コロナは夏休み前がピークだったけど

毎週の感染症発生情報(週報)は、熊本県では毎週木曜日に、熊本市では毎週金曜日に公表されます。

「週報」とは、「5類」感染症について、月曜から日曜まで1週間の「定点報告数」を集計したものです。

熊本県が本日公表したのは、今年第32週(8/5(月)〜8/11(日))の報告数です。

熊本市が、これを明日にならなければ公表できない理由がよくわかりません。

ちなみに国(国立感染症研究所)はさらに遅く、第32週分のデータ公開は来週火曜日です。

最も新しい熊本県のデータを見ると、新型コロナは3週前(7/15〜21)をピークに、減少傾向が見られます。

大流行していた手足口病も、7月上旬をピークに減り続けています。ヘルパンギーナもほぼ同じ傾向です。

しかし、ただの風邪ではない何か名前の付いている感染症の中では、今もコロナがいちばん流行しています。

子どもたちの夏休みや、大人たちのお盆休みの間の人々の移動(人流!)で、来週以降の流行がどうなるか。

当院も明日まで盆休みで土曜日から診療を再開するので、まずは休み明けの土日の発熱外来が心配です。

コロナの遺伝子検出検査キットは、先週の内に多めの在庫を備えています。

インフルエンザや溶連菌やアデノウイルスやRSウイルスの検査キットも、十分に確保しています。

検査キットの在庫が切れて検査したくてもできない事態を、過去に何度も経験したことがありますから。

このところ当院ではほぼゼロに近かったインフルエンザも、先週は珍しく陽性者が出ました。

コロナ禍で多くの人のインフルエンザの免疫が低下している可能性があり、大流行の恐れがあります。

とそのように去年も思ったのですが、さて今年はどうでしょう。とりあえず、ワクチンは準備しておきます。

コロナの薬

コロナ陽性が判明した方からの、よくある質問集。お薬編。

「コロナの薬ってありますか」

「重症化予防効果がある、とされている薬があります。ただし3割負担ですとかなり高額です」

(具体的な金額を伝えると、たいてい、処方は不要です、ということになります)

「じゃあ、何も薬はないのですか」

「解熱剤が必要なら解熱剤、咳止めが必要なら咳止め、そのように対症療法の薬を処方することはできます」

「それを飲めば早く治りますか」

「治りを早くする薬ではありません。治るまでの間の症状を少しでも軽くするのが目的です」

「ということは、じっと寝て治すしかないということですか」

「インフルエンザを、タミフルを飲まずに治すイメージです」

たいていの方は、だいたい最後の説明で納得されます。

しかしそのタミフルですら、インフルエンザを劇的に治す薬、というわけではありません。

そもそも、インフルエンザになったらタミフルを飲めばいい、という発想自体が日本人特有のものです。

なにしろ日本は、世界中のタミフルの約80%を消費しているともいわれる、タミフル盲信国ですからね。

ワクチンに対しては異常に慎重なのに、新しい治療薬には積極的という、特異な国民性なのです。

手足口病が大流行中ですが、コロナはもっと多い

手足口病が大流行中です。

過去にも流行を繰り返してきた、おもに子どもがかかる疾患ですが、今年は全国的に大流行しています。

熊本市の定点あたり報告数(7/8-14)は16.94と、ようやくピークを迎えつつあります。

一方で、新型コロナウイルス感染症は21.48と、完全に流行期に入っています。多分もっと増えるでしょう。

手足口病は目立ちますが、コロナはそれ以上に多い。いま、いちばん流行っているのはコロナなのです。

近所のショッピングセンターに行ってみると、マスク装着率はざっと3割程度でしょうか。

黙って買い物をするのならともかく、よく喋る環境に行くのならマスクを着けた方が良いでしょう。

飲食店で、正面に感染者がいたらうつります。体調の悪い方は、会食に参加しないようにするしかありません。

私は今日、以前予約していた店で外食しましたが、カウンターで窓の方に向いた席だったのは幸いでした。

そんなことに気をつける必要のある時期に戻ったのかと少々ガッカリです。しばらく注意するしかありません。

定点あたり報告数から感染者数(全数)を推定する

新型コロナが「第11波」に突入していることは、報道等でもようやく周知されるようになりました。

とくにこの1年、経済・社会を回すために、世の中は敢えてコロナを軽視、または忘れようとしてきました。

「全数把握」が終了して感染者数が正確に分からなくなったこともあり、メディアの報道量は激減しました。

「定点あたり報告数」では感染のトレンドはわかっても脅威が伝わらず、国民の興味も失われました。

たしかにいま思えば、東京都の新規感染者数を見て全国民が一喜一憂するという、そんな毎日も異常でした。

とは言え、こう感染者が増えてくると、全数把握だったらいったい何人ぐらいだろう、と気になってきます。

実は、定点あたり報告数から、比較的正確に感染者数(全数)を推定することができます。

なぜなら、全数把握時代の定点医療機関の報告数がわかっているからです。

ある研究グループが公表している推定値によると、先週の東京都の感染者数は39,668人だそうです。

定点あたり報告数が7.14のときの推定値なので、感染者数は定点あたり報告数のざっと5千倍のようです。

同グループによれば、熊本県の先週の定点あたり18.24人では、感染者数は9,050人と推定していますす。

なので熊本県の感染者数は、定点あたり報告数の約500倍と考えることができます。これはわかりやすい。

ただし、発熱者の医療機関受診率や検査率は、以前と比べてかなり低下しています。

そのため感染者は十分には捕捉できず、定点あたり報告数はかなりの過小評価となっているはずです。

もっとも、感染者数が正確に推定できたとしても、もはや世の中が何か変わるわけでもないでしょう。

とりあえず、自分がコロナかもしれないと思った方は、検査はともかく、外出時にはマスクをしましょうか。

コロナの波はなぜ起きる

コロナはいま「第11波」の真っただ中。先日そのように書きましたが、世間ではあまり報じられていません。

過去の感染者数の推移のグラフを見ると、最初の第1波とか第2波はともかく、以降はくっきりと波が見えます。

コロナの流行はダラダラと感染者が出続けるのではなく、周期的に増減しているわけです。

感染者が急増してピークを作ったのちに急減し、明瞭な波を作り、その後しばらく感染者はあまり増えない。

感染者が増えたら感染対策を強めるけど、減ったら緩む、だから「波」ができる、と私は思っていました。

しかし少なくともこの1年は、感染対策は弱まる一方、人はどんどん移動し、ワクチンも打たなくなりました。

それなのに感染者数の推移にはいまも、明かな波ができています。なぜそんな、明瞭な波ができるのでしょう。

集団免疫の盛衰周期なのか、変異株の出現周期なのか、あるいは何か別のメカニズムがあるのかもしれません。

第11波は今月中にピークを迎えるでしょう。前回の第10波は2月、第9波は去年の7月、第8波は1月でした。

さらに第7波のピークは2年前の8〜9月、第6波は2〜3月、第5波は3年前の9月でした。

振り返ってみると、第1〜5波までは3カ月周期ですが、波が大きくなった第6波以降は約半年周期なんですね。

流行の波のメカニズムがよくわからないまま現在に至り、今また大きめの波に乗っているところです。

波がなぜ起きるのか。それがわかれば、次の波、つまり流行を抑える方法が見つかるような気がするのですが。

ヘルパンギーナと手足口病が地味に流行中

電カルのMacで「へ」と入力すると「ヘルパンギーナ」、「て」では「手足口病」に変換されます。

だいぶ前に辞書登録したものですが、最近は変換頻度が高くなったので、上位に現れるようになりました。

この2つの疾患は、咽頭結膜熱(プール熱)とともに、子どもの夏の感染症の代表例と思われてきました。

しかしコロナ禍以来、インフルエンザを筆頭に感染症の「季節性」がかなり乱れています。

ヘルパンギーナと手足口病は、近縁のウイルスによる感染症なので症状が少し似ていますが、異なります。

発症初期には区別が付きにくいことがありますが、口腔内の所見は比較的特徴的です。

ヘルパンギーナの発疹は軟口蓋に限局していて赤く、あるいは潰れて白く、ひどく痛々しく見えます。

手足口病の発疹は、咽頭や頬や舌や口唇などあちこちに散在しています。初期には舌だけのこともあります。

なお、発疹の数が数えられるレベルではなく、小さな赤い点々の集合体のようだと、溶連菌感染を疑います。

発熱してノドに赤い発疹が1個か2個だけ、という時は、ヘルパンギーナか手足口病か区別が付きません。

その場合は、現時点ではヘルパンギーナの疑いがあるけどすぐに下熱したら手足口病かも、と説明しています。

ときどき、手足口病なのに高熱が長引いたり、ヘルパンギーナなのにすぐ下熱する子もいたりします。

いずれも特別な治療薬はありませんが、溶連菌感染ならば話は違います。抗生剤治療が必要です。

いま流行している溶連菌感染の咽頭所見は典型的ではないので、怪しければ検査をするのが正解です。

という風に、咽頭所見に特徴のある疾患が、いまとても増えています。

溶連菌感染治療はシッカリと

「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」の今年の報告が、過去最多だった去年の報告数をすでに上回っています。

致死率が高いために、メディアはこの細菌を「人食いバクテリア」と呼んでいます。

これとまったく同じ菌が、通常はおもに小児に「溶血性レンサ球菌咽頭炎」を起こします。

劇症型とは感染経路は異なると考えられているので、咽頭炎が悪化して劇症型になるわけではなさそうです。

「咽頭炎」と書きましたが、咽頭炎だけでなく発疹を伴うことが多い感染症でもあります。

とくにいま流行しているのは、咽頭炎所見は比較的軽く、発疹の方がひどいお子さんが目立ちます。

ほぼ全身が真っ赤になっている、いわゆる「猩紅熱」の症状になっているお子さんも、今年は時々見かけます。

溶連菌感染は、いったん治っても保菌状態になることがあり、再発しやすい疾患です。

風邪を引いて免疫が低下したときに溶連菌感染が併発すると、症状は複雑で分かりにくい場合があります。

私が研修医から若手医師の頃、心臓外科の外来や病棟の患者さんの大半は<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-2406.html" target="_blank" title="「僧帽弁狭窄症」">「僧帽弁狭窄症」</a>でした。

左心房と左心室の間にある「僧帽弁」が、石のようにカチカチに固く分厚くなり、開口部が狭くなる病気です。

この特異的な病気の原因は「リウマチ熱」であり、その原因は溶連菌感染です。

いまは見なくなった病気ですが、溶連菌感染が及ぼす影響(合併症)は幅広く、どれも避けたいものばかり。

しかしそれなのに、抗生剤を短期間だけ服用して治療をあっさり終了しているケースにときどき出会います。

当院では、少なくともお子さんには原則通り、ペニシリン系抗生剤を10日分飲んでもらうことにしています。

その後、尿検査も必ず行っています。何度も受診していただきますが、合併症対策なのでご了承ください。

麻疹(はしか)は大流行しませんでした

「麻疹(はしか)」の感染者が海外から何人も入ってきて、ちょっとした騒動になったのは3月頃でした。

3月下旬には、「早くも20人!」と危機感をもって報じられ、予防のための<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-4559.html" target="_blank" title="ワクチン不足の問題">ワクチン不足の問題</a>も起きました。

さいわい、3月25日以降は感染が広がらず、現在に至るまで麻疹の発生はまったく報告されていません。

大山鳴動して結局、感染者は21人でした。しかし、今回の麻疹騒動の「終息」報道を、私は目にしていません。

概してメディアは、最初はセンセーショナルに報じるくせに、その顛末までを丁寧に追いかけてはくれません。

「麻疹が大流行するぞ!」と煽るだけ煽っても、「結局流行しませんでした〜」とは言わないのです。

流行当初は話題になるので「数字」が取れますが、終息報道ではニュースにはならないと思っているのか。

大騒ぎしたのに流行しなかったのでバツが悪くて、フェードアウトを決め込んでいるのかもしれません。

メディアには、自らの過ちは認めない(またはコソッと認める)体質がありますからね。

これは先日書いたワクチン問題でも同じで、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-4621.html" target="_blank" title="冤罪報道">冤罪報道</a>でも見られることです。

と偉そうに言ってる私も、3月14日に<a href="http://http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-4549.html" target="_blank" title="「麻疹(はしか)の大流行は防げるのか」">「麻疹(はしか)の大流行は防げるのか」</a>などと書いておりました。

当時は私も、危機感を抱いていたのです。危機管理としては、その時点で必要なことだと思ったからです。

しかし、メディアとは違って私は今日、ここに「訂正記事」を書いております。大流行しませんでした、と。

コロナは次は第何波でしたっけ?

大型連休の前半戦を振り返ってみましょう。空港とかハワイの話じゃありませんよ。

この3日間(土・日・祝)、当院の「いわゆる発熱外来」の受診者には、顕著な特徴がありました。

それは、インフルエンザが消え、そのかわりコロナが増え、それ以上に溶連菌感染が多かったということです。

3日間のインフルエンザ陽性者はなんとゼロでした。コロナ陽性は10人、溶連菌陽性は18人でした。

溶連菌感染は、おもに幼小児が罹る細菌感染症で、たいてい発熱と咽頭痛を訴え、しばしば発疹が出ます。

しかしこの3日間の溶連菌感染者18人の中では、発熱17、咽頭痛8、発疹はわずか3人でした。

のどが硬口蓋まで燃えるようにブツブツ赤くなる発赤所見は半数程度に過ぎず、しかも軽い方が目立ちました。

このように、感染症の症状は必ずしも典型的な症状が揃うとは限りませんが、今回はとくに非典型的です。

ただ、溶連菌感染で39度以上の高熱の方も6人いて、インフルエンザを疑って来院されるケースがあります。

溶連菌感染では、咽頭所見が典型的なら(さらに発疹もあれば)、検査せずに臨床診断することもあります。

とくに今日は、検査キットが不足しそうだったこともあり、未検査で臨床診断した方が4人いました。

コロナの定点あたり報告数は、まだ全国的には減少しつつありますが、減り方が鈍っています。

東京や沖縄や熊本など一部の地域では、4/15〜21の週から上昇に転じており、当院の数字も同様です。

その勢いのまま大型連休に突入したわけですから、来週以降どうなるか、少々恐ろしくもあります。

1週間後の大型連休終了日ごろに、また総括することにしましょう。お大事に。

発熱者は少なくても、感染はくすぶっています

発熱外来(という呼称もすでに廃れているのですが)は、日曜日なのにすっかり落ち着いてきました。

ひところは朝のうちに夕方までの予約が埋まっていたのに、今日の最後の方は受診者がありませんでした。

とは言え、まだ今日もコロナは出ています。11人検査した中で陽性者は5人でした。先週は18分の5でした。

よほど希望する(=怪しみの強い)方だけが検査を受けるので、検査数は減っても陽性率は逆に高いのです。

周囲にコロナなどまったくいないという陽性者も多く、おそらく未検査の感染者がウヨウヨいるのでしょう。

そう言えば例の<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-4549.html" target="_blank" title="「麻疹(はしか)騒ぎ」">「麻疹(はしか)騒ぎ」</a>は、最近めっきり報道されなくなりましたね。

つまり、ほとんど感染が広がらなかったということです。良かった。

海外から麻疹が持ち込まれたので緊張しましたが、結局は「集団免疫」によって流行が阻止されたわけです。

近年、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-4559.html" target="_blank" title="麻疹のワクチン">麻疹のワクチン</a>の接種率が低迷していて、十分な集団免疫が確立されていないという懸念がありました。

しかしそのマイナス部分を、コロナ禍から続く国民の感染防御意識の高まりが補ったのかもしれません。

ともかく油断せず、しかし慌てず、まずはお子さんから、ワクチンの接種を完了させていきましょう。

日本だけでなく米国でも定期接種率の低下が問題になっているのは、「反ワクチン」の人たちがいるからです。

そしてその接種を拒否している人を、他の人たちがワクチンを接種して集団で守ってあげているのが現状です。

親が反ワクチンのせいで未接種だったお子さんが、今回の麻疹騒動を機に接種を受けた事例を聞きました。

麻疹は怖い、ワクチンで防げると、先月メディアが喧伝してくれた効果が、それなりにあったようです。