令状のカナリア

「令状のカナリア」 小説のタイトルにもなりそうな、趣と含蓄のある言葉がいま、一部で話題です。

米国愛国者法の規定では、米政府はあらゆる企業に対して、捜査に必要な情報を提出させることができます。

AppleやGoogleなどのIT企業は、政府の要求に応じて、利用者の個人情報等を提供する義務があります。

政府は秘密裏に情報を要求し、企業は黙ってそれを提出し、政府の要求があったことすら公表できません。

テロ対策とはいえ、米国政府のやることは実に徹底しています。映画やドラマは誇張ではないわけです。

これに対抗して、Appleが昨年講じた策が、“Warrant canary (令状のカナリア)” とよばれるものでした。

具体的には、昨年11月5日付のAppleの「透明性レポート」の末尾に付け加えられた、次のような文章です。

「Appleは米国愛国者法第215条に基づく命令を一切受けていない。かかる命令が下れば、当社は断固戦う」

この文章が、その後のレポートから消えることがもしあれば、それは政府からの要求があったことの証です。

何も語らないことによってある事実を語る、というこの戦術を、令状のカナリアと呼ぶそうです。うまい。

炭鉱において、有毒ガスの早期発見のための警報として使われるカナリアを「炭鉱のカナリア」といいます。

カナリアの鳴き声が止まったら危険のサイン、というわけです。

そしてこのたび、Appleの透明性レポートから、先述の文章すなわちカナリアが消えたと報じられました。

政府からの要求があったとは一言も語らずして、それを世間に知らしめたわけです。