ワクチン接種と紛れ込み

乳幼児の髄膜炎を予防するための、ヒブワクチンと小児用肺炎球菌ワクチンは、その接種後の死亡事例が報道され、3月にいったん接種見合わせとなったことは、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-81.html" target="_blank" title="以前にも書きました">以前にも書きました</a>。

その後厚労省は、ワクチンとは無関係の、別の原因(疾患)によって、たまたまワクチン接種後に死亡したのであろうと結論し、4月に接種が解禁されました。

このように、別の原因がワクチンに濡れ衣を着せることを「紛れ込み」といいます。

「紛れ込み」の多くは、乳幼児突然死症候群(SIDS)と考えられています。

SIDSとは、乳幼児の原因不明の突然死のことを、ひとくくりにした総称です。

その数は、昨年147人(このうち0歳児140人)で、0歳児では死亡原因の第3位でした。

3日に1人の赤ちゃんが、原因もわからず命を失っているということです。

その0歳児が受けるべき予防接種の回数は、ヒブワクチンと肺炎球菌ワクチンが加わったことで大幅に増えて、ポリオを除いても、標準で合計10回の「過密スケジュール」となりました。

そのため、ワクチン接種直後に、たまたまSIDSを発症する確率も上がってしまったのです。

表面上は、「ヒブや肺炎球菌のワクチンを導入したら、接種後の突然死が増えた」ように見えます。

また、過密スケジュールをこなすために、2つ以上のワクチンを同時接種する機会も増えました。

そのため、ワクチン同時接種後に、たまたまSIDSを発症する事例も目立ってしまいます。

表面上は、「同時接種をしたら突然死が増えた」ように見えます。

「紛れ込み」による濡れ衣を晴らすためには、正しい情報をわかりやすく示す必要があります。

最近、ワクチン接種の必要性について啓蒙する、テレビCMを目にするようになりました。

抜けているのは、ワクチンの副作用(副反応)への不安を解消するCMだと思います。

それといちばん困るのは、ワクチン接種後の死亡例などを短絡的に報道するマスコミ。

高2全員へのMRワクチン接種へ向けて

2回接種法による、麻しん風しん混合(MR)ワクチンの定期接種は、平成18年から始まりました。

接種回数を、1歳時と就学前の2回に増やすことによって、麻しんの撲滅を目指したわけです。

この時点ですでに小学生だったこどもたちにも、2回目の接種機会を与えるために、平成20年度から24年度までの時限措置として、中1と高3に対する定期接種が設定されました。

時限措置の最終年度(つまり来年度)にようやく接種ができるのが、今の小6と高2です。

とくに高2は、1回目の接種からの間隔が長いので、免疫力の低下が心配されています。

国は5月20日、政令によって、高校2年生をMRワクチンの接種対象に加えました。

東京などで麻疹が流行している今、なかなかフレキシブルな対応と評価できます。

ここまでは「いい話」。

ところが、厚労省は実施要領のなかで、海外への修学旅行予定者を念頭においた上で、

「修学旅行や学校行事としての研修旅行に行くなど、特段の事情がない場合は、18歳となる日の属する年度に接種すること」

と限定条件を付けたのです。

「政令では高2もOKとしたけど、原則高3ですよ」というわけです。

全国の多くの自治体がこの要領に従い、「高2への接種は海外への修学旅行予定者限定」の条件をつけてしまいました。

調べてみるうちに、政令の趣旨を一省庁が損ねてしまう、今回のような実施要領には、効力が無いことを知りました。

早速、医師会を通じて市の担当者に問い合わせてみました。

市では判断できなかったようで、県に問い合わせたうえでの回答は

「高2への接種は海外旅行予定者に限ります」との一点張り。

「家族旅行でも認めます」という、プチ譲歩もありましたが、とても納得はできません。

再び市に要求。こんどは県を通さず、国に直接問い合わせるようにと念を押しました。

すると驚いたことに、回答は180度転換。

「高2は無条件で全員接種できます」とのこと。

というわけで、熊本市では、高2の接種条件が撤回され、全員接種可能になりました。

全国的にこの接種制限が回避されるように、発言力のある人たちへの働きかけを考え中です。

ポリオワクチン

ポリオは小児麻痺ともいわれ、日本では2000年に根絶宣言が出された感染症です。

なのに今でも、毎年のように発症例があります。これらはすべて生ワクチンからの感染です。

日本でのポリオ予防は、すべての乳幼児に対して2回づつ、経口ポリオ生ワクチンを飲ませることによって行われています。

そしてその生ワクチンによって、100万人に1人程度の確率で、ポリオを発症して麻痺が起きてしまうことがわかっています。

アメリカは1997年に、感染の危険のない不活化ワクチンに切り替えました。

いま、不活化ワクチンが世界の常識です。なのに、日本はいまだに生ワクチン。

市民運動などを最近マスコミが取り上げることも増え、ようやくお役所が動きました。

厚労省は先週、来年度からの不活化ポリオワクチン導入を決めました。

「もっと早く導入できなかったのか」と、今日も細川厚労相が自嘲気味に語っていましたが、それほどに、日本のワクチン行政は動きが鈍いのです。

日本でのポリオワクチン接種は昭和34年に始まりました。

最初に使用されたのは、実は不活化ワクチンで、しかも任意の有料接種でした。

ところがその翌年、私が生まれた昭和35年ですが、ポリオの大流行が起きたそうです。患者数は全国で5600人以上。当然ワクチンは不足しました。

そこで国は、市民運動に押される形ではありましたが、生ワクチンの超法規的緊急輸入に踏み切り、治験も行わず、全国の乳幼児全員に無料で、短期間のうちに一斉接種を行い、患者発生数を激減させたのでした。

日本が成し遂げたその「快挙」は、その後、世界の感染症対策のお手本とされたそうです。

残念ながら、日本のワクチン行政はその後だんだんと鈍化し、後のワクチン後進国を築いていくことになります。

ワクチン接種また中止

<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-71.html" target="_blank" title="無料接種">無料接種</a>が始まったばかりの3つのワクチンが、事実上すべて「凍結」されてしまいました。

<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-80.html" target="_blank" title="こんどは">こんどは</a>ヒブワクチンと小児用肺炎球菌ワクチンです。3月5日から接種中止になりました。

これらのワクチン接種後の乳幼児が4人死亡したことを受けて、厚労省は接種一時見合わせの通達を出しました。

その後さらにもう1例の死亡例も報告されました。

当院でも2月から無料接種進行中でしたが、今は接種中止の連絡に追われています。

すでに接種済みの方からは「接種したが大丈夫なのか」との不安の問い合わせも多く寄せられます。

いずれのワクチンも、すでに世界中で10年以上前から2億人以上に接種されてきた実績があります。

それを輸入してそのまま日本で使っているだけなので、今回の死亡原因がワクチンにあるとは、一般的には考えにくいです。

厚労省で今夜、その因果関係を評価するための会議が開催されました。

結論は「因果関係は肯定も否定もできない」とのことで、さらに検討が続けられるようです。

接種再開は遠のきました。

一日も早く「安全宣言」が出されることを望みます。

子宮がんワクチンの危機

ついに恐れていたことが起きました。<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-75.html" target="_blank" title="子宮頸がん予防ワクチン">子宮頸がん予防ワクチン</a>の品切れです。

予約を取って毎日順調に接種を行っていたのですが、昨日突然、メーカー(GSK)から「新規接種の差し控え」の依頼がありました。

ワクチンは供給停止となり、今後接種予定の方は全員キャンセルです。

国内在庫ワクチンは、すでに1回目の接種を済ませた方の2回目の接種用に限って供給されます。

熊本市では2月から無料接種が始まっていましたが、わずか1カ月で接種は事実上「凍結」される形です。

3月1日から無料接種を始めたばかりの福岡市に至っては、すっかり出鼻をくじかれてしまいました。

品切れの原因にもあきれます。

国の助成が昨年末に決定してから自治体の無料接種が始まるまでの期間が、メーカーの予測より思いのほか早かったので、供給が追いつかなくなった、というのです。

メーカーが自治体の機動力を甘く見た結果で、お粗末な話です。

ところでいま、気が気でないのが高校1年生。

ワクチンの無料接種対象学年が中1から高1までなので、3月中に接種しなければ、無料接種が受けられなくなります。

それなのにまさかのワクチン切れ。このままでは無料接種は絶望的です。将来自費で接種すると約5万円かかるワクチンだけに一大事なのです。

聞くところによれば、GSKは高校1年生の接種期限の延長を厚労省に交渉中とのこと。

かつて新型インフルエンザの輸入ワクチンが大余りしたとき、違約金なしで購入契約を解約させろという国の無理難題に、GSKが応じた経緯があります。

なので交渉はきっとうまくいくと思います。

(追記)

厚労省は3月7日、いまの高校1年生の初回接種期限を来年度(高2)まで延長することに決めました。

問題山積でゴタゴタしているのに、この件は迅速に決定してくれました。ありがたいです。

見出しと本質

「子宮頸がんワクチンで副作用、失神多発」

子宮頸がんを予防するワクチンが最近日本に導入され、国による助成も決まりました。

しかしその出鼻をくじくかのように、昨年末、冒頭のように報道されました。

こういったニュースの場合、見出しにだまされてはいけません。

この場合の失神は、痛みによる一時的な自律神経の反応です。安静によって解決します。

皮下注射する他のワクチンとは異なり、このワクチンは筋肉注射するので、痛みも強いのです。

おまけに接種対象は、感受性が強くて痛みに弱い、若い女性ばかり。

実際の失神者の数は、40万人のうちの21人でした。「多発」したと言うべきかどうか。

「注射の痛み」による副作用だというのに、冒頭の見出しではこのワクチンに欠陥があるかのような印象を与えます。

たしかに有効性においては議論の余地もあり、医学的な検証が必要なワクチンです。

しかし「失神」報道は、本質をはずれています。

読者に誤解を与えない報道をするように、マスコミには良識が求められます。

同時に、キャッチーな見出しに惑わされず本質を見抜く読者の見識も。

ワクチン無料化へ

子宮頸癌、ヒブ、肺炎球菌ワクチンの<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-23.html" target="_blank" title="無料接種">無料接種</a>が始まりました。

日本に、ヒブ・肺炎球菌両ワクチンが導入されたのはこの1,2年のこと。

ともに欧米でこどもの髄膜炎を激減させた実績のあるワクチンだけに、欧米のような無料接種が望まれていましたが、残念ながらこれまで日本では任意(有料)接種のため、あまり普及していませんでした。

日本で生まれる赤ちゃんは、1年間で約100万人です。全員にフルコースで両ワクチンを接種すると、費用は年間約800億円。

国は、こども手当(半額)として毎年2兆2500億円ばらまく財源があるのに(本当にあるのかは別問題)、わずか800億円を工面してくれないところが「ワクチン後進国」と言われるゆえんです。

厚労省がようやく重い腰を上げたのは昨年10月。補正予算案に1086億円を計上しました。

小沢問題と尖閣問題がこじれ、国会審議がどうなるのかが危ぶまれましたが、11月26日に参院で予想通り「否決」された後、衆院優越規定により、補正予算は無事成立しました。

ところで、ワクチン接種費用全額を国が助成するのかと思ったら、「国が1/2を助成するので、残りの1/2は市町村が地方交付税の中から負担しなさい」というケチな内容でした。

しかも厚労省は「公費カバー率90%」という不可解な数値を提示しました。

あとで判明したその意味は「接種費用の90%に対して、その1/2を助成する」ということ。

つまり、国は45%だけ助成しますよ、ということなのです。

まわりくどくてケチ。

ワクチンと年齢区分

熊本でもインフルエンザが流行の兆しを見せています。

昨年は多くの人にワクチンを接種しましたが、果たしてその効果は?

ところで、インフルエンザワクチンの接種を行った医療機関は、毎月役所に報告書を提出する必要があります。

報告書では、接種した人数を以下の年齢区分で集計します。

 (1)15歳未満

 (2)15歳~64歳

 (3)65歳以上

 (4)妊婦(別枠として)

ちなみに予診表(問診票)も4種類。こちらは学年区分で。

 (1)小学校以下

 (2)中学生

 (3)高校生に相当する年齢以上64歳以下

 (4)65歳以上

ワクチンの1回の接種量は年齢別に4段階。ただし接種報告書とはちょっと違う。

 (1)0歳   :0.1ml

 (2)1~5歳 :0.2ml

 (3)6~12歳:0.3ml

 (4)13歳以上:0.5ml

どうなんでしょう、同じ厚労省が決めたとは思えない、この統一性の無い区分法は。

来年度からは、接種量が以下のようにシンプルになりそうです。

 (1)3歳未満 :0.25ml

 (2)3歳以上 :0.5ml

問診票や集計区分もシンプルになってほしいです。

受験生の方へ

インフルエンザの予防接種を、今シーズン2回受けておきたい受験生の方へ。

申し訳ありませんが、今年はそれができません。おかしな話です。

季節性インフルエンザワクチンの接種回数は、昨年までの規定ではこうでした。

  12歳以下  :2回

  13歳~64歳:1回または2回

  65歳以上  :1回

13歳以上であっても、「2回接種した方がより効果的」であり「希望者は2回接種しても良い」のでした。

そのため、例年多くの受験生や医療従事者が2回接種を受けていました。

ところが昨年、新型インフルエンザワクチンのときに、厚労省は「13歳以上は1回で良い」との通達を出しました。

「健康成人に対するワクチン接種後の抗体価上昇が、1回と2回で差がなかった」というのがその根拠です。

しかし本当のところは、新型ワクチンの輸入に手間取った国がひねり出した、苦し紛れのワクチン節約策でした。

「苦し紛れではなく、本当に1回で良いのである」と言い張る国は、その言い分を正当化すべく、今年の接種回数を「13歳以上は1回のみ」に決めてしまいました。

国と委託契約した医療機関はこの規定を守らなければなりません。

ですから今年は、受験生の方が希望しても、2回接種はできないのです。

昨年はあくまで「新型」の話だったのですが、新型と季節性の「混合」ワクチンである今シーズンも、同じ解釈がなされたわけです。

とするならば、昨年までの季節性ワクチンを「2回接種でもよい」としていたことが「過剰な接種」であったいうことを、国が根拠をもって示さなければなりませんが、・・・ありえないことです。

医学的には、2回接種してもまったく問題ないどころか、それなりに有効性は増すと思われます。

ワクチン接種料金をめぐる混乱

今シーズンのインフルエンザ予防接種の料金は、厚労省の示した基準をもとに、自治体が決定しています。

厚労省の基準とは「1回目3,600円、2回目2,550円」です。

これをふまえて各自治体は「定額制」とするか「上限制」とするかを選択します。

つまり

 定額制=「1回目3,600円、2回目2,550円」の均一料金。

 上限制=「1回目3,600円、2回目2,550円」以下の自由料金。

上限制の場合、価格の自由競争が起きるので低料金化しやすく、被接種者(市民)にとってメリットがあります。

一方で定額制は、値崩れの心配が無く、医療機関にとって有利かもしれません。

極論すれば、上限制は市民目線、定額制は医者目線の料金設定といえます。

熊本市は定額制を選択したので、当院でもその料金を遵守して接種を行っています。

上限制を選択した自治体もあります。従来の季節性インフルエンザワクチンと同様に、2,500円や2,000円などの料金設定も可能です。

ところで、厚労省の基準はあくまで基準であり、自治体独自の判断で別の価格水準にしてもよいことになっています。

自治体によっては、4,000円の定額制にしたところもあります。

隣接する市町村で料金が異なる場合、居住地とは異なる地域まで接種を受けに行く「越境接種」が問題となっています。

このようなヘンテコリンな規定は、元をただせば厚労省のドタバタに端を発していました。

厚労省は当初、定額制に決定していましたが、8月下旬、上限制に変更すると通達。

ところがその2,3日後に通達を撤回。理由は「調整不足」とのこと。誰との調整?

最終的に厚労省は、定額制か上限制かを自治体に決めさせるという妙案をひねり出し、自治体に下駄を預けたわけです。