手術の練習と模型

外科医は、長時間労働や訴訟リスクなど厳しい環境のなかで、しかし常に、自己研鑽を続けています。

すなわち、知識の向上と術式の習熟、そして手技(技術)の上達のための努力です。

私が研修医の頃、詰所(通称「タコ部屋」)には、縫合結紮練習用の器具が置いてありました。

暇さえあればそのような模型や、コーヒーカップの取っ手でもなんでも使って、糸結びの練習をしていました。

書物やビデオで勉強し、手術の見学や助手を重ね、ついに執刀医としてデビューする時が来ます。

車の運転に例えるなら、学科教習を受け、教官の車の助手席に何度も乗り、ついに運転席に座るわけです。

自動車学校と異なるのは、最初に運転席に着いたその時から、事故の許されない一般道に出るということです。

しかし、初めての執刀医が、術式の手順もおぼろげなまま、切開や縫合をサクサクこなすのは無理です。

だから実際には、助手を経験している時に、少しだけ縫わせてもらったり、結紮させてもらったりするのです。

教官の車に乗ってるときに、交通量の少ない道で、少しだけ運転させてもらうようなものです。

ところが、実際の手術じゃないけど、執刀の練習をする方法があります。いわゆる「ウェットラボ」です。

たいていは、ブタの臓器を使って練習をします。私もブタの心臓で、何度か弁置換手術などをやりました。

技術的な修練だけでなく、解剖学的な理解を深め、術式の応用を探るためにも有効な方法です。

言ってみれば、路上教習に出る前に、自動車学校の練習コースを運転するようなものでしょうか。

それがいまや、3Dプリンターで出力された人工臓器で、手術の練習ができる時代になりました。

これはちょうど、高精度シミュレーターで運転の練習をするようなものかもしれません。

たとえば、いろんな心疾患の解剖学的構造を模型で再現できるので、あらゆる術式を練習することができます。

さらに凄いのは、手術予定患者のCT画像を元に、その患者の臓器を3Dプリントすることができる点です。

外科医がこれまでは頭の中で構築していた臓器構造を、あらかじめ手にとって見ることができるのです。

そして、その臓器模型で実際に「手術」してみることができるわけで、外科医にとっては夢のような話です。

術式の改良や、新しい術式の開発にもつながるでしょう。これは外科学の大きな転換点になるかもしれません。

餅つきでノロ感染

<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1331.html" target="_blank" title="ノロウイルス">ノロウイルス</a>感染による胃腸炎が、大流行中です。

南小国町の保育園の餅つきで、園児や家族ら52人が、ノロウイルスによる食中毒を発症しました。

今年は恒例の餅つき大会を中止する団体等もあり、そこまでしなくても、という意見も出ていました。

しかし、中止した人たちがほっと胸をなで下ろしたであろうほどに、各地でノロの集団感染が発生しています。

当院近隣の保育園・幼稚園などでも、ノロかどうかは確定していませんが、胃腸炎が流行しています。

園で感染し、その後1日か2日遅れで次々に園児の兄弟や親が感染して、当院を受診するケースが目立ちます。

このような感染は、患者の便や嘔吐物に含まれるウイルスが、園内や家庭内で感染を広げていったものです。

一方で、集団内で一気にノロウイルス性胃腸炎が発生するのは、食品(給食や餅つき)を介した感染です。

餅をちぎる時に、あるいは手水を付けるときに、その人の手に付着したウイルスが餅にうつるわけです。

素手では作業せず、手袋を付けて行えばよいのですが、なかなか徹底しにくいのでしょう。

ノロウイルス感染かどうかは、便を検査することになりますが、当院でできるのは「<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1530.html" target="_blank" title="迅速抗原検査">迅速抗原検査</a>」です。

しかし今年は、あまり積極的には検査しない方針です。その理由は、次の通りです。

(1)迅速検査は検出率が低く、今年はとくに迅速検査で陽性反応が出ないノロウイルス感染が多いとされる

(2)もともと園などで流行する胃腸炎の大半はノロウイルス感染であり、状況からほぼ診断の見当は付く

(3)ノロウイルス感染であるかどうかによって、ウイルス性胃腸炎の治療方針が変わることはない

(4)3歳以上65歳未満では、検査に保険が利かず自由診療となるので、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-965.html" target="_blank" title="混合診療禁止">混合診療禁止</a>の御法度に触れる

ともかく、適切な治療(重症者には点滴)と<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1533.html" target="_blank" title="感染拡大の防止">感染拡大の防止</a>が重要。餅つき注意(中止しなくても)です。

もちろん次のステップとしては、ワクチンによる予防が待たれます。武田薬品が鋭意開発中のようです。

3成分配合剤登場

高血圧の患者さんには、2種類以上の降圧剤を処方することが、よくあります。

病状や、年齢や、臓器機能や、合併疾患などを考慮して、複数の系統の降圧剤を組み合わせるわけです。

よく使う組合せがあり、あらかじめ2種類の成分を混合した薬が発売されます。これが「配合剤」です。

ARBという系統の降圧剤と、カルシウム拮抗薬という降圧剤を、1錠にまとめた配合剤が、よく使われます。

たとえば、ARBの「アジルバ」と、カルシウム拮抗薬の「アムロジン」の配合剤が「ザクラス」です。

あるいは、ARBの「ミカルディス」と「アムロジン」の配合剤だと「ミカムロ」です。

配合剤は、錠数が減らせるだけでなく、薬価も元の薬の薬価の合計よりも安く設定されることが多いのです。

おまけに企業努力によって、錠剤の形も小さい。なんだ、良いことずくめじゃん、とは言っておれません。

含有成分は古くても、配合剤は製剤としては新薬なので、ジェネリックがありません。

つまり、ジェネリックを使わせないために、先発薬メーカーが配合剤を発売しているという面もあるのです。

そしてこのたび、日本初の3成分配合の降圧薬が発売されました。その名も「ミカトリオ」。

ARBの「ミカルディス」とカルシウム拮抗薬の「アムロジン」に、利尿剤も加わった「3種混合」降圧剤です。

いやたしかに、よく使う組み合わせですけど、3つまで混ぜますか。トリオですか。

この路線で行くと、さらに4つ5つの成分が混ざっていくかもしれません。次は「ミカルテット」でしょう。

ヂアミトール

某病院で点滴に混入されていた「異物」あるいは「界面活性剤」の正体は、「ヂアミトール」でした。

「ヂアミトール」は、「ベンザルコニウム塩化物」を主成分とした、病院でよく使われる消毒液の商品名です。

それで思い出したことがあります。以前、「ぢ」で始まる日本語が無い、と<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-159.html" target="_blank" title="書いた話">書いた話</a>の続きです。

あれは熊本市民病院のICUで、仕事の合間に国語辞典を読んでいたときの、驚愕の発見でした。

「『ぢ』で始まる日本語が無いぞ!」と私たちが興奮して大騒ぎしてたら、看護師が近寄ってきて言うのです。

「ヂアミトールがありますけど」

そういう彼をよく見ると、「ヂアミトール」のボトルを手にしています。よって私たちは叫び直しました。

「『ぢ』で始まる日本語が、『ヂアミトール』以外に無いぞ!」

もちろん、「『ぢ』で始まる日本語が無い」というのは、あくまで一般的な国語辞典レベルの話でしょう。

「ヂアミトール」の「ヂ」からは「di」を連想します。「2」を意味する接頭語です。「3」なら「tri」です。

ついでに言えば、1,4,5,6,7,8,9,10はそれぞれ、mono, tetra, penta, hexa, hepta, octa, nona, decaです。

では、「di」で始まる専門用語の場合は、「ジ」ではなく「ヂ」を使うのかというと、そうでもないようです。

たとえば「di」から始まる化学物質は、カタカナで書くときには「ジ」が使われるのが一般的のようです。

「ニトロ基」が2つ(di)付いた「ベンゼン」は、「ジニトロベンゼン」という具合。

おそらく「ヂアミトール」は商品名だから、国語審議会のルールが及ばず、「ぢ」で始まっても平気なのです。

今回の事件で市民権を得て、唯一の「ぢ」で始まる言葉として「ヂアミトール」が国語辞典に掲載されるかも。

ところで、その「ヂアミトール」は、「アミトール」という物質が2つ(di)結合した構造なのでしょうか。

確認のため、製造元である丸石製薬のサイトを見て驚きました。

「ヂアミトール」の英語表記が「GERMITOL」なのです。「ヂ」を使っておきながら、これはないでしょう。

麻疹は予防あるのみ

千葉で麻疹(はしか)が発生して、問題になっています。

その発端者として、西宮市在住の19歳の学生が疑われています。その学生の行動は、こうです。

・7/31バリ島へ渡航、8/5帰国

・8/9発熱、8/12顔などに発疹、8/13全身に発疹

・8/14ジャスティン・ビーバーのコンサートに参加(幕張メッセ、2万5千人が参加)

・8/18の血液検査で麻疹と診断(8/19に判明)

この方の問題は2つあります。

(1)高熱と発疹が出ているのに、コンサートに行った

(2)麻しん/風しん混合(MR)ワクチンを接種していなかった

楽しみにしていたコンサートなので、少々体調が悪くても、若者だから無理して参加したのでしょう。

まして自分が麻疹とは思わないだろうし、麻疹だったらどうなの、っていうレベルかもしれません。

発症後もバイトやサークル活動に参加し、都内や鎌倉も訪れているとのこと。

さらに(2)も問題です。中1で接種すべきだった<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-358.html" target="_blank" title="MRワクチン(第3期)">MRワクチン(第3期)</a>を、接種していないからです。

同胞も3人いて、みなMRワクチンは未接種のようです。6人家族のうち4人が、麻疹を発症してしまいました。

かつて<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-23.html" target="_blank" title="麻疹輸出国">麻疹輸出国</a>と揶揄された日本ですが、2008年度からの第2期接種導入によって患者は激減しました。

2008年には11,013人だった患者報告数が、2009年には732人、2010年447人、昨年はわずか35人でした。

WHOは昨年、日本の<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1278.html" target="_blank" title="麻疹排除">麻疹排除</a>を認定しました。これもワクチンのおかげなのです。

ところが、その大事なMRワクチンを、いまだに接種したがらない人がいます。

現在、千葉県内で10人以上の麻疹が発生していますが、そのほとんどの方が、MRワクチンは未接種です。

どういう了見なのでしょう。自分が罹るだけの問題ではないのです。他人にうつすから問題なのです。

とくに、まだワクチンの接種対象ではない0歳児は無防備です。千葉のケースでも3人は0歳児でした。

件のジャスティン・ビーバーのコンサートから、今日でちょうど10日。麻疹の潜伏期は10〜12日。

明日ぐらいから、全国で麻疹が発生するのではないかと、医療機関は戦々恐々です。

手術と異物反応

外科手術では、消化管や血管や骨や筋肉や皮膚を縫合するとき、専用の特殊な縫合糸やワイヤーを使います。

糸だけではありません。手術操作の内容によっては、特殊な布や管なども使います。

それらの人工物は体内に残るので、できるだけ異物反応を起こさないような、特殊な素材で作られています。

しかし、生体がとくに過敏な状態になると、そのような特殊素材に対しても、異物反応を起こしてしまいます。

とくに、その人工物が細菌に感染すると、強い炎症反応が起き、細菌が死滅しても反応だけが続いたりします。

この反応を完全に鎮静化するのは難しく、場合によっては、人工素材を取り除かなければならなくなります。

およそ11年前に私が関与した心臓外科手術後に、胸骨を縫合した糸に対する異物反応が続いた少年がいます。

たびたび傷口が化膿するため、何度も何度も再手術が必要となり、そのたびに入院しなければなりません。

苦しい手術、完治への期待、そして再発による失望を繰り返す年月で、少年期を過ごさせてしまいました。

しかしようやく、ほぼ11年ぶりに、こんどこそ完治できたという感触が得られました。

胸骨を縫合していた、最後の糸が摘出できたからです。本当に良かった、K君よく頑張ってくれたと思います。

30年近く前に私が執刀した男児に、執拗な異物反応が起きたケースも思い出されます。

胸部の傷口の感染がきっかけで、心臓内部の欠損を閉鎖した特殊素材の布にも、感染が起きてしまいました。

ところが、長い長い年月にわたって抗生剤等による治療を続けていたところ、奇跡が起きました。

本来、心臓内部の奥深くに縫着されていたはずの布が、ある日、胸の皮膚の傷口からポロッと出てきたのです。

布がどのようなルートを辿ったのか、わかりません。もはや、生命の神秘というほかありません。

子供の頃、足に刺さったトゲは体に深く入り込み、ついに心臓まで達してしまうと聞いて、怖かったものです。

でも、本来の生体反応はその反対。異物はなるべく体の外に押し出そうと、生体は必死に反応するようです。

夏風邪

<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-339.html" target="_blank" title="ツクツクボウシ">ツクツクボウシ</a>の鳴き声を聞いてしまい、少々もの悲しい気分になったのですが、まだまだ夏真っ盛りです。

先月はヘルパンギーナが流行していました。関東地方などでは、いま大流行中とのこと。

症状は高熱と咽頭痛。のどの発疹が特徴的で、すぐ診断がつきます。詳細は、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-651.html" target="_blank" title="以前のブログ">以前のブログ</a>をご覧ください。

<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-642.html" target="_blank" title="手足口病">手足口病</a>やプール熱(アデノウイルス感染)は、意外と少ないですね、いまのところ。

先月後半から流行しているのが、マイコプラズマ感染症です。子どもも大人も罹っています。

かつては、夏季オリンピックの年に流行するので「オリンピック病」と言われていました。

その後は、4年周期が崩れていたのですが、たまたま今年はちょうど、オリンピック病です。

特徴は、長引く高熱と、さらに長引くひどい咳です。熱の割にそこそこ元気です。しかし咳がしつこい。

39度前後の熱が午後から夜に出て、朝から昼までは微熱、というパターンが数日間続きます。

こういう風な、上がったり下がったりするパターンの熱を「弛張熱(しちょうねつ)」といいます。

咽頭ぬぐい液の迅速検査で診断が確定しますが、周囲での流行と本人の症状で、だいたい判断はつきます。

おたふくかぜも、5年半ぶりに流行しています。

かつて実施されていた<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1417.html" target="_blank" title="MMRワクチン">MMRワクチン</a>の接種が、副反応が原因で中止された後、数年周期で流行しています。

MMR=M麻疹+Mおたふく+R風疹の混合ワクチンですが、いまは、おたふくが外されてMRワクチンです。

おたふくかぜは、難聴の原因となります。毎年約1000人の子どもが難聴になっており、治りません。

ワクチンの定期接種でおたふくかぜを予防していないのは、世界でもアフリカ諸国と北朝鮮と日本ぐらいです。

任意接種を受ける方は増えていますが、集団防衛のためにも、定期接種がぜひとも必要です。

と、書いてきましたが、今いちばん多いのは、原因の特定できない高熱ですね。

39度以上の高熱、中等度の咽頭炎、咳は比較的軽く、熱の割に全身状態は良好。俗に言う「夏風邪」です。

超迅速代謝者

飲酒して、血中アルコール濃度が上昇すると、「酩酊状態(いい感じ)」になりますね。

そのアルコールが肝臓の酵素ADHにより代謝され、アセトアルデヒドに変わると「不快な酔い」になります。

アセトアルデヒドはALDHによって代謝され、さらに分解されて、最終的には水と二酸化炭素になります。

酵素のこまかい種類は抜きにして、ここは話を単純化し、ADH(A)とALDH(B)の個人差を考えてみます。

(1)Aが強く、Bも強い人:ガンガン飲めて、あまり酔わない

(2)Aが弱く、Bは強い人:酔っ払うけど、楽しく飲める

(3)Aが強く、Bは弱い人:飲んでも酔えず、気分が悪いばかり

(4)Aが弱く、Bも弱い人:飲み始めは楽しく、あとで悪酔いする

医薬品も、それぞれ特定の酵素によって体内で代謝(処理)され、やがて排出されます。

酵素の働きは、アルコールと同様に個人差があります。しばしば遺伝的素因が影響します。

なかには、特定の代謝酵素の力(活性)が異常に高い人がいます。これを「超迅速代謝者」といいます。

医薬品の成分Xが、ある酵素で代謝されてYになる場合、超迅速代謝者ではXがすぐにYに変わってしまいます。

そのため薬物Xとしての作用はきわめて小さくなり、そのかわりに薬物Yの作用が強く現れたりします。

よく問題になるのが、咳止めの成分「コデイン」です。市販の「アネトン」などにも含まれています。

これを「超迅速代謝者」が内服すると、コデインの多くがモルヒネに変わり、副作用が出やすくなります。

午後5時の時報とともに速攻で退社する人は「超迅速退社者」でしょうか。思いついたので書きました。

エコノミークラス症候群

避難生活、とくに車中泊を続けている人の間で、いま問題となっているのが「エコノミークラス症候群」。

これは下肢、とくに下腿の深いところの静脈(深部静脈)の中に、血栓(血のかたまり)ができる病気です。

その血栓が血流に乗って移動し、大静脈→右心房→右心室を経て肺動脈に詰まると、肺塞栓を引き起こします。

血栓が下肢にある間の症状は、下肢の腫れや痛みですが、肺塞栓を起こすと、胸痛や呼吸困難をきたします。

エコノミークラス症候群(正式には「深部静脈血栓症」)の原因は、おもに次の2つ。

(1)長時間同じ姿勢(とくに下肢を屈曲した状態)

(2)水分摂取不足

車中泊はまさに典型的な(1)だし、飲料水不足やトイレが不便な環境であれば(2)も重なってきます。

当院の患者さんの中には、いまだに車中泊をしている人もいます。余震の恐怖から、家で寝られないのです。

「血液サラサラの薬を飲んでるから大丈夫です」と言う方がいますが、それはたいてい、間違っています。

脳梗塞や心筋梗塞などの心配のある方が飲んでいるのは、「<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-895.html" target="_blank" title="バイアスピリン">バイアスピリン</a>」などの「抗血小板薬」です。

動脈硬化で血管壁が傷んだ場所に、血小板が集まって血栓を作り、動脈が詰まってしまうのを防ぐ薬です。

一方で、下肢の静脈とか、心房細動のときの左心房など、血液がよどむ場所にできる血栓は、また別物。

血液凝固因子が活性化して血液が凝固するので、治療薬は「<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-479.html" target="_blank" title="ワーファリン">ワーファリン</a>」などの「抗凝固薬」です。

バイアスピリンを飲んでいても、エコノミークラス症候群を予防することはできません。ご注意ください。

足を定期的に動かし、可能なら高い位置に上げ、できれば時々歩き、水分は十分に摂る。それしかありません。

がん免疫療法

小野薬品の、がん免疫療法薬「オプジーボ」は、昨年末から適応が広がって、使用患者が急増中とのこと。

「オプジーボ」は商品名です。一般名(薬品名)は「ニボルマブ(Nivolumab)」。

副作用問題が出てはいますが、画期的な新薬であることは間違いありません。では、どんな薬なのか簡単に。

まず、通常の免疫反応には、自然のブレーキが存在します。過剰な免疫反応を抑制するための仕組みです。

そのブレーキのスイッチが「免疫チェックポイント」と呼ばれる分子で、リンパ球の表面にあります。

がん細胞は、このスイッチを操作して、リンパ球からの攻撃を免れます。これを「免疫逃避機構」といいます。

そこで、がん細胞がブレーキ操作をする前に、そのスイッチを塞いで押せなくしてしまえ、と考えたわけです。

このように、ある分子に的を絞って作用する医薬品のことを「分子標的治療薬」といいます。

とくにそれが、標的分子という「抗原」に結合する「抗体」である場合、「抗体医薬品」と呼びます。

遺伝子組換えによって、特異性の高い抗体「モノクローナル抗体(Monoclonal Antibody)」が作られます。

このような医薬品の名称は、語尾に “Monoclonal AntiBody” からとった “mab(マブ)” が付きます。

「マブ」が付く薬はみな、「モノクローナル抗体医薬品」というわけです。

小児領域でなじみのある「マブ仲間(マブダチ)」は、「パリビズマブ」でしょう。商品名「シナジス」。

早産児などでは、RSウイルス感染予防のために、流行期に月に1回、シナジスを筋肉注射します。

けっこう高額な薬です。体重に比例して用量が増え、6.6キロのお子さんだと、薬価は月に約15万円!

保険適応ですが、乳幼児医療費の助成がなければ、なかなか大変な金額です。

ちなみにオプジーボは、もっと高い。70キロだと1回約150万円。2週間毎に点滴するので、年に3,900万円!

対象患者は数万人といいますから、個人負担もさることながら、医療保険制度にも影響は大きいでしょう。

その意味で、オプジーボの最大の「副作用」は、「経済毒性」とも言われているようです。