名前と愛称

知人のお孫さん「七瀬」ちゃんは、みんなから「ななちゃん」と呼ばれているそうです。

それでは、名前が最初から「菜々」ちゃんだったら、みんなは何と呼ぶのか。たぶん「なっちゃん」でしょう。

「七瀬」ちゃんは「ななちゃん」と呼ばれ、「菜々」ちゃんなら「なっちゃん」になるのです。

「千佳子」ちゃんは「ちかちゃん」と呼ばれ、「千佳」ちゃんだと「ちーちゃん」でしょうね、たぶん。

愛称は、名前を呼びやすくするための工夫でもあるので、たいていは、本名よりも短くなります。

本名がもともと呼びやすい場合でも、本名と差を付けるために、さらに短縮されるようです。

したがって、愛称のことを考慮するなら、赤ちゃんに命名するときには短縮の余地を残さなければなりません。

たとえば「優ちゃん」はそのままでも「ゆーちゃん」なので、短縮しようがないのです。

ま、それがどうしたと言われれば、どうってこともないですが。

幼少期の愛称は、大きくなるにつれて(中学ごろ?)恥ずかしくなることがあります。

私の名前は「由一(よしかず)」ですが、小さい頃は親から「よしくん」と呼ばれていました。

いつごろからか、人前でそのように呼ばれるのが、とても恥ずかしくてたまらなくなりました。

でもそんなことはお構いなしに、いまなお母は、55歳の私を「よしくん」と呼びます。ま、いいですけど。

イソジンが塩野義へ

「イソジン」の製造販売が、明治(Meiji Seikaファルマ)から塩野義製薬に移管されることになりました。

「イソジン」は消毒薬の商品ブランド名。成分は「ポビドンヨード」。ヨード(ヨウ素)化合物です。

オランダのムンディファーマが開発した薬で、これまでは明治が、日本での製造販売権を持っていました。

明治は、イソジンの名は失うものの、イソジンのジェネリックを製造販売するようです。なんのこっちゃ。

一般の消費者にとっては、商品名が「イソジンうがい薬」から「明治うがい薬」になるだけの話。

しかも「カバくん」のキャラクターは明治が保有するので、商品の見かけは、ほとんどイソジンでしょうね。

このさい商品名も「イソジソうがい薬」にしてはどうか。(「ン」ではなく「ソ」です)

イソジンは、うがい薬だけではありません。医療、とくに手術の際には、いちばんよく使われる消毒薬です。

研修医のとき、某科で手術の時に皮膚に塗っていた消毒薬はしかし、ヨーチンでした。当時としても古風です。

90年頃、当直のバイト先の某病院で、緊急手術の際に院長が赤チンを使っていたのには、さらに驚きました。

いまどきヨーチンは使わないし、赤チンなどあり得ない。手術のときに皮膚を消毒するのは、イソジンです。

そのイソジンにもジェネリックが登場し、市民病院でも全面的に、ジェネリックに置き換わりました。

でもジェネリックって、やっぱり少し違うんですよね。イソジンの方が明らかに、塗ったあとの感触がいい。

なので無理を言って、私の所属する科だけ例外的に、イソジンを使い続けられるようにしてもらいました。

そような私たちのワガママに対して、ある日、看護師がクレームを付けてきました(実話です)。

看「イソジンを特例で使うのって、どこに話を通してるんですか。薬剤部ですか、総務ですか?」

私「イソジンのことなら、用度係(ヨード係)でしょう」(←自分で言うのもなんですが、気に入ってます)

血圧計を交換

診察室で8年間使ってきた「水銀血圧計」ですが、ついにこのたび買い換えました。

水銀体温計や水銀血圧計は、とくに破損時の健康被害が問題とされ、世界的に使用が中止される方向です。

水銀は20℃で気化し、それを吸入すると肺に沈着して水銀中毒を起こすからです。

一時期、水銀血圧計にそっくりな外観の、デジタル自動血圧計に買い換えようと考えたことがあります。

しかし、自動血圧計はどうしても、その正確さが気になってしまい、結局購入は見合わせました。

やはり血圧は、聴診器を耳に当てて測る、アナログ血圧計がいちばんです。

となると選択肢はひとつ。「アネロイド血圧計」ということになります。

「アネロイド(aneroid)」とは、「液体を使わない」という意味のギリシャ語です。つまり、水銀不使用。

内部が真空の金属容器が外圧によって変形するのを、針の動きに変えて血圧を示すものです。

水銀血圧計で水銀柱がゆっくり降りてくる、あの繊細さにはかないませんが、ちゃんと正確に測れます。

人の血圧は、大動脈と頸動脈にある「圧受容器 ( baroreceptorバロレセプター)」によって監視されています。

<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1332.html" target="_blank" title="バロ">バロ</a>(baro)とは、圧力を意味します。バロメーター(barometer)のバロです。

血圧が上がれば、バロレセプターがそれを感知し、自律神経を介して、心臓の収縮力と心拍数を減らします。

血圧が下がったときには、その逆の反応です。

バロレセプターという、いうなれば生体の血圧計の、その精巧な仕組みと俊敏な反応には驚くばかりです。

動脈壁の変形(伸展)で作動するので、アネロイド血圧計に、少し似ているのかもしれません。

間違い受診

年末恒例の、クリニック大掃除の日でした。休日(休診日)を返上して、スタッフが集まってくれました。

作業を分担して、各自が黙々と清掃を行います。私の担当は、いつものようにパソコンまわりと院長室など。

清掃業者による、床のワックスがけも同時進行です。造園業者にも依頼して、庭木の剪定も行いました。

さて、大掃除の真っ最中に、初老の男性が、診療のために来院されました。

たしかに医者も看護師も院内にはいますが、なかなか診療を行うことが難しい状況です。

電子カルテのパソコンも、診察机もイスもベッドも何もかも、診察室から運び出されています。

申し訳ないですが、今日はご覧のように大掃除ですし、もともと火曜日は休診日なのです、と私。

その方はしかし、朝から電話でちゃんと予約したのだから、何とかしてくれと。

休診日は留守番電話にしているので、電話予約を受け付けるはずはないのですが、何かの間違いでは?

しばらく押し問答が続き、やや険悪なムードになりましたが、最後は男性の勘違いと判明。

当院ではなく、別のクリニックを予約されていたようです。やれやれ。

かく言う私も、間違い受診をして恥をかいた経験があります。十数年前の話です。

子どもに予防接種を受けさせるために、近所の小児科に連れて行ったときのこと。

初診用の受付票を書きながら待合室を眺めると、小児科のはずなのに、なぜかご高齢の患者さんが多いのです。

さっき履いたスリッパをよく見ると、「○○整形外科」と書いてある。他院から借りたスリッパなのか?

「お間違えなのでは?」と言われてやっと気づきました、違う医院に来てしまったことに。小児科は隣でした。

クローズアップ現代

NHKの「クローズアップ現代」は、放送開始からもう、22年以上経ちましたが、まだ色あせていません。

「やらせ(または過剰な演出)問題」も乗り越えた国谷裕子キャスターは、22年の齢を重ねても、元気です。

私がとくに好きなのは、この番組のエンディング。生放送ならではの緊張感がたまりません。

番組の前半は、おもにビデオを流しますが、後半は、キャスターとゲストまたは記者との対談形式です。

終盤に近づき、そろそろまとめに入るべき時間帯になると、見ている方もドキドキしてきます。

しかも国谷キャスターは、ギリギリまで時間を無駄にせず、最後までゲストにしゃべらせようとします。

自分でまとめて終わればいいものを、あえてゲストに、まとめを誘導する質問を投げかけます。

どうやら国谷氏は、生放送を楽しんでいるようです。

はたしてゲストは、要領よくまとめの発言ができるのか。その結末は、次のようなパターンでしょうか。

(1)なんとかまとめて、時間内におさまる

(2)しどろもどろになって、最後はバタバタ

(3)時間オーバーして、無理やり発言終了

(4)収拾がつかないまま、発言途中でフェードアウト

先週、久しぶりに<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1163.html" target="_blank" title="立花隆氏">立花隆氏</a>が招かれた回の放送は、立花氏が放った放送禁止用語のために異様な展開でしたね。

目に見えないニュートリノを観測できたのは、当時カミオカンデを持っていた日本だけだと言いたい立花氏が、

「世界のすべての学者がめくら同然の状態にある中で、日本だけがそれ(=ニュートリノ)を見て・・・」

この大いに問題のある発言を、いったんスルーした国谷氏ですが、はたして番組中で、どのように詫びるのか。

見ていて気が気でなく、「シーソー機構」という、とても興味深い話が、まったく入ってきません。

おまけに立花氏は、興奮してしゃべり続けています。下手をすると(4)のパターンに突入か。

そこへ国谷氏、ギリギリで発言に割り込み、最後の3秒で「不適切な表現」を詫びたのでした。あ〜緊張した。

熱にうかされる

寒くなってきたので、風邪を引く人が増えてきました。RSウイルス感染や溶連菌感染も多いです。

インフルエンザではなくても、風邪などで高熱が出たときにも、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1507.html" target="_blank" title="異常行動">異常行動</a>を起こすことがあります。

「熱譫妄(ねつせんもう)」とよばれる症状で、高熱に伴う幻覚症状です。

このときの脳波は、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1514.html" target="_blank" title="REM睡眠">REM睡眠</a>と似たパターンだそうです。では本人は、夢を見ているつもりなのでしょうか。

通常のREM睡眠では、精神活動が行われる代わりに肉体(筋肉)活動が停止して、体は動きません。

しかし、熱譫妄のときには体が動くので、夢を見ながら自由に動ける状態になるわけです。

そのような人を、はたから見れば、どう見ても異常行動にしか見えないでしょうね。

考えてみたら、科学者でも芸術家でも、夢を追い求めている姿は、しばしば異常行動のように見られがちです。

「夢中になる」とは、こういうことかもしれません。

明らかな異常行動を起こすわけではなくても、高熱でうわごとを言ったりすることは、よくあります。

このように、発熱時に「うなされている」ような状態などを、「熱にうかされている」と言ったりします。

「うかされる」熱は、体温とは限りません。現に、BBQ熱にうかされている人間もいます。私です。

文化庁の調査によると、「熱にうなされる」と誤用する人が、かつては多かったそうです。

ところが今年の調査では、「熱にうかされる」と正しく使う人の割合が、6割近くまで回復しているとのこと。

言葉は必ずしも、誤った用法に向かって一方的にゆれていくのではなく、「ゆれ戻し」もあるようです。

高齢化と診療報酬削減

来年度予算に関連して、診療報酬を削減するかどうか、2年に1度の恒例の議論が行われています。

今回は「薬価」だけではなく、「本体部分(=医師の技術料にあたる)」も下げようという動きがあります。

厚労省が要求する社会保障費は、今年度と比べて来年度は、6700億円もの増額を要求しているようです。

ところが財務省は、伸びを5000億円に抑えろと、つまり1700億円削れと、そう言っています。

年金制度などに大きな制度改革がないので、この1700億円はほぼ、医療費から捻出しなければなりません。

確認しておきますが、社会保障費が増えているのは、高齢化が原因です。

病気になりやすい人の数が増えれば、医療費も増加します。けっして医者の過剰医療が原因ではありません。

ところがその問題を、医療の単価(=診療報酬)を下げることで解決しようというのが、今回の動きです。

医者は増えた仕事をこなしているだけなのに、働き過ぎだから単価を下げます、と言われるようなものです。

幸か不幸か、診療報酬は公定価格。国が自由に決められます。削ろうと思えばすぐ削れます。

そして、いくら医師の診療報酬を削っても、マスコミや世論は反発しないどころか、むしろ歓迎するのです。

ジェネリックの調剤体制

中医協(中央社会保険医療協議会)はこのたび、ジェネリック医薬品の価格引き下げを了承しました。

先発品(新薬)の60%以下と決められているジェネリックの価格が、50%以下になります。

ジェネリックの普及率を、現在の46.9%から80%以上に引き上げ、医療費を抑えようというわけです。

このような話が出ると、「安かろう悪かろうでは困る」という反対意見が出てきます。

ジェネリックは、主成分以外の成分や製造工程が異なるため、効果が疑問だし副作用も心配というわけです。

しかし必ずしもそうではありません。ジェネリックの方がよく効いたり、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1295.html" target="_blank" title="副作用が少ない場合">副作用が少ない場合</a>もあり得ます。

あるいは効果が多少弱くても、それを逆手にとって「マイルドな薬」として利用することも実際にあります。

一方で値段の安さでは、ジェネリック普及を促す制度自体が、逆に値段を上げているパラドックスがあります。

保険薬局における調剤基本料には「後発医薬品調剤体制加算」という点数が加算されています。

この点数は、各薬局において調剤した薬剤のうち、後発医薬品の「数量シェア」によって決められます。

「数量シェア=後発医薬品/(後発医薬品のある先発医薬品+後発医薬品)」です。

この加算は、ジェネリックを積極的に扱っている薬局が、調剤基本料を高く算定できるという仕組みです。

大手のチェーン薬局などは、最大の加算点数22点を算定できるような「体制」を整えています。

一方で小規模な薬局では、その「体制」が整わず、この加算が算定できない場合があります。

問題は、薬局が真面目にジェネリック普及に取り組んだご褒美を、患者から請求するということです。

その結果、ジェネリックの取り扱いが多い薬局では、患者が支払う薬代が高くなってしまいます。

逆に、ジェネリックの取り扱いが少ない薬局では、薬代が安くなるというわけです。おかしな話です。

化血研の隠蔽体質

本日ついに、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1470.html" target="_blank" title="化血研">化血研</a>に、厚労省の立ち入り検査が入りました。

第三者委員会によって、企業ぐるみの「不正+隠蔽工作」が明らかにされたのであれば、当然のことです。

不正行為は70年代から行われていたとか。なかでもよく話題にのぼるのが、ヘパリン使用問題でしょうか。

ヘパリンというのは、特殊な治療や心臓手術中にも使う、血液凝固を強力に抑制する薬です。

第三者委員会の「調査結果報告書」を読むと、化血研がだんだんと道を外れていく過程がよくわかります。

(1)ある血液製剤の製造工程で、血液凝固反応が起きてしまうという問題が生じた

(2)ヘパリンを添加したら、その問題がクリアできるため、元副所長がヘパリン添加を指示

(3)製造法の変更なので、それを厚労省に申請する必要があるが、試験のやり直しが必要で時間がかかる

(4)工程の承認書を拡大解釈すると、ヘパリン添加が可能と解釈できないでもない

ついに、ヘパリン添加を隠したままで承認申請を行い、厚労省から製造が承認されました。

さて、いったん不正を働くと、こんどは隠蔽工作が必要となり、いよいよ泥沼に嵌まっていきます。

(5)査察で不正が発覚しないように、実製造の記録と、承認書に沿った製造記録の2種類を作成

(6)ヘパリンの出納から不正が見破られないように、虚偽のヘパリン出納記録も作成

(7)研究用のヘパリン出納記録も偽造し、製造用のものと混在させ、わざと複雑にして査察を攪乱

(8)捏造した製造記録や出納記録は、古く見せるために、紙を紫外線で焼いた

当初、化血研の問題は、書類上の齟齬のような報じられ方でしたが、残念ながら、実態は悪質な不正でした。

厚労省もブチ切れし、化血研製の血液製剤やワクチンのほとんどが、いまだに出荷停止状態です。

例外的に、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1479.html" target="_blank" title="インフルエンザワクチン">インフルエンザワクチン</a>や、先週ようやく<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1505.html" target="_blank" title="4種混合ワクチン">4種混合ワクチン</a>も、出荷解禁となりました。

当院でのワクチン接種予約と製剤納入状況からすると、いまはB型肝炎ワクチンが厳しくなりつつあります。

化血研にペナルティを科すのはわかりますが、ワクチンの流通はなんとかしてほしい。複雑な心境です。

不具合ワクチン再登板

「3種混合ワクチン納品希望申込書」を保健所に提出した件は、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1500.html" target="_blank" title="前に書いた">前に書いた</a>とおり。その後日談です。

申込の数日後に、メーカーから連絡が入りました。要点は3つ。

(1)厚労省から連絡があったので、申込通りの日程で、ワクチンを納入いたします。(はいはい、よろしく)

(2)販売会社は、(私が指定していた)北里薬品ではなく、第一三共になります。(ふーん、そうなの)

(3)ワクチンの入った注射器は、針が外れて薬液が漏れやすいので、注意してください。(げ、やっぱり)

何度も書いてきたように、3種混合ワクチン(DPT)は現在、通常のルートでは入手できなくなっていいます。

3種に不活化ポリオを加えて<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-912.html" target="_blank" title="4種に移行">4種に移行</a>する過程で、3種混合ワクチンの供給量はどんどん減っていました。

各社は製造を中止し、ただ1社、北里第一三共だけが、在庫分の販売を継続していました。

ところがその、唯一残っていた北里第一三共のワクチンが、ある日突然、販売中止となりました。

その理由は、「ワクチンの注射器から針が外れやすい」という不具合でした。

くしくもその日が、北里柴三郎を記念した「血清療法の日」であったと、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1160.html" target="_blank" title="以前も書きました">以前も書きました</a>。

そして今日、私の手元に届いたのはその、注射器から針が外れやすい、いわく付きのワクチンです。

かつて販売中止となった、言うなれば「不良品」が、緊急事態を救うために再登板してきたわけです。

ご丁寧に、針が外れやすいという「不具合」を、あらためて注意喚起(警告)する文書も送られてきました。

「もう日本の3種混合は、このワクチンしかないからな。文句言うなよ。注意して打てよ」という主旨です。

面倒な手続きを経て、やっと入手したワクチンですが、接種時に針が外れて液が漏れたら、接種は中止です。

もういちど保健所に手続きをして、新たなワクチンを手に入れなければなりません。

そしてまた、新たなワクチンが届いたとしても、それもまた「注射器から針が外れやすい」ワクチンなのです。