溶連菌感染は放置しないこと

九州北部が梅雨入りです。雨が降ったりやんだりの鬱陶しい天気の中で、発熱外来が混み始めてきました。

今日は、コロナ、インフルA、インフルB、マイコプラズマ、百日咳、溶連菌、手足口、リンゴ病が出ました。

このように、いろんな感染症が並行して出ているところに、何かいや〜な予感がします。

現状のような散発状態のときは良いのですが、流行期に入ると、確率的には重複感染が現れるようになります。

2,3年前には、「コロナ+インフル」とか「コロナ+溶連菌感染」等を、何度も経験したものです。

中でも溶連菌の重複感染は、必ずしも周囲で溶連菌感染が流行していなくても、起きる事があります。

溶連菌を保菌していた方が他の感染症に罹り、それに伴って溶連菌感染が顕在化してくることがあるからです。

治療法に影響するだけに、とくに溶連菌感染は、なるべく見逃さないようにしなければなりません。

たとえ家族がコロナでも、学校ではインフルが流行中でも、咽頭所見次第では、溶連菌も検査すべきです。

私の研修医時代から若手医師時代、溶連菌感染が原因の心臓弁膜症の方の診療に、数多く携わりました。

石のように硬く小さく閉ざした僧帽弁口を切開する手術や、その再手術、再々手術を、何十例と経験しました。

近年、溶連菌感染が原因の僧帽弁狭窄症は減り、別の原因による心臓弁膜症の方が相対的に増えています。

それは、抗生剤(抗菌剤)による溶連菌感染の早期治療が奏功しているからだと思います。

溶連菌感染による咽頭炎は、ウイルス性の「のど風邪」と同様、おそらく放置していてもたいてい治ります。

しかし、自然治癒の過程で惹起される自己免疫反応が、僧帽弁に炎症を起こしてしまうかもしれないのです。

溶連菌感染症は、必ず薬物治療した方が良い、身近で代表的な感染症だと、私は確信しています。

未完のコロナ、波がまた来る

終わらないコロナ。ていうか、ウィズコロナですから、終わりも何もないのですが、また波が来そうです。

当院の発熱外来では、このところ検査数自体が多くはないですが、検査すると散発的に陽性が出ます。

しばしば、会社で何人か出たなどと、クラスターの存在を耳にします。

今日は近隣の中学生が陽性でした。その子の家庭でも学校内でも、コロナが出た話は聞いてないとのこと。

病状が比較的軽い方が多く、しかも検査率が減っており、感染拡大の実態を正確につかむことは不可能です。

なので検査代が無料のため検査率が高い子どもにおいて、流行の予兆が早期に把握されることになるでしょう。

ただしコロナ禍以降、学校では欠席者が何の病気で休んでいるかを、個別には明らかにしなくなりました。

プライバシー保護のためとは言え、コロナなのかインフルなのか、同級生にもわからないことがあります。

近隣の他の中学校では、学級閉鎖も出ています。これはB型インフルエンザという情報を聞きました。

しかしそれとて、「コロナ込み」の欠席者数による学級閉鎖判断だったのかもしれません。

夏にはコロナが大流行する、という警戒情報が、このところあちこちから聞こえ始めています。

もう誰もカウントしてないかもしれませんが、次は「第13波」です。

第8波以来、波のピークは「R5正月→R5夏→R6正月→R6夏→R7正月」と繰り返し、次が「R7夏」です。

ある意味で「季節性」変動がありますが、その要因は気温や湿度ではなく、「人の移動」かもしれませんね。

胃腸炎対策は手洗いです

コロナよりもインフルエンザよりも、いま胃腸炎がすごく多いですね。

今日の発熱外来では、コロナ陽性わずか2人、インフルエンザも3人と、急速に収束してきた感があります。

一方で、胃腸炎症状の方は11人。とくにノロウイルス感染が目立ちます。

成人の患者さんの場合、発症の2日前ぐらいに牡蠣(カキ)を生で食べている方が多いですね。実に多い。

その摂食歴が診断の決め手になるのですが、最初の問診では、なかなか生牡蠣の話が出ません。

なぜなら多くの方が、牡蠣を食べた晩に無事ならセーフ、と思ってらっしゃるからです。

数日以内に生牡蠣を食べてませんか、と尋ねると、ああ2日前なら食べましたけど、という展開になるのです。

それにしても皆さん、それほど生牡蠣が好きなんですか。ていうか好きなんでしょうね。

でも私は、生牡蠣は危険なので食べません。なので言わせてもらいますよ「牡蠣厳禁」だと(生だけね)。

小さいお子さんの場合、持参便の検査をしますが、このところ3回連続でノロウイルスが検出されました。

おかげで、便の性状(色合いと粘り気)を見ただけで、ある程度ノロが予測できるようになりました。

大事な事なので何度も書きますが、ノロなどの感染性胃腸炎のウイルスには、アルコールが効きません。

ところがコロナ禍で、どの家庭にもアルコール消毒液があるせいで、かえって感染が広がる危険があります。

お子さんの嘔吐物やオムツの処理をした後は、アルコール消毒で済ませず、必ずせっけんで手を洗いましょう。

血圧は変動するもの

高血圧症の患者さんには、自宅で毎日「朝晩」血圧を測って、専用の血圧手帳に記録してもらいます。

具体的に朝晩のどのタイミングで測るのかは、個人個人の生活習慣やリズムによって決めてもらいます。

日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン」には、「起床後1時間以内」と「就寝前」と記載されています。

朝の降圧剤の服用前のタイミングと、どのように過ごした日でも毎晩測れるタイミング、ということでしょう。

朝といっても、覚醒直後なのか、朝の家事の前なのか後なのか、はたまた朝食後なのかで違います。

私はそれを、可能であれば「朝食直前」に測るように指示します。「いただきます」の時に測ってくださいと。

覚醒からの時間を少し取ってもらうことと、朝食による影響を除くためです。

夜はさらに、仕事からの帰宅直後なのかどうか、入浴や飲酒や食事によっても、血圧はかなり変動します。

なので私は「夕食よりも入浴よりも前」に血圧を測ってもらいます。血圧が下がる要因を除外するためです。

つまり朝も夜も、比較的血圧が高めになりそうなタイミングで測るように指示しているわけです。

血圧は、2回(たまに3回)測って平均値を記録する方と、最後の血圧を採用して記録する方がいます。

たいてい1回目の血圧が高く、家事でバタバタした後だからだろう、という認識の方が多いですね。

確かにその通りで、裏を返せば、家事や仕事をしている時の血圧は安静時よりも高いということなのです。

そのことに気付かせてくれるのが1回目の血圧なので、間隔をあけて2回測ることには意味があると思います。

なかには、1回目と2回目の血圧を別々の折れ線グラフにしてくる几帳面な方もいて、とても参考になります。

ただ、血圧の記録はその推移を知ることが目的なので、測定しやすいタイミングを選ぶことの方が大事です。

インフル多いけど、症状と所見がちょっと変

今年最初の日曜診療は、昨日予測した通り、インフルエンザの大爆発が続いていました。

この2日間でインフルエンザ迅速検査は61人に行い、陽性は41人(陽性率67%)。すべてA型でした。

無検査で、病状と状況からインフルエンザと臨床診断したケースが6例。

他院でインフルと診断されたのに十分な抗インフルエンザ薬の処方を受けられず、当院に来た方もいました。

同じ2日間でコロナと診断したのはわずかに1人。溶連菌感染やマイコプラズマ感染はいませんでした。

コロナを疑う病状でも検査を望まなかった方は、何人かいました。検査代も治療薬も高いですからね。

インフルエンザは近年、咽頭後壁の「インフルエンザ濾胞」が診断の決め手になると言われています。

この濾胞の内視鏡所見からインフルをAI診断する検査機器「nodoca」は、2年前から保険適用となっています。

私はいつも咽頭をよく見た上でインフルエンザの迅速検査を行い、自分なりに「答合わせ」をして来ました。

ところが、現在流行中のA型インフルエンザでは、発症早期から咽頭全体の発赤が強い方がかなりいます。

咽頭後壁全体が腫れて濾胞が目立たないどころか、軟口蓋も口蓋扁桃も赤く腫れ上がっています。

どうかすると、溶連菌感染かと思うぐらい、硬口蓋まで真っ赤なケースにも出会います。

もしかしてインフルじゃないかも、と思いながら検査をするとしかし、インフルエンザ陽性。

それに加えて最近のインフルは、熱よりも咽頭痛が先行することが多くて、なんか従来型と違うんですよね。

nododaの今シーズンの診断精度(特異度)は、どうなんでしょうね。すごく気になります。

「定点あたり報告数」は、全体の感染状況を正確に反映するのか

今年一番の勢いで、今日は発熱外来の予約が殺到しました。夕方までの枠が、朝9時過ぎには埋まりました。

電話でのご予約は、その病状の内容を厳選した上で、多くをお断りすることになってしまいました。

この1週間(12/16〜23)の、当院におけるインフルエンザ陽性診断数は47と、先週より大幅に増えました。

過去の経験から、当院の数値は熊本市の定点あたり報告数のおよそ1.5倍ぐらいのことが多いようです。

なのでおそらく今週の熊本市では、定点あたりの報告数が30を少し超え、警報レベルに到達しそうです。

ところで、熊本市の「定点医療機関」の数は、インフルエンザとコロナの場合25、他の感染症では16です。

その医療機関を選んだ基準や理由は知りませんが、定点として適切かどうかは時々検証しているのでしょうか。

というのも、極端に報告数が多い、または少ない医療機関が含まれていると、統計学的な信頼性に欠けます。

そのような、全体的な分布と比べて飛び抜けた数値を「外れ値」といいますが、集計からは除外すべきです。

試しに、どこかの1週間を決めて、全医療機関が全数報告をすることにしてみてはどうでしょう。

そして、定点あたり報告数が全体の感染者数の正確な指標となるように、定点医療機関を入れ替えるのです。

そうすれば、定点あたり報告数に一定の「定数」をかければ、感染者総数を推測すること可能になります。

もうひとついうなら、既存の定点医療機関からの報告数の「生データ」が、いつも見られるといいですね。

当院の数値が、定点医療機関の報告数の分布と比べて外れ値に相当しないかどうかを、ぜひ知りたいのです。

高血圧治療と日々の血圧測定

「白衣高血圧」とは、日頃の血圧は正常の方が、健診などの時だけ異常に高くなってしまう現象ですね。

とりあえずは経過観察で良いのですが、高血圧の予兆かも、と考えて家庭での血圧測定をオススメします。

高血圧症の方の外来診療において重要なのは、自宅での朝晩の血圧「家庭血圧」の測定とその記録です。

「血圧手帳」(A6サイズぐらいのノート)に、朝晩の血圧を記録して、できればグラフにしてもらいます。

月に1回とかの来院時には、診察室で私が「診察室血圧」を測りますが、より重要なのはやはり家庭血圧です。

多くの研究で、家庭血圧の方が診察室血圧よりも心臓や脳血管疾患などとの関連が強いことがわかっています。

なので、家庭血圧の測定が几帳面な方の場合にはとくに、それがとても貴重な血圧管理の指標となります。

家庭よりも診察室での血圧の方が高いかと思いきや、その反対に家庭血圧の方が高い方が少なくありません。

これは「仮面高血圧」という現象と同様で、たいていは、朝晩の血圧が高く昼間は下がるパターンなのです。

休日には、昼間にも血圧を測ってもらうと、自宅でもかなり低い血圧になっていることが判明したりします。

あるいは、仕事の日に血圧が高く休日には下がる方は、休日に来院するので診察室血圧はいつも低くなります。

仕事の日の朝、どんだけアドレナリンが出てるんだろうと思います。日頃の家庭血圧の記録が需要です。

高血圧治療中の方にも、家庭よりも診察室血圧の方が高い白衣高血圧的な方が、多くはないけど時々います。

もしかすると、私が緊張を強いるような雰囲気を出しているせいかもしれません。

血圧を1回測って高いとき、意識を逸らすような雑談を挟んで2回目を測ると、20ぐらい下がったりします。

そういう変動にも意味はあるのでしょうけど、高血圧治療の指標となるのはやはり家庭血圧なんでしょうね。

ご面倒でもできるだけ毎日、朝晩記録していただくことをお願いするばかりです。

マイコプラズマと学級閉鎖

「マイコプラズマ感染症」が流行しています。当院でもほぼ毎日、感染者(抗原検査陽性者)が出ます。

一般には「マイコプラズマ肺炎」という言い方をしますが、実際には気管支炎で済むことも多いようです。

その定点あたり報告数は熊本市では先週5.0に達し、インフルエンザやコロナを凌駕しています。

近隣でも流行していますが、厄介なのは、その潜伏期間(感染してから発症するまでの期間)が長いことです。

インフルエンザの潜伏期間は1〜4日です。新型コロナウイルス感染症では2〜5日が多いとされています。

これらの感染症では、学校内での流行拡大を防ぐために、必要に応じて「学級閉鎖」が行われます。

学級閉鎖前に感染した子は学級閉鎖期間中に発症するので、それが治ってから登校することになります。

つまり学級閉鎖は、自分が感染するのを防ぐだけでなく、他人に感染させることを防ぐこともできるわけです。

この目的を達成するためには、学級閉鎖期間の長さが、感染症の潜伏期間よりも長くなければなりません。

ところがマイコプラズマの場合、潜伏期間は2〜3週間と、かなり長いのです。

学級閉鎖前に感染した子は、学級閉鎖が明けてから発症することになり、学級閉鎖の意義は半減します。

もうひとつ。発症後に感染力が長く続くことも、マイコプラズマ感染症の問題です。

インフルエンザでは発熱後5日後までは出席停止、コロナでも発症後5日後までの療養が目安となっています。

もちろん、熱の下がり具合や咳などの症状によっては、何日か延長する必要があります。

一方でマイコプラズマは、感染性が高いのは発症後1週間ですが、その後も数週間は菌の排出が続きます。

いつから登校してよいのか判断しにくく、しかも全身状態が比較的良いので、早めに登校してしまいます。

また、発熱による欠席者が多くても、それがマイコプラズマなのかそれ以外なのか、厳密な区別が困難です。

なぜならマイコプラズマは、医療機関で簡易検査を行わないことが多く、検査しても偽陰性が多いからです。

マイコプラズマが流行している時に学級閉鎖をどうするか、教育現場ではなかなか悩ましい問題のようです。

マイコプラズマ感染に使う薬

マイコプラズマの流行が、全国的にジリジリと拡大中です。熊本市の定点あたり報告数は3に達しました。

当院の、過去1週間の感染者数(簡易検査陽性者数)は7人。当院が定点医療機関なら、報告数は7です。

年齢は8歳〜18歳。7症例それぞれの病状(咳と熱)は、

・7日前から咳、昨日から熱(最高39.0度)、クラスに休んでいる子がいる

・3日前から咳、3日前から熱(39.0)、周囲の発熱者不明

・8日前から咳、10日前から熱(38.0)、クラスに発熱者いない

・2日前から咳、2日前から熱(39.0)、クラスに発熱者いない、部活に発熱者がいる

・6日前から咳、昨日から熱(38.9)、クラスに咳の子がいる、部活にマイコプラズマいた

・10日前から咳、2日前から熱(38.3)、友達が咳していた

・3日前から咳、3日前から熱(40.0)

咳が先行し遅れて高熱が出るケースが多いですが、先に高熱が出ることもあります。いずれも経過が長いです。

潜伏期が2週間と長いため、発症したときにはもう、周囲に感染元がいないということなのでしょうか。

ひどい咳と高熱で苦しい患者さんがほとんどなので、基本的には抗生剤を処方しています。

いま当院で第一選択としているのは、マクロライド系の「ジスロマック」(一般名アジスロマイシン)です。

1日1回、3日間服用すると、効果が7日間持続する(有効な組織内濃度が持続される)という、便利な薬です。

この薬の進化版として、15年前に、1回飲んだら7日間効くという「ジスロマックSR」が発売されました。

たった1回なのですが、60mlの水に溶かして飲む粉薬で、服用後2時間絶食が必要という、面倒な薬でした。

残念ながら3年前に販売が中止となりました。適応症が限られるのと、量が多くて飲みにくい薬だったのです。

マイコプラズマ流行拡大中

マイコプラズマの定点あたり報告数が2.0となり、過去最多を4週連続で更新したと報じられています。

過去一週間の、マイコプラズマ感染者が平均2人だということですが、当院の場合、現在これが5人です。

休日診療をしていると発熱患者の受診が定点医療機関よりも多く、当院は流行を常に先取りしているのです。

潜伏期がコロナやインフルに比べて長いので、いま周囲にマイコプラズマがいなくても油断できません。

咳がかなり長引いて熱が上がったり下がったり、そんなお子さんの中にマイコプラズマ感染者がかなりいます。

「肺炎マイコプラズマ」というのが病原体の正式な名称なのですが、必ずしも「肺炎」になるとは限りません。

むしろ「気管支炎」のことが多く、言うなれば「肺炎マイコプラズマ気管支炎」という病状です。

重症化することもあるので、診断が付けば私は、マイコプラズマに効く抗生剤を処方することが多いです。

扁桃炎や中耳炎でよく使う抗生剤はあまり効かないので、マイコと判明したら薬を変える場合があります。

一方で、最近は耐性菌も増えているので、病状が軽いケースでは抗生剤は使わないこともあります。

コロナやインフルよりも長い間感染力が続きます。登園・登校の基準は日数ではなく病状次第かもしれません。

当院では精密な迅速検査を行っていますが、検査機器が1台しかなく、流行期のいま少々てんてこ舞いです。