大阪母子医療センターで、再使用が禁じられている機器を小児の心臓手術に使い回していたと報じられました。
まったく困ったものです。何が困ったものかって、その薄っぺらな報道ですよ。報じられているのは次の2点。
(1)子どもの心臓手術で、細い血管を一時的に遮断するために、脳動脈瘤用のクリップが便利なので流用した
(2)メーカーは再使用を禁止しているが、滅菌処理すれば利用可能と担当医らは考えて再使用していた
心臓外科手術では、血管を一時的に遮断する際には、さまざまな形や強さやサイズの鉗子を使い分けています。
とくに小さな血管を挟むときには、ブルドック鉗子とかクレンメと呼ばれる、小さくて精密な鉗子を使います。
しかし脳外科用のクリップの方が、奥深い場所に挿入しやすく、とても小さく便利にできています。
こういっちゃナンですが、私も何度か使ったことがあります。より繊細な手術操作のために有用だからです。
単純な構造の金属(チタン)クリップなので、通常の手術器械同様に、容易に滅菌できるはずです。
もしもクリップを滅菌しても感染のおそれが残るというのなら、ピンセットやハサミや鉗子だって同じです。
滅菌可能な手術器械は、再滅菌して再使用するのが原則であり、すべてを使い捨てにするわけにはいきません。
ただし脳動脈瘤用のクリップは、いちど挟んだら永久に挟み続ける、その安定性が求められます。
だから、再滅菌を繰り返すことによるクリップの劣化を危惧して、再使用が禁じられているのでしょう。
しかし心臓手術で一時的な血管遮断に使うのであれば、クリップの劣化はそれほど問題にはなりません。
挟んでみてイマイチなら、その場で別のクリップで挟みなおせばいいからです。
クリップの流用にも滅菌にも何の問題もないのに、規則違反だったということだけで、ひどい報じようです。
難易度の高い手術を成功させるために創意工夫をしたことが、どうしてここまで叩かれるのでしょう。