サルコペニア

「サルコペニア」とは、老化に伴って筋肉量が減ることで、「加齢性筋肉減少現象」とも言われます。

筋力や身体機能の低下を伴ってくるのが問題ですが、まだ、厳密な定義や診断基準が定まっていません。

適切な筋肉運動を続けることによって、ある程度進行を抑えることができると考えられています。

なのでとくにご高齢の方には、適度な運動、まずは歩くこと、ウォーキングを指導しています。

我が身を振り返ると、実は1日3,000歩程度しか歩いていませんが、そのことは棚に上げておきます。

サルコペニアという言葉が提唱されたのは、つい最近(1989年)のことです。

ギリシャ語で肉を意味する「sarx」と、減少を意味する「penia」をくっつけて「Sarcopenia」だそうです。

「penia」は、医学用語にしばしば登場する接尾語です。

「leukocyte(白血球)」が減少する病態(疾患)なら、「leukocytopenia(白血球減少症)」です。

「sarx」というギリシャ語は知りませんでしたが、同語源の英語なら「sarc」でしょう。

「sarcoplasma(筋細胞質)」とか「sarcoma(肉腫)」などに用いられている、おなじみの接頭語です。

「最近は歩いてますか」と尋ねると、「あんまりさるきよらん」という返答をされる患者さんがいます。

この場合の「さるく」は「(ぶらぶら)歩く」という意味でしょうか、ご高齢の方がよく使われる方言です。

さるく(sarc)ことが減る(penia)とサルコペニア(sarcopenia)になる、と、上手くないオチでした。

感染性胃腸炎

急な嘔吐や下痢を発症する「急性胃腸炎」のうち、感染力の強いものを「感染性胃腸炎」と呼んでいます。

感染性胃腸炎は、学校保健安全法施行規則により、感染のおそれがある間は出席停止と定められています。

なので、お子さんの胃腸炎症状が感染性胃腸炎によるものであれば、出席停止の扱いになります。

さて、目の前の胃腸炎の患者さんが感染性胃腸炎であることを、私は次のような基準で判断しています。

(1)便検査によって、ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスなどが検出された場合(直接証拠)。

(2)保育園・幼稚園・学校や家庭・職場など、患者さんの周囲で、胃腸炎の流行がある場合(状況証拠)。

では、これ以外は感染性ではないかというと、そうではありません。

出席停止に関わる疾患なので、さまざまな状況や事情を考慮して診断しなければなりません。

定期試験等への影響があり、出席停止という診断書がほしい患者さんの場合、たいてい感染性と診断します。

逆に、なるべく早く登園させたいという希望がある患者さんでは、証拠が無ければ感染性とは診断しません。

このように感染性胃腸炎の範囲は広く、しかもアバウトなのです。

そもそも、風邪に伴う下痢などの胃腸炎症状も、感染性といえば感染性です。風邪だって感染症ですから。

精神疾患の病名

日本精神神経学会が、精神疾患の病名に関する新しい指針を発表しました。

アメリカ精神医学会が作成した診断マニュアル(DSM)の、最新版(DSM-5)を翻訳したものです。

その翻訳における基本方針は、差別感・不快感を減らし、わかりやすい表現にすることだったそうです。

不可逆的状態と誤解させる「障害」という表現は、単なる症候を表す「症」に置き換えたりしています。

しかしそのおかげで、ヘンテコリンなことが起きています。たとえば、

(1)「言語障害」→「言語症」 意味不明、ていうかむしろ逆に感じます。「認知症」と同じ過ちです。

(2)「学習障害」→「学習症」 極度のガリ勉ですか? やっぱりおかしいでしょう。

(3)「パニック障害」→「パニック症」 これは許容範囲。むしろ改善。元がおかしかった。

元々のDSM-5で使われている「Disorder」という言葉は、普通に訳せば「障害」とか「不調」です。

それをなぜ「症」にしてしまったのか。「意味が反対になるよ」という意見は出なかったのでしょうか。

「認知症」という悪しき前例を踏襲したのか。「障害」がダメならせめて「機能障害」にしてほしかった。

(4)「アルコール依存症」→「アルコール使用障害」 これもまた、意味不明な日本語になっています。

毎日長時間パソコンをさわっている私などは、さしずめ「パソコン使用障害」となるのでしょうか。

しかし私としては、人並みにパソコンを使いこなせてると思っているので、「使用障害」は不本意です。

それに「障害」は使わないのでは? それこそ「パソコン使用症」のほうが、まだマシ。

虫と植物で創薬

この季節、雑草の伸びが激しいので、久しぶりに庭の草取りをしました。

1本1本抜いたのではラチがあきません。生垣用の電動ヘッジトリマーを使って、刈り取りです。

こういった作業中には、さまざまな虫たちに出遭います。

芝生の上で無数に跳ねる、名も知らぬ小さな虫が、バンバン目に跳び込んで来ます。

湿った区画には、思った通りナメクジが潜んでいます。いつ見ても、地味で陰気な生き物です。

イモムシは、ナメクジに比べれば圧倒的にカラフルでです。

触るのも平気ですが(しかしできれば軍手で)、庭木に害がありそうなので、見つけたら駆除します。

おおむね害虫のイモムシですが、遺伝子組み換えによる製薬原料として、人類の役に立っています。

子宮頸がん予防ワクチン「<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-570.html" target="_blank" title="サーバリックス">サーバリックス</a>」は、イラクサギンウワバという「青虫」っぽいのを使います。

多量の<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-935.html" target="_blank" title="生糸">生糸</a>を作るカイコの能力を利用して、インフルエンザワクチンを作ろうという動きもあります。

鳥インフルエンザのパンデミックが起きた場合、急いで多量のワクチンを作るには、最適な方法だそうです。

同様の組み換えワクチンを、植物を利用して作る方法も開発されつつあるようで、今後発展しそうです。

田辺三菱製薬が昨年買収したカナダ企業は、遺伝子組み換えタバコによるワクチンの生産を研究しています。

なぜタバコがいいのかよくわかりませんが、きっと発育が早くて生産しやすいのでしょう。

このカナダ企業は、田辺三菱とPhilip Morrisが共同で買収したようです。できればJTに頑張ってほしかった。

脳卒中

「<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-931.html" target="_blank" title="夏ミカン">夏ミカン</a>」の学名が、なぜ「夏ダイダイ」なのか、っていう宿題発表から。

夏ミカンって、収穫しなければ翌年までずっと、木にぶら下がっていますね。

前年の実と今年の実が同じ木になることから、「代々(ダイダイ)」と言うようになったとのこと。

ところが、代々という名前は「よよ」と読め、脳卒中の後遺症を表す「よいよい」につながると嫌われた。

そこで名称を「夏ミカン」に変更したけど、学名は「夏ダイダイ」のまま。

と、ここまでは「萩夏みかんセンター」のHPの受け売りです。

子どもの頃、よく耳にした「ちゅうぶ」という病名も、「よいよい」と同義でしょう。

当時、脳卒中(今で言う脳血管障害)と言えば、日本人の死因の第1位でした。

正確には、1951年にそれまでの結核を抜いてから、1981年に悪性新生物(ガン)に抜かれるまでの間です。

その後すぐに心疾患に第2位を譲り、3年前には肺炎にも抜かれて、現在死因の第4位です。

では、脳血管障害はどんどん減っているのかと言えば、そうではありません。減ったのは死亡数だけです。

驚くべきことにその患者数は、死亡第1位のガンとほぼ同数です。

昔の脳卒中の実態は「脳出血」でしたが、近年の脳血管障害の大半は「脳梗塞」です。

脳出血は、食生活の欧米化以前からある病気でした。戦前の死因としても、結核、肺炎に次ぐ第3位でした。

脳梗塞は、食生活の欧米化に伴って、ガンや心疾患とともに台頭してきた、生活習慣病のひとつです。

脳血管障害の死亡順位が下がったのは、医療の進歩によるものです。

その後遺症まで考えると、1位タイと言ってもいいぐらいの、重大な疾患でしょう。

平均余命

「10年前に前立腺ガンと診断されたとき、平均余命はあと10年と言われたのだが」と、相談を受けました。

予告された余命に達し、ひどく不安な状況であることは、よく理解できます。

このような場合、「平均余命」の意味を理解することによって、不安を解消することができるかもしれません。

たとえば、次のような説明はどうでしょうか。

「平均余命10年」という場合、10年以上生存できる確率が50%、10年未満の生存確率が50%です。

前者をAグループ、後者をBグループとすれば、宣告から10年を経過した時点で、Aグループ入り確定です。

ちょうど10年経ったひとには、「無事、Aグループ入りされましたね」と言うことができます。

あるいはまた、平均寿命にたとえて考えてみることで、不安を解消することができるかもしれません。

「平均寿命」とは、0歳の平均余命のことです。日本人男性の場合、それは約80歳です。

では、80歳を迎えた瞬間に、ひどく不安を感じる必要があるかといえば、そうではありません。

80歳の男性には、その時点における平均余命があり、厚労省の統計では約9年です。

つまり、80歳の人にとっての平均寿命は、89歳ということもできます。

89歳の男性の平均余命の資料がないのが残念ですが、90歳の場合の数値から推定すると、平均余命は約4年。

つまり、89歳の人にとっての平均寿命は、93歳と考えてもいいでしょう。

おそらく、93歳の人の平均余命は2年ぐらいでしょう。95歳の人は1年かもしれません。

そのように考えたら、アキレスと亀のごとく、寿命は無限に延びていくような気もしてきます。

だから前立腺ガンの余命10年をクリアできた方には、前途が広がったと考えても、間違いは無いでしょう。

便の先生

いま、子どもたちの間で、胃腸炎が意外と流行しています。多くがウイルス性と思われます。

初日に発熱と嘔吐、遅れて下痢が3日間、といったパターンが多いですが、もちろん、症状はまちまちです。

便が白っぽくて酸臭がする場合、検査するとロタウイルスが出ることがありますが、違うことも多いです。

ウイルス性胃腸炎に特効薬はなく、脱水があれば点滴をするし、そうでなければ整腸剤などを処方します。

整腸剤に近い効果を期待して、ヨーグルトを食べさせる方がいますが、それは逆効果のことが多いです。

乳酸菌は有益な成分ですが、乳脂肪や乳糖が、下痢を起こしやすくするからです。

ちょうど今日、日経に腸内細菌についての特集記事がありましたが、驚いたこと2つ、笑えたこと1つ。

(1)人間1人の腸内には、500兆から1000兆個の細菌がいる。

人体の細胞数が60兆個なので、すごい数です。こんなに多いことが、最近わかったそうです、細菌だけに。

(2)人間1人の腸内細菌の重量は、1.5キログラム。

前にも聞いたことはありましたが、細菌だけで1.5キロの重量って、あらためて驚きます。

(3)理化学研究所の腸内細菌研究の第一人者の名前が、辨野義己(べんの・よしみ)先生。

失礼を承知で書きますが、「便の先生」って、言われたことあるでしょうね、きっと。

と思って調べたら、「いいうんち研究所」というサイトに「べんのいい話」という連載を発見。やりますな。

糖尿病の新薬

新しい糖尿病治療薬(経口血糖降下薬)、その名も「スーグラ錠」が、本日発売されました。

「スーダラ節」を思い出してしまうネーミングが残念ですが、薬としては、かなり画期的です。

何しろこれまでの薬とは、まったく異なる効き方(作用機序)だからです。

これまでの糖尿病治療薬を分類すると、以下の4つでした。

(1)インスリン(注射薬)

(2)インスリンの分泌を促進する薬(内服薬)

(3)インスリンの作用を改善する薬(内服薬)

(4)炭水化物の吸収を遅延させる薬(内服薬)

細かく分類すればもっとややこしいですが、ザックリと言えばこの4つ。

ところがスーダラ、じゃなくてスーグラは、これらのどれにも属しません。

腎臓に作用して、尿から糖を排泄する薬です。尿糖が出れば出るほど、血糖値が下がります。

尿糖という、糖尿病の主要症状を逆手にとって血糖値を下げるところが、この薬の面白いところです。

さらに、この新薬に期待されている「裏の」効果があります。それは体重減少です。

糖をどんどん排泄するということは、食事の糖質制限をしたことと結果は同じだからです。

この薬はすでに欧米では使われていて、内臓脂肪を減らす効果が出ているとのこと。

もしも私が糖尿病になったときには、真っ先に飲みたい薬です。

アスピリン

インフルエンザなどに罹ったお子さんには、なるべく解熱剤を使わないようにしてもらっています。

どうしても必要なとき、使えるのは「アセトアミノフェン」(商品名はアンヒバやカロナール)だけです。

「アスピリン」は「ライ症候群」を引き起こす可能性があるので、小児の解熱に使ってはなりません。

しかしアスピリンは、成人では「血液サラサラ」の薬として、たいへんよく使われています。

もともと、解熱鎮痛剤としてアスピリンを開発したのは、ドイツの化学会社「バイエル(BAYER)」です。

当初はバイエルの商標だったアスピリンですが、ドイツが一次大戦で敗れた後には、普通名詞になりました。

米国人はアスピリンが好きらしく、映画でその錠剤をむさぼり食うように飲むシーンを、よく目にします。

アスピリンには、出血が止まりにくくなるという「副作用」がありました。

血小板の働きを抑制する働きがあることが、後にわかりました。

これを逆手に取り、「抗血小板薬=血液サラサラの薬」として用いられるようになったわけです。

ただし、一般の解熱鎮痛剤に含まれるアスピリンの量では多すぎて、抗血小板薬としては逆効果でした。

ちょうど良い投与量が、「小児用バファリン」に含まれる81mgという、少量のアスピリンだったのです。

そこで、心臓病の患者さんなどに、小児用バファリンを1日1錠投与することが始まりました。

私もかつて「小児バファリン 1錠1x 朝食後」などという処方せんを、数え切れないほど書いたものです。

しかし成人に「小児用」の薬を流用するこの方法は、正式に認められた処方ではありませんでした。

正式な抗血小板薬として現在は「バファリン配合錠A81」と「バイアスピリン」が発売されています。

前者は「バファリン」の名を残し、アスピリン含有量は81mgを維持。

後者はバイエルの「バイ」を冠し、アスピリン含有量は100mgにアップ。どっちが良いのやら。

それでは、いま市販の小児用バファリンを飲んでも血液サラサラ効果があるのかというと、それは違います。

「小児用バファリン」とか「キッズバファリン」という名称の薬に、アスピリンは含まれていないからです。

冒頭で触れたような理由から、小児用解熱鎮痛剤の成分は、アセトアミノフェンに切り替わっているのです。

花粉症舌下薬

今年はどうも、スギ花粉症がひどいようです。

生まれて初めて花粉症を発症したと思われる方にも、今年はよく出くわします。

「花粉症かもしれませんね」と言うと、「私は花粉症ではありませんよ」と当惑気味です。

「今年から花粉症かもしれませんよ」と言えば、「いままで花粉症じゃなかったのに?」と驚かれます。

気持ちはわかりますが、花粉症は、中高年で発症することも珍しくない疾患なのです。

何十年もの間、花粉を吸い続けたあげく、「もう我慢ならん」と体が花粉拒絶に転じた結果ともいえます。

花粉症の治療法で一般的なのは「抗アレルギー薬」です。

内服薬や点鼻薬などがありますが、これらは体のアレルギー反応を実力で阻止する対症療法です。

一方で、花粉アレルギーそのものを生じなくするのが「アレルゲン免疫療法(減感作療法)」です。

少しずつスギ花粉に触れさせて、数年間かけて体を徐々に慣らしていく根治療法です。

昔からある治療法ですが、あまり普及していないのは、たびたび皮下注射をする必要があったからです。

ところがこのたび「シダトレン スギ花粉舌下液」が厚労省に承認され、保険適用となりました。

注射の必要がない舌下薬なので、花粉症治療に大きな進展をもたらしそうで、期待できます。

ただしこの薬を処方できるのは、日本アレルギー学会などが主催する講習会を受けた医師だけです。

次の講習会日程を調べてみると、5月10日(土)。開催地は京都。むむむ・・・