日本人間ドック学会が、健診における血液検査などの「基準範囲」を発表したのは、つい1カ月前のこと。
「基準値が大幅に緩和された」と、マスコミはおおむね好意的に報じました。
その裏では「従来の基準は、医者や製薬会社が儲けるために、わざと厳しくしていたのだ」と言わんばかり。
ところがここに来て、専門学会等が反発し、マスコミもやや慎重な論調に転じています。
ひとことで言うなら「緩い基準値だけが一人歩きすると、治療が遅れる危険がある」というものです。
健診の意義は、健康上の問題点を早めに察知して、生活習慣の改善や早期治療に結びつけることです。
あくまでも、予防医療がその目的なのだから、基準は多少厳しめの方が理にかなっているはずです。
予防医療の総本山ともいうべき人間ドック学会が、なぜこのような発表をしたのか、理解に苦しみます。
さらに私がもっと問題だと思うのは、健康な人から得たデータをそのまま「基準値」と位置づけたことです。
「健康な人を調べたらこのような数値だった」ということに過ぎません。
「このような数値だったら健康です」というわけではないのです。逆は真ならずです。
たとえば、こう考えてみましょう。
健康な喫煙者を集めてみたら、1日の喫煙本数は30本以下だったから、30本までは吸ってもOKでしょうか。
たとえ20本でも10本でも、喫煙を続けるうちにさまざまな健康問題が生じてきます。
健康な男性のLDLコレステロール値が178以下だったから、178まではOK、とは言えないのは明らかです。
基準値は、健康リスクの有無を知るための指標であり、健康習慣改善のきっかけとなるべきものです。
人間ドック学会の発表内容は、臨床現場に混乱を招きかねません。ていうか、すでに混乱しています。