他動詞と自動詞

扁桃腺を腫らした子が最近よく来院しますが、予想に反して、溶連菌やアデノウイルスが検出されません。

つまり、それら以外の病原体感染による、急性扁桃炎というわけです。熱は高めですが、けっこう元気です。

「扁桃腺を腫らした子」と冒頭に書いたのは、「扁桃腺が腫れた子」と書くよりも、表現に味があるからです。

「腫らす」は他動詞で、「腫れる」は自動詞です。

患者は意図的に扁桃腺を腫らしているわけではないので、自動詞で書いた方が、医学的には正しいのでしょう。

しかし敢えて他動詞で書くことで、「腫らしてしまった」という苦悩や後悔を表現できるような気がします。

同様に、「熱が出た子」よりも「熱を出した子」の方が好きですが、よく使うのは「発熱した子」ですね。

漢語を使うと叙情的なニュアンスが消えてしまい、いかにも科学的・客観的で無味乾燥な表現になりますね。

前にも書いたことがある、自動お湯張り浴槽のアナウンス「<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1418.html" target="_blank" title="お風呂が沸きました">お風呂が沸きました</a>」は、自動詞です。

これを他動詞で「お風呂を沸かしました」と言われると、「そう言うあんた誰?」とツッコみたくなります。

自動詞も他動詞もある動詞の場合、主体(主語)をボカしたいときに、自動詞を使うのかもしれません。

だからたとえば病状を客観的に表現するときは、「腫れる」「熱が出る」の方が適切なのでしょう。

そしてもっと(いかにも)医学的に言おうとすれば、「腫脹する」「発熱する」となるのでしょう。

一方で将来、AI家電が家中に配置される時代になると、それらはみな擬人化してくるかもしれません。

アナウンスもたぶん、他動詞を使い始めるのでしょう。「お風呂を沸かしましたよ」みたいに。