当院の問診票の右上には、院内で測った体温を記載する欄があります。
来院して検温して初めて、「あらっ、八度五分ありました」と、熱があることに気づく方もけっこういます。
「八度五分」というのはもちろん、「38度5分」のことであり、しばしば「三十」の部分は省かれます。
これを「38.5度」と言うこともできますが、体温の場合は伝統的に「○度○分」という表現をよく使います。
一方で気温の場合には、「36.5度」のような言い方が慣用表現とされています。
民放ではたいていこれを使っており、普通にわかり易く感じます。
ところが、NHKは今なお「36度5分」のようにしか言いません。まるで体温みたいで私は違和感があります。
最近の「NHK放送用語委員会」でこの点が議論されましたが、結局、従来通り「○度○分」でいくようです。
気温も体温もいずれも同じ温度を指すものであり区別する必要はない、というのがその理由です。
いやいや、区別すべきでしょう。体温というのは、単に体の温度を示すだけの数値ではありません。
とくに「熱」は、身体の兆候を現す重要な「所見」であり「体調」そのものです。
「九度」だというだけで、その人の病状を端的に表現することができ、医療者も身構えるのです。
言葉は世間の慣用に従って変化するのが自然なので、NHKのかたくなな態度は、いけません。
と、以前は考えていたのですが、状況によっては気温でも「○度○分」もアリかと、最近は思っています。
たとえば猛暑日の気温。「38.5度」よりも「38度5分」と聞いた方が、いかにも暑そうで汗ばみます。