イルカの捕獲と繁殖

国内の水族館が、「追い込み漁」で捕獲されたイルカを入手していることが、倫理規定違反だという問題。

日本で唯一、追い込み漁を行っているのは、映画「ザ・コーブ」で描かれた、和歌山県太地町です。

その映画にまつわる問題や、動物愛護団体のこと、日本のイルカ漁文化などについては、今日は触れません。

「世界動物園水族館協会」は、イルカをおびえさせ一網打尽にするから、追い込み漁は残酷だ、と言います。

太地町では、追い込んだイルカが傷つかないような工夫等をしていますが、それじゃダメらしいです。

ともかく、「日本動物園水族館協会」は、追い込み漁によるイルカの入手を行わない方針としました。

「動物園」が今後もライオンやゾウの調達を続けられるために、「水族館」には泣いてもらったわけですね。

では水族館はどうすべきか、考えられるのは3つ。

(1)繁殖によってイルカを確保する:アメリカなどでは、大半のイルカが水族館で繁殖したものらしい

(2)協会から脱退する:すでにその意向を表明している水族館も、いくつかあるようです

(3)イルカショーを諦める

捕獲は残酷だけど、繁殖は残酷じゃないって言う、その理屈が私にはよくわかりません。

自然に生きているイルカを捕獲して、それを見世物にすること。これは残酷であると。

見世物にするためにイルカを繁殖させ、それを見世物にすること。これは残酷ではないと。

私にはむしろ、見世物になるために生まれさせ、育てられるイルカの生涯の方が、よっぽど残酷に思えます。

服薬遵守

「薬がのみきれない!〜知られざる “残薬” のリスク〜」、昨日の「クローズアップ現代」のテーマです。

薬が多いことの問題は、理解できます。しかし「残薬」がリスクとは、誤解を招く表現です。

残薬(=薬を飲み残すこと)は結果であり、問題の原因ではありません。残薬を減らす工夫こそが大事です。

残薬が出る原因には、次のようなものが考えられます。

(1)単純に薬を飲み忘れたり、飲むタイミングを逸してしまう

(2)薬をなるべく飲みたくないので、自己判断で中断する

このうち(1)は、処方の工夫で対処しますが、(2)は、医療の根幹にもかかわる大問題です。

治療のために必要だから処方された薬を、飲みたくないから飲まないでは、医療自体が成立しません。

その背景には、理解不足と医療不信があり、それは医師と患者との人間関係にも関係してきます。

これまでは「コンプライアンス」=医師の指示を守って薬を内服すること=「服薬遵守」でした。

これからは「アドヒランス」=患者の理解と意志に基づいて薬を飲むこと=「服薬遵守」だそうです。

医師からの押しつけ処方か、患者自らの要望による処方か、まるで北風と太陽のような好対照に見えます。

しかし、実際の医療現場は、このように単純な話ではありません。

十分説明しても、なかなか理解してもらえない。けれども、どうしても飲んでほしい薬もあるのです。

しばらく内服を続けて効果が出た時点で、やっと薬の意義を理解してもらえることも、しばしばあります。

ときに医師は、心を鬼にして、北風になるべき局面もあると、私は思います。

蛇足

時にはまともなことも書きますが、たいていは、どうでもよい話を書くのが、このブログの特徴です。

たとえまともなテーマで始まっても、途中から話が逸れていきます。書かなきゃいいのに、蛇足が付きます。

とはいえ、私の蛇足というのは、故意に、書きたくて書いているので、本来の蛇足とは少し異なります。

文章が真面目すぎて固いとき、最後にギャグをかまして緊張を取り除く、一種の照れ隠しみたいなものです。

ところで今日言いたいのは、「蛇足」の読み方です。正式には「じゃそく」だそうですね。

「蛇口」「蛇腹」「蛇の目」と来たら、「蛇足(じゃそく)」ですよね、たしかに。

「じゃそく」が言いにくいから「だそく」という慣用読みが生まれ、やがてその読みだけが残ったようです。

このように慣用読みに取って代わられた言葉は、調べてみるとほかにもたくさんありました。

「消耗(しょうもう)」がそう。本来の読みが「しょうこう」だと言われても、もう後戻りできません。

「心神耗弱」はしかし、「しんしんこうじゃく」という読み方が、まだ生き残っています。

テレビでこの言葉をよく耳にするので、「もうじゃく」が間違った読みであると、とすり込まれています。

しかしこれとて、そのうち「しんしんもうじゃく」に取って代わられる運命なのかもしれません。

<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1304.html" target="_blank" title="先日">先日</a>「腹腔」のことを書きましたが、やはり正しくは「ふくこう」と読むようです。

「ふくくう」が慣用読みで、医療従事者が使う「ふっくう」は、さらに慣用読みが進んだものなのでしょう。

言葉はどんどん、発音しやすいものへと変化していく運命なのです。だから「ふっくう」でいいのです。

どうしても「ふくこう」が正しいという方は、「蛇足」を「じゃそく」と言わなければなりません。

触覚を刺激する

Apple Watchを使ってみて、明らかに「新しい」と感じたこと。それは「触覚」です。

さまざまな情報が、独特の振動によって通知されます。これが、経験したことのない感触なのです。

ちょうど、iPhoneで最初に自分の指紋を登録するときに、指先に奇妙な振動を感じる、あれに似ています。

リズムは多彩です。ある時は「トトン」、またある時は「トゥトゥトゥッ」、あるいは「トゥクトゥク」。

ともかく「ト」で始まる感触なのです。「手首を軽く叩く」という言葉では、うまく表現しきれません。

しいて言うなら「消しゴム付き鉛筆の消しゴムの部分でリズミカルに叩く感じ」とでも言いましょうか。

ケータイやスマホのように、振動音が周囲に聞こえるようなことは、ありません。とにかく微振動なのです。

Apple Watchを装着している本人だけに、こっそり、心地よく伝わるところがミソです。

この絶妙な振動を起こすメカが、「Taptic Engine」とよばれる、「リニアアクチュエータ」です。

リニアアクチュエータとは、小さなリニアモーターによる往復運動で、小刻みな振動を生じさせる装置です。

スマートウォッチは、単に身近にあるだけではなく、常に手首に密着するデバイスです。

人の触覚を刺激するApple Watchは、その特徴を生かした点が、私は新しいと感じました。

Apple Watch届く

やっと、届きました、Apple Watch。ずいぶん待たされました。

予約受付開始の1分後に<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1284.html" target="_blank" title="発注を完了">発注を完了</a>したというのに、発売開始から23日、予約からだと37日かかりました。

部品(Taptic Engine)の不具合で、納期が大幅に遅れるという情報もあり、気をもんでいたところでした。

さっそく開封(写真撮影込み)。iPhoneとペアリング。これは簡単。で、使用初日に感じたことをいくつか。

(1)時間がすぐわかるようになった

この10年以上、基本的に<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1272.html" target="_blank" title="腕時計">腕時計</a>は着けない生活だったのですが、あればあったで便利ですね、腕時計って。

(2)診察時に、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1255.html" target="_blank" title="脈拍数">脈拍数</a>を数えやすくなった

節電のため、時計の表示は6秒で自動スリープする仕様です。脈拍数は、6秒間のカウントを10倍します。

(3)スマホを見る頻度が減った

メールやFacebookの通知が届くので、メッセージはすぐに読めます。iPhoneはポケットやカバンの中でOK。

(4)スケジュール管理が楽

予定を教えてくれるし、カレンダーをすぐに確認できるので、もの忘れしやすい私には、とてもありがたい。

(5)もちろん、電話機能もあります

あわててiPhoneを取り出す前に、誰からの電話かわかります。<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-530.html" target="_blank" title="世間体">世間体</a>を気にしなければ、そのまま通話も可。

電話もメールもすべて、リアルタイムで手首に着受信。気がつかなかった、という言い訳がききません。

どうなんでしょうね、スマートウォッチって。

タニタとタニカ

明治ホールディングスが12日に発表した決算は、3期連続で最高益を更新したとのこと。

その営業利益の内訳に驚きます。菓子の95億円に対して、発酵デイリー(ヨーグルトなど)が283億円です。

「R-1」などの「<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1241.html" target="_blank" title="機能性ヨーグルト">機能性ヨーグルト</a>」の販売が、とくかく好調のようです。私も貢献しています。

いや厳密には、私の最近の貢献度はやや下がっています。<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1236.html" target="_blank" title="自家製ヨーグルト">自家製ヨーグルト</a>を作っているからです。

機能性ヨーグルトは、そこそこ高価なので、私のように自家製する人間が増えているそうです。

「R-1」1本から、「自家製 R-1」が11本分できます。ヨーグルトメーカー代など、すぐに元が取れます。

となると、ヨーグルトがヒットすれば、ヨーグルトメーカーもよく売れる、ということになります。

したがって、今後儲かる会社は、ヨーグルトメーカーよりもヨーグルトメーカーメーカーかもしれません。

私は東芝のヨーグルトメーカーを買いましたが、世間の主流は「タニカ電器」の製品だそうです。

「タニタ」ではなく「タニカ」です。東芝の製品も、実は製造しているのはタニカなのです。

タニタとタニカが紛らわしいというのであれば、この際、両社の合併を私は提案したい(誰に?)。

体重計もヨーグルトメーカーも、どちらも健康志向の電気製品です。ひとつの会社が作ってもいいでしょう。

新社名はズバリ「タニカニタ」です。いや、タニタとタニカの中間なら「タニサ」かな。

タニタの創業者は谷田さん、タニカの創業者は谷口さん、中をとるなら「タニビ(谷日)」かも。

安保法制閣議決定

安倍内閣は昨日、ついに新たな安保法制を閣議決定し、法案は今日、衆院に提出されました。

なかなか重いテーマなので、サラッと。とりあえず、主要各紙の今朝の社説を見てみました。

法案に対する、全体的な評価は、右から順に、

産経「成立を図ってもらいたい」

読売「成立に全力を挙げるべきだ」

毎日「検討すること自体は理解する」

朝日「この一線を越えてはならない」

毎日と朝日の間に、少々温度差があります。これはちょうど、改憲議論に対する姿勢と似ています。

毎日は、憲法については議論が必要だとする「論憲」、朝日は、改憲議論自体を忌み嫌う「護憲」です。

その、憲法がらみで言うなら、今朝の社説にはこういった記述も見られました。

毎日「本来なら憲法9条の改正手続きを踏まなければならないほどの戦後の安全保障政策の大転換だ」

朝日「憲法改正を国会に働きかけ、国民投票で是非を問わねばならなかったはずだ」

論憲の毎日や、護憲の朝日が、こういうときには憲法改正を条件にしてくるところが、なんとも面白い。

なお、日経の社説は、「シャープ再建」と「ギリシャ破綻」という経済テーマ。これまた一貫した態度です。

スタッフ

「スタッフぅ〜」と伸ばすと、狩野英孝のギャグになります。しかも、古い。

私がクリニックの従業員のことを話題にするとき、「スタッフ」という言葉を使うことが多いです。

従業員とか職員とか言うよりも、より対等でソフトな印象があるからです。

三人称に限らず、複数の職員に対して「スタッフのみんな」という二人称も使う場合もあります。

高校の時、スタッフとは材料のことだと学んで以来、「人的材料=人材」と思い込んでいました。

材料の “stuff” と人材の “staff” とでは、そもそも単語が違うことを知ったのは、何年か後のこと。

学生時代に好きだったフュージョン・バンドの「スタッフ」のスペルは、は “Stuff” です。

スティーブ・ガッドとか、リチャード・ティーとか、最高のstaffが集まったバンドですが、 “Stuff” です。

あのメンバーたちは、それぞれが最高の、音楽的素材だったのでしょうか。

その「スタッフ」という言葉が、「あいまいな言葉なので、慎重に使うべき」と判定されました。

NHKの放送用語委員会での話です。放送業界の部内用語だから、一般の人には伝わりにくいという理由です。

そんなバカな。スタッフで十分に伝わります。慎重に使えという、NHKの心配がわかりません。

もしかすると、 “stuff” なのか “staff” なのか区別が付かない、という意味なのでしょうか。まさかね。

ヴィヴァルディ

高校時代にやってたZ会(添削)のペンネームは、「調和の霊感」と「すきむらくん」を使い分けていました。

前者はヴィヴァルディの協奏曲集の名前であり、後者は当時の担任(好村先生)の愛称です。

学生時代になるとヴィヴァルディにも飽きて(曲がみんな似てる)、ほとんど聴かなくなってしまいました。

ところが、それから25年後、学会発表で訪れたヴェネツィアで、ヴィヴァルディと再会したのです。

人通りの少ない路地を散策中に、まるで穴場のような、ヴィヴァルディ・ショップを見つけました。

ヴェネツィアとえいば、ヴィヴァルディの出身地。店内は、文具や衣類など、ヴィヴァルディグッズだらけ。

今思えば、なかなか入手できないレアものばかりです。買えるだけ買っておけばよかったと、悔やまれます。

今日はなぜ、ヴィヴァルディなのかというと、NHKの番組紹介サイトで、次のような文を見つけたからです。

「水の都ベネチアで生まれたヴィヴァルディは、少女たちに音楽を教える先生となりました」

ね、おかしいでしょう。Veneziaが「ベネチア」で、Vivaldiが「ヴィヴァルディ」ですよ。一貫性がない。

つまり、外来語の「V」をカタカナ表記する場合、「ハ濁」にするか「ウ濁」にするか、という問題です。

調べてみると、NHKの原則は「ハ濁」。人名のみ例外的に「ウ濁」にするとのこと。根拠はわかりません。

おかげで、Versaillesは「ベルサイユ」で、Voltaireは「ヴォルテール」。その意味では、一貫してますね。

ツツガムシ病

青森や秋田や山形で、今年初の「ツツガムシ病」の患者報告が出始めました。これからが流行期のようです。

なかなか遭遇することがない病気のようですが、全国で、毎年数百人が罹患しているそうです。

「ツツガムシ」というダニが媒介して、「Orientia tsutsugamushi」という細菌の一種が感染する病気です。

主要3徴候は「刺し口、発熱、発疹」。刺し口は特徴的なので、見逃さないようにしなければなりません。

唱歌「故郷(ふるさと)」の二番は、「如何にいます父母 恙(つつが)なしや友がき」と始まります。

歌詞の「恙なし」というのは「ツツガムシ病」から来ている、という俗説があります。もちろんガセです。

私も学生時代まで、その説を信じていました。しかし真実は正反対。

「ツツガムシ病」が「恙ない」の語源ではなく、「恙ない」が「ツツガムシ病」の語源のようです。

遣隋使の国書の「日出ずる処の天子、書を日没する処の天子に致す。恙無しや、云々」という記載は有名。

もっと古い紀元前の文献にも「恙無きや」という表現が出てきます。

いずれも「恙(つつが)」=「病気・災難」であり、「恙無し」=「健やかである」という意味です。

東北地方で、ある風土病をもたらす虫が、「病を起こす虫」という意味で「恙虫」と名づけられました。

そしてその病気が「恙虫病(ツツガムシ病)」となりました。

つまり「ツツガムシ病」とは、「病をもたらす虫がもたらした病」という、おかしな名前なんですね。