不活化ポリオワクチン

不活化ポリオワクチンの接種が、今月から始まりました。当院でも1日から開始しています。

<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-198.html" target="_blank" title="待ちに待ったワクチン">待ちに待ったワクチン</a>なのですが、その割に、接種希望者がおおぜい押し寄せる、ってほどでもないです。

それはおそらく、ポリオ自体が、日本では感染する可能性がとても低い病気だからかもしれません。

大あわてで接種するほどの、切迫感がないのでしょう。

日本脳炎も同様で、定期接種(無料接種)ワクチンのなかでは、いちばん接種率が低いです。

いずれもまれな病気ですが、感染したら大変だから、予防するわけです。

しかし「まれな病気の予防のために、まれに副作用が起きるワクチンを接種すべきか」との意見があります。

<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-100.html" target="_blank" title="これまでにも書きました">これまでにも書きました</a>が、ワクチン接種後の重大な副作用の多くは、いわゆる「紛れ込み」です。

たまたま別の疾患による症状が、たまたまワクチン接種後に出現したものです。いわば「濡れ衣」です。

ただし、ポリオの<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-87.html" target="_blank" title="生ワクチン接種後の麻痺">生ワクチン接種後の麻痺</a>は、ワクチンが原因のきわめて重大な副作用でした。

そしてこのたび、その心配の無い、不活化ポリオワクチンの定期接種が始まったわけです。

それなのに、その不活化ポリオワクチンですら、心配のタネになるようです。

原因は情報不足です。啓蒙活動の不足です。行政とマスコミと、医療機関に責任があります。

いまだにご質問が多いので、あらためてここで確認しておきましょう。

(1)不活化ポリオワクチン接種が原因で、ポリオを発症する危険性は「ゼロ」です。

(2)不活化ポリオワクチン被接種者の便を介して、周囲にポリオ感染の危険が生じる可能性も「ゼロ」。

こういった情報を、例のACとかが、耳にタコができるぐらいTV-CMで流してくれませんかね。

風疹流行中

報道されているように(今朝の朝ズバッ!でもとり上げられたように)、風疹が流行中です。

風疹がとくに問題となるのは妊婦の感染です。胎児の発育に障害をきたすおそれがあるからです。

私も勤務医の頃、先天性風疹症候群のお子さんの心臓手術を何人も担当したことがあります。

風疹に対する免疫があれば心配はないのですが、妊娠後の検査で免疫が無いことが判明する方が多いのです。

妊娠中にそれがわかっても、もはや、風しんの生ワクチンを接種することはできません。

その場合はしょうがないので、妊婦本人とその周囲が、風疹に感染しないように努めるしかありません。

厚労省(健康局結核感染症課長)は先週、風しん予防を徹底するための<a href="http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou21/h24-0719-01.html" target="_blank" title="文書">文書</a>を自治体宛に発信しました。

その趣旨は以下の通り。3番目は原文のままです。

1.中1と高3に対する、定期予防接種の徹底。

2.妊婦の家族、妊娠希望または妊娠可能性のある女性への、任意予防接種の検討。

3.貴管内の産婦人科医療機関等に対し、妊娠中に風しんに罹患(疑いを含む)した女性に対しては、無用な不安をあおらないよう留意の上、妊婦からの相談に応じるなどの適切な対応を行うよう、周知を図ること。

「無用な不安をあおらないよう留意の上」という部分に、お役所らしい責任逃れを感じます。

それはともかく、私が注目するのは2番目の任意接種です。

妊婦の風疹感染に対して、本気で取り組むなら、コレでしょう。

そこで提案。

この際、女性の風疹抗体検査を、誰でも無料で受けられるようにしてはどうでしょう。

さらに、抗体価が陰性の場合には、全員無料でワクチン接種ができることにします。

たいした費用はかからないと思うのですが。

ポリオワクチンと費用

念願の、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-87.html" target="_blank" title="不活化ポリオワクチン">不活化ポリオワクチン</a>の定期接種が、いよいよ9月から始まります。

当院では本日から、予約受付を開始しました。

今日は、一般の方にはあまりなじみの無い、接種料金の話です。

定期接種の場合、ほとんどの市町村で、接種料金は無料です。

これは、被接種者の金銭的負担がないということであって、別の誰かが負担するということでもあります。

予防接種法では、定期接種の費用は、市町村が負担すると定めています。

実際に接種を行うのは医療機関です。

その医療機関からの接種報告を受けて、市町村がそれに見合った費用を支払う、という流れです。

各自治体がおおむね次のような計算式で金額を決めて、多くは医師会を通じて、医療機関に支払います。

接種費用 = ワクチン代 + 診察料 + 技術料(注射器代等含む) + α

今回の不活化ポリオワクチンの場合、ワクチン代はほぼ、全国一律5,450円(税抜き)です。

問題は、診察料や技術料をいくらに設定するか、です。そしてそれを決めるのは自治体です。

ここで自治体と医師会との「駆け引き」が出てくるわけです。

医療機関(医師会)としては、診察料等を十分考慮して欲しい。一方で自治体は、負担を減らしたい。

具体的には、診察料をすべて初診料に準じて考えるのか、2,3回目の接種は再診料として扱うのか。

そんなところでぶつかっています。こまかい話です。

費用は市町村によってかなり異なります。自治体と医師会の力関係(?)にも違いがあるのでしょう。

厚労省は一般論として、参考額を提示していますが、自治体への強制力はありません。

熊本市の数値は厚労省の参考額よりも安くなりそうで、どうも、医師会の力が「あと一歩」のようです。

こまかい話で恐縮です。

ワクチンと副作用

予防接種に対して慎重または懐疑的になっている方の、いちばんの心配事はワクチンの副作用です。

よく「副反応」という用語を使いますが、そんな言い換えをするからかえって、ごまかしを感じさせるのです。

ワクチンも薬ですから、他の医薬品と同様に、副作用を起こす可能性はあります。

ただし、病気を治すための薬ではないので、次の2点で問題になります。

(1)健常人に対して接種する。

(2)接種しなくても、必ずしも健康上の不利益を被るわけではない。

接種後に重大な副作用が起きたときに「接種しなければ良かった」と悔やむのは、(1)のためでしょう。その感情は理解できます。

問題は(2)です。

接種せずに病気にかかるリスクと、接種して副作用を被るリスクを、天秤にかける人が多いのです。

そもそも予防接種が成立しているのは、接種するメリットの方が大きいからです。議論の余地はないはず。

なのになぜ、天秤にかけるのか。

それは、定期接種と任意接種が混在することが原因ではないかと、私は思います。すなわち、

国が法律で規定している定期接種は、必要性と安全性に「国のお墨付き」がある。

一方で任意接種は、優先順位が低いか、何か理由があるから定期接種にはなっていない。

必要性も安全性も定期接種には劣るのではないか。

現行の制度では、このような印象を与えているような気がしてなりません。

だから任意接種ワクチンは、それがたとえ無料化されても、接種率がなかなか上がらないのです。

水痘やおたふくかぜのワクチンのように、有料のものであれば、なおさらです。

こども対象のワクチンは、全部、さっさと<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-23.html" target="_blank" title="定期接種化">定期接種化</a>してもらいたい。

因果関係と補償

麻しんワクチン接種の3日後に、1歳の男児が急性髄膜脳炎で死亡したことがあります。

補償をめぐって訴訟となり、昨年高松高裁が下した判決が、波紋を呼びました。

医学的には、生ワクチンによる髄膜脳炎がそのように早い時期に発症することは、考えにくいことです。

しかし裁判所は、「因果関係は否定も肯定もできない」という専門家の意見をふまえ、

「死亡原因がほかに見当たらないので、予防接種と死亡には因果関係を認める」

という、医学界には多少驚きを与える判断を下しました。

つまり「疑わしきは被害者の利益に」という結論です。

ワクチンという「被告人」にしてみれば、「疑わしきは有罪」にされてしまったわけです。

今回の司法判断が一人歩きして、医療機関の風評被害やMRワクチン接種率の低下につながりはしないかと、心配になります。

このようなことになってしまう背景には、日本のワクチン被害救済制度の問題があります。

因果関係がなければ補償が認められません。

補償のために因果関係をこじつけるようになれば、ワクチンの危険性を過大評価することにもつながります。

因果関係の立証はあくまで科学的かつ厳正に行うべきで、被害者の補償はそれとは別の問題です。

米国のような、ワクチン接種後に生じた健康被害に対して、因果関係の有無にかかわらず補償を行う制度が必要です。

ワクチン製造中

6月に入ってもなお、インフルエンザの発症が散発しています。どうなってるんでしょうね、今年は。

一方で、来シーズン用のインフルエンザワクチンが、現在フル回転で製造されつつあります。

インフルエンザウイルスは変異を起こすので、流行する型(「株」とよびます)は年々変化します。

株が異なるワクチンでは有効性が劣るので、来シーズン流行するであろう株を予測しなければなりません。

いま製造中なのは、今年2月にWHOが発表した予測と国内情報も参考に、厚労省が決定した3つの株です。

鶏卵培養によるワクチン製造には数カ月間かかるので、できあがるのは8月です。

完成品は、国立感染症研究所が約1カ月かけて詳細にチェック(国家検定)します。

それにOKが出てから、メーカーは大慌てでワクチンを包装し、出荷。

当院のような末端の医療機関に届くのは9月下旬。10月1日からの接種に間に合うか、毎年ヒヤヒヤです。

ところで考えてみてください。

インフルエンザの流行期を2月としたら、その1年前に予測した株のワクチンを接種しているわけです。

そりゃワクチンの効果が悪い場合もあるでしょう。

鶏卵培養法のいちばんの問題は、製造に時間がかかること。

現在、製造期間が大幅に短縮できる、細胞培養法によるワクチン製造の準備が、進められています。

厚労省の助成を受けて、国内4社がプラントを構築中で、数年内には実用化されるらしいです。

細胞培養法には、もう一つの利点があります。

それは鳥インフルエンザ対策です。

もしも高病原性の鳥インフルが流行したら、卵の流通が制限されたり、鶏が処分される場合があるからです。

鳥インフルエンザのパンデミックは、恐ろしいことですが、絶対に想定しておかなければなりません。

3年前の豚インフルエンザ騒動はとんだドタバタ劇でしたが、いい意味でも悪い意味でも、予行演習にはなりました。

不活化ポリオワクチン9月導入へ

ワクチン後進国と揶揄される日本が、ようやく一歩、先進国に近づきそうです。

<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-87.html" target="_blank" title="以前にも書いた">以前にも書いた</a>、不活化ポリオワクチンについて、今年9月の接種開始を小宮山厚労相が明言しました。

この問題では、国のワクチン行政の遅れに業を煮やした黒岩神奈川県知事が、ちょうど半年前、「国が何と言おうと神奈川だけでもやる」と、不活化ポリオワクチンの輸入と接種の導入を決断し、喝采を浴びました。

このとき小宮山大臣は「予防接種行政上、望ましくない」と反対しました。

つまり、ワクチン行政に自治体が出しゃばるな、ということ。医学的理由による反対ではないのです。

このことでかえって、医学的には問題無いのに行政の理由で導入が遅れている、という事実が明らかになりました。

黒岩知事の動きが、国政に風穴を開けたことは間違いありません。

マスコミ報道や市民の運動も巻き起こり、国も不活化ワクチンの導入を加速せざるを得なくなったのでしょう。

ようやく昨日の厚労省部会でワクチンが承認され、本日の小宮山発言となったわけです。

私にとって嬉しいことは、三種混合ワクチンと混合された「四種混合ワクチン」よりも先に、「単独ワクチン」が承認されたことです。

世界での接種経験の多さがその理由ですが、過渡期には「単独」の方が使いやすいのです。

すでに三種混合ワクチンを接種済のお子さんにも、接種できるからです。

近い将来、というか来年には、すべての乳児が四種混合を受けることになることでしょう。

今後最大の問題は「接種待ち」です。

熊本市ではちょうど今、生ワクチンの集団接種が行われています。

これをパスして9月まで待っている間に、ポリオに感染する可能性もゼロではありません。

待つべきか、待たざるべきか、ほんとに難しいことになりました。

インフルエンザワクチン不足

待望のインフルエンザワクチンを、本日入荷しました。

10月1日から接種開始だというのに、例年このワクチンが届くのは9月下旬です。

しかし接種の予約は、それよりも前から受け付けなければなりません。

手元に現物がないのに、予約数が100人、200人と増えてくるのは、小心者の私には耐え難い恐怖です。

とくに今年はワクチン不足が懸念されています。

その理由のひとつは、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-134.html" target="_blank" title="先日も書いた">先日も書いた</a>、小児接種用量の変更(増量)です。

当院で、昨年と同じ年齢分布および人数での、今年のワクチン必要量を試算してみると、昨年よりも38%余計に必要であることがわかりました。

厚労省によると、今年のワクチン需要予測量は、2,771~2,798万本とのこと。

昨年の実使用数2,447万本で割り算すると、今年は13~14%増と見積もっているようです。

その程度の増量で済むのか、疑問です。

ワクチン不足のもう一つの原因は、北里第一三共の問題です。

もともと北里は、震災の影響による減産を発表していましたが、最近になって、製造されたワクチンに異物(トリレオウイルス)が混入していたことが判明し、236万本の出荷減です。

これによって、今年の国内ワクチン供給量(製造量)は2,700万本となりました。

さて、需要と供給の数字を、じっくり見比べてみましょう。

年齢が変わるのは誕生日の前日です

民法上は、年齢が繰り上がるのは、誕生日の前日の午後12時とされています。

そして、午後12時というのは前日に属するので、したがって年齢が変わるのは誕生日の前日ということになります。

<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-13.html" target="_blank" title="以前にも書いたように">以前にも書いたように</a>、この法律のために、あちこちでへんてこりんなことが起きます。古くて新しい問題です。

最近、予防接種に関連したサイトでも、この「年齢問題」が盛り上がっていました。

たとえば、1歳児が接種する麻しん/風しん混合(MR)ワクチンは、1歳の誕生日の前日から接種可能であり、逆に、2歳の誕生日の前日には、すでに2歳になっているので、接種できない、ということになります。

同様の解釈によって、選挙権は、20歳の誕生日の前日から与えられています。

私はこれまで、診療においては、誕生日の日に年齢が変わるものとして対処してきました。

したがって、予防接種対象年齢の解釈については法律違反をしてきたわけです。

急に心配になって、昨日、保健所に電話してみました。担当者曰く

「民法の規定とは異なりますが、熊本市では、2歳の誕生日の前日までは1歳として扱っています。」

ちょっと聞くと、不思議な回答ですね。

民法の年齢規定の趣旨を理解するために、こう考えてみました。

元日に生まれた子がいるとします。

その夜、家族は赤ちゃんを囲み「今日は良い1日だったね」とほほえむことでしょう。

同様に、大晦日の夜には、「無事1年経ったね」とほほえみます。

これこそが、「満1歳」という意味ではないでしょうか。

つまり、満1歳になるのは、出生日から1年目(12月31日)であって、出生日の1年後(1月1日)ではない、ということです。

インフルエンザワクチン接種量増量へ

インフルエンザ予防接種の時期が近づいてきました。

ワクチンの供給に目処がついたので、当院でも本日よりネット予約の受付を始めました。

さて、今シーズンからは、小児の「1回当たりの接種量」が変わります。

昨年までは、0歳0.1ml、1~5歳0.2ml、6~12歳0.3ml、13歳以上0.5mlでしたが

今年からは、3歳未満0.25ml、3歳以上0.5mlと、全体的に増量され、シンプルになります。

実はこれが、WHO推奨用量であり、主要先進国の標準接種量なのです。

これまでの日本の小児接種量が少なすぎることは、少なくとも10年以上前から指摘され続けてきました。

それなのに厚労省は、接種量を変えようとしませんでした。

その理由は、接種量を増やすことによって副反応が増えることを、厚労省が嫌ったのではないかと、私は推測しています。

「効果があるかどうか」よりも「副作用がないかどうか」を重視する、おきまりの厚労省のスタンスです。

ようやくこのたび、国内ワクチンメーカー4社による、WHO推奨量での臨床試験によって、その効果が認められ、接種量が変更されました。

ただ、おかしいのは、その臨床試験です。

接種量を変更しようというのなら、「従来接種量」と「WHO推奨量」の2グループを設定して、抗体の獲得率などを比較検討し、「WHO推奨量」の方が優れていることを証明する必要があります。

これはすなわち、「従来接種量」では効果が劣っていたことを立証することにもなってしまいます。

そこで実際はどうしたかというと、「従来接種量」のグループは設定せず、「WHO推奨量」だけを試験したわけです。

従来量との比較検討をしなかったことについては、一応言い訳がなされていますが、それがケッサク。

「海外主要先進国では、WHO推奨量はすでに確立された用量であるから」とのこと。

はじめから結論ありき、です。わかってたのなら、早く変えればよかったのに。