小児かかりつけ診療料

この4月の診療報酬改定で、「小児かかりつけ診療料」という診療報酬が新設されます。

「かかりつけ」というのは、1人の患者を継続的に診療する、いわば主治医のような医療機関のことです。

「診療料」とは、そのような制度を利用する医療機関へのご褒美であり、インセンティブなわけです。

このように、国が何らかの制度を導入・誘導する際には、「アメ」(または「ムチ」)が用いられます。

先日書いた「<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1611.html" target="_blank" title="お薬手帳">お薬手帳</a>」の件は、アメとムチを使い分けた例のひとつといえるでしょう。

今回の「小児かかりつけ診療料」は、とりあえず「アメ」です。

そして、その医療機関がゲットする「アメ」代は、医療費の増額という形で、患者が負担することになります。

言い換えれば、「患者がかかりつけ医にかかると、医療費は高くなる」ということです。

逆に言うなら、「患者はかかりつけ医にかからない方が、医療費は安くなる」わけです。おかしな話です。

医療機関へのインセンティブを、患者に負担させるような仕組みに、問題があるのです。

幸か不幸か「小児かかりつけ診療料」の対象は3歳未満。多くの自治体では、医療費の自己負担がありません。

なので患者は「かかりつけ医」にかかっても、負担が増えることはありません。ならいいのか?

MRワクチン問題と自治体

北里第一三共の<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1613.html" target="_blank" title="MRワクチン問題">MRワクチン問題</a>。有効性が、国の基準を満たしていないことがわかった件の続きです。

当院では、該当者をすべてピックアップし、優先度の高い方から順に、連絡文書を郵送しているところです。

連絡を受けられた方からは続々と、電話での問い合わせがあり、抗体検査(血液検査)も順調に進んでいます。

さいわい、これまでに検査したお子さんはすべて、十分な抗体価でした。つまり、ワクチンは効いていました。

なので今回の問題は実際のところ、それほど神経質に対応する必要はないのかもしれません。

とは言え、熊本市から合志市へ転居したお子さんの件で、合志市役所に問い合わせたときには、驚きました。

なんと合志市ではこの件で対策をとる予定がなく、再接種等はすべて医療機関に任せるというのです。

どうやら全国的に、この問題への対応は自治体によって大きく異なるようです。パターンは次の2つ。

(1)厚労省が問題なしとしているので、自治体としては何もしない(何もできない、何もしたくない)

(2)厚労省は問題なしとしてはいるが、自治体としては独自の対応をとる

まず(1)は、穏便に(事なかれ主義的に)済ませようとしている国の姿勢に同調する、官僚的な態度です。

一方(2)は、国の方針とは多少異なっても、許容される範囲で最大限の市民サービスをしようというもの。

熊本市は日ごろ、予防接種行政においては必ずしも先進的ではないのですが、今回は、まずまずの対応です。

消炎酵素剤の販売中止

「あらためて調べ直してみたら、効果が無かったので、販売は中止します」

臨床現場で長年使われてきた薬が、なんのことはない、毒にも薬にもならなかったことが判明した話です。

今週、販売中止が決定したのは、「リゾチーム」と「プロナーゼ」。「消炎酵素剤」という種類の医薬品です。

慢性副鼻腔炎や気管支炎や捻挫の腫れに用いられる薬ですが、風邪薬としても、昔からよく使われてきました。

たしかに消炎酵素剤は、効果は強くないけど副作用も少なそう、的なポジションだったかもしれません。

しかし、何十年も使い続けてきたのに、いまさら「効果ナシ」とは、なんじゃそりゃ、です。

じつは「リゾチーム」と「プロナーゼ」には、先輩格の薬があります。「セラペプターゼ」です。

セラペプターゼは5年前に販売が中止されました。調べてみたら効果が無いことが判明したからです。

薬の効果の有無は、「プラセボ(偽薬)」との比較で、統計学的に有意な有効性があるかどうかで判定します。

つまり簡単に言うなら、セラペプターゼの有効性はメリケン粉と同程度だった、というわけです。

そのことが判明した結果、同じ消炎酵素剤であるリゾチームとプロナーゼにも、疑いの目が向けられました。

そして数年間の確認試験の結果、リゾチームもプロナーゼもメリケン粉と同じだったと、そういうことです。

たいていの風邪は、休養と水分・栄養補給によって、数日の内に治っていきます。

処方された消炎酵素剤が効いたように見えたのは、「プラセボ効果」ですらなく、自然経過だったのでしょう。

この数十年の間に、消炎酵素剤よりもよく効く(効果がはっきりした)医薬品が、たくさん登場しました。

消炎酵素剤のような、ボンヤリとした薬は、もう役目を終えたと言うべきなのかもしれません。

電動式パワステと操舵感

車を買い替えました。詳細をここで披露はしませんが、もちろん気に入っています。

しかし今日は敢えて、良い話や自慢話ではなく、むしろ問題点、懸念、違和感について書きたいと思います。

それは「操舵感」。新車の「電動式パワステ」に、どうしても慣れない(慣れそうにない)のです。

前の車は「電動油圧式パワステ」でした。ほどほど重く、遊びが適度で、ダイレクトな操舵感がありました。

ハンドルを切るのは自分。それを手伝ってくれるのが油圧。そういう、役割分担がありました。

「油圧式パワステ」は一般に、油圧を上げるためにエンジンのパワーを使う点が、不利だとされています。

それを解決したのが、電力で油圧を上げる「電動油圧式」だったのです。

ところが最近の車は、ほとんどが「電動式パワステ」なんですね。ハンドルが、驚くほど軽くなりました。

おかげで、運転者が「腕力」で前輪の向きを変えるという、ダイレクトな操舵感がなくなりました。

ハンドル操作への追随が悪いのではありません。むしろ逆。あまりにも反応が俊敏で、曲がりすぎるのです。

自分のイメージと車の曲がり具合が、残念ながらまったく一致しません。クイックすぎて戸惑います。

曲がりすぎてハンドルを戻せば、今度は戻しすぎる。その連続で、ウネウネしたコーナリングになります。

ハンドルは、タイヤの向きを変えるメカではなく、曲がる方向を車に指示するスイッチになりつつあります。

だからそれはハンドルの形状ではなく、ダイヤルでも、ジョイスティックでも、矢印キーでも良いのでしょう。

「レーンキープアシスト」機能があるような最近の車は、車が勝手にハンドル操作をするまでになりました。

もちろん、その先にあるのは「自動運転車」。完全自動になれば、もはやハンドルの存在自体が不要です。

私の新車は、もちろん運転して楽しいのだけど、コーナリングだけは、慎重第一。ひどく大人しい運転です。

持続脈拍監視装置

日頃はまったく意識していませんが、私の<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1360.html" target="_blank" title="Apple Watch">Apple Watch</a>はずっと、私の心拍(<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1255.html" target="_blank" title="脈拍">脈拍</a>)を監視し続けています。

せっかく監視しているのなら、もしも私の脈拍に何らか異常があったとき、それを教えて欲しい。

不整脈などの異常を警告したり記録する機能が付いたら、健康管理(病気発見?)に役立つんですけどね。

しかし心拍数を表示するだけでも、場合によっては人の命を救うこともある、という最近の話題を2つ。

ある米国人。とてもキツイのでApple Watchを見たら、心拍数が210だった。

慌てて救急車で病院へ。心臓発作と判明し、治療を受けることができたと。

奥さんから反対されながら購入したApple Watchで命が助かり、その後奥さんは何も言わなくなったとか。

ある少年。部活後に胸痛があり、十分に休憩した後なのにApple Watchを見たら、心拍数が145だった。

その数値に驚いて病院を受診。横紋筋融解症と診断され、治療を受けることができたと。

親に反対されながらやっと購入したApple Watchで命が助かり、その後両親もApple Watchを買ったとか。

こういう、我田引水な記事を鵜呑みにはしませんが、もう少し改良すれば、Apple Watchはかなり使えます。

たとえば「<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-599.html" target="_blank" title="心室細動">心室細動</a>」を捉えたら、大音量のアラームが鳴って「<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-685.html" target="_blank" title="AED">AED</a>が必要です」という音声が流れるとか。

同時に119番に電話して、自動音声で病状を伝えることもできるでしょう。

精度が上がれば、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-934.html" target="_blank" title="長時間心電図検査">長時間心電図検査</a>がわりに使えるようになるかもしれません。

せっかく1日中腕に付けているのだから、もうちょっと色んな付加価値がほしいですね。

アマゾンが自動補充

Amazonが、日用品を簡単に「補充」してくれる、新しいサービスを始めようとしています。

まず、すでに米国で無料配布されているのが「ダッシュボタン」。

洗剤が切れたら、すぐに補充できるような専用の発注ボタンを、洗濯機に貼り付けておこう、という発想。

ボタンを押すと、家庭のWi-Fiを通して、Amazonに洗剤が発注されるように設定されています。

食料品発注ならキッチン、シェーバーの替え刃なら洗面所に、ダッシュボタンを貼り付けておきます。

1個のボタンにはひとつの商品が設定され、あらかじめ発注量やサイズ等を設定できるとか。

「買う必要を感じたときにすぐ発注できる」というのが強みですが、家中ボタンだらけになりそうですな。

この異様な過渡期の次に登場するのが「ダッシュ・リプレニッシュメント・サービス(DRS)」です。

家電にセンサーを付けて、消耗品の補充が必要になったら、自動的にAmazonに発注する仕組みのようです。

似たようなものは、すでに実用化されています。たとえば当院のコピー複合機がそうです。

利用状況は管理会社が常に監視していて、トナーが減ってきたら、タイミング良く新しいトナーが届きます。

とても便利なのですが、コピーの枚数やサイズ、カラーまですべて、モニターされているのが気になります。

技術的には、コピーの中身(画像)まで、管理会社が把握してるんじゃなかろうかと、疑ってしまいます。

DRSとは、要はAmazonによる囲い込みですが、それが便利で価格も安いのなら、文句はありません。

やがて、冷蔵庫のビールや食材が減ってきたら、Amazonが自動的に届けてくれるようになるのでしょう。

便利だけど気味の悪い話です。

動力巡回調査中

電力小売全面自由化を前に、契約内容見直しに関連した、いろんな動きが起きているようです。

数日前、診療中に九州電力から電話だというので、大事なことかもしれないと思って出てみると、

男「動力の検査でお電話しました。『使用量のお知らせ』のうち『低圧電力』の方は、手元にありますか?」

私「(スキャンしてある検針票を、パソコン上ですぐに確認できたので)ありますよ」

男「その中の、『ご契約容量』はいくらになっていますか」

私「5KWですが」

男「それなら、検査の対象外です。お手数をおかけしました」

私「はいどうも」

さて昨日のこと。またまた仕事中の忙しい時に、九州電力から電話。今度は女性です。

女「動力の検査のため、担当者が巡回しています。『使用量の・・・」

私「あ、それなら先日も尋ねられましたよ」

女「そうでしたか」

私「『使用量のお知らせ』の数字を伝えたら、対象外だと言われましたが」

女「そうなんですね。行き違いでした。失礼します」

社内の連絡ぐらい、徹底しとけよ九電、と昨日は思ったのですが、今日調べてみてびっくり。詐欺でした。

同じ詐欺グループからの電話だったのか、はたまた別の詐欺グループからの電話が2件続いたのか。

いずれにしても、グループ内やグループ間の連絡が、不徹底だったようです。

福島の被曝被害

「福島の被曝量は仏コルシカ島より低い」と、英国の分子病理学の世界的権威が報告したそうです。

政権寄りの産経新聞が大々的に報じましたが、このニュースは偏向報道ではないかと疑問を感じます。

自然科学を学んできた者の端くれとして言わせてもらうなら、なぜコルシカ島と比較するのか、です。

チェルノブイリの被曝被害がとくにひどいコルシカ島と比較する論法は、いかにもインチキ臭い。

英国の権威が問題なのではなく、その研究結果の都合の良い部分だけを利用するメディアが、問題なのです。

「福島の小児がん発生率上昇と原発事故との間には因果関係はない」とする報告も、最近の話題です。

これまた英国の、甲状腺癌の権威が「Science」に投稿した論文です。

ひとことで言えば、「福島では神経質に調べすぎたから、これまで見つからなかった癌までみつかった」と。

自然科学を学んできた者の端くれとして言わせてもらうなら、なるほどその通りかもしれん、です。

徹底的に小児の甲状腺を調査したら、原発事故とは無関係の癌まで見つかることもあるでしょう。

たとえば西日本で、小児の甲状腺を調べたら癌がどのぐらい見つかるか、そんな比較研究をぜひしてほしい。

何かを比べるときは、それが公平な比較かどうかを、つねに大局的な視点から意識しておく必要があります。

赤ワインはポリフェノールが健康に良いといいますが、値段が高ければ、精神衛生上のストレスを生みます。

ワインとビールを健康面で比較するなら、その成分だけでなく、価格も重要な因子なのです。

そこで私は、ワインは1本800円未満のものを2日で1本と決めています。これならビール1日2缶と同額です。

お気に入りは、798円のチリワイン。近所のスーパーで「迷ったらコレ!」とあるワインを、迷わず買います。

アルファ碁と自動運転車

Googleの人工知能(AI)「アルファ碁」が、囲碁で世界トップの棋士に、あっさり3連勝しました。

「ディープラーニング(深層学習)」と「ニューラルネットワーク(神経回路網)」がそのAIのミソだとか。

要は、機械的に総当たり計算をするのではなく、人間と同じようなやり方で探索し学習したということです。

今日の第4局はしかし、李九段の妙手をきっかけに、アルファ碁が混乱してしまい、人間側が勝利しました。

人間の予測不可能な行動に、AIが対応しきれなかったのか。アルファ碁もまだ、学習途上なのでしょう。

AIといえば、「<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-550.html" target="_blank" title="自動運転車">自動運転車</a>」の開発でも、Googleが世界の最先端を走っています。

最近その車が、交通事故を起こしたことが話題になりましたが、それもまた、AIの学習過程なのでしょうか。

人間だって、自転車の乗り始めは、何度も転びながら上達していきます。

車の運転でも、塀でこすったり、交差点でヒヤッとしたりしながら、だんだんと上手になるものです。

GoogleのAI車は、障害物を避けるために隣の車線に割り込んで、後続のバスと接触する事故を起こしました。

「バスは減速しないかもしれない」と考えず、「バスが減速してくれるだろう」と判断したからだそうです。

AIが、「かもしれない運転」ではなく、「だろう運転」をしていたというところが、実に面白いですね。

つまり、AIは必ずしも絶対安全を目指すのではなく、適度に人間的な運転をしようとしているのでしょう。

今回Googleはソフトを修正して、「バスや大型車は、他の車より道を譲る可能性が低い」と教え込んだとか。

こうやって、AIは経験を積んでいくのでしょうね。

東大理三面接試験導入へ

東大理科三類が、2年後の入学試験から、面接を導入する方針だと報じられました。

「医師になるのにふさわしい資質のある学生を、学力だけでなく多面的に選抜するため」だといいます。

良い話みたいに聞こえますが、ツッコミどころ満載です。

(1)これまでの選抜法ではダメだったと、東大が認めたのか

つまり、いま東大病院には、医師になるのにふさわしい資質のない医師が、うじゃうじゃいるわけですか。

(2)面接で、医師の適性は見抜けるのか

面接で見るのは、第1にコミュニケーション能力。たしかにそれは、医師としての必要条件かもしれません。

しかし十分条件ではないはず。面接内容が学力試験の結果よりも優先する、なんてことはないでしょう。

東大は、「医師になるのにふさわしい人物」を選ぶ目的で面接を行うつもりは、さらさらないのです。

たぶん、「医師になるのにふさわしくない人物」を選別して落とすために、面接をしたいのでしょう。

一般的に面接試験には、そのような側面があります。

東大理三は、1999年から2007年まで、面接試験を実施していました。

それをやめたのは「臨床研修制度によって人物評価ができる」という理由からでした。

再導入する理由は「臨床研修制度では人物評価ができなかった(または手遅れだった)」からなのでしょうね。

しかし理三ともなると、医師には不向きでも、研究には驚くべき能力を発揮する天才がいるかもしれません。

そのような逸材を引き受けるのが、東大医学部の役割であるのなら、面接は止めた方が良いと思うのですが。