インフルワクチン総括

来月からインフルエンザワクチン接種が始まります。もうそんな季節になりました。

今シーズンは新型と季節性の混合ワクチンで、準備されるのは5800万回分。すべて国産です。

昨シーズン準備された新型インフルエンザワクチンは、国産5400万回分と輸入ワクチン9900万回分。

ところが実際に使用したのは国産2300万回分、輸入モノはわずかに数千回分!。

ワクチン「大余り」でした。どうしてそうなったのか、私なりに総括してみました。

1。準備ワクチン量が多すぎた

国産と輸入合わせて1億5300万回分は、国民全員が1回接種することを想定したのか、接種率50%で一人2回接種と計算したのか。

危機管理上は多めの備蓄を考えるべきなので、この準備量自体を私は責めません。結果論ですから。

2。必要接種回数が途中で1回に減った

当初は2回接種と定めていながら、厚労省はある日突然、子供を除いて1回で十分と言い始めました。

ワクチン不足を懸念したためと思われますが、結果的にはこれが大余りの主因でしょう。初めから1回接種なら、準備量は半分で良かったわけです。

3。ワクチン接種時期が遅かった

厚労省のワクチン接種計画が、新型インフルエンザの流行に間に合いませんでした。

結果的にワクチン接種率はわずか18%。これは例年の季節性ワクチンよりも低い率です。

危機管理上は最も早い流行を想定し、もっと早く接種を開始すべきでした。

4。<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-19.html" target="_blank" title="接種制限">接種制限</a>が裏目に出た

厚労省は、子供など弱者を優先する目的で段階的な接種計画(接種制限)を定めました。

流行が思いのほか早かったのに、優先接種対象外への接種は、たとえワクチンが余っていても絶対に認められず、融通がききませんでした。接種を渇望しながら病魔に冒されていく人々をまのあたりにしました(ちょっと大げさに言いました)。

この点において、国はおおいに責められるべきです。

総括して言えることは、厚生官僚が現場をわかっていないことと、施策に柔軟性がないこと。

不良在庫一掃

長い間保冷庫にあった不要ワクチンを、ようやく返品できました。

昨シーズン購入した、新型インフルエンザワクチンの未使用分です。

このワクチンは国と委託契約して購入したものです。その契約内容はこうでした。

「接種希望者の予約をとって、予約数だけワクチンを発注しなさい。ただし余ったワクチンの返品はできません。」

一見あまり問題無さそうな取り決めですが、実際には大変なことになりました。

予約キャンセルが相次いだからです。

接種を待つ間に新型インフルエンザに罹ってしまった人が続出したのです。

複数の医療機関に予約を入れていた人も多かったので、どこかで接種できたらその他の予約はキャンセルです。

新型インフルが弱毒性とわかり、接種をやめた人もいたでしょう。

その結果、大量の未使用ワクチンが余ってしまいました、使われるあてもなく。

私のところだけで70本(成人140人分)、全国の医療機関では200万人分以上の不良在庫を抱えることになりました。

厚労省はずっと返品に応じない姿勢でしたが、急転直下、8月2日の衆院予算委員会で長妻大臣が「在庫買い戻し」を表明。今月からの返品解禁となったわけです。

購入して半年以上暖め続けてきた、ではなく冷やし続けてきたワクチン70本ですが、返品後すぐに廃棄されます。光熱費返せ、です。

新・新型ワクチン

来シーズンのインフルエンザワクチンは、「新型」と「季節性」の混合ワクチンです。

これで2種類のワクチンを接種しなくてもよくなりました。これはいいニュース。

昨シーズンは、余るほどワクチンがあったのにもかかわらず、厚労省がワクチン接種に「変な」優先順位をつけたおかげで、結果として接種が間に合わずに感染したこどもたちが続出しました。

今回一本化された混合ワクチンが今後の「季節性」ワクチンになるのかと言えば、役所の解釈ではあくまで「新型」ワクチンの扱いです。新しい「新型」ワクチンには従来の「季節性」の成分も混ぜましたよ、というイメージです。

その結果、国の価格統制が続きます。

従来、季節性インフルエンザワクチンの接種料金は医療機関が独自に設定していました。

私のクリニックでも、とくに子どもはかなりの低料金にして(昨年度は、5歳以下は1,000円)、接種機会を増やすことに貢献してきたつもりです。

しかし前述のように、今年のワクチン接種料金は国(実際には自治体)が決める統一価格になるようです。詳細は未定ですが、あまり低価格ではないでしょう。

このような新システムによって、結果的に接種人数が減ってしまい、またインフルエンザの流行につながるのではないかと私は危惧します。

厚労省のワクチン行政はいつもちぐはぐです。

子ども手当でワクチン無料化を

本日内閣総理大臣に任命された菅直人氏は、子ども手当の一部現物給付論を以前から唱えていました。賛成です。

そこで提案。この機会に、こどものワクチンの完全無料化を実現してはどうでしょうか。

ワクチンのうち、すべてのこどもたちが無料で接種を受けられるように国が規定しているもの(定期接種)のほかに、希望者だけが有料で接種を受ける(任意接種)ワクチンには、おたふくかぜ、水痘(水ぼうそう)、ヒブ、肺炎球菌ワクチンなどがあります。

米国では、これらのワクチンはすべて無料です。欧米各国もおおむね同様です。ワクチン行政において、残念ながら日本は後進国です。

例えば日本ではいまだに麻疹(はしか)が散発的に流行し(2008年は患者数約1万人)、麻疹がほぼ根絶されている米国から、日本は麻疹輸出国として恐れられています。

そうなった原因には、麻疹ワクチンの接種回数が1回だけであったことと、その接種率が低かったことがありますが、とくに約20年前に起きたMMRワクチン(麻疹+風疹+おたふくかぜ)の副作用による接種の一時中断が大きく影響したと思われます。

同様に日本脳炎ワクチンは、重い副作用が5年前に起きて以来、いまだに接種率は低迷しています。

これらはいずれも、疫病の根絶について啓蒙することよりも医療事故の糾弾を優先するマスコミの論調や、そのマスコミに扇動されて一斉にワクチン接種拒否に向かってしまう日本人の気質、それに役人のことなかれ主義と政治の先見性のなさがもたらした悲劇と言えるでしょう。

そのようなわけでワクチンの無料化も遅れているわけです。

ヒブと肺炎球菌ワクチンを乳児期からフルコースで4回ずつ接種すると、1人約7万円かかります。

子ども手当(満額)の3カ月分に過ぎませんが、それが現金給付では必ずしもワクチン接種にはつながらないでしょう。

菅総理の持論である現物給付の一環として、こどものワクチンの完全無料化を提案します。

(追記)

麻疹については4年前と2年前に予防接種計画の見直しが行われ、患者数は減りつつあります。

日本脳炎ワクチンについても、今春からようやく積極的勧奨接種に切り替わりました。

お役所と新型インフル

本日入荷した新型インフルエンザ用ワクチンを手にして、私はとまどっています。

なぜなら、1mlのバイアル(薬瓶)が請求人数分だけ届くと思っていたら、県の配分によって、私の元には10mlの大きなバイアルで供給されたからです。

このバイアル、開封後は24時間以内に使うキマリです。使い切れなければ残薬は廃棄しなければなりません。

10mlといえば、大人なら20人、6歳未満のこどもなら約50人に接種できる量です。

同じ日に予約者を呼び集めて効率良く接種して薬を残さず使い切らなければ、残薬を廃棄することになります。ワクチン供給量は予約患者数ギリギリなので、廃棄すればその分だけ、接種可能な人数が減ります。

完璧な効率で無駄なく全予約者に接種するのは困難です。であれば、ワクチンを廃棄せずに有効利用する方法はあるのでしょうか。

その疑問を「お役所」にぶつけてみました。

市(保健所)では解決しなかったので、県(健康危機管理課096-333-2240)に問い合わせました。

私「うまく使い切れなかったワクチン残薬を、優先接種対象者でない人に接種できますか?」

県「子供など他の優先接種対象者へは前倒し流用可能ですが、優先でない者には接種できません。」

私「24時間でどうしても使い切れず、捨てるしかない状況なら、健常者に流用して接種できませんか?」

県「できません。捨てて下さい。国の取り決めです。」

ラチがあかないので、国(厚労省03-3501-9031)に問い合わせました。電話がつながるまでかなり苦労しました。

私「どうしても余ってしまって捨ててしまうほどなら、健常者に接種できますか?」

国「できません。捨てて下さい。」

私「健常者に接種して国全体の感染者を減らせるなら、優先接種対象者にも有益ではないですか?」

国「ご意見は上層部に伝えます。」

ワクチンの製造効率を上げて接種人数を増やすためには10mlバイアル量産もやむを得なかったと長妻厚労相は11/6の予算委員会で言っていますが、前述の役所の対応では、本末転倒と言わざるを得ません。

季節性 vs 新型

インフルエンザ(季節性)ワクチンの接種予約受付を始めたところ、あっというまに10月の接種枠は埋まりました。

今年はとくに予防意識の高まりを感じます。

ただ、問題は季節性ではなく新型です。すでにこどもたちの間で流行しつつあります。

新学期に入ると爆発的に広がる恐れがあります。

新型用ワクチンの供給開始は早くて2カ月後(10月下旬)と言われていますが、その2カ月後があまりに遠く感じます。しかも供給量不足。

国内メーカーによる、季節性から新型への、ワクチン製造の切り替えが遅かった。

人類にとって、どちらのウイルスに対する免疫獲得がいま重要なのか、その判断を厚労省ができなかったのです。

流行を国民の慢心のせいと言う大臣の発言は、まったく的外れと言わざるを得ません。

そんなことを思いながら、衆院選の期日前投票を済ませてきました。