EBM(Evidence Based Medicine:根拠に基づく医療)という言葉は、もうだいぶ前からよく聞かれます。
医学という自然科学は、過去の研究成果に基づく科学的理論(理屈)によって、成り立っています。
だから病気の診断や検査や治療は、すべて、理にかなったものでなければなりません。これがEBMです。
NHKの「Doctor G」では、理詰めで診断を突き詰めていく、まさにEBMの一端を見ることができます。
あれは診断までですが、その後も、根拠に基づいた精密検査や治療を進めて行くのが、まさにEBMです。
しかし実際の臨床現場では、なかなか理詰めにはいきません。理屈ではない、人間的な対話が必要なのです。
「今日はどうされましたか?」「風邪をひきました」「風邪かどうかはわかりませんよ」
冒頭からそのような正論を言ったところで、しょうがないのです。
「今日はどうされましたか?」「風邪をひきました」「おや、それは困りましたね」
そんな会話から、病歴や病態を探り始めなければなりません。
既往歴や家族歴、家庭の心配事や仕事のストレス、ネットで得た知識や希望する医療など、人それぞれです。
そのような「患者が語る物語」を尊重する医療を、NBM(Narrarive Based Medicine)と呼びます。
以前にも書きましたが、たとえば風邪に抗生剤を処方するようなケースは、EBMとNBMの混合と言えます。
私「熱はやや高いですが、全身状態が良いので、あと1日、経過をみましょう」←EBM
患「心配なので、血液検査をしてもらえませんか」
私「それが安心ですね」←NBM
患「抗生剤も出してください」
私「白血球数もCRPも正常でした。抗生剤は必要なさそうです」←EBM
患「念のためお願いします」
私「ですよね」←NBM