誤解を招くようなタイトルですが、誤解の無いようにお願いします。ワクチンは安全ですよ、という話です。
薬瓶(バイアル)入りのワクチンは、ゴム栓を注射針で貫いて、中身の薬液を吸い出して使用します。
2人分以上の含有量があるバイアルでは、1度針を刺した後、時間をおいてもう一度針を刺して薬を吸います。
針を刺す際にゴム栓を消毒しますが、それでも、針を刺すことで、内部が細菌に汚染される危険があります。
この汚染が原因で、多くの犠牲者が出た事件が起き、ワクチンには保存剤が入れられるようになりました。
いま、インフルエンザワクチンの多くが、保存剤入りです。保存剤にはおもに「チメロサール」が使われます。
チメロサールは、殺菌作用のある水銀化合物です。体内に入ると代謝されて「エチル水銀」に変わります。
「エチル水銀」は、水俣病の原因である悪名高き「メチル水銀」とよく似た名前の、有機水銀です。
このことなどから誤解され、チメロサールはかなり、毛嫌いされてきました。今もです。
そのことを考慮して、チメロサールフリー(含有なし)のインフルエンザワクチンも製造されてきました。
胎児への影響を心配する妊婦さんなどから、問い合わせの多いワクチンでした。
しかし今年は、全メーカーですべてのインフルエンザワクチンが、チメロサール含有になりました。
化血研が、震災の影響でワクチン原液の製造開始が遅れ、製造量が大幅減産となったためです。
他のメーカーが化血研の分を補って増産すべく、手間のかかるチメロサールフリーの製造を中止したのです。
私はしかし、これで混乱が鎮まると思っています。チメロサール騒動は、誤解から生じたものだからです。
その理由を挙げると、
(1)チメロサールの代謝物であるエチル水銀と水俣病のメチル水銀は、毒性がまったく異なる
(2)仮に毒性が同等としても、チメロサールのワクチンへの含有量はきわめて少ない
まず(1)は、純粋に医学的・生物学的な事実です。
例えるなら、メチルアルコールとエチルアルコールの違いのようなもの。前者は毒物であり、後者は飲物です。
次に(2)にも、たとえ話があります。それは、マグロの刺身との比較です。
1回のワクチン接種で、体内に入るエチル水銀の量は、約1μg前後と計算されます。
一方で、たとえばクロマグロの刺身ひと切れには、毒性の強いメチル水銀が約8μg含まれているそうです。
つまり自然界とくに水産物にはあちこちに有機水銀があり、人間はそれを食物の中から摂取しているわけです。
それなのに、科学的にはあまり意味の無いチメロサールフリーワクチンが製造されてきた理由は、ただひとつ。
科学的説明だけでは納得できない人に、安心してワクチンを接種してもらうための、ある種の方便なのです。