迅速検査の偽陰性

インフルエンザの流行も下火になったかと思っていたら、この週末はまた、高熱で来院する方が増えました。

病状からインフルエンザを疑えば、多くの場合、迅速診断キットを使ってウイルス抗原の検査をします。

細い綿棒を鼻孔から挿入して、鼻腔の奥から鼻汁を採取します。これが痛い。子どもは大泣きです。

その綿棒を専用の薬液の中に浸け、抽出液を専用のキット上に滴下させると、数分後に反応が出ます。

早い場合には、滴下の1分後には陽性反応が出ますが、遅い場合には10分ぐらいかかります。

使用する診断キットによって決められた時間だけ待って、それでも反応が出ない場合に、陰性と判定します。

したがって、陽性判定はすぐに下せることがあっても、陰性判定をするためには、必ず時間がかかります。

インフルエンザの迅速検査で、インフルエンザでもないのに陽性が出る「偽陽性」はまれです。

一方で、発症後の時間経過が短く、インフルエンザなのに陽性が出ない「偽陰性」はしばしばあることです。

たとえ迅速検査の結果が陰性でも、病状からインフルエンザと診断すれば、治療に踏み切ることになります。

ただしその場合、本当はインフルエンザではない可能性も、常に考慮しておかなければなりません。

実際にそのようなケースでは、あとで別の感染症だと判明して治療方針を変更することが、時々あります。

迅速検査の結果は結局、陽性の場合しか当てにならないと考えておいた方がよいでしょう。

一般に、何かが「ある」と判定するのは容易ですが、「ない」と判定するのは難しいものです。

あのSTAP細胞も、その存在を証明できませんでしたが、存在しないこともまた、証明できてはいません。

ワクチン行政への苦情

日本脳炎は、蚊が媒介する病気なので夏のイメージがありますが、ワクチンはいつ接種しても同じです。

このワクチンに関する、厚生科学審議会の議事録が面白かったので、その感想文など書きますが、長いです。

北海道だけ行われていない日本脳炎ワクチンの定期接種について、お役所も動きそう、と書いたのは<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1046.html" target="_blank" title="半年前">半年前</a>。

その後さっそく動いたのはしかし、厚労省ではなく、総務省でした。おかげで問題は、少々こじれています。

北海道では過去に日本脳炎患者の発生が皆無なので、予防接種も不要であろう、というのが従来の考え方。

しかし、北海道で生まれ育った人が、ワクチンを未接種のまま本州に転居した場合には、問題となります。

日本脳炎ワクチンは、定期予防接種の中では唯一、知事の判断で実施を決めることのできるワクチンです。

予防接種法と予防接種法施行令の規定に基づく措置ですが、決断するのはあくまで北海道知事。←ココ重要。

事の発端は、北海道から本州にではなく、青森から函館に引っ越した家族からの苦情でした。

子どもに日本脳炎の予防接種をしようとしたら、函館では定期接種ができないと知って驚いたといいます。

その家族の苦情は、総務省行政評価局に伝えられました。行政相談を担当する部署です。

ちなみに、総務省の行政相談受付窓口である「行政苦情110番」の電話番号は、0570-090110だそうです。

覚え方は「おこまりならまるまるくじょーひゃくとーばん」とのこと。なんじゃそりゃ。覚えられんわい。

総務省は検討の末、法に基づき、厚生労働省健康局長あてに「あっせん」を行いました。ポイントは2つ。

(1)都道府県域を超えた人の移動を考慮すると、北海道でワクチン接種をしないことは不合理な対応である

(2)予防接種法施行令の規定の是非について、厚生科学審議会において調査審議していただくことが適当

つまり総務省は、北海道に問題があるのではなく、規則(予防接種法施行令)の方を見直せというけです。

これに対して厚労省健康局の見解は当初、以下のようなものでした。

「罹患する可能性の低い地域で、定期接種を実施すれば、副作用のリスクに晒すこととなり不合理である」

おいおい。行政が副作用を理由にしてどうするの。これこそ、ワクチン後進国の発想じゃないですか。

厚労省の予防接種・ワクチン分科会では、冒頭、4名の傍聴者からの発言がありましたが、これが興味深い。

(1)市民団体のAさん:北海道で日本脳炎は起きていない、ワクチン接種による副作用被害を広げるな

(2)市民団体のNさん:本州への転居後に、日本脳炎ワクチンを任意接種するのは、家計の負担が大きい

(3)Mさん(「インフルエンザワクチンはいらない」という本の著者):北海道での接種はいらない

(4)市民団体のKさん:費用対効果を考えれば北海道での接種は不要、総務省は厚労省の政策に干渉するな

厚労省サイドの民間人を3人集め、取り繕うように意見の異なる人を1人加えた印象はぬぐえません。

最終的に、厚生科学審議会の出した結論を集約すれば、以下の2つです。

(1)現状維持:「現時点で、法令を改正するほどの必要はなく、接種の要否は北海道に任せよう」

(2)総務省批判:「総務省は、厚生労働省に投げるのではなく、本来、自ら回答を示すべきだ」

結局、<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1195.html" target="_blank" title="事なかれ主義">事なかれ主義</a>と<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-1114.html" target="_blank" title="縦割り行政">縦割り行政</a>に支配される審議会でした。

パソコンで電話

遅ればせながら、Mac最新のOSである「OS X <a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-973.html" target="_blank" title="Yosemite">Yosemite</a>」を使い始めました。

リリース後、すぐにインストールしたかったのですが、セキュリティーソフトの対応を待っていたのです。

Yosemiteにはさまざまな「進化」を感じますが、いま、はまっているのは電話機能です。

他社製アプリとは異なり、OS標準の電話なので、初期設定不要で使い勝手がとてもいいですね。

Wi-Fiを介してiPhoneを利用した通話です。iPhoneが机の上かカバンの中か、たぶん同じ建物にあればOK。

アドレスブック(OS標準の住所録)に登録した電話番号ならもちろん、簡単な操作で電話をかけられます。

ネットで検索した店などであれば、ブラウザの電話番号部分をクリックするだけで、発信できます。

マイクなどの準備は不要。Macかディスプレイの内臓マイクとスピーカーで、支障なく通話できます。

iPhoneに電話を着信した場合にも、Mac画面上にメッセージが出るので、それをクリックすれば通話OK。

Macの画面に向かって、電話しながら別の作業ができるというのは、実に画期的で未来的です。

逆に欠点を挙げるなら、うかつに着信すると、通話内容が周囲に丸聞こえになること。

発信者の名前を確認した上で、Macで通話するかiPhoneで通話するかを判断しなければなりません。

パソコンで電話を着信するのが日常的になると、いつか恥ずかしいことをやらかしそうです。

タクってお茶する

先日は電子カルテのシステムが事故ってしまい、いまここで告りますが、私はかなりパニクりましたね。

ハブがサボったせいで、サーバーがきょどったんでしょうか。あの時ばかりは、Macをディスりましたよ。

というのはフィクション。拙い創作文です。しかも意味不明。

文化庁の「国語に関する世論調査」が問題にしていた10個の言葉から、いくつか使って書いてみただけの話。

「愚痴る・事故る・告る・きょどる・サボる・パニクる・タクる・ディスる・チンする・お茶する」

このうち、8個しか使いきれませんでした(タイトル込み)。ていうか、書いてて気分が悪くなってきた。

名詞や名詞の一部の語尾に、「る」や「する」を付けて動詞として用いる言葉が、増殖しているそうです。

とくに嫌いなのは「ディスる」ですね。何か誰かを全否定するような、救いの無いイヤな表現です。

否定を意味する接頭辞「dis」に由来するのでしょうが、それ単独では、どうもピンとこない言葉です。

「きょどる」にしても、「挙動不審」のうちの肝心の「不審」の部分を省いてしまって、どうしますか。

ちょうどこれは、「キモい」が「気持ちいい」ではなく「気持ち悪い」の意味であるのと、似ています。

構造的に納得できない造語は、あまり定着してほしくないですね(と愚痴る)。

恵方と方違え

昨日は恵方巻きのことを書きましたが、考えてみると「恵方参り(詣り)」の方は、ずっと怠っていました。

子どもの頃は、父親がきちんと恵方を考慮していたのですが、このところ私自身はすっかり忘れていました。

恵方は毎年変わりますが、そうは言っても、わずかに4方向の持ち回り。比較的ワンパターンなものです。

しかし例年参拝してきた健軍神社は、わが家から見て南南西。何年たっても恵方にはなり得ない方位です。

今年の初詣は、蘇古鶴神社にしてみましたが、その方角は東北東。あとで調べてみると昨年の恵方でした。

では、参りたい神社の方角が恵方でないとき、どうするか。その解決法が「方違え(かたたがえ)」です。

最終目的地が恵方になるように、まずいったん別の場所に移動して、しばらく滞在しておけばいいそうです。

学校で習ったのは、悪い方向への移動を避けるのが方違えでしたが、良い方向にも使えるんですね。

たとえば健軍神社に恵方参りしたい時。健軍神社からみて、恵方(ほぼ西南西)と正反対の場所に行きます。

地図で見ると、健軍神社の東北東といえば、佐土原に「天然温泉一休」があります。これはちょうどいい。

そこに2時間ほど滞在すれば、方違えをしたと見なされるそうなので、温泉でゆっくり2時間すごします。

その後あらためて健軍神社に参れば、めでたく恵方参りが成立するというわけです。いやあ、裏技ですねえ。

方違えを使えば、どこへ行くのもすべて恵方にできます。でもこんな裏技で、御利益あるのでしょうかね。

最終段階での移動方向が恵方であれば良いという、その陰陽道的根拠が知りたい。

恵方巻きを食べる向き

<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-487.html" target="_blank" title="節分">節分</a>の今日、「恵方巻き」を流儀どおりに食べました。でも恵方巻きを私が知ったのは、近年のことです。

「恵方」そのものは、子どもの頃から知っています。正月にはいつも、恵方詣りをしてましたから。

今年の恵方は西南西といわれていますが、もちろん厳密には違います。正しくは「庚(かのえ)」です。

北を「子(ね)」として、全方位を24等分したうちの18番目。時計でいうなら8時半の方向です。

北から時計回りで255度なので、西南西の247.5度よりは、7.5度だけ西寄りです。

ところで、地図上の北「真北(しんほく)」と、方位磁針の指す北「磁北(じほく)」は、ずれています。

いったい、恵方を決める基準は、真北なのか磁北なのか。恵方巻きを食べる向きにも影響する、大問題です。

磁北はしかも、時と場所によって変わります。熊本では今、約6.5度、磁北が真北よりも西へずれています。

風水では、磁北に従って、さまざまな方位を規定するらしいので、恵方も磁北で決めるべきなのでしょうか。

そうならば、恵方は6.5度だけ南にずれるので、ほとんど西南西に一致します。

じゃあ、最初から西南西でいいじゃん、てことになるのでしょうか。いや、どうもそうではなさそうです。

土地との関わりが深い風水とは異なり、恵方は陰陽道の考え方。そして陰陽道は天文との関連が深いもの。

だから方位の基準は磁北ではなく、天体(北極星)を基準とした真北で考えるのが自然でしょう。

その証拠に、北の「子(ね)」と南の「午(うま)」を結ぶ線を、子午線というぐらいですから。

恵方巻きの食べ方などに、明確な科学的根拠があろうはずがありません。言ってみれば儀式のようなもの。

だからこそ、せっかく節分に恵方巻きを食べるのであれば、とことん流儀にこだわりたいものです。

なお、iPhoneのアプリ「コンパス」は、初期設定では磁北を使うようになっています。

庚の方角(255度)を正しく調べたいなら、「設定」>「コンパス」>「真北を使用」をONにしましょう。

自己責任論の誤り

イスラム国のことなど、少し前までは対岸の火事かと見ていましたが、いまや他人事ではありません。

日本人の人質事件はしかも、いちばん避けたかった結末を迎えてしまいました。

さまざまな議論が巻き起こり、数日前までネット上では、強硬な「自己責任論」も目立ちました。

たとえばデヴィ夫人の辛辣なブログは、「まさに正論」と賞賛されかねない勢いで、拡散しました。

しかし、後藤健二さんに自己責任を問うのは、誤っていると私は思います。

自然を甘くみて、バックカントリースキーを楽しもうとして遭難した人とは、まったく異なります。

イスラム国を甘くみたわけでもなければ、楽しみのためでもない。彼を動かしたのは、使命感です。

誰かが危険な地域に入って取材をしなければ、誰が報じるのかという思いが、彼の根底を流れています。

紛争地域への取材を、外国メディアや外国人記者に頼ってばかりでは、日本の名折れでしょう。

あと、ぜんぜん関係ないんですが、テレビ朝日。

後藤健二さん関連のニュースのとき、わざわざコメンテーターに後藤謙次氏を出さないでほしい。

そんなオカシなことをされると、枝葉末節に食いつく私としては、ニュースに集中できなくなるのです。

大河ドラマと防府

NHK大河ドラマ「<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-791.html" target="_blank" title="花燃ゆ">花燃ゆ</a>」は、今夜が第5回。ドラマの大半が、野山獄の話。暗かったですね。

初回視聴率が16.7%で、1963年以降で3番目の低さだったそうですが、初回視聴率などあてにはなりません。

「軍師官兵衛」だって調べてみると、初回視聴率は18.9%、平均で15.8%でしたが、けっこう面白かった。

「花燃ゆ」よりも初回視聴率が低かったのが「春日局」と「<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-31.html" target="_blank" title="花神">花神</a>」だそうですが、「花神」は大好きでした。

その「花神」と「花燃ゆ」はともに、幕末の長州藩を描いたドラマです。だから登場人物はほとんど同じ。

誰を中心に、どのような切り口で描くのかは異なりますが、物語の結末は同じ。それが歴史ドラマです。

今日はちらっと、桂小五郎と西郷吉之助が登場しました。きっとドラマの後半で活躍するでしょう。

<a href="http://tsuruhara9linic.blog116.fc2.com/blog-entry-573.html" target="_blank" title="幕末長州モノ">幕末長州モノ</a>に思い入れがあるのは、もちろん、私が長州出身だからです。

山口市に生まれ、岩国市で幼児期を、学童期から高校時代までは防府市で暮らしました。

その防府の実家から防府駅まで行く途中に、桑山(くわのやま)という小さな山があります。

中学時代と高校時代の6年間、毎朝毎晩、自転車で乗り越えていた山です。その山麓に、大楽寺があります。

「花燃ゆ」の主人公、杉文は、晩年を防府市で過ごし、いまは大楽寺で眠っています。

実は同じ大楽寺に、夏目雅子の墓もあるんですよね(大楽寺プチ情報)。

それにしても、「花燃ゆ」もそろそろ、もう少し動きのあるドラマにして、盛り上げてほしいです。