでもないですよ。先生も院長になられてさぞかしお忙しいでしょう」

「そうでもないですよ」

そんな感じで社交辞令を何往復かして、別れました。

コロナ禍の市民病院の院長職ですから、それはそれは苦労の連続だったことでしょう。

ところで今回に限らず、数年ぶりに出会った方によく、スリムになったと言われます。体重は減ってないのに。

もしかすると、顔がやつれた(=ハリが無くなった=老けた)のかもしれません。ヤバいですね。

「登園許可証」要りますか?

日本の人口が15年連続で減っています。

この人口減少は、いま20〜40代の方の生活環境や社会情勢や価値観などに、その要因がありそうです。

なぜ子どもを産まないのか・産んでも少ないのか、なぜ晩婚・未婚なのか、それを挽回する方法はあるのか。

日本は結婚・出産・育児にもっと予算を充てるべきです。子どもたちはそれ以上の国益をもたらすはずなので。

小児の医療に携わっていて気付くのは、親御さんが病児の保育でとても苦労していることです。

日曜診療をしている当院には、「病児・病後児連絡票」や「登園許可証」を求める初診の方がよく来ます。

月曜からはなんとしてでも出勤したい保護者は、日曜のうちに書類を入手しておきたいのです。

見ず知らずの、病状経過を何も知らないお子さんの、連絡票や許可証を書くことには若干の抵抗はあります。

ですが私が書かなければ、月曜にかかりつけ医に書いてもらうことになり、保護者の職場復帰が1日遅れます。

なので私はあえて固いことは言わず、柔軟に対応し、なるべく書類は書くようにしています。

たいていの感染症に、登園許可証は必要ありません。感染症ごとに、一定の登園基準があるはずです。

それに加えて最初に診た医師が、どのような状況になれば登園できますよと、伝えておけば良いだけのこと。

ところが一部の園は、いまだに許可証を求めています。まずはそういうところから、改善が必要です。