ワクチン接種後の急変には、反射的に「アドレナリン筋注」を

新型コロナワクチンの接種直後に体調が急変した女性が死亡するという、衝撃的な事例が報じられました。

この場合、まず「アナフィラキシー」を疑います。メディアも概ねその論調で、次の様に報じています。

・接種の5分後に咳、さらに呼吸苦が出現、呼吸停止となり心肺蘇生、救急搬送されたが1時間半後に死亡した

・医師は肺出血と考えたが、(アナフィラキシー治療に用いる)アドレナリン注射はしなかった

・県医師会長「アナフィラキシーショックの可能性があり、現場での対応に問題がなかったか検証する」

医師がアナフィラキシーに対する初期治療を誤り死なせたと、まるでそのように受け取られる報道です。

しかし、医師が提出した報告を読むと、単なるアナフィラキシーでは片付けられない難しい事例だと思います。

・接種10分後に呼吸苦あるも、粘膜・皮膚に異常なし、その後、泡状のピンクの血痰を多量に排出し呼吸停止

これは「肺水腫」(急性心不全)の症状です。一般的なアナフィラキシーの病状とはかなり異なります。

ただし、アナフィラキシーがきっかけとなって急性心不全を併発した可能性まで否定することはできません。

やはり、接種直後の急変ではアナフィラキシーを疑うべきです。悩んでる時間が命取りになりますから。

なのでこの事例では、ためらうことなく、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-871.html" target="_blank" title="ただちに「アドレナリン」を筋注">ただちに「アドレナリン」を筋注</a>すべきでした。

まず、脊髄反射的にアドレナリン。それで救命できるか、まったく的外れか、それはあとでわかります。

もしも、その反射的な処置が後に医療過誤だと責められるようであれば、もうワクチン接種などできませんよ。

「糖尿病」の名称変更

「糖尿病」という病名について、「日本糖尿病協会」が名称変更の検討を進める方針とのこと。

「糖尿病の病名自体が、負のレッテルを表すスティグマになっているのではないか」と同協会の理事。

「スティグマ」って何でしたっけ?というのが私の最初の感想ですが、「汚名」とか「烙印」の意味でしたね。

協会が行ったアンケート調査によると、患者の約9割が病名について抵抗感・不快感を抱いているとのこと。

ですがこれは新しい問題ではなく、たとえば30年前にも「日本糖尿病学会」で同様の調査が行われたようです。

では、どのような名称に変更することになるのでしょう。

「高血圧症」にならうなら「高血糖症」ですね。「脂質異常症」的に「耐糖能異常症」かもしれません。

いずれにも共通するのは、「病態の重要兆候」をそのまま病名にした点です。

病名の変更ですぐ思い出すのは、「痴呆」をやめて「認知症」にしたことです。

「痴呆」がそれこそ「スティグマ」になるので、大幅に表現を改め、その結果意味不明な病名になりました。

「認知障害」のある方を「認知症」と言うのは、「視覚障害」のある方を「視覚症」と言うぐらいに変です。

今となっては「認知症」も定着し、さらに「わたしゃ『認知』かもしれん」みたいな略し方も耳にします。

どんな病名に変えたところで、病気そのものに対する差別意識があれば、新しい病名がまた偏見を生みます。

その本質的問題は放置して表面的な病名だけを変えるのは、一種の「言葉狩り」だと私は思います。

とは言え、「尿」の文字が付くのはイヤだ、という方もいるので、とりあえず今回の病名変更はアリでしょう。

異次元の増加パターンに転じてます

日曜祝日に、当院の発熱外来受診者が多いのならわかります。

ところが今週は、平日でもPCR検査希望者が殺到しています。

朝9時台のうちに夕方までの予約枠が埋まります。これまで、平日ではあまり見なかった現象です。

熊本県の新規感染者数は、昨日の3千人超えは予想していましたが、今日の4千人台は全く想定外。異常です。

経験上、感染者報告数がもっとも少ないのは月曜、多いのは火曜でした。その理由は前に書いた通りです。

今週は日・月が連休だったので、最少は火曜、最多は水曜と予測できたわけです。でも実態は違いました。

かつては概ね、火>水>木>金>土、のパターンでしたが、7月に入ってそれが崩れてきました。

ついに先週は、火<水<木<金<土、となっています。完全に増加フェーズに転じたことがわかります。

日本全体では今日、18万人超の感染者が報告され、東京でも3万人を超えました。全国各地で過去最多です。

やがて東京は1日5万人に達するだろうと偉い先生方は言ってます。その時熊本は1日6千人程度でしょうか。

東京の5万人は、先週聞いた時はちょっと懐疑的でしたが、今では疑いようのない予測に思えてきました。

感染が確定した後の患者さんが、翌日や翌々日にまた受診するケースも目立ちます。

PCR検査をした最初の来院日よりも、熱が上がったり、咳がひどくなったりする方が少なくありません。

そしてその方と一緒に、ご家族がPCR検査を受けにくるという、そんな同伴パターンが今とても多いですね。

心配蘇生はとにかく、ためらわないこと

安倍元総理大臣が銃で撃たれた時、現場路上では心臓マッサージとAEDによる救命処置が行われました。

「どんな状況でも心停止を疑ったら直ちにAEDを使用して指示に従ってほしい」と言うのが日本AED財団。

AEDがその場に届いたとしても、いざ使うとなるとためらいがあるかもしれません。

患者さんの衣服をはがすことへの抵抗や、AEDを正しく使える自信がないという方も、多いはずです。

必要のない方にAEDを使ってしまったり、使い方を誤って患者さんを傷つける可能性を怖れるのです。

大丈夫です。AEDは患者さんの心電状況を判定し、AEDを作動させるべきかどうかを指示してくれます。

その指示に従ってスイッチを押しさえすればいいので、使い方を誤って後で責任を問われることはありません。

問題になる可能性があるとすれば、「そこにAEDがあるのに使わなかった」という場合です。

<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-2375.html" target="_blank" title="心臓マッサージ(心マ)">心臓マッサージ(心マ)</a>も同様で、そこに意識の無い方がいれば、すぐに心マすることが救命の決め手です。

ただ、必要のない方に心マして、かえって患者さんにダメージを与える可能性がどうしても気になります。

しかし躊躇している間に救命率がどんどん低下します。心肺蘇生が必要と思うなら、ともかく始めることです。

そのような観点から、迅速な救命行為によって患者さんに与えた不利益は、免責されなければなりません。

残念ながら日本では、その免責を認めるいわゆる<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-2534.html" target="_blank" title="「善きサマリア人の法」">「善きサマリア人の法」</a>は、明確には規定されていません。

今回の事件を機に、AEDや心マ実施のハードルを下げる動きがもっと乗り上がってほしいと思っています。

「4回目接種」の対象がようやく拡大へ

熊本に限らず、全国すべての都道府県で、新型コロナの新規感染者数が前の週を上回っています。

この感染拡大は、オミクロン株の亜系統「BA.5」への置き換わりが進んでいるためだと考えられています。

「BA.5」は「ビーエーファイブ」と読みます。ニュースでそれを聞くたびに、「VO5」を思い出します。

オミクロン株という変異株が登場したのは昨年11月。日本に上陸したのは年末でした。

その後、さらに感染力が強く、一部の検査法では検出されにくい「ステルスオミクロン」が登場しました。

この亜系統は「BA.2」とも呼ばれ、オリジナルのオミクロンは「BA.1」という名称になりました。

その後、私はよく把握していませんが「BA.3」や「BA.4」を経て現在、「BA.5」が猛威を振るっています。

さらに昨日、「BA.2」の亜種である「BA.2.75」が国内で初めて確認されました。

「ビーエーツーセブンファイブ」と読むそうです。スケートボードのトリックかと思うような名称です。

もしも「BA.5.40」という亜種が出現したら、「ビーエーファイブフォーティー」ということになるでしょう。

「BA.5」はワクチンが効きにくいと言われますが、打たないよりマシなので、接種が推奨されています。

今後、高齢者など以外に医療従事者や高齢者施設職員などにも、4回目接種の対象を拡大する方向のようです。

接種の目的は「重症化予防」だとしてきた方針を変更して、いまさら「感染予防」も加えようとするものです。

医学的に正しい判断かどうかはともかく、感染リスクの高い医療現場には好意的に受け止められるはずです。

希望者だけが接種を受けるワクチンなので、対象を拡大して選択の幅を広げるのは、良いことでしょう。

今年はインフルが流行するはず(3度目の正直)

「今年はインフルエンザが流行する」

昨日今日の話題は、なんと言ってもコレでしょう。現に、流行の兆しは出始めています。

東京の(横田基地に程近い)小学校では学年閉鎖ですか。オーストラリアでは3年ぶりの大流行だとか。

2年前、コロナとインフルが同時流行しては大変と、インフルワクチンの接種は例年以上の盛り上がりでした。

しかしインフルは、まったく流行しませんでした。ウイルス干渉とか、いろんな説明がなされました。

昨年、前年にインフルが流行しなかった翌年は大流行になる、という話もあり、ワクチン接種者は多数。

しかしインフルは、まったく流行しませんでした。マスクなどのコロナ対策が奏功していると考えられました。

さて今年、世界中がポストコロナへと意識を転換しつつあり、街は3年前のような活況を呈してきました。

そこへ付け入るようにインフルが大流行するのも、やむを得ません。何しろ皆んなに免疫がないのですから。

インフル大流行を迎えた際に困るのは、2年前と同じく、インフルとコロナの区別がつかないことです。

2年前は実質的にインフルはいませんでしたが、今シーズンはインフルとコロナとの同時流行もあり得ます。

まずは、インフルワクチンの接種に力を入れる必要がありそうですが、果たして希望者は例年程度いるのか。

「コロナとインフルが同時に流行るぞ」と2年間言われ続けたのに、結果的にはコロナ単独の流行でした。

その2年連続の空振りが「オオカミ少年効果」にならなければ良いがと、心配しているところです。

「サル痘」って、ネーミング的にも罹りたくない

欧米で「サル痘」患者の確認が相次いでいます。昨日時点で世界で80人程度ですが、おそらく増えています。

「<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-850.html" target="_blank" title="天然痘">天然痘</a>」に似た症状だそうですが、そもそも天然痘をよく知らないので、ネットで調べることになります。

その類縁疾患の「水痘」とは、発疹の大きさや数や分布や、なによりも「見かけ」がずいぶん異なりますね。

水痘の発疹を見ても「豆」は連想しませんが、天然痘の発疹(の写真)はとても豆っぽく、艶があります。

調べてみると天然痘の発疹は、多数の発疹がほぼ一斉に、次のような経過をとるようです。

(1)丘疹:プクッとしたニキビのような盛り上がり

(2)疱疹:ニキビが水っぽく膨らんでくる

(3)膿疱:さらに大きく丸々と、強そうな、豆のようなデキモノになる

(4)痂皮:茶色く枯れる

水痘の場合は、(1)と(2)が混在し、あまり大きくならず(3)にもならず、順次(4)へ向かいます。

天然痘の発疹の分布は、顔にとても多く、四肢にも多くできて、躯幹(胴体)にはやや少ないのが特徴です。

一方で水痘は、躯幹がメインで顔や頭にも出来ますが、四肢にはそれほどできません。

サル痘の発疹は、水痘よりは天然痘にソックリで、もしも発症したら重症感が漂うイヤな印象でしょうね。

幸い「天然痘ワクチン」が有効らしいので、かつて「種痘」を受けた昭和50年生まれまでの方は、安心です。

抗原検査は、陰性証明ではなく早期陽性診断にこそ使われるべき

「PCR検査ではなく、結果が早くわかる抗原(定性)検査をしてもらえますか?」 よく頂戴するご要望です。

約1年前までは、抗原検査とPCR検査を同じ日に両方行っていたので、話は簡単でした。

「まず抗原検査を行い、それが陽性ならコロナ感染確定。陰性なら、より感度の高いPCR検査をしましょう」

ところがある時、PCR検査を抗原検査と同じ日には行ってはならない、と保険者からクレームが付きました。

抗原検査が陰性であった場合、翌日まで経過を見て、必要なら翌日PCR検査をすればよいのだと言うのです。

それ以来当院では、抗原検査実施例では原則としてPCR検査は翌日行う方針とし、結果判明が遅くなりました。

2日間の受診となり医療費も増えました。医療費削減を目論んだ保険者による規制が、裏目に出た格好です。

いま、冒頭のような質問を受けた場合、次のようなお答えをしています。

「自分が陽性だということを早く確定させたければ抗原検査を、陰性証明を得たければPCR検査が適切です」

たとえば低酸素血症のあるような、陽性かどうかを早く知りたいケースでは、すぐに抗原検査を行います。

そうでもなければ私は通常、唾液が採れる年齢の方にはPCR検査を第一選択とします。

陰性証明を得たい理由で抗原検査を希望する方には、その限界をしっかり説明しなければなりません。

「ノババックス」承認へ

「ノババックス」社の新型コロナワクチンが、日本で承認されることになりました。

「ファイザー」や「モデルナ」のような「mRNAワクチン」とは、まったく異なるメカニズムのワクチンです。

メカニズムは異なりますが、いずれも新型コロナウイルスの「スパイク蛋白」に対する免疫を付けるものです。

スパイク蛋白の「レシピ」を注射して体内でスパイク蛋白を作らせ、免疫反応させるのがmRNAワクチン。

一方でノババックスは、人工的に作ったスパイク蛋白の「完成品」を、体内に注射するものです。

レシピが体内に残存して、過剰なスパイク蛋白を作り続けないのか、というのがmRNAワクチンの懸念です。

そのようなことはない「はず」ですが、なにしろ人類初の試みですから、常に心配は付きまといます。

対するノババックスは、すでに実用化されている他のワクチンと同じ生産メカニズムなので、安心なのです。

しかも海外での臨床試験でも有効性が高く、副反応は少ないということまでわかっています。

副反応をことさらに嫌う日本人には、打って付けかもしれません。日本国内で製造される点も重要ポイント。

今後、mRNAワクチンと置き換わるのか、一定の棲み分けが起きるのか、まだ見当も付きません。

ただ、それでなくても接種率が低迷しているところへのノババックス参入は、一時的には混乱も起きそうです。

「ノババックス待ち」で若者などの接種控えが起きやしないか、私はそれがいちばん心配です。

もはや「波」かどうかは重要ではないかも

減りませんね、新型コロナ感染者数。むしろ増えてる。

今日の熊本の855人は、3月8日以来の800人台でした。その前の800人台は2月16日です。

直近1週間の人口当たり感染者数が多いのは、沖縄、東京、宮崎、佐賀、福岡と九州勢が並ぶのも不気味です。

ついに第6波が収束しないまま、なし崩し的に、第7波に突入しつつあるとみるべきでしょう。

欧米ではすでに、オミクロン株の変異株「BA.2」が大半を占め、日本の第7波もこれが主流になりそうです。

さらに「BA.2」よりも感染力の強い「XE」もとうとう、成田に上陸しました。第8波はこれでしょうか。

今後も、ますます感染力が強まった変異株の流行の波が、次々に連続して押し寄せ続けるのでしょう。

もはや独立した波ではなくなり、一定の水位を保った持続的な流行に移行するのかもしれません。

欧米諸国等は「with コロナ」モードに入っていますから、感染者数はしばらく減らないでしょう。

感染者が多ければ、感染者の体内で複数の株のコロナウイルスの「組換え」が起きる可能性も高まります。

そのようにして、「XE」のような変異株が次々に出現してくるのでしょう。

変異株が次々に出現し、さらに感染力も強まり、しかし弱毒化する、そんな方向に進むということでしょうか。

結局、最終的には「風邪」になるのかもしれません。願わくば、弱毒化のスピードが速まってほしいものです。