ちぇすと行け!

大河ドラマ『西郷どん』の締めはいつも、「ちぇすと!、きばれ!」という西田敏行氏のナレーションです。

「ちぇすと」という鹿児島弁の意味は、なんとなくわかります。気合いを入れるための、かけ声でしょうね。

あらためて調べてみたら、その語源には諸説ありました。

(1)「強くすっど」→「つぇすっど」→「ちぇすと」

(2)「知恵を捨てよ」→「ちぇすてよ」→「ちぇすと」

(3)「胸(CHEST)を狙え」

このうち私は、いちばん突拍子もない(3)を支持しますね。だって鹿児島弁の語源が英語だなんて、面白い。

日常語で「胸」と言えば、おもに上半身の前の部分を指しますが、これは英語では “breast” です。

英語の “chest” は日本語とは異なり、頚部と腹部の間の胴体全部を指します。

医学用語では、胸部にはしばしば “thorax” という言葉を使い、「胸部外科」なら “thoracic surgery” です。

『CHEST』という名前の医学雑誌があります。胸部疾患に関する臨床・研究論文を掲載する英文雑誌です。

実はこれは、私が医者になって最初に著者に名を連ねた英文誌です。

もちろん自分では何も執筆しておらず、先輩医師のお情けで「共著者」にしてもらっただけです。

でも、その有名な医学雑誌に自分の名前が印刷されているのを見ると、励みになりましたね。

次は自分が「筆頭著者」になる!(=自分が論文を執筆するぞ!)と、やる気が出てくるものです。

前述の先輩は、『CHEST』は意外と審査が甘いから、頑張って論文を投稿したらどうかと勧めてくれました。

まさに「チェスト行け!」なわけですが、残念ながら私は、先輩の期待に沿うことはできませんでした。