「豚カツ」が、わが家の食卓に上るとき、ほぼ必ず「豚汁」が添えられます。以前からそういう流儀なのです。
その「豚汁」のことを、東京などでは「とんじる」と言うようですが、わが家では昔から「ぶたじる」です。
「とん」は「豚」の音読みで「ぶた」は訓読みですが、「汁」の音読みは「じゅう」で「しる」は訓読みです。
したがって、「ぶたじる」は訓読みですが、「とんじる」と読んでしまうと「重箱読み」になります。
昔は全国的に「ぶたじる」だったそうですが、NHKの塩田氏によると、東京から「とんじる」が始まったとか。
2000年の調査では、北海道を除く東日本が「とんじる」、それ以外が「ぶたじる」という分布でした。
しかし「とんじる」の勢力範囲は年々拡大し、その後は近畿地方も「とんじる」に寝返っています。
こうして、テレビ等による東京からの情報発信力の強さによって、全国に「東京方言」が広がっていくのです。
いまや「ぶたじる」は、九州北部と北海道と鳥取に局在した、マイナーな読み方になってしまったようです。
九州はともかく、北海道と鳥取に共通する読み方と聞くと、松本清張の『砂の器』を思い出してしまいます。
あの映画では、東北地方と出雲地方に共通する「ズーズー弁」が、重要な鍵となりました。
それが「かめだ」ではなく「とんじる」だったとしたら、丹波哲郎と森田健作は鳥取砂丘を歩いたはずです。