EBMとNBM

EBM(Evidence Based Medicine:根拠に基づく医療)という言葉は、もうだいぶ前からよく聞かれます。

医学という自然科学は、過去の研究成果に基づく科学的理論(理屈)によって、成り立っています。

だから病気の診断や検査や治療は、すべて、理にかなったものでなければなりません。これがEBMです。

NHKの「Doctor G」では、理詰めで診断を突き詰めていく、まさにEBMの一端を見ることができます。

あれは診断までですが、その後も、根拠に基づいた精密検査や治療を進めて行くのが、まさにEBMです。

しかし実際の臨床現場では、なかなか理詰めにはいきません。理屈ではない、人間的な対話が必要なのです。

「今日はどうされましたか?」「風邪をひきました」「風邪かどうかはわかりませんよ」

冒頭からそのような正論を言ったところで、しょうがないのです。

「今日はどうされましたか?」「風邪をひきました」「おや、それは困りましたね」

そんな会話から、病歴や病態を探り始めなければなりません。

既往歴や家族歴、家庭の心配事や仕事のストレス、ネットで得た知識や希望する医療など、人それぞれです。

そのような「患者が語る物語」を尊重する医療を、NBM(Narrarive Based Medicine)と呼びます。

以前にも書きましたが、たとえば風邪に抗生剤を処方するようなケースは、EBMとNBMの混合と言えます。

私「熱はやや高いですが、全身状態が良いので、あと1日、経過をみましょう」←EBM

患「心配なので、血液検査をしてもらえませんか」

私「それが安心ですね」←NBM

患「抗生剤も出してください」

私「白血球数もCRPも正常でした。抗生剤は必要なさそうです」←EBM

患「念のためお願いします」

私「ですよね」←NBM

恋文は夜書くな

「夜に説教を書くな。夜は悪魔が支配している時間だから」という格言を、佐藤優氏が紹介していました。

これはある神学者の言葉だそうですが、昔からこの手の話は、よく聞きます。

私は中学生の時に、「恋文は夜書くな」と習いました。大胆なことを書きすぎる、というわけです。

しかし逆に言えば、夜でなきゃ、思い切った恋文など書けませんよ。朝っぱらから書けますかって。

現に、中3のある晩、書きました。・・・ふられましたけど。夜書いたのが原因ではありません。

いや、朝であれば恋文など書けなかったわけで、ふられることもなかったのかもしれません。

研修医の時にも、「論文は夜書いても朝読み直せ」と教えられました。これも同じ意味合いでしょう。

昼間っから執筆できる暇などありませんが、たとえ夜書いても、昼間の頭でチェックしろ、というわけです。

佐藤氏は、「非常にとがった論戦的な文書を書いている人はだいたい夜に書いている」と分析します。

しかし必ずしも、とがった文章が悪いとは限りません。逆にとがりたければ、夜書くべきなのです。

当ブログはいつも、仕事から帰って、風呂に入って、夕食を済ませてから、執筆を開始しています。

締切は当日中。つまり23時59分。なのでブログはいつも、午前0時前の2,3時間で書くことになります。

それなりに推敲などしていますが、それも夜です。毎日毎日、夜の頭で書いた文章です。

でも、それが不利だとは思っていません。このようなブログはむしろ、とがって挑発的なのがいいと思うので。

たべるのがおそい

<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1568.html" target="_blank" title="芥川賞">芥川賞</a>は、村田沙耶香の『コンビニ人間』が受賞しました。今村夏子の『あひる』じゃなかった。

たまたま先週、日経の文化欄で、地域発の文芸誌が紹介されていました。そのひとつが『たべるのがおそい』。

『たべるのがおそい』。これで雑誌名です。福岡発。今年4月に創刊され、年2回の発行予定だとか。

こんな雑誌があったことに「気付くのがおそい」私です。食べる速さは、中の上です。

その存在を知るやいなや、ただちにAmazonで注文しました。「衝動買いするのは早い」のです。

そこに掲載されていた、今村夏子の『あひる』が芥川賞候補になっていたことも知らずに、発注したわけです。

それが昨日届いたので、芥川賞の選考会前に読むことができた行きがかり上、『あひる』を応援していました。

今回の候補作は5つ。発表された文芸誌は、『文學界』『文學界』『群像』『新潮』『たべるのがおそい』。

いやいやどうですか。そうそうたる文芸誌に並んで『たべるのがおそい』の脱力感は、なかなかです。

『あひる』は、中学生が書いたような平易な文章なのに、読み進むうちに、いや〜な予感が立ちこめてきます。

主人公と、その親と、近所の子どもたちという3世代の、そのどれにも感情移入できるのが不思議でした。

『<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1354.html" target="_blank" title="火花">火花</a>』で挫折した人でも、読めます。

蛸とタコ

昨日の「ペン胼胝(だこ)」ネタからの、スピンオフ。あるいは「タコ」あれこれ+α。

動物の「蛸」をなぜ「タコ」と呼ぶのか。調べてみたら、意外と定説がありませんね。

「タコ」の「タ」が、「手」から来ているという点では、諸説のうち多くが一致しています。

それ以上掘り下げても、いまひとつ盛り上がらないので、また新情報があったら書きます。

子どもの頃、自動車に「タコメーター」というものがあると知ったときは、おかしくてたまりませんでした。

だって「タコ」メーターですよ。想像力豊かな子どもなら、どんな物体を思い浮かべるでしょう。

小学生を集めて、クレヨンと画用紙与えて、「タコメーターを描いてごらん」などと課題を出してみたい。

タコメーターは、回転速度計のことですね。それを記録する(した)ものが「タコグラフ」。これも笑えます。

夏休みに、蛸の研究発表をするときには、棒グラフや円グラフのかわりに、蛸グラフできまり。

「タコ “tacho”」は、速さを意味する接頭語。「タキカルディア “tachycardia” 」なら「頻脈」の意味です。

「タキる」という俗語は、医療現場でよく使います。頻脈(頻拍)になることを指します。

頻脈がもしも「タコカルディア “tachocardia”」だったら、「タコる」と言ったんでしょうね。

「タキる」という言葉は、「タ」が「多」に、「キ」が動悸の「悸」に通じるのも、都合がいいですね。

なので漢字を当てるなら「多悸る」でしょう。ついでに、「動悸る」で「ドキる」なんてのはどうでしょう。

「悸」の字を、漢和辞典などで調べていたら、新発見。これ一字で「むなさわぎ」とも読むんですね。

平安時代の「新撰字鏡」に、「悸」とは「和奈々久、豆々志牟、加志古万留、加志古牟、於曾留」とあります。

これで「わななく、つつしむ、かしこまる、かしこむ、おそる」と読むのがまた、パズルみたいで面白い。

於志万為。

ペン胼胝

奥本大三郎氏が今朝の日経に書いていたエッセイ「ペン胼胝(だこ)」を読んで、発見したことについて。

ペン胼胝なら、私の中指にも大きいのがあります。高校時代、ふとクラスメートの手を見て驚いたものです。

同じぐらい勉強している(はずの)友人よりも、私のペン胼胝の方が、はるかにデカいのはなぜ?

毎日書いている文字数が、他人よりも際だって多いのか。あるいは、シャーペンの握り方に問題があるのか。

それ以来、他人の手を見るとまず、ペン胼胝の有無や大きさを観察するという、変な癖が付いてしまいました。

そして、これまでに出会ったほとんどの方々よりも、私のペン胼胝の方が大きかったのです。

しかしこれは自慢ではなく、学生時代には、むしろ私のコンプレックスとなりました。なにせ不格好です。

さいわい、年齢を重ねるうちに、ペン胼胝のことなど、いつのまにか気にならなくなっていきました。

そんな私に、おそらく四半世紀ぶりに、ペン胼胝のことを思い出させたのが、奥本氏のエッセイでした。

ところが今日、何気なく自分の手を見て、腰を抜かすほど驚きました。ペン胼胝が、無いのです。

あの隆々とした、土手のような、固くて不格好なペン胼胝が、忽然と姿を消しているのです。

文字を書くのはパソコンばかり。長年ペンを握らないと、ペン胼胝も「退化」するということでしょうか。

しかしそれよりも、ペン胼胝が消えたことに、今日の今日まで気付かなかったことに、愕然としたのでした。

生ワクチンの接種間隔

生ワクチンを接種したら、比較的強い免疫が付きますが、1回の接種で絶対確実とは限りません。

また、一度は免疫が付いたとしても、それが長持ちするかどうかも、わかりません。

確実に強い免疫を付けるためには、多くの生ワクチンで、2回目の接種(追加接種)が必要です。

早い効果を期待するなら早めに追加接種した方が良く、免疫を長持ちさせるためなら数年後の接種が有効です。

MRワクチンは、1回目の接種(1歳児)で、比較的強く免疫が付きます。

2回目をすぐに接種する必要はなく、長持ちさせるための第2期接種は、年長児つまり1回目の4,5年後です。

水痘ワクチンは、1回目の接種では免疫獲得が弱いとされています。

一年中流行しているので、2回目の接種はなるべく早く行う必要があります。

定期接種では3カ月以上の間隔をあける規定があるので、当院では、3カ月間隔での接種を推奨しています。

おたふくかぜワクチンも、1回目の接種では、それほど強い免疫が付かないことが多いようです。

水痘ほどの流行や感染力はないので、2回目は免疫を長持ちさせるために、1回目の数年後に行います。

当院では、3年間隔を推奨していますが、将来定期接種になれば、MRワクチンと同じ間隔になるはずです。

と、考えてきたのですが、事情が変わりました。いま日本中で、おたふくかぜが流行中だからです。

2回目の接種を待っている間に、感染するかもしれません。2回目は、なるべく早めがよいでしょう。

長期間の免疫持続には疑問が残りますが、現状では、最短期間の4週間間隔での接種がいちばんお勧めです。

一方で水痘は、定期予防接種が始まって、発生が激減しています。ワクチンの効果は、絶大ですね。

こうなると3カ月間隔の接種ではなく、長持ちさせるために1年以上あけた方が、いいのかもしれません。

当院でお勧めする、ワクチンの接種間隔が変わりますが、このような事情ですので、ご了承ください。

庭にネットを張る

わが家の愛犬「<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1709.html" target="_blank" title="花(はな)">花(はな)</a>」は小型犬なので、主に室内で飼っていますが、庭でも遊ばせています。

音に敏感で、洗濯機のアナウンス音とか、町内放送とか、近隣を走るバイクの音に対して、しきりに吠えます。

庭の境界は<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-381.html" target="_blank" title="プリペット">プリペット</a>の生垣です。これまで花は、この生垣の根元の低い塀を越えたことはありませんでした。

しかし今日、ついに越えて脱走しました。

あわてて探しに出てみると、花は中学生たちに囲まれていました。ちょうど、近隣の中学生の下校時間でした。

花は中学生に、 “How are you?” などと話しかけられていました。

中学生たちは、ちょうど英語の習い始めなのかもしれません。花の答えはもちろん “One” です。

今後の花の逃亡を防ぐために、庭の境界部にネットを張ることにしました。

ハンズマンに行くと、そんな用途のネットがすぐ見つかりました。

「犬猫の侵入を防ぐ」と書いてあるので、「犬の逃亡を防ぐ」ためにも使えるはずです。

幅1メートルのネットは、長さ50メートルで2,600円ですが、測り売りだと、1メートル当たり148円でした。

つまり、18メートル以上買うなら、50メートルの商品を買った方がお得、という計算になります。

ま、今回は、とりあえずず、生垣の手薄な部分にだけ張るつもりなので、10メートルあればいいでしょう。

というわけで、10メートル1,480円で購入。帰宅して、せっせとネット張り作業を行いました。

庭の隅で、しゃがんで作業するのは疲れますね。腰は痛むし、汗がダクダク、蚊には刺されまくり。

で、やってみると、10メートルじゃ足りません。最初から50メートル買っておくべきでした。

見通しが甘く、なおかつケチるので、たいていこのように後悔します。

胸部レントゲン検査

頻度はそれほど多くはないですが、当院でも、胸部レントゲン検査をときどき行っています。

肺炎や胸膜炎や気胸を疑うときや、心不全や他の心肺疾患の経過観察のために、定期検査する場合もあります。

フィルムではなく「イメージングプレート」という、X線を感知するセンサーの板をセットして、撮影します。

そのプレートを、読み取り装置に入れると、専用のパソコン(Windows)上に画像が出てきます。

このようなシステムを「CR(コンピュータX線撮影)」といい、いまの医療現場では一般的です。

画像は院内LANを介して、診察室の電子カルテの端末(Mac)でも見ることができます。

さてその、専用のWindowsパソコンが古いので更新しましょうよと、CRメーカーが見積を持って来ました。

パソコン本体とモニターとCR用ソフトが、すべて最新版になるそうです。

総額275万円のところ、特別に205万円値引きして、見積額は70万円。そういう価格の出し方がまず、イヤ。

レントゲン撮影の時、スイッチはいつも規則通り、私が押しています。看護師に押させるのは、違法行為です。

「はい、息を大きく吸って〜、止めてっ!」などと、インターホン越しに呼びかけて、スイッチを押します。

「はい、息を大きく吸って〜、吐きだしてっ!」と、言い間違えてしまったことが、一度ありました。

「は〜い、では次、本番行きますよ〜」と続けて、ごまかしました。

東京都知事と日本

鳥越俊太郎氏の、昨日の東京都知事選への出馬会見は、準備不足の感が否めませんでした。

その後、丸1日準備ができたはずなのに、今日の共同会見も内容に乏しく見えました。期待していたのに残念。

鳥越氏が、本日強調した2点もガッカリです。

「東京都の出生率は全国最低レベル」昨日の会見での間違いを修正はしたものの、政策が何もありません。

「がん検診率100%の達成」自分のガン経験を利用したい気持ちはわかりますが、それが都政の目玉???

参院選の結果を見て国政の方向性を危惧し、出馬を決意したという鳥越氏。

では、都知事になって国政をどう変えるのか。今日の会見で質問されても、具体的な回答は出ませんでした。

しかし、鳥越氏のていたらくはともかく、東京都知事選挙はたしかに、東京都民だけの問題ではありません。

たとえば、近隣の県から東京に出勤してくる多くの人々は、東京都の道路や設備をいつも利用しているはず。

その意味では、昼間人口を構成する都外在住者にも、都知事の選挙権が少しは与えられてしかるべきでしょう。

日本の首都という観点からは、それこそ私を含む全国民に、それなりの選挙権があってもいいかもしれません。

都民の選挙権を1人1票とすると、隣接県民は1人0.3票で、その他の道府県民は0.1票、とかね。

将来、ネット投票の時代が来て、自宅でワンクリック投票ができるようになったら、簡単に実現できそうです。

塩分と高血圧

塩分と高血圧は、関係が深いもの。今夜のテレビ番組でも、それをとり上げていました。

私自身、ずいぶん前から、塩分控えめの食生活を意識しています。

刺身や冷や奴も醤油を使わず、ワサビや生姜だけで食べることには、すっかり慣れました。慣れるものです。

番組では、被験者に一定の食事を摂らせて、尿にどのぐらいの塩分が出ているかなどを検証していました。

それで思い出すのが、学生時代の3年生の時の、生理学の実習です。

摂取した水分とその内容によって、どのぐらいの水分と塩分が尿に出てくるか、それを人体実験するものです。

各班のメンバーが、それぞれ何を飲むかを、話し合い(またはじゃんけん)で決めます。

決められた時間のうちに、自分が担当する水分を摂取し、定期的に尿を採取して、その量と成分を分析します。

私に割り当てられたのは、「ビール1リットル」でした。これは、はっきり言ってラッキーです。

ラッキーですが、朝からビールをイッキ飲みするのは、ちょっと後ろめたいような感覚でした。

他の班員は、例えば、水1リットルとか、重曹水1リットルなど、ビールよりも厳しい飲料でした。

しばらくして、みな尿意を催すので、トイレで尿を採取し、尿中の塩分量などを計測します。

しかし、ビールを飲んだ連中だけは、なぜか実習室を離れ、ぬら〜っと、生協に集まりました。

そこにはつまみがあるからです。ビールだけ1リットル飲まされて、つまみナシはあり得ないでしょう。

私はたしか、烏賊の姿焼きみたいなのを食べました。何かの缶詰も食べたかもしれません。

さらに、つまみが入れば余計にビールを飲みたくなるもの。生協で、追加のビールを摂取してしまいました。

このようにして、規定の1リットルを大きく上回るビールを摂取し、実習など、どうでもよくなったのです。