インフルエンザなどに罹ったお子さんには、なるべく解熱剤を使わないようにしてもらっています。
どうしても必要なとき、使えるのは「アセトアミノフェン」(商品名はアンヒバやカロナール)だけです。
「アスピリン」は「ライ症候群」を引き起こす可能性があるので、小児の解熱に使ってはなりません。
しかしアスピリンは、成人では「血液サラサラ」の薬として、たいへんよく使われています。
もともと、解熱鎮痛剤としてアスピリンを開発したのは、ドイツの化学会社「バイエル(BAYER)」です。
当初はバイエルの商標だったアスピリンですが、ドイツが一次大戦で敗れた後には、普通名詞になりました。
米国人はアスピリンが好きらしく、映画でその錠剤をむさぼり食うように飲むシーンを、よく目にします。
アスピリンには、出血が止まりにくくなるという「副作用」がありました。
血小板の働きを抑制する働きがあることが、後にわかりました。
これを逆手に取り、「抗血小板薬=血液サラサラの薬」として用いられるようになったわけです。
ただし、一般の解熱鎮痛剤に含まれるアスピリンの量では多すぎて、抗血小板薬としては逆効果でした。
ちょうど良い投与量が、「小児用バファリン」に含まれる81mgという、少量のアスピリンだったのです。
そこで、心臓病の患者さんなどに、小児用バファリンを1日1錠投与することが始まりました。
私もかつて「小児バファリン 1錠1x 朝食後」などという処方せんを、数え切れないほど書いたものです。
しかし成人に「小児用」の薬を流用するこの方法は、正式に認められた処方ではありませんでした。
正式な抗血小板薬として現在は「バファリン配合錠A81」と「バイアスピリン」が発売されています。
前者は「バファリン」の名を残し、アスピリン含有量は81mgを維持。
後者はバイエルの「バイ」を冠し、アスピリン含有量は100mgにアップ。どっちが良いのやら。
それでは、いま市販の小児用バファリンを飲んでも血液サラサラ効果があるのかというと、それは違います。
「小児用バファリン」とか「キッズバファリン」という名称の薬に、アスピリンは含まれていないからです。
冒頭で触れたような理由から、小児用解熱鎮痛剤の成分は、アセトアミノフェンに切り替わっているのです。