災害ゴミ問題

災害後に大量のゴミが発生することは、地震後に限らず、いつも問題となります。

熊本市では、地震災害ゴミは、曜日に関係なく、指定の袋も使用せずに、ゴミ置き場に出すことができます。

ただ、ゴミの搬出はいつでもOKではあるけれど、収集(回収)の頻度がかなり限られています。

ていうか、昨日まではほとんど回収されておらず、ゴミは溜まる一方でした。業者も手一杯なのでしょう。

当院の入口正面に、ゴミ置き場がありますが、そこにも多量の廃棄物が集まっていました。

最初のうちは整然と並べられていましたが、やがて乱雑に、うずたかく積み重なり、道路にも溢れてきました。

交通に支障を来すようになり、しかもやたら臭い。どうやら災害ゴミの中に、生ゴミが含まれているようです。

カラスが何十羽もやって来て、生ゴミをあさり、カアカア鳴き、無数の糞をします。

カラスが群がるゴミの山の奥に、何か施設がある・・・それが当院、といった雰囲気になってきたのです。

もっと被害の大きい建物もあるのだから、ゴミごときで文句は言うまいと、そう思ってきましたが、もう限界。

しかるべき筋へ、苦情を申し入れようかと思っていた矢先、昨日やっと、ゴミ処理業者が来てくれました。

残念ながら、生ゴミだけは回収してくれませんでしたが、それも今日になって、処理してくれました。

これでゴミ処理問題が一段落したと思ったら、大間違いです。

当院近隣の家々では、被害が大きくて、他所へ避難していた方が多いのです。

そういった方が、2,3日前ごろやっと、帰って来ました。だから片付けの本番は、むしろこれからなのです。

災害ゴミ問題は、これから第2のピークを迎えるでしょう。連休中に回収作業が進むのか、それが心配です。

支援宝くじ

ドリームジャンボ宝くじの収益の一部を、熊本地震の被災地支援に使うと、高市早苗総務相が表明しました。

発売予定額は750億円。それから得られた収益金のうち、100億円を充てるとのこと。

みずほ銀行で宝くじの概要を見ると、今回の発売予定額はもともと、17ユニットで510億円となっています。

どうやら被災地支援名目で、8ユニット240億円分、発売数を増やすようです。だいぶ大幅な増額です。

宝くじは、販売額の約40%を自治体が得ます。510億円なら約200億円、750億円であれば300億円。

通常は、販売した自治体に収益金が入るのですが、今回は100億円が被災地へ行くことが決まっています。

元々の200億円は通常通り各自治体へ、上積みした100億円は被災地へ、という計算なのでしょうか。

熊本を支援していただくこと自体には、なんの文句も言いません。しかし問題は、誰が金を出すか、です。

宝くじは夢を買うもの。その夢を見る人から得た金を、被災地支援の財源に充てるのは、何か違う気がします。

国が被災地を支援するように見えますが、国は何も負担しません。負担するのは宝くじを買う国民です。

夢見る人への夢をいつもより大きく膨らませて見せ、余計に買わせようというだけの話なのです。

そもそも、宝くじ購入費用の40%の、そのまた3分の1しか被災地に回らないのは、支援としてはムダが多い。

もっと直接的に、各種団体等を利用して、支援金や義援金を送る方が、よほど有効かもしれません。

被災地の自治体に、ふるさと納税をしよう、という意見もあります。

少なくともこの場合は、返礼品を求めない純粋な寄付金とすべきですが、それでも問題があります。

ふるさと納税の制度上、納税者の居住地に入るべき税金が減るからです。

おまけに、納税者本人には負担がほとんどなく、被災地支援を居住地の自治体に肩代わりさせているだけです。

返礼品がなければ、自分が負担して寄付したと錯覚してしまうのが、ふるさと納税の最大の問題でしょう。

車中泊生活とトイレ

余震の頻度も強さも、徐々に弱まってはいますが、まだ避難生活をしている方が多いです。

自宅倒壊の危険はなさそうな方でも、余震の揺れが怖い、という理由で、車中泊を続けているようです。

あとで起きた地震の方が本震だったというのが、どうしてもトラウマなのです。今日も震度4が起きました。

車中泊にはエコノミークラス症候群の危険もありますが、問題はそれだけではありません。衛生上の問題です。

学校の体育館など、自治体が指定した避難所はキャパが限られるので、車中泊をしている人がとても多いです。

当院に隣接するショッピングセンターの駐車場にも、2,3日前までは車中泊の車が留まっていました。

広い駐車場があれば、おのずと避難民が集まります。1万人が集まった駐車場もあるようです。

そのような指定外の「事実上の避難所」は、救援物資の供給が遅れるだけでなく、トイレ設備が足りません。

実際に車中泊を経験した、当院の職員や患者さんの話を聞くと、トイレ事情が悲惨です。

仮設トイレの数が、避難者数に比べて圧倒的に少なく、とくに女性にとっては極めて劣悪な環境とのこと。

仮設便器の周囲は想像を絶するほど不衛生で、駐車場周囲の植込にも、至る所に排泄物が見られるそうです。

排便を我慢して便秘になるだけでなく、排尿したくないので飲水も控えます。

「エコノミークラス症候群の予防のために、水分を十分摂りましょう」などと聞くだけ、虚しくなるのです。

今回のような災害があったとき、駐車場が避難所になる可能性は高いです。駐車場の環境整備が重要です。

ある程度の広さの駐車場があるところには、屋外トイレの設置を義務づける、というのはどうでしょう。

エコノミークラス症候群

避難生活、とくに車中泊を続けている人の間で、いま問題となっているのが「エコノミークラス症候群」。

これは下肢、とくに下腿の深いところの静脈(深部静脈)の中に、血栓(血のかたまり)ができる病気です。

その血栓が血流に乗って移動し、大静脈→右心房→右心室を経て肺動脈に詰まると、肺塞栓を引き起こします。

血栓が下肢にある間の症状は、下肢の腫れや痛みですが、肺塞栓を起こすと、胸痛や呼吸困難をきたします。

エコノミークラス症候群(正式には「深部静脈血栓症」)の原因は、おもに次の2つ。

(1)長時間同じ姿勢(とくに下肢を屈曲した状態)

(2)水分摂取不足

車中泊はまさに典型的な(1)だし、飲料水不足やトイレが不便な環境であれば(2)も重なってきます。

当院の患者さんの中には、いまだに車中泊をしている人もいます。余震の恐怖から、家で寝られないのです。

「血液サラサラの薬を飲んでるから大丈夫です」と言う方がいますが、それはたいてい、間違っています。

脳梗塞や心筋梗塞などの心配のある方が飲んでいるのは、「<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-895.html" target="_blank" title="バイアスピリン">バイアスピリン</a>」などの「抗血小板薬」です。

動脈硬化で血管壁が傷んだ場所に、血小板が集まって血栓を作り、動脈が詰まってしまうのを防ぐ薬です。

一方で、下肢の静脈とか、心房細動のときの左心房など、血液がよどむ場所にできる血栓は、また別物。

血液凝固因子が活性化して血液が凝固するので、治療薬は「<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-479.html" target="_blank" title="ワーファリン">ワーファリン</a>」などの「抗凝固薬」です。

バイアスピリンを飲んでいても、エコノミークラス症候群を予防することはできません。ご注意ください。

足を定期的に動かし、可能なら高い位置に上げ、できれば時々歩き、水分は十分に摂る。それしかありません。

ブログ更新連続4年過ぎ

日ごろ私が何を考えているか、などを披露するのがこのブログですが、別の効用もあったようです。

私の安否情報です。県外にいる友人・知人は、このブログによって、私の様子を知ることができるからです。

ブログを書けるぐらいの元気はあるんだな、と思っていただければ幸いです。

約8年前から書き始めたブログですが、4年前からは毎日欠かさず、日記のように書き続けています。

1年間連続更新だ、2年連続だ、3年だと、連続更新記録を話題にする日が、毎年ありました。4月15日です。

今年はそれが、熊本地震の前震と本震の間でした。連続更新記録のことなど、すっかり忘れてましたね。

5年前の3月、週に1,2回ペースでブログを書いていた頃に、東日本大震災が起きました。

東日本が大きな被害に遭い、苦しんでいたのに、西日本に住む私には、直接的な被害はありませんでした。

そのことが申し訳なく、震災後にブログを書けるまで、6日間かかりました。

何を書いても、言葉が尽くせるとは思えず、筆が進まず、その後の更新頻度はさらに減りました。

時間が経つのを、ただ、待つことしかできませんでいた。

今回の震災でも、ずいぶん不便な生活は続いていますが、自宅やクリニックの被害は比較的軽微でした。

だから家屋が倒壊したり、避難所生活や車中泊をしている人に対して、やはり申し訳ない気持ちがあります。

そのような中で、ブログを書き続けることが許されるとすれば、何かの情報を発信し続けることだと思います。

たいした力にはなりませんが、その日思ったことを、しばらくは震災中心に書いていきます。

地震の加速度

地震の「震度」は、地震計(加速度計)で測定した「加速度」を元に、算出されます。

一定の方式によって加速度を補正し、その常用対数 x 2 + 0.94を四捨五入等して、震度階級とするようです。

加速度の単位は「ガル(Gal)」。聞いただけで、どう猛な感じのする単位です。

1Galとは、1秒間に、秒速1センチの速さだけ加速するときの加速度(1cm/s/s)という意味です。

今回の地震の最大加速度は、前震が1,580Gal、本震が1,362Galだったそうです。

1,580Galは、秒速1,580cm=時速57kmの車が1秒で急停車するような、強烈な(この場合は負の)加速度。

私が経験した震度6弱だと、加速度は200〜300Gal程度と計算できます。

この場合は、時速10kmで徐行運転中に急ブレーキをかけたような、そんな加速度に相当すると思われます。

これが家なら、そりゃテーブルの上の皿は床に落ち、置き時計が転落し、書棚だって倒れるはずです。

作り付けの棚は動きませんが、棚に置いてあった本やアルバムやCDや小物は、実際にすべて、落下しました。

家具が倒れるのを突っ張り棒などでいくら防いでも、棚の中身は全部落ちてしまうということです。

床よりも高い位置にある物体は、基本的に落下すると考えておいた方がよさそうです。

人のいるところに家具が倒れてくれば、命の危険がありますが、上から物が落ちてきても、やはり危険です。

棚の上などに、時計とか置物とか家電などをゴチャゴチャ置くのが最悪だということは、今回思い知りました。

被災者とマスコミ

TBSの「Nスタ」の生中継中に、被災者が取材陣に邪魔だとクレームを付けた話が、ネットを賑わせています。

熊本地震の被災者とマスコミのトラブルが、あちこちで起きているようです。

無神経な取材にうんざり、という事態は、どのような災害や事件・事故の場合でも、起こり得ることです。

しかし、報道の役割も大きいはず。それが重要な情報源となり、全国から支援が集まっているわけですから。

たぶん、みんな悪気はないのですが、いかんせん、被災者側に余裕が無いのです。問題は、温度差です。

取材陣は使命感に燃え、被災者は悲嘆に暮れています。レポーターの「熱さ」は、度が過ぎると不快です。

テレビをつければ、画面のサイドや上下には、地震に関連する情報が常時、流れています。

上下にテロップを出せば、左右にも出さないと、画面の縦横比のバランスが取れないのでしょうか。

NHKなどはデカデカと左側に「余震に警戒」と出し続けていますが、これは、はっきり言って目障りです。

最新情報をテロップで流すのは助かりますが、「余震に警戒」と出し続けて、何か意味ありますか。

被災地で、余震が気にならない者など、誰ひとりいません。警戒どころか、恐怖の連続です。

そのテレビすら見ることもできない被災者の場合には、テレビのテロップなど無意味です。

また、さいわいテレビを見られる私のような者には、いっとき地震を忘れて、大河ドラマでも見るのが息抜き。

ことさらに余震のことを強調するようなテロップは、もう少し小さくしてもらえませんかね。

処方箋なしで調剤可

被災したために当院に来院できない患者さんの中には、生活習慣病などの薬が切れる方が、たくさんいます。

このような場合、代理人が当院で処方箋を受け取り、薬局で薬をもらうことができます。

その処方箋すらなくても、自宅や避難所近くの薬局で薬をもらうことが、今回は認められています。

厚労省から、熊本地震に関連した特例が、これまでに通知されています。当院に関係あるものとしては、

(1)保険証がなくても保険診療を受けられる:住所・氏名・生年月日・電話番号などを言うだけでOK

(2)処方箋がなくても保険調剤が受けられる:処方箋は後日発行すればOK 

とくに(2)は、なかなか太っ腹な特例です。ただしこれには、条件が付いています。

(A)交通の遮断など、医師の診察を受けられない客観的理由があること。

(B)医師のメモやお薬手帳や薬の包装等によって、処方内容が確認できること。

お薬手帳さえあれば、近隣の薬局で処方を受けられるわけです。ようやく、お薬手帳が役立つ時が来ました。

ところが、この数日の診療では、お薬手帳どころか保険証も何も見つからない、という方にも遭遇しました。

こういった方の、処方薬を継続する方法って、何かないのでしょうか。

マイナンバーカードで処方薬情報を集約しよう、なんて話もありましたが、カードだって紛失しますから。

天変地異とデータの保管

医療機関の被災では、建物の損壊、停電、断水、機器の故障の次に来る問題は、カルテの散逸でしょうか。

紙ベースのカルテや、レントゲンのフィルムなどは、今後の復旧が大変でしょう。

電子カルテの医療機関では、端末やネットワークの被害状況と、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-59.html" target="_blank" title="データの保存">データの保存</a>状態がいちばん気になります。

当院では、電子カルテのデータ(診療内容や患者情報)は、毎日診療終了後にバックアップをとっています。

システムによっては、クラウドベースでデータを保存する場合もありますが、当院では院内保存の形です。

電子カルテのサーバー機の内臓HDDに、まず最初のバックアップを取っていますが、これはダメですね。

サーバー機自体が故障したら、それでアウトです。

なるべく毎日(実際には週に2,3回)、別のMacにも、その<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1213.html" target="_blank" title="バックアップの複製を保存">バックアップの複製を保存</a>することにしています。

しかしそのMacも故障したら、やはりアウトです。

外付けHDDや、DVDや、USBメディアに、バックアップを保管する方法もありますが、私はやっていません。

小さな装置やメディアに個人情報などを保管したら、セキュリティー上の心配が出てくるからです。

当院では、10台のパソコンを使っていましたが、そのうち9台が、地震で床に落下してしまいました。

そのうち電子カルテのサーバー機(iMac)は、液晶パネルの損傷が激しく、起動ができなくなりました。

しかし奇跡的に、ネットワーク経由で内蔵HDDにアクセスできたので、データは取り出せました。

そのデータが取り出せなかったら、地震の直前2日分の診療情報をすべて、失うところでした。

バックアップは常に、複数の場所に保管する、という鉄則は守らねばなりませんね。このたび痛感しました。

しかし、パソコンが全部同時に故障しかねなかった今回の大地震では、この方法でも不十分。NASでも同じ。

自宅に分散保管したとしても、やはり完璧ではありません。自宅も被災したからです。

このたびのような「天変地異」を経験すると、クラウドへのバックアップも、検討すべきかと思えてきました。

支援と役割

全国からの、心のこもった支援物資が、実は隅々まできちんと行き渡っていないと、たびたび報じられました。

交通網の遮断だけでなく、分配方法が悪いとか、指揮系統が機能してないとか、そいうった面もあるでしょう。

しかしそれもようやく、改善しつつあります。各種団体や個人や、流通企業などの精力的活動のおかげです。

個人的な支援車が道路渋滞を招いている、などとも言われますが、まあ善意ですから。責めてはいけません。

これほどの大災害は、たぶん熊本ではほとんど誰も(個人も自治体も)、想定していなかったでしょう。

東日本では大地震を想定して、個人レベルでも自治体レベルでも、物資の備えがあるかもしれません。

しかし熊本では、自宅に水や食料品の備蓄をするような理由も習慣もありませんでした。1週間前までは。

「前震」の翌日、丸一日余裕があったのに、次に備えるという発想がなく、私は特段準備をしませんでした。

クリニックが断水になったので、水を運ぶポリタンクを買ったぐらいです。今それが、役立っています。

少々強い余震が続きはしましたが、何とかやり過ごせるだろうと、少なくとも私は、タカをくくっていました。

そしたらウソのような「本震」。翌日、大慌てで買い出しに行っても、もう、何もありません。

熊本地域全体としての、物資の備蓄がなかったので、交通網が途絶えれば、すぐに物不足になるのです。

災害時の搬送経路をも想定した、地域全体として、あるいは隣県とも連携した備えが必要だと痛感しました。

断水が続く地域、いまだに停電のところ、それどころか家屋の倒壊や土砂崩れも起きています。

避難所生活の人、車中泊が続く人、住む家が無い人、家族が死傷した人など、被害の程度はさまざまです。

私も被災者のはしくれではあるけれど、私が被った災難など、まったく微々たるものです。

よりひどい状況に遭っている人たちに対して、私ができることは何か、それを考えなければなりません。

私の使命は、そのような方の診療を続けることだと思っています。職員には、とても感謝しています。