書斎のドア、まだ開かず

地震で建物がゆがんで、玄関などのドアが開かなくなるトラブルはよく知られています。

「地震が来たら、まずドアを開けておけ」なんて言われますが、そんなのは、机上の空論です。

大きな揺れでは、そんな余裕はありません。実際私は、ただ揺れに身を任せるしかありませんでした。

まず第一に、突然すぎです。第二に、何か行動を起こそうにも、物理的に不可能。揺れが強すぎました。

実態に即せば、「地震が来たら、揺れておけ」です。身を守る準備は、地震の前にしておくべきなのです。

建物はゆがまなくても、倒れた家具や散乱した家財が、ドアの開閉を妨げることがあります。

院長室のドアを、苦労してやっと開けた話は、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1659.html" target="_blank" title="先日">先日</a>書きました。

部屋の内側に向かって開くドアは、書棚等が倒れ込んだた場合、開かなくなるんですね。今回思い知りました。

もしも内部に人が閉じ込められたら、救助に手間取る危険もあります。

地震対策を第一に考えるなら、ドアは外側に向かって開くように作るべきかもしれません。

さて、自宅の書斎のドアは、いまだに開いていません。地震から4週間近くたつのに、手つかずです。

ずっと書斎に入れないのに、どういうわけか日常生活にはまったく支障がありません。不思議です。

倒壊ブロック塀の撤去

避難所で、炊き出しのオニギリが原因で、集団食中毒が出てしまいました。黄色ブドウ球菌が原因のようです。

飲食店が準備したといいますが、たくさん作ろうとして、うっかり素手で握ったのでしょうか。

暑い日であれば、食中毒以外にも熱中症が気になります。雨が降れば、土砂崩れなどの二次災害が心配です。

屋根瓦が落ちたので、屋根をブルーシートで覆った家が、クリニック周辺にもたくさんあります。

本震直後には強い余震が続き、なかなかシートで覆う作業ができないうちに、何度も大雨が降りました。

泥混じりの雨水が屋根裏の断熱材にしみ込んで、重くなって天井が落ちた、という家の方の話も聞きました。

今日は雷も鳴るような大雨の中、当院の駐車場に隣接する民家の、ブロック塀の撤去作業が行われました。

地震で一部が倒壊し、まだ崩れていない部分も傾いていて、駐車場の方に倒れ込みそうな状態だったのです。

作業を見ていると、塀には縦横にしっかりと鉄筋が入っていたようですが、それでも崩れたわけですね。

民家4軒分のブロック塀が、おそらく同時期に作られたようで、全部つながっています。

その一部が倒壊したために、横に張られた鉄筋に引っ張られるように、倒壊範囲が拡大したような印象です。

横方向の鉄筋というのは、塀全体を頑丈にする反面、1カ所が倒れると近隣を道連れにするようですね。

そう言えば、院長室の本棚も同様でした。ビスでつないであった3つの書棚が、つながったまま共倒れです。

つながってなくても、それぞれ別々に倒れたでしょうけど。

ブロック塀を撤去した後には、フェンスを設置するようです。それがいい。もうブロック塀はゴメンです。

Apple製品無償修理

Appleがおととい、「熊本地震による被災地向け特別修理サービス」を発表しました。

対象は「地震により直接的な被害を受けた」アップル製品であり、MacでもiPhoneでもOKです。

私が所有するMacの中に、このたびの地震で破損したMacが1台あります。電子カルテのサーバー機でした。

すぐに代替品が必要だったので、修理よりも何よりも、ともかく新規に1台、Macを買いました。

破損したiMacは保証期間中でしたが、落下が原因なので、無償修理は無理だと思っていました。

ところが今回の「特別修理サービス」は、地震による故障が前提の修理なので、当然、落下もOKのはず。

Appleに電話で確認したところ、落下による故障・破損も、すべて無償修理の対象とのこと。これは太っ腹!

この際、破損した1台のほかに、地震で落下して調子が悪くなった他の2台も、修理に出すことにしました。

「ピックアップ&デリバリー修理」なので、私が準備するものは、何もありません。楽なものです。

特別に急いでもらって、今日の午後、ヤマト運輸が専用の搬送箱を持って引き取りに来る、はずでした。

ところが、約束通りの時刻に現れたヤマトの方は、手ぶらでした。専用の箱がまだ、熊本に届いていないと。

たぶん箱は、Appleから送られてくるのでしょう。なぜそれが遅れているのかは、わかりません。

昨日はAppleの、迅速な対応に感謝したものですが、今日は一転、ムカついてます。できない約束はするなと。

いやいやこれは、タチの悪い被害者意識かもしません。反省。いつでもいいので、でも早めに、修理よろしく。

外科医の待遇改善

外科医の待遇を改善しよう、と叫ばれて久しく、しかしなかなか、具体的な改善策が軌道に乗りません。

日本外科学会がこのたび、特別企画の中で掲げた「処遇改善計画」というのが、次の3つ。

(1)連続勤務時間を36時間までとする

(2)2週間に1日以上休暇を取る

(3)時間外勤務、手術手当を支給する

連続勤務36時間までは認めることがすでに、弱気です。

しかしこれでも、朝の8時から勤務している者は翌日の夜8時には帰宅できる、という夢のような提案です。

月に1日も休めないようなことは、私も勤務医時代に何度も経験しました。それから考えると2週に1日は贅沢。

それに、休んでいる間の手術や術後患者の状態が気になるのが外科医。休日を堪能できない商売なのです。

現実的で効果的なのは「手術手当」でしょう。これには、佐賀大学附属病院の成功例があります。

佐賀大学では、手術の執刀医には、診療報酬の手技料(技術料)の7%が入るそうです。やる気が出ますね。

助手や看護師にも、それぞれ手当があり、その総計は年額3億円だそうです。

この制度を作ったのは、当時の病院長だった宮崎耕治先生(現学長)。個人的に、よく存じている方です。

「医療者の労力は、使命感と感謝、そして報酬で報いるべき」。これが宮崎先生の持論です。

もちろん、第一に認められるべきなのは、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-499.html" target="_blank" title="時間外手当">時間外手当</a>です。でもまっとうに支払ったら、病院が破綻します。

<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1364.html" target="_blank" title="中央官僚">中央官僚</a>自身が長時間のサービス残業をしているこの国で、勤務医が正当な残業手当を望むのは無理なのかも。

サンピアン全面改修

当院に隣接するショッピングセンター「ゆめタウンサンピアン」が、地震で損壊し、閉店したままです。

外壁が崩落し、割れっぱなしのガラスが痛々しい姿をさらし続けています。

内部を見ることはできませんが、従業員の方によると、天井が落ちてひどい状況とのこと。

本震が真夜中だったのが、せめてのも幸い。昼間だったら、死傷者の出る大惨事になっていたことでしょう。

建て替えは必至かと思っていましたが、基本的な構造が頑丈だったのか、改修で済みそうだという話です。

ただし、営業再開まであと半年以上はかかるとのこと。それまでの間、当院近隣はゴーストタウンです。

たまたま半年ほど前に、サンピアンを全面改装して、3階部分を<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1449.html" target="_blank" title="巨大書店にするアイデア">巨大書店にするアイデア</a>について書きました。

まさかこんなことになるとは思いもよりませんでしたが、この機会に、ゼロベースでの売場設計を期待します。

トイザらスとベビーザらスもあるので、この際3階は全部、熊本最大の、子ども用品売り場にしましょう。

巨大書店は諦めます。いや、絵本専用の書店を併設する手はあるかも。

2階は幼稚園や保育園にしてはどうでしょう。問題は法律面ですけどね。なんとかなりませんか。

「幼稚園設置基準(省令)」では、園舎が耐火建築物であれば、保育室や遊戯室は2階でも良いとあります。

もちろん同じフロアに、運動場や水遊び場や給食室や図書室も作ります。これで認めてもらいたい。

1階はやはり、食品売り場と飲食店ですかね。これは地域住民のためです。

光の森とかクレアとかができて、寂れ気味の感があったサンピアンですが、この機会に盛り返しましょう。

何なら、売り場設計私案、出しましょうか。

「ひとみ」を失う

今日は、熊本地震とは関係ない話。2月に打ち上げられた、人工衛星「ひとみ」のトラブルについて。

けっこう期待していたのに、運用断念という結末は残念です。JAXAのサイトによると、そのいきさつは、

(1)回転していないのにもかかわらず回転していると誤って判断し、回転を止めようとしたら逆回転を始めた

(2)危険な状態と判断してスラスタ(推進装置)を噴射したら、それが不適切で、余計に回転が加速した

(3)遠心力が増し、構造的に弱い太陽電池パドルの取り付け部分が破損し、両翼が分離した

スラスタ噴射の設定値を調節した際に、プログラムミスがあったとのこと。これじゃ、やりきれませんね。

万全を期した最初のプログラムではなく、途中で修正したときにこそ、うっかりミスには注意すべきなのに。

事実を明らかにするのは大事なことですが、私個人としては、こんな事実など知りたくありませんでした。

「隕石が衝突して破損したらしい」ぐらいの、ウソの発表をしてくれた方が、今回は良かったとさえ思います。

その方が、よほどガッカリ感が少なかったのに。

震災で大変なときに、300億円以上がムダになったという話はショックですが、いまそれを言いますまい。

全長14メートルの巨大な衛星は、いまも宇宙のどこかでグルグル回転し続けているのでしょうか。

遠心力で飛び出した2枚のパドルは、それぞれ別々の方向に、一定の速度で飛び続けているのでしょうか。

ブラックホールの観測や宇宙の成り立ちの解明が、いったい暮らしに役立つのか、というのは近視眼的発想。

すぐに役立ちそうにないからこそ、夢がある。これにめげず、再チャレンジしてほしいです。

地鳴りと地震

熊本の人々の多くはいま、毎日毎日何度も地鳴りを聞き、その直後に地震の揺れを感じているはずです。

昨日も今日も、室内で比較的静かにしているときは、ほぼすべての揺れの直前に、地鳴りが聞こえました。

「ドン」とか「ドドン」と、遠くで大太鼓(または大砲)が鳴ったような、少し振動を伴う重低音が響きます。

食事中でもパソコンしてても、地鳴りが聞こえると、ハッ!と顔を上げて、なぜか遠くを見てしまいますね。

周囲の家族や職場の同僚も、ハッ!と顔を上げて、アイコンタクトで確認し合ったりします。

ちょうど、ミーアキャットの家族が、何かを感じてスクッと立ち上がり、周囲を警戒しているような感じです。

そして次の瞬間に、揺れます。このところ「地鳴り→ハッ!→揺れ→やっぱり」のパターンの繰り返しです。

調べてみると地鳴りは、地震の「P波」が、地表から大気に伝わった時の音だという説があります。

これは直下型地震特有の現象で、大気に抜けた音波が、揺れよりも少し先に、観測点に伝わるのだと。

ふーん、なるほど、と一度は思ったのですが、ちょっとおかしい。

P波の方が、音波よりも圧倒的に速いはず。音波がP波よりも先に届くはずがないのでは?

私の仮説は、こうです。地鳴りは、自分の真下の地面まで到達したP波が、大気に抜けたときの音であろうと。

だからP波の到達と地鳴りは、ほぼ同時。持続時間はP波の方が長いので、地鳴りが先に来たように感じる。

熊本地震は直下型地震で、余震も含めて、震源から私までの距離は、ほとんどが15〜30キロぐらいです。

P波とS波の速度差から計算して、地鳴り(約1秒、P波含む)→P波持続(1〜3秒)→S波到達、となるわけです。

地鳴りは地震の予兆だと言われることもありますが、予兆ではなく、初期徴候と言った方がよいでしょう。

つまり、地鳴りは地震そのものです。予兆とするにはあまりにも遅すぎ。

地鳴りが聞こえてから何か準備する時間はなく、緊張するのがせいぜい。恐怖感が増すばかりです。

市民病院建て替えを

2日連続の市民病院ネタですみませんが、勢いで書いておきます。

大西一史・熊本市長はもちろん、被災者救援と復旧の最前線に立って、尽力されていることと思います。

しかしながら、昨年1月に市長が、市民病院の建て替え工事を凍結したことは、今となっては悔やまれます。

早く建て替えておけば良かったのに、なんてことは、そりゃあ地震の後なら誰でも言えます。

大事なのは、今回の経験を次に生かすこと。しかもすぐに行動すること。市民病院建て替えの、即時再開です。

もともと市民病院南館は、1981年の耐震基準を満たしておらず、以前から、耐震対策が求められていました。

そのことを背景に、2011年に「市民病院のあり方に関する特別委員会」が設置されました。

そして委員会は「2015年度までに耐震化が必要」と提言し、2015年4月からの着工が決まっていました。

ところが市長は、着工直前の昨年1月になって、建て替えを凍結。

そしたらその1年3カ月後に、地震が起きて病院が損壊したと、そういう流れです。市長も不運といえば不運。

市長が着工を延期した理由は、建設費の高騰です。このままだと、市民病院の経営に影響が大きいとの判断。

しかし着工を延期したというのに、いま市民病院は、地震によって経営上の大打撃を被っています。

まさかこんな大地震が起きるとは思ってなかった、なんてセリフは、今後わが国では言いっこナシです。

日本では、いつどこででも、大地震が起きると想定しなければならないということを、再認識しましょう。

市民病院はできるだけ早く、建て替えを着工すべきです。熊本城ホールよりも、優先すると思いますけど。

熊本市民病院被災

熊本市民病院は、私が開業する前の7年間(2000〜2007年)、小児心臓外科医として奉職した病院です。

今回の地震で建物が損壊し危険があるため、入院患者全員が、4月17日までに転院または退院しました。

4月28日からは、耐震基準を満たしている場所で外来診療を一部再開しましたが、入院診療は止まったまま。

いちばん問題となっているのは、熊本市民病院が地域の中核だった部門「総合周産期母子医療センター」です。

総合周産期母子医療センターとは、リスクの高い母体と胎児や新生児に、高度な医療を専門に行う施設です。

センターには、大規模な新生児集中治療室(NICU)と母体胎児集中治療室(MFICU)が備わっています。

熊本県内外から、新生児医療の最後の砦として最重症の赤ちゃんが搬送され、最高度の医療を行ってきました。

ところが今回は、NICUなどにいた赤ちゃん38人を、熊本県内外の病院に搬送しなければなりませんでした。

熊大病院にも総合周産期母子医療センターはありますが、熊本市民病院の方が、より高度なセンターでした。

なぜなら市民病院には、新生児科や産婦人科を支える診療部門が、きわだって充実していたからです。

たとえばそれは、重症新生児の外科手術を行う技術のある、小児心臓外科や小児外科や麻酔科の存在でしょう。

私が勤務してた頃、新生児の心臓手術ができるのは、熊本・鹿児島・宮崎の3県では熊本市民病院だけでした。

各地の大学病院や基幹病院から、心臓手術を依頼されて患者の搬送を受けることを、誇りに思っていました。

今回の地震は、病院の建物が古かったというだけで、この総合周産期母子医療センターを壊滅させました。

復旧には時間がかかるでしょうけど、この際、さらに高度で機能的な新センターを再建してほしいものです。

ちなみに、熊本市民病院に小児心臓外科が開設されたのは23年前。初代部長は、恩師・米永國宏先生でした。

手術数はどんどん増え、病院の新生児医療レベルの高さを背景に、新生児の心臓手術を行うまでになりました。

あるいは、心臓手術を支えるために、皆が努力して、病院全体のレベルが上がったという側面もあるでしょう。

今日、5月3日は、熊本の新生児医療に大きく貢献された、米永先生の命日、十三回忌でした。

パーセントとポイント

安倍内閣の支持率が、3月の46%から今月は53%へ、7ポイント上がったと日経が報じました。

熊本地震後に発表された内閣支持率は、FNNが3.1ポイント、ANNですら3.9ポイント上がったとしています。

地震対策が、おおむね評価されているようですが、パフォーマンスではなく、実のある施策をお願いします。

「率の変化量」を表現するとき、マスメディアはよく「ポイント」を使いますが、微妙に問題を感じます。

46%から53%への上昇を、変化率で言うなら、(53-46)/46=0.15、つまり15パーセントです。

これを「支持率が46%から15パーセント上がって53%になった」と言ったのでは、わかりにくい。

だから数値の変化をわかりやすく表現する方法として、「ポイント」を使う意義は理解できます。

しかし、そのようなメディアが「パーセント」を使うとき、こんどはまた別の誤解を招きます。

「加工肉で大腸がんにかかる確率が18%増える」という、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1493.html" target="_blank" title="昨年話題になった件">昨年話題になった件</a>が、まさにそれです。

大腸がん罹患率は約8%なので、これが8x0.18=1.44%だけ増えて9.44%になる、というのが正しい解釈。

ところが日頃から「ポイント」表現に慣らされていると、8+18=26%なのかと、勘違いしてしまいます。

このように、元々の確率が低い場合ほど、その変化を表すポイントとパーセントの差が大きくなってきます。

誤解を招きそうな数値を持ち出すときは、補足説明を加えるなど、慎重に表現してもらいたいものです。

しかしメディアはえてして、メディアに都合の良い誤解を誘うような表現をしたがるので、タチが悪い。