入浴中の低血圧

患者さんの血圧記録手帳を見ると、とくに寒かった朝などは、血圧が跳ね上がっています。

逆に、夜の血圧が驚くほど低い日があります。尋ねるとたいていは、入浴後や飲酒後に測った血圧です。

湯船でからだが温まると、末梢血管が拡張するので血圧が下がるのです。

しかし一方で、浴槽の水圧によって静脈圧が上がり、これは血圧を上げる方向に作用します。

この状況で湯船から立ち上がると、静脈圧が下がって血圧が急降下し、立ちくらみを起こすことがあります。

とくに高齢者では、起立時に血圧を調整する自律神経の働きが鈍っているので、失神する場合もあります。

湯船でじっくり温まっているだけでも、血圧がだんだん下がり、のぼせて気が遠くなることがあります。

のぼせて脱力して水没したとき、とっさに姿勢を立て直す動きが、高齢者では鈍っているかもしれません。

立ちくらみでものぼせでも、それが浴槽の中で起きると、とくに高齢者では溺れてしまいかねません。

統計によると、入浴中の死亡の約半数は、急病(心筋梗塞や脳卒中など)ですが、残りの半分は溺死です。

欧米では、入浴中の死亡が極めて少ないそうです。シャワー浴だからです。

一方で日本は、湯船に浸かる入浴スタイルが血圧を大きく変動させるので、実は危ないのです。

入浴中の事故を防ぎ、また万一の場合の発見率・救命率を上げるための対策を、考えてみました。

(1)「飲酒後の入浴禁止」 飲酒後には血管が拡張して、ますます血圧が下がるので、入浴は危険です。

(2)「入浴前の水分摂取」 発汗による脱水で血圧が下がるのと、血液がドロドロになるのも防ぎます。

(3)「家族に通告し入浴」 なかなか風呂からあがってこないとき、家族に発見・蘇生してもらうため。