大統領拒否権発動

オバマ大統領が、米国際貿易委員会によるApple製品の輸入禁止命令に対し、拒否権を行使しました。

なんのことかよくわからないけど、そもそも興味もない、という方のために、今日は解説を試みます。

スマホやタブレットを世界に広めたのはAppleだと思いますが、それはAppleだけの功績ではありません。

ジョブズは、既存の技術に独自の技術と工夫を加え、洗練されたデザインの新製品を生みだしただけです。

だからApple製品には、他社が開発した技術、たとえばサムスンが開発した通信技術なども使われています。

そのサムスンは、たとえば自社の3G通信関連特許をAppleが侵害していると、Appleを訴えてきました。

しかしこの特許は「FRAND特許」であるから、2.4%のライセンス料は高すぎるというのがAppleの言い分。

FRAND特許(必須標準特許)とは、業界の標準規格に準拠した製品には欠かせない特許のことです。

「公平Fairで、妥当Reasonableで、And、非差別的Non-Discriminatory」な対応が求められます。

世界中が必要とする特許なので、特許権は認めるが、ライセンス料は安くしなさいよ、ということです。

サムスンがFRAND特許を濫用していることは、昨年あたりからEUなどでも問題になっていました。

今年2月の東京地裁判決も「サムスンは信義則上の義務を尽くさなかった」と、特許権の濫用を認めました。

そのような経緯から、どうやら欧米や日本はアンチサムスンに向かっているように、私は感じていました。

ところが本年6月4日、米国際貿易委員会(ITC)がAppleの特許侵害を認めました。これには驚きましたね。

これによって、旧型製品ではあるけど、iPhoneとiPadの米国への輸入禁止が決定されてしまったからです。

輸入禁止はAppleにとっては販売禁止に等しいダメージです。なにしろこれらの製品は中国製ですから。

ITCの決定から60日以内なら、大統領はこれを拒否できますが、まさかしないだろうと思われていました。

オバマ大統領はしかし、60日間の期限間近の8月3日になって、ITCの裁定に対して拒否権を発動したのです。

この発動は26年ぶり。米政府は自国企業を守る、その基本的姿勢が明らかになったとみることもできます。

そう思っていたらサムスンは昨日、標準特許以外の問題でITC判定に抗告したようです。懲りませんね。

Appleとサムスンの泥仕合は、まだまだ続きそうです。