インフルエンザワクチンは毎年不足気味

「ワクチンが不足しても流通や医療機関の問題だとして認めない」という、厚労省の悪口を先日書きました。

それどころか国は、ワクチンが足りないのに余っていると強弁し、生産を減らそうとさえしてきました。

今は季節性もへったくれも無いですが、かつて日本のインフルエンザは、12月〜3月が流行期でした。

それに間に合うように10月からワクチンの接種を始めるため、ワクチンは例年9月末から供給が始まります。

そのため、薬品卸と納入価格や本数の打合せを始めるのが8〜9月。予約サイトを準備するのもその頃です。

国は、次のシーズンのインフルの流行型とワクチン需要を予測し、メーカーへ製造株と生産量を指示します。

しかし、この需給予測の誤りによって、日本はしばしば(ていうかほぼ毎年)ワクチン不足に陥ってきました。

そのようなことが起きやすい原因として、ひとつはお役所得意の「前歴主義・実績主義」があると思います。

最終的にワクチンが余ると、ワクチンが過剰生産だったとの解釈で翌年の供給量を減らす、という図式です。

しかし、現実に「需要=供給」となるはずがなく、流通には遊びが必要なので必ず「需要<供給」となります。

全国の医療機関の中には、ワクチンが足りないところもあれば、多少余るところも出るでしょう。

足りないところは結果的に接種量を減らすしか無いので、全体で見ると、ワクチンは最終的に少し余ります。

たとえ全体としてはワクチン不足でも、需給のアンバランスのために、ワクチンは最後に必ず余るのです。

それなのに国は、余ったのなら生産量を減らす。それを繰り返すので、供給量は際限なく減っていくのです。

高用量インフルエンザHAワクチン

今年10月からのインフルエンザワクチンの話を書きます。実はもう、それほど先のことでもないのです。

現時点で、日本で薬事承認されているインフルエンザワクチンは、次の3つです。

【不活化インフルエンザHAワクチン】(KMB、ビケン、デンカの3社が、それぞれ別の製品を製造)

対象は0歳6カ月以上の全年齢。3歳未満は1回0.25ml、3歳以上は0.5ml。13歳未満は2回接種。

毎年10月から、任意接種と高齢者対象の定期接種が始まる、もっとも一般的なワクチンです。皮下接種。

【経鼻弱毒生インフルエンザワクチン】(第一三共)

対象は2歳〜18歳。点鼻なので痛くないですが、乳幼児は大泣きして鼻水ズルズルだと使いづらそう。

製剤の取扱い難さなどを嫌って、当院では昨シーズンの導入を見合わせました。今年は改めて検討します。

【高用量インフルエンザHAワクチン】(サノフィ)

対象は60歳以上。免疫力が低下して予防接種の効果が弱い高齢者用に、抗原量を倍増して強めたワクチンです。

高用量の分、痛そうですね。ファイザーのコロナワクチンの2倍を超える0.7mlという筋注量にもビビります。

商品名は「エフルエルダ」。今年の定期接種ワクチンとして採用されるでしょうか。あとワクチン高そう。

誤情報と反ワクチン

センセーショナルな情報は、後に誤報と判明しても、その訂正記事はひっそりと報じられるのが世の常です。

ワクチンの副反応事例は大きく批判的に報じられますが、因果関係が不明だと判明しても報道は小さいもの。

HPVワクチンがその典型でした。衝撃的な動画がテレビで繰り返し放送され、接種は事実上止まりました。

国内の医療関係者や海外から非難されても、日本は国を挙げて、このワクチンを忌避し続けました。

国もメディアも国民もヒステリックに、一斉に誤った方向を向いてしまう。まるで戦前と同じじゃないですか。

その数年後から徐々に、因果関係が無いことが分かり始めると、国もメディアも態度を変え始めます。

過去の過ちを認めず、責任を取らず、巧妙にジワジワとワクチンを支持し始めるそのズルさに呆れます。

米国ではいま、麻疹(はしか)の流行が問題となっています。「反ワクチン」の人たちがいるからです。

その人たちは「ワクチンは効かない」「自閉症になる」など、根拠の無い荒唐無稽な情報を声高に主張します。

科学的な根拠があるかのように装った、誤情報・偽情報の真偽を、一般人が見分けることは困難です。

さらに、それがセンセーショナルな情報であるがゆえに、拡散しやすいわけです。しかも尾ひれが付く。

これを正しい情報で打ち消すためには、何倍ものエネルギーを要しますが、やらなければなりません。

いま日本で米国の事態を平然と報じていますが、数年前の日本は国を挙げて反HPVワクチンだったのですよ。

「DPT」と「DTaP」と「Tdap」

百日咳を予防するためのワクチンをまとめてみます。現在国内で使用できるのは、以下の3つのワクチンです。

・3種混合ワクチン:ジフテリア(D)+百日咳(P)+破傷風(T)を予防するワクチン。「DPT」

・4種混合ワクチン:3種混合に不活化ポリオワクチン(IPV)を混合。平成24年に導入。「DPT-IPV」

・5種混合ワクチン:4種混合にヒブ(Hib)を混合。昨年4月導入。現在の標準ワクチン。「DPT-IPV-Hib」

標準的には1歳時に定期接種を終えるため、学童期以降の百日咳抗体の低下がいま問題となっています。

そこで、就学前(年長時)と11〜12歳ごろに、3種混合ワクチンの追加接種を行う事が推奨されています。

その際に用いるワクチンとして4種や5種は認められていないので、3種混合を接種することになります。

さて3種混合(DPT)です。その成分について、理解を深めるために少し踏み込んでおきます。

日本では、1950年代から「DP」の2種、60年代からは「DPT」の3種として、定期接種が行われていました。

ところが「全菌体(whole cell)百日咳ワクチン(wP)」成分が原因で、70年代に重篤な副反応が起きます。

以後接種率が低迷しますが、80年代に「無細胞(acellular)ワクチン(aP)」が導入され、現在に至ります。

よって今使われているDPTは、「aP」含有であることを強調するため、また順序も変えて「DTaP」なのです。

さらに欧米では、副作用軽減のために「D」と「P」の成分を減らした「Tdap」ワクチンが使われています。

成分を減らしたことが分かりやすいように、小文字が使われています。

日本国内でも、輸入した「Tdap」を接種している医療機関もありますが、正式には推奨されていません。

当院では、「DTaP」つまり従来の3種混合ワクチンを、年長時から大人まで、幅広く使っています。

「D」も「P」も大文字なので、局所反応などの副作用が強いかもしれませんが、安全性は認められています。

「MRワクチン」の定期接種期間は延長されています

MRワクチンの定期接種期間が延長されています。

この件については、当ブログで周知できていなかったので、今日になって慌てて書いておきます。

このワクチンが不足していることについては、2カ月前に書いたとおりです。

それを受けて厚労省から、令和8年度末までの公費接種延長措置の対象が、以下のように決定されました。

・第1期:令和6年度に2歳の誕生日を迎えた方(令和4年度生まれの方)

・第2期:令和6年度にMR2期の接種対象(平成30年度生まれの方)

・第5期:昭和37〜53年度生まれで、昨年度までに風しん抗体検査を受け、抗体価が不十分であった男性

本来、1期の接種対象は「満年齢」1歳ですが、延長措置の対象は「年度年齢」単位で決まる点が要注意です。

ワクチンの供給不安定が令和6年度末まで続いたというのが、この規定の理由(厚労省の理屈)のようです。

にしても、令和6年度の対象者の接種期間を令和8年度末まで延長するのは、延長のしすぎじゃないですかね。

それと対照的に、令和7年度の接種対象者には延長措置が無く、接種期間の逆転現象が起きています。

たとえば、3/31に2歳になった子は今後約2年間接種できますが、4/2に2歳になった子はもう接種できません。

現時点ですでにワクチンの流通は安定しているので、今回の延長措置はもう少し短い期間でも良かったですね。

いま海外から持ち込まれた麻疹が国内で発生しており、国内では久しぶりに麻疹の流行が懸念されています。

接種期間の延長のしすぎは対象者にムダに余裕を与え、接種を遅らせ、結果的に感染のリスクを生みます。

延長対象のお子さんは、延長されたからといってのんびりせず、なるべく早めに接種しましょうね。

検診で癌を予防する?

「ワクチンと検診で、子宮頸がんを予防しましょう」と訴えるテレビCMを、ときどき見かけます。

でも「検診で癌を予防」という表現は誤解を招きますね。やめてほしい。

検診を受けるのでワクチンは打ちません、みたいな人が増えるのも、そういうCMのせいじゃなかろうか。

たしかに子宮頸がんは、検診によって「異形成」という前がん状態を発見することが可能です。

しかし「前がん状態」であるならば、経過観察で済む場合もあれば、手術が必要になることもあります。

そして手術すれば、その内容にもよりますが、その後の妊娠への影響(流早産のリスク等)も出てきます。

このような、前がん状態で発見できて早期治療を行えることが、本来の意味での「癌の予防」なのでしょうか。

もしも、胃がんを80%予防できるワクチンがあったとします。しかも無料で接種できるとします。

いやいや、ワクチンなんて打たなくても私は検診で予防しますから、っていう人はあまりいないでしょう。

でもそんな便利なワクチンが存在しないから、定期的に検診を受けて早期発見・早期治療につなげるわけです。

子宮頸がんはしかし、発がんを90%以上予防できるワクチンがあるところが、胃がんとは大違いです。

もちろん100%予防できるわけじゃない。なので検診も組み合わせて、早期発見に努めることが大事なのです。

いまこのワクチンの接種を推奨するなら、もっと正確で理論的な表現でCMを打ってほしいものです。

「百日咳ワクチン」接種希望者急増中

先日当ブログに書いたせい、だけでもないでしょうけど、百日咳ワクチンの問合せが増えています。

(1)年長になったが接種すべきか、(2)妊婦なのだが接種できるか、などが主な問合せ内容です。

百日咳ワクチンの免疫は約10年で切れるとされてきましたが、最近では5年程度だとも考えられています。

なので、3種混合または4種混合ワクチンの追加接種を1歳のときに受けた方は、年長時が次の接種時期です。

ちょうど年長時にはMRワクチンの第2期接種を行うので、それとの同時接種を当院ではお勧めしています。

とくに百日咳は学校で流行しやすいので、就学前の予防接種はとても有効です。

しかし考えてみると、小学生や中学生だけでなく、高校生も大人も、全員が免疫切れの状態と言えます。

ワクチンの接種を勧めるのであれば、全年齢層の方にお勧めしなければならないということになります。

と考えると、任意接種対象者はかなり多くなるかもしれません。はてさて、ワクチンが足りるんでしょうか。

そのことに気付いて、3種混合ワクチンを院内に少し在庫しておこうかと考えたのがつい昨日のことです。

さっそく薬品卸に電話すると、営業所に在庫が無い。複数の業者をあたりましたが、県内在庫はわずかでした。

あちこち手を回して、福岡から取り寄せたりして、明日にはある程度は確保できる見込みです。

で、最後はワクチンが余ったりするかもしれませんが、まあこういうのは、備えあれば憂いなしなので。

「帯状疱疹ワクチン」定期接種、始まってます

高齢者向けの「帯状疱疹ワクチン」の定期接種が、今月から始まっています。

思いのほか希望者がいないというか、高額だからか周知不足か、いまひとつ盛り上がりに欠けていますね。

このワクチンのテレビCMも最近見かけません。たぶんCMは、任意接種を想定していたものだからでしょう。

定期接種には生ワクチンの選択肢もあるので、不活化ワクチンのCMが流しにくくなったのかもしれません。

熊本市のサイトに、この定期接種制度についての記載が初めて登場したのは、4月3日のことでした。

そこには、対象となる方への勧奨ハガキの送付は6〜7月ごろを予定していると、記載してあります。

接種費用の自己負担額(裏を返せば市の負担額)が決まるのが遅くて、準備が遅れているのかもしれませんね。

とは言え、おかげで初年度の対象者は、勧奨を受けてからの接種可能期間が少し短くなります。

新しい制度や経過措置というのは得てして、初年度の対象者が割を食うものです。

今日は合志市在住の方が、勧奨手紙を持って来院されました。合志市からの案内は今月上旬には届いたとか。

こういう動きの速さって(逆に言うなら熊本市の動きの鈍さって)、何か役所の体制の違いなのでしょうか。

自己負担額も、合志市は熊本市よりも割安です。ちなみに私の居住地菊陽町も自己負担額は合志市と同額。

それらと比べると熊本市は高い。財政の問題だけかどうか知りませんが、もう少し頑張ってほしいです。

百日咳ワクチン

百日咳が流行していることから、その予防接種を希望する方がいるという話を聞きました。

当院でそのような相談を受けたことは今のところありませんが、今後に備えて、考え方をまとめておきます。

乳児が罹ると重症化しやすいので、いわゆる「ワクチンデビュー」の接種に百日咳ワクチンは含まれています。

いまは「5種混合(ジフテリア、百日咳、破傷風、不活化ポリオ、ヒブ)ワクチン」として接種を開始します。

少し前までは、ヒブを除いた「4種混合」で、もう少し前までは不活化ポリオも含まない「3種混合」でした。

5種混合は、標準的には0歳の前半で初期接種を3回、1歳になってから追加接種(通算4回目)を行います。

その後、5回目の接種を行うのは、定期接種においては「2種混合」に含まれるジフテリアと破傷風だけです。

なので現状の定期接種制度では、とくに学童期以降の、百日咳とポリオの免疫切れが懸念されています。

小児科学会は、学童期の百日咳とポリオを予防するために、5〜6歳時に5回目の接種を提唱しています。

さらに11〜12歳時には、百日咳ワクチンの通算6回目の接種も推奨しています。

このうような接種スケジュールは、欧米ではすでに標準的ですが、日本ではどうしても導入が遅くなります。

日本人は有効性よりも安全性を重んじるので、何よりも副反応に厳しく、接種を増やすことには慎重なのです。

百日咳はしばしば、小中学生から青年期での集団感染があります。これは免疫切れの年齢層に一致します。

当院でもこのところ、中高生や成人の百日咳(の疑いを含む)患者が出ていますが、幸い重症者はいません。

ただこの病気は、乳児の感染を防ぐことが重要であり、乳児の感染源のほとんどが親や兄弟だとされています。

だからこそ、もっとも感染者の多い小中学生に、ワクチンを接種する必要と意義があるのです。

このことはずいぶん前から指摘されているのに、いまだに百日咳ワクチンの定期接種回数は4回のままです。

当院では、年長児と6年生に対して、百日咳予防のための3種混合ワクチンの接種を推奨していく方針です。

とくに、赤ちゃんが生まれる予定のご家庭では、その兄弟への接種を強くお勧めします。

RSウイルス母子免疫ワクチン

「RSウイルス感染症」は、近隣の保育園やあちこちで、いまも散発しています。

2歳までにほぼすべてのお子さんが感染する病気ですが、肺炎や細気管支炎を起こしやすところが問題です。

毎年約3万人の乳幼児、とくに生後1〜2カ月の赤ちゃんが、RSウイルス感染症で入院治療を受けています。

そこで赤ちゃんへの免疫を付けるために、妊婦に接種するワクチンが開発され、日本でも昨年承認されました。

妊娠24〜36週の妊婦に接種して、抗体が胎盤を通して胎児へ移行するのを期待します。

商品名は「アブリスボ」。各医療機関での任意接種料金は、3万円台のところが多いですね。髙いです。

基本的には妊婦専用のワクチンなので、当院ですぐに取り扱う予定はありませんが、その検討はしています。

RSウイルス感染症はまた、高齢者の呼吸器感染症としても重要で、こちらは2年前からワクチンがあります。

商品名は「アレックスビー」。任意接種料金は2万5千〜3万円。当院でも近いうちに接種を始めるつもりです。

いずれのワクチンも、すでに対象者への助成を行っている自治体があります。すばらしい取り組みですね。

こういった予防接種予算には、各自治体でかなり温度差があります。残念ながら熊本市はいつも低調です。

最近では、静岡県の袋井市が、妊婦用RSウイルスワクチンの接種費用の半額を助成すると報じられました。

袋井市と言えば、じつは私は毎年寄付(ふるさと納税)をしていて、返礼品にメロンをいただいています。

私の寄付が、地元ではなく他県のお子さんの健康に寄与しているのだとすれば、なんだか複雑な心境です。