ケチな行政措置の問題

今夜開催された「熊本市予防接種説明会」において、熊本市独自の「行政措置制度」の詳細が判明しました。

<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1965.html" target="_blank" title="前にも書いた">前にも書いた</a>ように、規定通りに定期接種を受けていないお子さんに対する、熊本市の救済措置のことです。

ただし救済されるのは、ワクチン不足や制度不備が原因で、以下の接種が受けられなかったお子さんだけです。

(1)麻しん風しん混合(MR)ワクチン

(2)B型肝炎ワクチン

MRワクチンについては、ワクチン不足となった昨年9月以降に、接種対象年齢を過ぎた方が救済されます。

第1期でいうなら、1歳の終わり頃に接種しようとしたら、ちょうどワクチン不足で接種できなかった方。

第2期でいうなら、対象年度(今年度)の後半で接種しようとしたら、ワクチン不足で接種出来なかった方。

いずれにしても、もっと早く接種しとけば良かったのですが、まあ、そのような方を救済する措置です。

B型肝炎ワクチンの場合は少し複雑で、ワクチンも不足はしていますが、制度にも不備がありました。

定期接種が始まった時点で満3〜6カ月の対象者は、標準的な接種スケジュールが組めなかったからです。

この方たちは、標準的なスケジュールが組めるために、4カ月間だけ、接種期間が延長されます。

こういう救済措置をとるときお役人は、「救済しすぎ」をしないように、ギリギリの措置を構築します。

そこがケチ、というんです。

さらに、予防接種によって健康被害が起きた場合の補償制度が、法定(定期)接種と行政措置では異なります。

今月はまだ、あと10日あります。行政措置制度に安心せず、間に合うならなるべく定期接種を受けましょう。

専門外の手術を見て

最終回を迎えたドラマ『A LIFE』は、おおむね予想通りの、つまんないけどまあ許容範囲の展開でした。

興味深かったのは、脳外科手術のシーン、とくに再手術(残存腫瘍摘出術)の方です。

まず、何がどうなってるのやら、術野的には何も見えない。ひたすら血の海の中の手術だったということ。

私はまったく専門外なので、脳外科の手術の執刀はおろか、助手についたことすらありません。

しいて言うなら、学生実習で2,3回だけ、手術見学をしたことがある程度です。

ただ、心臓手術の場合でも、深い術野のそのまた奥の方の操作では、似たような視野になります。

周囲の血液を吸引しながら、その吸引操作自体が手術の邪魔にならないようにしながら、手術を進めます。

脳外科手術は、とにかく術野確保との戦いなんだなと、このたび改めて感じた次第です。

その緊迫した手術シーンは、ほとんど術野が見えない割には、妙にリアリティーを感じました。

画像的に何も出せない代わりに、術者と助手の言葉のやりとりが、たぶん生々しかったからでしょう。

しかしこのシーンを脳外科医が見たら、はたしてどう思ったのでしょうね。

「あー、ウソ臭い」とか「そんなこと、言わんぞ」などとクレームが出るのかもしれません。

このドラマ、心臓手術の場面で細かい違和感を感じたのは、たぶん私が(元)心臓外科医だからでしょう。

一般の方から見ると、すべての手術シーンが、とてもリアルに映ったのかもしれません。

つまりそれは、本当の手術場面を知らない者が、想像を膨らませて見ているからこそのリアリティーです。

今回、脳外科手術シーンを見て私がリアリティーを感じたのも、脳外科をよく知らないからなんでしょうね。

医療機能情報提供制度

住民が医療機関を適切に選択できるように、平成19年から「医療機能情報提供制度」が導入されています。

各医療機関が医療機能に関する情報を都道府県に報告し、都道府県がその情報をネットで公開する仕組みです。

医療機関のホームページや広告や院内掲示と比べると、統一されたバラツキがない情報、というのがウリです。

ただしその内容は、診療時間などを中心とした、比較的当たり障りのない客観的情報が中心です。

ためしに今朝8時すぎに「今見てもらえるお医者さんを探す」「小児科」「熊本市全区」で検索してみました。

検索結果は2件。そのうちの一方が当院でした。9時すぎに検索すると7件に増えていました。

診療受付時間までも考慮した、わりと細かいシステムのようです。

ただし、「今見てもらえる」という表記はおかしい。「今診てもらえる」の方が正しいでしょう。

それに、今日のように日曜日に「今見てもらえる」というのであれば、今日の当番医も含めて表示すべきです。

ところが現行のシステムでは、毎週日曜日に診療を行っている医療機関しか掲載されていません。

これは情報としては不正確だし、市民に対して不親切です。

当番医であろうとなかろうと、その日に診療している医療機関を表示するように、システムを改修すべきです。

ためしに東京都のサイトを見たら、本日診療している医療機関が、当番医込みで表示されました。グッジョブ。

市民目線で考えたら、当然東京都のようにすべきです。熊本県、遅れてます。改善の余地あり、です。

医療機能に関する情報を、医療機関が県に報告する期限は、今月末です。毎年だいたいこの時期です。

年度末に、平成28年度の報告を提出するのは大変かと思いきや、そうでもありません。

実は、報告するのは前年度の内容だからです。年度末に前年度というのは、つまり、平成27年度のことです。

したがって、当制度によって市民に提供される医療機能情報は、いつも2年遅れの情報ということになります。

ここにも、改善の余地があります。

マキロンの成分

子どもの頃、外で転んで膝を擦りむいたら、いつもオキシドールと<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1528.html" target="_blank" title="赤チン">赤チン</a>で消毒していました。

その2つの組合せが最強だと、私なりに思っていたのです。

その後、赤チンには水銀が入っているので良くないということになり、黄色のアクリノールを使い始めました。

やがて、使いやすくて色が付かない消毒液「マキロン」が発売されたら、そればかり使うようになりました。

薬剤の色が薄くなるにつれて、有効性はともかく、毒性(副作用)もないだろうと安心して使っていました。

しかし、その認識は間違いだったかもしれません。マキロンの成分には、毒性があったからです。

最近、医療系サイトにもマキロン関連の記事が出ていたので、注意喚起のために書き留めておきます。

問題となったのは、「マキロン」に含まれていた「ナファゾリン」という血管収縮薬の毒性です。

小児の内服致死量は、体重1kgあたり0.1mgとされているので、1歳の赤ちゃん(体重10kg)だと1mg。

マキロンへの含有量は1mlあたり1mgなので、たった1ml飲んだだけで死んでしまうということになります。

この点が問題となり、10年ほど前から、ナファゾリンが取り除かれた「マキロンs」に切り替わっています。

つまり、いま日本国民が「マキロン」と思って買っている消毒薬は、じつは「マキロンs」なのです。

確認のため、わが家のマキロンを見るとしかし、それは「マキロンs」ですらなく、「マッキンZ」でした。

コスモスで買ったのはマキロンの類似品でした。そしてその容器には、ナファゾリン含有と書かれていました。

このように、マキロンの類似品には、かつて問題となった成分がいまだに含まれているということです。

何か問題が起きると、成分と商品名をこっそり変えるのは、大手製薬メーカーのやり口です。

しかし類似薬では、そのような面倒なことをしてないので、問題が残ったままになります。要注意です。

川石からの合志

私が住んでいる熊本県菊池郡菊陽町は、熊本市のベッドタウンとして、人口が増え続けているようです。

2005ー2010年の人口増加率は、全国市町村で第4位、2010ー2015年も11位でした。

かく言う私も、数年前に熊本市内から菊陽町に引っ越したので、この増加率に微力ながら貢献しています。

職場は熊本市内ですが、ベッドは菊陽町なのです。

菊陽町に隣接する市町村は、熊本市と合志市と大津町と益城町です。

益城町は、「ましきまち」という難解な読みですが、今ではよく知られる町名になりました。

大津町は、「おおつまち」ではなく「おおづまち」と読みます。「津」が濁るのです。

合志市は、「ごうしし」ではなく「こうしし」と読みます。「合」は濁りません。

このなかで「合志」は、古い地名なのに音読みです。

なぜそのような漢字なのでしょう。元々の地名(大和言葉)との関係はどうなのでしょう。

そこで今日は、合志市の図書館に出かけて「合志」の名の由来を調べて来たので、その報告です。

合志市は、11年前に「合志町(こうしまち)」と「西合志町(にしごうしまち)」が合併して誕生しました。

旧合志町の図書館は震災被害で今なお休館中なので、西合志図書館で町史などを調べました。

どうやら古い地名は「火の尻邦小石川」だったと判明。それが後に「加波志(かわし)」になったようです。

「火の邦→火の国→肥の国」の「尻(後ろ)」つまり「肥後」の、川に石が多かった場所だったといわれます。

記載は見当たりませんでしたが、「川石(かわいし)→加波志(かわし)」と置き換わったものと推測します。

それが応神天皇の地名改称で「皮石」になり、さらに8世紀に「合志」になったそうです。

これは元明天皇の「佳字好音(かじこうおん)の詔」によるものです。

大和言葉を当て字で勝手に表記するのをやめて、佳い漢字で音も濁らない二文字にせよ、という勅令です。

なので、この土地の歴史的背景と「合志」の文字そのものは、まったく関係ないということになりますね。

「こうし」つながりで近隣には<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-903.html" target="_blank" title="孔子公園">孔子公園</a>までありますが、これも歴史的には無関係。便乗しただけです。

GUIは誰の発明か

いまとなってはどうでもいい論争ですけど、当事者の一人、ビル・ゲイツの発言が話題になっています。

パソコンを、画面上のアイコン等で操作する「GUI(グラフィカルユーザインタフェース)」は、誰の発明か。

私の認識は、こうです。多分にApple寄りの書き方なのは、異論もあるでしょうけど、ご了承ください。

(1)GUIはXeroxが発明したが、生かし切れてなかった

(2)スティーブ・ジョブズがそれを見つけ、製品化してMacをヒットさせた

(3)ビル・ゲイツがMacを真似て、製品化してWindowsを大ヒットさせた

ゲイツが言うには、自分がジョブズを真似たのではなく、自分もジョブズもXeroxにヒントを得たのだ、と。

つまり、お互いに同じ穴のむじな、五十歩百歩、目くそ鼻くそだというわけです。

似たような面が、スマホにもありますね。

スマホの原型を作ったのはAppleではありませんが、Appleがヒットさせ、いまはSamsungがトップシェア。

Samsungが真似たとAppleが主張すると、AppleだってSONYを真似たじゃないかとSamsungが切り返す。

Macで苦い思いをしたAppleは、iPhoneで同じ轍を踏まないよう、戦略を練ったのでしょうか。

販売数のシェアでは第2位に転落したものの、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1866.html" target="_blank" title="利益ベース">利益ベース</a>でのiPhoneのシェアは断トツだからです。

良い製品を創り、薄利多売はしない、というAppleの基本姿勢が、成功しているんだろうと思います。

この戦略がうまくいくのは、良い製品を創り続ける限りにおいて、ですが。

発音と表記

中国系の方は、長音や促音を省いて発音することが多いと<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1580.html" target="_blank" title="前に書きました">前に書きました</a>が、このたび新発見です。

最近来院された患者さんで、風邪を引いて鼻水がひどい方が、「鼻水 いばい」と訴えていました。

「いばい」の意味がわからず聞き直したところ、それが「鼻水 いっぱい」の意味であると確認できました。

なるほど、「いっぱい」→「いぱい」→「いばい」なんですね。と、ここまでは、まあわかります。

ところが、その方が書いた問診票の、主訴(主な症状)の欄にも、「鼻水 いばい」と記載されていたのです。

つまりこの方は、「いっぱい」という日本語を、「いばい」と聞き取り、「いばい」と理解していたわけです。

なので、しゃべるときに「いばい」と言うだけでなく、文字で書いても「いばい」なのです。

中国の方にありがちな発音は、発音自体の問題ではなく、聞き取りの段階に原因があるということです。

あるいは、外国語の発音は、自分が発音できる範囲でしか聞きとれないのでしょうか。

このことは、外国語の学習において、とても重要なことかもしれません。

マイコプラズマの薬

「オゼックス」という抗菌剤が、小児のマイコプラズマ肺炎に対して処方できるようになりました。

オゼックスは、ニューキロノン系という種類の抗菌剤の中では、7年前に初めて小児用が認められた薬です。

ただし副作用を考慮して、その適応は「肺炎、コレラ、中耳炎、炭疽」に限られていました。

しかもその肺炎は、肺炎球菌やインフルエンザ菌による肺炎などに限定されていました。

マイコプラズマ肺炎にも効くことはわかっていましたが、先月までは正式には使えなかったわけです。

従来、マイコプラズマ感染(肺炎)に対しては、マクロライド系という抗生剤が第一選択でした。

いま「抗菌剤」と「抗生剤」を、あえて書き分けましたが、今回その話題は掘り下げないでおきます。

ともかく、上記以外の疾病に対してオゼックスをを使うことは禁じられていたわけです。

実際の臨床では、治りの悪い中耳炎に対して、よく使われています。

ところが、昨年流行したマイコプラズマ肺炎には、マクロライド系がほとんど効きませんでした。

マクロライド系ではまったく下熱しないし咳もひどいお子さんに、切り札としてオゼックスを処方しました。

すると、ウソのように下熱して、たちどころに病状が改善するということを、昨年何度も経験しました。

ただしその際、レセプト上の病名は中耳炎です。マイコプラズマ肺炎にオゼックスは使えないからです。

もちろん、まったく中耳炎所見がなかったわけではない症例を選んだと考えてください(苦しい言い訳)。

そんな言い訳も、今月から不要になりました。今後は堂々と、マイコプラズマにオゼックスが使えます。

ただし逆に、軽い中耳炎などにいちいちオゼックスを使うのは、避けなければなりません。

安易に使っていると、やがてそのうちオゼックスが効かないマイコプラズマが出てくるでしょう。

このようにしてわれわれ医者(あるいは人類)と病原体は、いたちごっこを続けているのです。

手術と準備

手術シーンが減って、どんどんつまらなくなってきたドラマ『A LIFE』第9話ですが、まだ見てます。

「○○術を始めます」と始まる手術は、術野をほとんど写さないまま、短時間で創閉鎖シーンに至ります。

キムタクの心臓手術も、浅野忠信の脳外科手術も、ともに執刀医が皮膚縫合を最後まで行っていました。

そんなことってあるんでしょうか。皮膚縫合の段階で、若手医師が執刀を交替するのが普通じゃないですか。

外科医はそのように、簡単な手術手技から修練を積み重ね、だんだんと難しい部分を担当していくものです。

「メッツェン」という指示で手渡されたハサミで、今日も執刀医たちは皮膚縫合の糸を切っていました。

そんなことってあるんでしょうか。皮膚の縫合糸ごときを、大切な「メッツェンバウム」で切るなんて。

普通は「クーパー」か、百歩譲って「メイヨー」でしょう、そんな糸を切るときは。

そんな問題点はあったものの、今日は良いシーンもありました。それは「シャドーオペレーション」です。

手術操作の流れを具体的にイメージしつつ、手を動かし声を出して「通し練習」をすることです。

私も研修医時代からずっと、大事な手術の前日には必ず、シャドーオペレーションをしました。

手術の最初から最後までのすべての手順を、実際に行う通りに、きわめて細かく進めていきました。

執刀医として一人で行うこともあれば、助手やナースも参加させてチームで行う場合もありました。

私が初めて心臓手術を執刀したときの、手術前夜のシャドーオペレーションは、今でもよく覚えています。

テーブルを隔てて指導医と向かい合って立ち、「メス」という言葉からシミュレーションを始めました。

次に何をやるのか、たびたび手順がわからなくなり、自分の勉強不足・準備不足を思い知ったものです。

そんなことを思い出させてくれたので、今回の『A LIFE』はまあ、許すことにしますが、次回がもう最終回。

はなみず

1週間ぐらい前から、花粉症の人が急増しています。

その多くが、ヒノキアレルギーの方です。西日本は今月、ヒノキ花粉が悲惨なほど飛散しているそうです。

花粉症のおもな症状は鼻水ですが、鼻づまりや目の痒みや、咳が出たり頭痛を起こしたりもします。

「鼻水」というのは、鼻孔から出てくる粘液(鼻汁)のことですが、単に「はな」とも言いますね。

しかし「はなが出る」を「鼻が出る」と書くのは、おそらく間違いです。「鼻から鼻が出る」となるからです。

こういう場合の「はな」には、「洟」という漢字があります。

つまり「みずばな」は「水洟」であり、「あおばな」は「青洟」が、本来の正しい表記なのでしょう。

実際には私は、カルテに「水鼻」や「青鼻」と書いています。「洟」が一般的な漢字ではないからです。

でもたしかに、水鼻は水でできた鼻じゃないし、青鼻は青い鼻梁でもないわけで、違和感はあります。

「赤鼻」との整合性もとれません。

「洟」の意味では「鼻」を使わずに、「水ばな」とか「青ばな」と、かなで書くのが良いのかもしれません。

辞書には「鼻洟(はなみず)」とか「洟水(はなみず)」なんて言葉もありました。念の入った表現です。

さらに、鼻水の意味がある漢字として「泗」の字も見つけました。孔子ゆかりの土地「泗水」の「泗」ですね。

その孔子にちなんで、熊本の合志(こうし)川沿いの村の名前が「泗水」となった話は、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-903.html" target="_blank" title="前に">前に</a>書きました。

この「泗」は、泣いたときに涙が鼻の中を通って出た鼻水の意味だとか。中国人、表現が細かいです。