安否情報

大規模な災害が起きたときには、被災地に住む親戚や友人の安否を、できるだけ早く確認したいものです。

また私たちのような被災者も、自分の安否情報を、被災地内外に住む親族や友人に知らせたいもの。

しかし全員が電話をかけあい、しかも長電話をしたのでは、回線がパンクしてしまいます。

最近は、電話会社の災害用伝言サービスとか、メールやSNSを利用するなど、連絡手段は増えて来ました。

今回、幸いに私はネットが使えたので、Facebookで自分の安否情報を拡散することができました。

最初の地震(結果的には「前震」)直後に、Facebook友達から「無事」だという情報が届きました。

見ると、「Facebook災害時情報センター」に「熊本県の地震」というものが立ち上がっています。

私もすぐ、「無事です」ボタンをクリック。これによって、多くの方に、私の無事が伝わったはずです。

ここまでは、まあ、よかった。

問題は、その地震の28時間後に起きた「本震」です。前震をはるかに凌ぐ、激しい揺れでした。

これによって、震災被害は一層壊滅的になりました。自宅もクリニックも、本震で新たな被害が出ました。

ところが、Facebookを見ると、私はすでに「無事」ということになっています。友達もみな。

つまり、前震後の安否情報が、あたかも本震後の安否情報のように、掲載され続けているのです。

本震後に、安否情報も一変した可能性があるのに、古い情報を流し続ける今のシステムには、問題があります。

新たな災害が起きたら、それまでの情報がクリアされるとか、別項目を立てるとか、何か工夫が必要です。

地震で断捨離

余震はしつこく続きますが、貴重な休診日をムダにはできません。こういう日は、院内の片付けです。

クリニックの建物自体には、安全に関わるような損傷は、なさそうです。

ただし、隣接する民家のブロック塀が、当院駐車場に向かって倒れて砕けており、車3台分は、駐車禁止です。

いやよく見ると、倒壊したブロック以外も、若干傾いてる。駐車禁止は4台分としましょう。

受付や診察室などは、すでに地震後3日間の診療も乗り越えており、今後も地味に片付ければなんとかなる。

となると問題は、院長室。なにしろドアが開きません。何かズッシリとした物体が、向こうにあるのです。

一昨日から、何度も何度もドアを押すうちに、スキマがジワジワ広がり、ついに手が入るほどになりました。

ドアの向こうの物体を手探りでつかみ、スキマから引き出すか、それが無理なら、あっちの方に放り投げる。

こうしてドアを徐々に押し広げ、本日昼過ぎ、ついにカラダが入る広さになりました。

果たして室内は、目を覆うばかりの惨状、例えてみるならゴミ屋敷、もしくは最終処分場。

床よりも高いところにあった物品は、ほとんど落下。書棚はすべて倒壊。時計は1時26分で止まっています。

奇跡的に、院長室でいちばん高額な備品である<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-848.html" target="_blank" title="MacPro">MacPro</a>が、ケーブルが突っ張って机上に残っていました。

最初の地震で床に落ち、翌日元の位置に戻したさまざまな物品はすべて、もう一度、床に落ちていました。

次の地震に備えて、書棚には突っ張り棒が要るなあ、と思っていましたが、次の地震があまりにも早かった。

今日の作業で、これまで保存してきたさまざまな書類、小冊子、小物などを、どんどん<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-227.html" target="_blank" title="断捨離">断捨離</a>しました。

断捨離は苦手な私ですが、今回は思い切って処分できました。まあ、この機会をプラスに考えましょう。

1人で診療してみました

「事務員なし、看護師なし、医者1人」

このような、離島の診療所のような環境での診療に、今朝はチャレンジしてみました。

定期処方薬が切れそうな人や紛失した人、避難先に薬を持ってくるのを忘れた人などが、けっこういます。

避難所や、自家用車の中で寝起きしている人も多く、疲労が溜まれば風邪もひくでしょう。

ごった返している救急病院を、軽症者の診療でわずらわせるわけにもいきません。

そんな思いで土曜も日曜も、時間を限って診療しました。避難所生活をしている職員も、出勤してくれました。

ようやく今日は平日。他の医療機関の診療も始まるとは思いましたが、当院も朝から診療を開始しました。

ただし、職員を休ませるために、午前中は果敢にも(無謀にも?)、1人で診療を行うことにしました。

実際には、看護師1名が急遽出勤してくれましたが、1人診療に備えて、7時前から準備をしていました。

まず、「本日受診された方へ」という特別な説明書を作成・印刷。そこに書いておいたのは、

(1)検査ができません:私1人では手がまわらないし、検査センターも稼働していません

(2)ミニカルテを発行できません:ミニカルテは当院のウリなんですが、手間がかかるので割愛です

(3)医療費の計算ができません:すみません、私、医療事務に自信がありません。

ということで、午前中の患者さんは全員、窓口支払いナシです。無料で、処方せんだけ出しました。

外見上は、「薬は出しときました。支払いはけっこうです」という、まるで赤ひげ先生のようなノリです。

もちろん、後日精算しますけど。

いつも揺れてます

余震の回数があまりに多くて、もはや今、揺れているのかいないのか、区別がつきにくくなってきました。

ちょうど船から下りたばかりのように、いつも自分がなんとなく揺れているような、そんな感じです。

震度1以上の地震は、4/14:40回、4/15:112回、4/16:202回、4/17 (21時まで):124回だそうです。

余震は今日になって少し、弱くなってきた印象がありますが、そんなことは、まったくアテにはなりません。

今夜「本震」が更新される可能性だって、あるわけですから。

震度6レベルの地震を、この3日間で数回、身をもって経験しました。震度4や5は数十回に及びます。

大きな揺れの前には、まず、地鳴りのような音が、1,2秒間ほど聞こえます。寝ていても目が覚めます。

と思ったら、ティンパニの上で寝ていたかと思うぐらい、激しく打ち鳴らされるように、からだが弾けます。

まずいっ!と思った次の瞬間、今度は強烈な力で、思いっきり左右に揺さぶられます。もう、何もできません。

前半のティンパニの強さによって、だいたいの震度がわかるようになって来ましたが、6は別格です。

横揺れ開始直後に、緊急地震速報のアラームが鳴りますが、よけいなお世話です。もうわかってますから。

直下型地震なので、速報はまったく間に合わないのです。アラーム音がうるさいだけです。

建物の倒壊等による直接被害もさることながら、とにかく困っているのは、ライフラインのダメージですね。

当院でも断水が続いています。トイレを流すのも、容易ではありません。

いまだに停電している地域もあります。断水+停電だと、診療はかなり厳しくなるでしょう。

新幹線も九州自動車道も、復旧のメドが立ちません。

物流が滞り、スーパーは多くが閉店しています。コンビニは開店していても、商品がありません。

クリックひとつで何でも買える時代なのに、いま熊本では、何ひとつ手に入りません。まずは、水が欲しい。

なんとか短時間でも診療

「余震は、本震よりも規模が小さいのですね」と、昨日のニュース番組で、アナウンサーが尋ねたところ、

「もっと大きな地震が起きて、そっちの方が本震、前のが前震、ということもあり得ます」と某専門家が回答。

イヤなこと言うなぁ、と思ってたら、本当に、その通りになってしまいました。

本日未明の大地震は、熊本地域の全住民に、計り知れない恐怖をもたらしました。しかも余震が続きます。

今朝は7時前に出勤。クリニックの外観に異変はありませんでしたが、その内部はメチャクチャでした。

何てことか、サーバー用のMacが床に落下し、液晶パネルが割れています。こりゃダメだ。

診療データを取り出し、別のMacに、サーバーシステムをインストール。起動OK。助かった。

電子カルテとプリンタの稼働が確認できれば、基本的な診療はできます。でも、問題は職員です。

当院の職員は、現在ほぼ全員が避難所生活をしています。とてもじゃないけど、出勤できそうにありません。

しかし、高血圧や糖尿病や喘息などの方には、予定日に受診しないと薬が切れて困る方がいます。

高熱や嘔吐・下痢でぐったりしながら、避難所生活をしているお子さんも、いるでしょう。

そのような患者さんのために、短時間だけでも、今日は診療をすることに決めました。

ある程度準備ができた時点で、ネット予約サイトの文面を、次のように改めて、診療を開始しました。

===

本日は、11時から診療を開始しています。余震などの経過を見ながら、15時頃に診療を終える予定です。

アイチケットによる予約受付は行っていません。診療の予約は、電話でお願いします。

院内の片付けと並行して診療しますので、職員は普段着です。

また、かなりお待たせするかもしれないことを、ご了承ください。

===

何人かから「今日もやってるんですね」と言っていただけました。無理して診療した甲斐がありました。

断水と断水情報

気象庁は、今回の地震を「平成28年熊本地震」と命名しました。

死傷者が出ており、熊本城も悲惨な姿になっています。おまけに余震が多い。今日も揺れっぱなしです。

休診日だったので、早朝からバタバタすることはありませんでしたが、余震の中、片付けに追われました。

朝からクリニックに行ってみると、棚から落ちたファイルや置物などが床に散乱し、一部は破損していました。

2階の揺れがひどかったようで、院長室は、落下物が床に積み重なって、ドアが開かない状態でした。

セコムが、地震と同時刻の異常(侵入)を警告していました。おそらく落下物に反応したのでしょう。

本棚の上に置いていた電波時計が、床に落下して9時26分で止まっていました。電池がはずれたようです。

決定的瞬間で止まった時計なんて、まるで映画に出てきそうですが、電池を入れたらすぐ動き出しました。

院長室のMacの外付けHDDが、横倒しになっていました。本震と余震で、激しく揺さぶられたはずです。

Macは通常通り起動しましたが、HDDからは異音が聞こえ、怪しんでいるうちに、認識できなくなりました。

いつのまにか、水道も出なくなりました。おそらく、水道管の破損に伴う水圧低下と考えられます。

水道局に電話して確認しようにも、何度かけても話し中。30分ぐらいして、やっとつながりました。

だんだん水圧が下がり、高い場所から断水してます。詳細は、水道局のホームページを見て下さい、とのこと。

当然、電話する前から、水道局のサイトは見ようとしてますよ。でも、アクセスが集中して見られないのです。

しばらくしてやっと、水道局の「緊急情報」のページにたどりつくことができました。

ところが、夕方見たのに、断水情報の最終更新は午前2時30分ですよ。断水影響戸数は1,908戸だとあります。

テレビのニュースでは、8万5千戸以上が断水していると報じているのに、水道局の情報は古すぎでしょう。

と思っていたら夜になって、「システムのトラブルにより情報の更新がしにくい状況となっております」だと。

「今後は熊本市のホームページにて情報公開を行ってまいりますので、こちらをご確認ください」とあります。

その「こちら」をクリックすると、熊本市ホームページにとびました。

その中の「断水情報」という部分を見ると、「断水について(上下水道局ホームページ)」というリンクあり。

あー、イヤな予感。おそるおそるクリック。出た!、水道局のページ。こうして私は今、堂々巡りしています。

熊本で大地震

今夜、熊本で大きな地震が起きました。いまも余震が続いています。

熊本県益城町で震度7、熊本市内でも震度6弱という、一生経験することもないと思っていた揺れでした。

日本で震度7を記録したのは、東日本大震災以降では、初めてだとか。

耐震設計のわが家の、しかも1階に私はいましたが、それでもまあ、かなり激しく揺れましたね。

食器が数枚、割れました。神棚からもいろんなものが落ちて、割れました。

お宝のシェフチークの花瓶は、テーブルの端ギリギリまで移動していましたが、なんとか無事でした。

食器棚は、地震で自動的に扉がロックされる仕組みらしく、扉が開かなくなりました。

開け方がわからず、パナソニックのサイトで、ロック解除法を習得。なるほど、うまくできているものです。

飲みかけていたコーヒーは、カップからすべて溢れて、そばのMacBookProに降りかかりました。

すぐに拭き取ったので、パソコンの動作に支障はありませんが、ベトベトになりました。

停電はなく、ネットもつながっているので、こうしてブログを書くことができます。

お気に入りの多肉植物、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1435.html" target="_blank" title="カランコエ・ベハレンシス">カランコエ・ベハレンシス</a>は、大きく曲がってしまいました。大丈夫でしょうか。

その後も震度2から5程度の余震は、何度も何度も起きています。これを書いている今もです。

スマホからは、緊急地震速報のけたたましいアラームが、たびたび鳴り、その直後に大きな揺れが来ます。

でも、最初の一番大きな地震のときは、アラームが鳴りませんでした。どういうわけなんでしょう。

あのときに鳴ってくれてたら、コーヒーを慌てて飲みほしたんですけどね。

隗より始めよ

「院内感染対策は “隗より始めよ” – 新人が入った今こそ対策を」という、医療系の記事が目に留まりました。

新人の初期研修こそ大事、という意味はわかりますが、それよりも「隗より始めよ」の使い方がおかしい。

中国戦国時代、郭隗という人物が燕の昭王に言ったとされるのは、

「まず、凡庸な自分を抜擢してください。そうすれば、優れた人材が次々と集まりますよ」

(1)優秀な人間を集めたければ、まずは、優秀ではない者を優遇することだ

「隗より始めよ」は元々この意味。隗の抜擢は、サクラのようなものなのです。これが転じて、

(2)大事をなすには、まず、手近なところから着手せよ

サクラのような悪い意味が薄れ、建設的な良いイメージになりました。ところが、

(3)まず、言い出した自分から行動せよ

となると、ニュアンスがずいぶん異なってきます。最近では、このような使い方も多いとか。さらに、

(4)何事も、最初が肝腎

となっては、まるで意味が違います。今回の院内感染の記事は、まさにこの用法。さらに曲解されて、

(5)まず、身近にいる私を信じて、使って下さい

プロジェクト立ち上げの際、「オレにやらしてください!」と新人が果敢に手を挙げる、ドラマのシーンとか。

学校でこの故事成語を習ったとき、まず自分を売り込もうとする隗の態度に、いやらしさを感じました。

たぶん私の理解では(5)だったのです。はたして隗の真意は、どうだったんでしょうかね。

がん免疫療法

小野薬品の、がん免疫療法薬「オプジーボ」は、昨年末から適応が広がって、使用患者が急増中とのこと。

「オプジーボ」は商品名です。一般名(薬品名)は「ニボルマブ(Nivolumab)」。

副作用問題が出てはいますが、画期的な新薬であることは間違いありません。では、どんな薬なのか簡単に。

まず、通常の免疫反応には、自然のブレーキが存在します。過剰な免疫反応を抑制するための仕組みです。

そのブレーキのスイッチが「免疫チェックポイント」と呼ばれる分子で、リンパ球の表面にあります。

がん細胞は、このスイッチを操作して、リンパ球からの攻撃を免れます。これを「免疫逃避機構」といいます。

そこで、がん細胞がブレーキ操作をする前に、そのスイッチを塞いで押せなくしてしまえ、と考えたわけです。

このように、ある分子に的を絞って作用する医薬品のことを「分子標的治療薬」といいます。

とくにそれが、標的分子という「抗原」に結合する「抗体」である場合、「抗体医薬品」と呼びます。

遺伝子組換えによって、特異性の高い抗体「モノクローナル抗体(Monoclonal Antibody)」が作られます。

このような医薬品の名称は、語尾に “Monoclonal AntiBody” からとった “mab(マブ)” が付きます。

「マブ」が付く薬はみな、「モノクローナル抗体医薬品」というわけです。

小児領域でなじみのある「マブ仲間(マブダチ)」は、「パリビズマブ」でしょう。商品名「シナジス」。

早産児などでは、RSウイルス感染予防のために、流行期に月に1回、シナジスを筋肉注射します。

けっこう高額な薬です。体重に比例して用量が増え、6.6キロのお子さんだと、薬価は月に約15万円!

保険適応ですが、乳幼児医療費の助成がなければ、なかなか大変な金額です。

ちなみにオプジーボは、もっと高い。70キロだと1回約150万円。2週間毎に点滴するので、年に3,900万円!

対象患者は数万人といいますから、個人負担もさることながら、医療保険制度にも影響は大きいでしょう。

その意味で、オプジーボの最大の「副作用」は、「経済毒性」とも言われているようです。

大河ドラマの面白さ

「<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1580.html" title="真田丸">真田丸</a>」は毎回、笑わせてくれますね。どうやら、歴史コメディーの様相を呈してきました。

時代も、人物も、それぞれ興味深い題材ですが、笑わせるのはやっぱり、脚本の力でしょうね、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1559.html" target="_blank" title="三谷幸喜">三谷幸喜</a>の。

考えてみると、私がこれまでに面白いと思った大河ドラマには、いつも適度な笑いがありました。

歴史を教科書通りに映像化したのでは、面白かろうはずがありません。何しろ、ストーリーはネタバレだし。

かといって、史実をねじ曲げるのは困る。史実と異なるドラマは、また別の企画でやってくれればよいです。

大河ドラマの面白さは、史実とは矛盾しない範囲で、どれほど独自の物語を構築できるかで決まります。

架空の人物を登場させても構わないわけです。そのような人物がいなかった、という証拠はないからです。

だいいち、誰がなんと喋ったのか、その一語一句が完全に記録されているわけではありません。

登場人物たちのセリフは、つまるところ、ほとんどが創作です。

誰と誰が、じつは裏でつながっていたとか、あっと驚く設定にしてしまうのも、ありでしょう。

真田信幸が、妻と思って膝枕に寝そべってしばらく愚痴った挙げ句、気がつくとそれは妻ではなく母親だった。

昨日のそのシーンすら、そんなアホな出来事がなかったという証拠はないので、史実とは矛盾しません。

この場合は、「んなわけないやろ」と突っ込みながら笑うのが、われわれの正しい視聴態度というわけです。

今回の大河ドラマは、三谷幸喜の策にどっぷりとはまればはまるほど、その面白さを堪能できそうです。