「さすまた」を振り回す使い方も、ある

貴金属店に押し入った強盗を、猪八戒似の(失礼)ガードマンが刺股(さすまた)で撃退した拍手喝采な事件。

刺股をあのように振り回す使い方があるのかと、しかも実際効果抜群じゃないかと、映像を見て驚きました。

たしかに刺股は本来、「刺す」「股状の」器具であって、おもに首などを壁側に抑え込む使い方ですよね。

しかも、複数の刺股で同時に別々の角度から刺して抑え込んでこそ、威力を発揮するモノだとされています。

ひとつだけを「刺し出す」と、その股状の部分を相手に両手で掴まれたら、容易に奪われてしまいそうです。

そうなると、その相手に本来の持ち手の棒状の部分で突かれたら、形勢は完全に逆転してしまいます。

だからこそガードマンは、相手に股を持たせないために激しく振り回したのかと、そう考えると腑に落ちます。

まあなんにせよ体格の良い方ですから、刺股でなくてもそれこそ猿股でも、武器にできそうな勢いでしたね。

「刺股」と聞くたびに、昔教科書で読んだ、魯迅の『故郷』を思い出す人もいるでしょう。私もその1人です。

「チャー」を捕まえるときの武器が刺股。チャーとは、ミュージシャンじゃなくて、西瓜を食べる獣ですね。

そして、チャーと同時にに思い出すのが、「ヤンおばさん」ということになります。

懐かしくなって青空文庫で読んで驚きました。「刺股」も「チャー」も「ヤンおばさん」も出てこないのです。

それぞれ、「叉棒(さすぼう)」「土竜(もぐら)」「楊二嫂(ようにそう)」。なにそれ。もうガッカリ。

と思っていたら、さきほどの井上紅梅の訳ではなく、佐藤春夫の翻訳版もありました。

こちらには「刺又」「チャー」「楊小母さん(ヤンおばさん)」が出てきました。これですよ教科書のやつは。

翻訳者の言葉の使い方・選び方って、こうも違うんですね。

井上版で習っていたら、これほどまでに私の記憶に残る小説ではなかったかもしれません。