風邪が入る

インフルエンザはまだ流行していませんが、寒くなって風邪の患者さんが増えています。

「風邪を引いた」という意味で、私の父はよく「風邪が入った」と言ったりします。

方言(山口弁)だろうと何十年も思っていましたが、最近調べてみたら、そうでもないようですね。

「風邪(ふうじゃ)が入る」という東洋医学の考え方で、「邪気」がカラダに入るということらしい。

邪気=病原体(とくに気道に急性炎症を引き起こすウイルスなど)と考えるなら、その表現が正解でしょう。

そしてその邪気を、自分のカラダに引き寄せ、受け入れることを、「風邪を引く」と言うわけです。

「風邪を引いた」と能動的に表現するか、「風邪が入った」と受動的に言うかの違いです。

「幸運を引き寄せた」と「幸運が舞い込んだ」の違いみたいなものでしょうか。

風邪なんて、好きで引き寄せるものでもないので、医学的には「入った」が正しい表現かもしれません。

いや、不摂生が原因なら、引くべくして引いた風邪とも言えるでしょう。

診察中には、引き寄せたくない病原体が、患者さんの咳とともに私の顔面をしばしば直撃します。

メガネをかけてマスクも付けていますが、それでは不十分です。

かつて豚インフルエンザのときには、専用ガウンやゴーグルを備えたものですが、ほとんど使わずじまい。

高病原性インフルエンザのパンデミック時ならともかく、日ごろの診療で重装備をするわけにもいきません。

医師が感染を完璧に防ぐのは不可能。ならば感染しても発症しないような、免疫力を付けるしかありません。